五智山蓮華寺のきゅうり封じへ行ってきました。もちろん、ひとりで。

2011年7月21日(木)


五智山蓮華寺のきゅうり封じへ行ってきました。もちろん、ひとりで。

きゅうり封じ。それは、弘法大師が京の都に遺した、秘法。
恐ろしい呪術には事欠かない京都の中でもダントツの法力を持ち、
あまりにシャレにならぬゆえ、メジャーなメディアでもカルトなメディアでもその扱いは極めて、希少。
今だ全貌さえ明らかになってないそのきゅうり封じへ、私は単身乗り込んだ・・・というのは大嘘です。
もらったパンフに「土用丑の日は年一回の秘法厳修の日」などと書かれてたので、
狂った反応をしてしまいました。鰻を食う勢いで「秘法厳修」するギャップ感が、たまりません。
実際のきゅうり封じは 「きゅうりに願かけて、悪いところを持ってってもらう」 というもんです。
病苦・悪行の根から逃れ、長生き&安楽往生できるよう、大師が秘法を残してくれた、という。
「だけど、何できゅうり?」と思うんですが、一説によると空海、きゅうりが嫌いだったそうです。
人形とか使えばいかにも「秘法」っぽいですが、そこを、きゅうり。それも、自分が嫌いな、きゅうり。
千年の時を超えて空海の素顔がダイレクトに感じられるような由緒であり、
ゆえに、千年の時を超えて人々からの信仰を集め続けている行事であります。


「秘法」と対峙するわけですから、空きっ腹で行くわけには行きません。
嵐電妙心寺駅から仁和寺へ向かう途中の「おからはうす」で、腹ごしらえです。
「五穀米のとろろごはんランチ」、1150円。観光価格の割に観光臭が異常にない、変わった店。


世界遺産・仁和寺の横に、蓮華寺はあります。「おからはうす」から仁和寺へ向かって、ちょい右。
「仁和寺」と看板立ってる駐車場と仁和寺そのものの間にある、と言うと正確でしょうか。
「秘伝」「千二百年の伝統」という叩き文句と、きゅうりの絵が絶妙にコラボするポスター、渋し。


五智山蓮華寺、入り口。そして境内で参拝客を迎える、ウェルカム仏像。
入り口、とにかく目立ちません。幟も、仁和寺と同化気味。うっかりすると、見落とします。
というか正直、ここが仁和寺と別の寺だということを、私もこの日初めて知りました。


仏像、本当に多いです。五智如来の他、観音・地蔵・不動など12体が鎮座してます。
真言宗別格本山、五智山蓮華寺。平安時代初期に弘法大師が開きました。
元々は広沢池付近にあり、仁和寺の奥の院として栄えましたが、応仁の乱で鳴滝の音戸山に移転。
五智如来が鎮座したことで、五智山蓮華寺の名がついてます。現在地へは昭和2年に移転。
きゅうり封じの受付は、奥の不動堂の横です。


きゅうりを入れた箱が並んでる受付へ行くと、「こんにちわ」と声をかけられ、椅子を勧められます。
「何本ですか」と訊かれました。家族の分を願掛けする人も多いんでしょうね。私は、1本です。
受付の奥では、かき氷の販売なんかもやってます。


テーブルの数え年照合表と、祈願用プリセット病苦一覧を見ながら、祈祷を申し込みます。
プリセット病苦、めぼしいところは大抵押さえられてますね。メンタル系も、しっかり網羅。
病名が「統合失調症」でなく「分裂病」だったりはしましたが。
渡された番号札は、祈祷されたきゅうりと交換するもの。あ、お茶もいただきました。


ここでは決して言えない真なる歳と、ここでは決して言えない真なる病苦を記入し、
加持料1000円を払ったのち、「秘法」が施されるのを待ちます。
受付で待っててもいいですが、本堂に上がって「秘法」の様を間近で見るのもおすすめです。
あ、おまけじゃないですけど、ここで厄除けの御札もいただきました。


本堂でしばらく正座して待っていると、わかるようなわからんような「秘法」は完了、
能書きの紙と一緒に袋に入った、祈祷済みのきゅうりを渡されました。
このきゅうりで3日間、朝と晩、真言を唱えながら悪いところをさすります。
そして4日目の朝に、川へ流すか、人が踏まない土の中へ埋めます。
ちなみに唱える真言は「のおまく、さんまんだ、ばざら、だんかん」。
「脳膜散漫だ、馬皿ダンカン」ではありません。語尾に「この野郎」をつけてもいけません。


で、帰ります。帰る前に、しばし、仏。
応仁の乱で荒廃したのち、寛永17年、伊勢の人・樋口平太夫により再興した五智山蓮華寺。
仏像の多くは、その際、彫の名手と言われた木喰上人が掘ったと言われてます。


さらに、仏。昭和2年に寺がここへ移転した際には、この仏像たち、山上に残ったそうです。
現在地へもってきたのは、昭和33年。重かったんでしょうか。
で、見るだけ見たので、きゅうりを持って、帰ります。


で、四日目の朝。ここは私のホーム、八幡です。
石清水八幡宮が秋口に行う石清水祭、その中の放生会で知られる、安居橋であります。
放生のために作られたような場所であり、また蓮華寺の隣の仁和寺とも『徒然草』で縁深し。
きゅうり封じのきゅうりを流すには、正にうってつけの場所といえるでしょう。ほんまか。


三日間「のおまくさんまんだ」と言われて、邪気をたっぷり吸い込んでくれた、きゅうり。
流す前に、奥に埋め込まれた「秘法」の素をほじくり出したい誘惑に駆られますが、お別れです。
ありがとう、そして、さようなら。


流れていく、きゅうり。悪いとこ、全部持ってってくれ。
あ、でもここ、ゴミ流したらあかんのちゃうかったけ。いや、ゴミちゃうわな。秘法きゅうりやもんな。
いや、そやけどこのきゅうり、思いっきり、わしの名前書いたあるぞ。
見つかったら、何や言われるんちゃうやろか。ややこしもん、流すな言うて。
大丈夫やろか。大丈夫やろな。いや、大丈夫やろか。

蓮華寺の客層は、ばあちゃん3人ほど、中年夫婦一組、単独妙齢女性が数人という感じ。
むしろ寺の人の方が多いくらいの、穏やかな雰囲気です。
その寺の人が「今年は台風やから」みたいなことをおっしゃってましたが、
晴天でも爆発的に人が増えたり、観光テイスト炸裂状態になることは、ちょっと想像しにくいです。
特にプレッシャーを感じるようなシチュエーションではないでしょう。
ただ隣があの仁和寺ですから、突発的に人が流れてくることはあるかも知れませんが。

そんな五智山蓮華寺のきゅうり封じ。
好きな人と願をかければ、よりきゅうりなんでしょう。
でも、ひとりで願をかけても、きゅうりです。


【ひとりに向いてる度】
★★★★
プレッシャーは、全然なし。
特にディープということもなく、
浮くことも多分ない。

【条件】
平日木曜 15:00~15:45

別格本山 五智山蓮華寺
京都市右京区御室大内20

御室仁和寺駅下車 徒歩約5分
妙心寺駅下車 徒歩約6分
京都市バス 御室仁和寺前下車 徒歩約3分

公式 五智山・蓮華寺のホームページ