阿弥陀寺での嵯峨野六斎念仏奉納を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

2011年8月23日(火)


阿弥陀寺での嵯峨野六斎念仏奉納を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

現在は寺社で奉納や公演が行なわれることが多い六斎念仏ですが、
かつては地域の家を演奏して回る「棚経」 or 「勧善廻り」も、大々的に行なわれてたそうです。
演奏してもらった家はいわゆる「お布施」みたいなものを渡すわけで、
演舞を披露する喜びのみならず、講中にとっては良い現金収入の機会でもあったんでしょう。
こちらの嵯峨野六斎念仏も、青年団主体で活動してた戦前期は盛んに「棚経」を行なってたようで、
近隣の家々を回るのみならず、台八車に六斎道具を積み込んで、30人以上で洛中へも進出。
懇意にしてる大家を回ったり、あるいは祇園などの色街でも演奏することがあったとか。
この「棚経」、現在はなくなったかといえば、そんなことはありません。
中堂寺や千本、そして嵯峨野などいくつかの講中で、バリバリに敢行中です。
家で、六斎。観てみたい。でも、他人の家へ上がりこむわけにもいかんしな。でも、観てみたい。
中堂寺に親戚はいるけど、結婚式で泥酔してるのを怒って以来、疎遠だしな。でも、観てみたい。
そんな気持ちに応えてくれそうなのが、嵯峨野六斎の阿弥陀寺奉納であります。
阿弥陀寺、名前からして完全に寺ですが、建物は限りなく民家に近し。
天井の低さに冷や冷やしながら観る六斎は、きっと「棚経」に近いテイストが醸し出されてるはずです。


何をするにもまずは、腹ごしらえであります。
阿弥陀寺の最寄り駅・嵐電有栖川駅を出て、うろうろ迷った挙句、隣の帷子ノ辻駅まで来て、
その駅前の名食堂・つたやにて、親子丼セット1020円-夜割引200=820円。
撮影所の近所ゆえ、俳優さんらが入り浸ってたことで有名な店。(2012年2月閉店)


阿弥陀寺は、えと、どこにあると説明すればいいんでしょう。
地図には「阿弥陀寺京都文殊道場」とちゃんと出ますが、現地へ行くと多くの人が迷うと思います。
私も、迷いました。黒潮市場とペンション嵐山嵯峨野に毒づいたりしながら、迷いました。
要するに、西高瀬川と有栖川のサイフォン交差点の裏です。余計、わかりにくいか。


19:30に着くと、椅子が設置されたお堂は、フルハウス。後ろの方で、突っ立って見ます。
住職の法話が続き、続いて六斎の説明があり、20時ジャスト、公演開始。
もちろん、最初は『発願』。念仏を唱えます。続いて、太鼓を掛け合う『四段』『たぐり』。


『猿まわし』。中央の大太鼓の周りを、豆太鼓持った人たちがまわります。
で、この大太鼓持った会長らしきおじさんの太鼓が、とにかく凄いんですよ。
出音一発からしてもう、違う。「ドーン」という音ではなく、「ベーーン」という、鋭く気のこもった音。
おまけに、太鼓を膝で支えて打つポーズも、格好良過ぎです。


『時雨』。女装2+男装2の男の子達が、おどけた振りを見せてくれる演目。
後ろからどんどん見物人が増えてきて、お堂に入り切らない数になってきます。
ちなみに空調は、なし。節電ではなく、なし。扇風機が数台回るのみ。暑いです。熱くて、暑いです。


『願人坊主』。何ゆえ坊主が飛行機ごっこをしてるのかという絵面ではあります。
願人坊主とは、商人から金もらって神仏へ代参する、ほとんど偽坊主。はっきり言えば、乞食坊主。
日頃は門付芸の施しで飯を食う芸人でもあり、よってこの演目も、コミカルな踊りがメイン。


『四季』『八嶋』と太鼓ものが続き、さらには定番『四つ太鼓』へ。
会長の太鼓の勢い、とどまるところを知りません。
最初は室内ゆえ建物の共鳴で強烈に聞こえるのかと思ってたんですが、
悪いですが他の方が同じ太鼓を叩いても、全然おじさんのようには鳴ってないんですよね。
それこそ、会長の倍くらいある体格の人が叩いても、普通に「ドーン」。
で、このおじさんが叩いた途端、「ベーーーーン」と、お堂全体にビート音が走り、部屋ごと楽器化。
リムを叩くような音も、空気を切り裂くような鋭さ。技術と気合で鳴る音、凄過ぎです。


そして、『四つ太鼓』。踊る小坊主の乱入もある、大盛り上がり大会であります。
こうして両手でバチを持ってる写真を見ると、普通に左右交互に打ってるように思われそうですが、
違うんですよね、六斎の太鼓って、何故か片手打ちが基本なんですよね。
「タタタタ、タタタタ」というフレーズを「右左右左、右左右左」と打つのではなく、
「右右右右、左左左左」みたいな叩き方をします。凄い時は、片手を頭の上に「封印」したり。
で、上手い人はフラムというか何なのか、高速連打フレーズも1本のブチで叩き切ったりします。


御存知、『祇園囃子』。
祇園祭の祇園囃子を太鼓曲化して、豆太鼓バトル、そして「入れ事」なる芸を導入した演目です。
嵯峨野六斎念仏では、棒振りが登場。のみならず、ひょっとこや妊婦まで登場。
左側、動きが速過ぎて全然映ってないのが、棒振り。左奥にいる青頭とピンク頭が、ひょっとこ&妊婦。


やはり動きが激し過ぎて、全くまともに撮れてない、ひょっとこ。
大盛り上がりというか、民俗芸能的コンフュージョン感に溢れた絵面でもあります。
ちなみに「ベーーン」の会長、豆太鼓でも叩きまくり踊りまくってました。凄過ぎる。


で、いよいよ獅子のイントロにあたる『越後獅子』。他にはない、嵯峨野独特の演目だとか。
小さな獅子のかぶり物をつけた4人の子たちが、床の太鼓と手持ちの太鼓を交互に打つ、そうです。
私のところからは、床の太鼓を打つ姿はよく見えなかったけど・・・。


さらにイントロパート2である太鼓曲『四枚獅子』を経て、遂に獅子、登場。
室内は暑いためか若干お疲れの様子でしたが、それでも倒立をソツなく決めてくれます。
倒れたりすると、舞殿とかでやるよりも、かなり危険です。でも、やるのです。


天井の灯りに足がつきそうな、碁盤倒立。
というか、足を完全に伸ばすとしっかり当たってしまうためか、ちょっと引っ込めてるようにも見えます。
倒れたりすると、舞殿とかでやるよりも、非常に危険です。でも、やるのです。


ラストには蜘蛛が登場、小さい子供を怖がらせながら獅子へ近寄り、糸を発射。
が、不発気味で、しまいにはサービスで直接客席に向かって投げたりしてました。
このあと結願で締め、21:40、一山打ちは終了。
超至近距離+家で振動を感じながら見てるような、ある意味贅沢な公演でした。

客層は、9割方が地元の中高年や家族連れ。小さい子供もそれなりにいます。
門前いっぱいに停められた沢山の自転車が、ネイティブ率の高さを物語ってるのではないかと。
というか、カメラマンを除けば、観光客はおろか他所者自体も皆無に近いでしょう。
ある意味、強烈にアウェーを感じるシチュエーションですが、特に排他的な空気はありません。
気楽に混ざっていけるんじゃないかと。

そんな、阿弥陀寺での嵯峨野六斎念仏奉納。
好きな人と見たら、より六斎なんでしょう。
でも、ひとりで見ても、六斎です。

【客層】 (客層表記について)
カップル:0
女性グループ:0
男性グループ:0
混成グループ:0
学生:0
中高年夫婦:0
中高年女性グループ:0
中高年団体 or グループ:9
 (親と一緒の子供を含む)
単身女性:若干 (本当にほんのちょっと)
単身男性:1 (全員カメラマンのおっさん)

【ひとりに向いてる度】
★★★★
プレッシャーはもちろん、アウェー感もさほどなし。
気楽に混じって行こう。

【条件】
平日火曜 19:30~21:40


阿弥陀寺
京都府京都市右京区嵯峨野宮ノ元町76

嵐電 有栖川駅下車 徒歩7分
JR嵯峨野線 太秦駅下車 徒歩18分

嵯峨野六斎公式- 嵯峨野六斎念仏保存会