曼殊院の夜間拝観へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

2011年11月25日(金)


曼殊院の夜間拝観へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

男は黙って、曼殊院
といっても、別段しょうもない冗談を言いたいわけではありません。
それくらい、男好きのする寺だと言いたいだけです。そう思うのは、独男だけかも知れませんが。
修学院離宮のすぐそば、比叡山麓の一乗寺に建つ天台五門跡のひとつ、曼殊院。
戦国時代に慈運法親王が入寺したことで門跡寺院となったこの寺は、
江戸前期に至り良尚法親王を迎えたことで、ミニ桂離宮とも言われる伽藍を誇るようになります。
日本の「美」が凝縮された桂離宮、それを造った八条宮智仁親王の次男である、良尚法親王。
その幅広い識見と創意は、庭園や茶室のみならず寺の建物全てへと行き渡り、
貴族趣味が加味された江戸時代初期の代表的書院建築が残されることとなりました。
そんなやんごとなき寺が何で「男好きする」のかと言われたら、私もよくわからないんですが、
多分、美しさの中に殺気があるからじゃないでしょうか。
男にしか察知できない、殺気。それも、権力から遠い男にしか察知できない、殺気。
禁中並公家諸法度で文化事業しかすることのなくなった皇族&公家が抱いた殺気が、
時代を超えて独男の魂に響いてくる、というのはもちろん不遜な不敬で不埒な妄想です。
が、そんな不遜な妄想に独男を誘う妙な色気が曼殊院にあるのも、確かな気がします。
その色気と殺気がより濃厚になるのが、夜のライトアップ。
一応、紅葉シーズンに合わせた夜間拝観ですが、伽藍そのものの方が魅力的なので、
そっちメインでご堪能下さい。今年2011年は、紅葉が全然ですし。


曼殊院の最寄り駅は、叡電修学院駅。ただし徒歩、約20分。
道は、暗い。そして、寒い。歩き進めるに連れ、駅周辺とははっきり気温が違うと感じます。
本当に真っ暗なので、適当に歩くと道を間違えるかも知れません。私は、間違えました。


寺へ向かうらしきタクシーや自家用車とすれ違いながら歩くこと、数10分。
いい加減疲れますが、到着する直前、真っ暗の中に光を見つけるあたりの雰囲気、凄くいいです。
曼殊院名物の石垣&五本筋が入った築地塀などをチラ見しつつ、行灯に誘われ、中へ。


受け付けを通ってすぐに現れる、庫裏入口、良尚親王筆による「媚竈」の額。
「媚竈」とは論語からとられたもので、「その奥に媚びんよりは、むしろ竈に媚びよ」という意味。
奥が何を意味し、竈が何を意味するかは、解釈する人によって異なります。
右は、これまた解釈がいろいろできそうな、大玄関の坪庭。


大玄関へ入ったあたりには、お茶席の案内が貼ってありました。
いわく「コーヒー800円、抹茶800円」。雅です。はんなりです。
皇族来訪時の写真も貼られてましたが、そちらはやんごとなきゆえ撮影禁止でありますので、
代わりに谷崎潤一郎寄贈の鐘でもじっくりとご覧下さい。寄贈の理由は、知らん。


大玄関の竹の間・虎の間・孔雀の間は、襖絵や壁紙が見もの。
虎の間では狩野永徳の虎が躍動してましたが、撮影禁止。なので、その虎に背を向け唐門を一枚。
妙に商売くさい土産売店スペースが傍に併設されていて、曼殊院グッズ各種に加え、
「撮影は著作権侵害です」の文字がついたカレンダー販売コーナーもあり。雅です。


大玄関と大書院をつなぐ、渡り廊下。
単なる渡り廊下ですが、妙に絵になります。外のライトアップも、全く紅葉じゃないですが、ナイス。
ライトアップの彼方には、護摩堂。ずっと声明が聞こえてましたが、あそこでやってたんでしょうか。


で、遠州好みの庭園でございます。
大書院の廊下と、枯山水の庭に浮かぶ鶴島、その中に立って鶴を表現する五葉松を望む。


もうひとつとはいえ、紅葉もしっかりと紅葉です。
亀島と、奥の方でひっそりと存在感を放ってる滝石の石組と共に。


松の陰でこっそりと庭を照らす、曼殊院名物・キリシタン燈篭。
そして、枯山水のミステリーサークル。やはり曼殊院名物・梟の手水鉢も、ちらっと見えてます。


書院の中は撮影禁止の場所が多し。なので、多彩な坪庭でお楽しみ下さい。
コンセプチュアルな庭の背後では、チケットにも描かれた平安時代の黄不動像の写しや、
武将などから送られた文書・幟など、いろいろと展示中。


書院は、多くの小部屋に分かれてます。
そのビジュアルは、門跡的なようで門跡的はなく、禅的なようで禅的でもないというか。
門跡のしみったれた感じはなく、また禅寺の能天気なストイックさもありません。独特です。


境内に響く声明、日本の全ての音楽のルーツであるその声に耳を済ませながら、
仏教の八相成道にちなんだという八窓軒茶室を静かに眺める、ひととき。
厳しさと雅さが交錯する空気が、全身に沁み入ります。茶室の中には、入れないけど・・・。


書院を抜けたところでは、貴人用の食事を作るための厨房・上之台所を公開中。
貴人用ゆえ、全面的に撮影禁止でございます。結構、普通な台所に見えるんですけどね。
ただし、食器類は高貴感、たっぷり。壁に貼られた献立も、何書いてるのかよくわからんほど、高貴。


さらに上之台所を抜けると、出ました、幽霊掛け軸。
実物を見るとあんまり怖くないというか、はっきり言って、全然怖くありません。
「撮影するとよからぬことが起こらないでもない」という撮影禁止注意書きの方が、むしろ、怖い。
昔は撮影OKだったそうですが、撮った客はプリントのみならずネガまで返送してきたとか。


一乗の間に思い出ノートがあったので、帰る前に私も書いときました。
「迷いと恐怖を心に持ちながらやってきました。少し救われた気がします」などと書いてます。
迷いと恐怖って、一体何なんでしょうか。救われたって、一体何が救われたというんでしょうか。
あ、下の影は幽霊掛け軸の残り香じゃなくて、単にカメラの影ですよ。


で、帰ります。帰る間に仰ぎ見た、勅使門。
やたらタクシーが走る中で撮ってますが、あれ全部、曼殊院の客なんでしょうか。
そんなに客がいた気はしないんですが。あるいは、関西セミナーハウスの送迎でしょうか。


門前には、神仏習合時代の面影を残す天満宮があって、紅葉が結構、全開。
茶屋や池があったりします。紅葉見るだけなら、こっちがいいかも知れません。入場は無料だし。
ただし、夜間営業などはなし。さっと見て回ってから、徒歩で修学院駅をめざしましたとさ。

客は、少ないです。
が、寺自体が広いわけでもないので、寂寞感が楽しめるほどのガラ空き感はありません。
庭前のビューポイントなんかは、微妙に混んだりもします。
客層は、中年主体。ベタ名観光客というよりは、若干寺好きな感じの人たち。
カップルは、中年夫婦。か、それに近い落ち着いた風情。色気垂れ流しということは、ありません。
はしゃぎまわるような若者は、影も形もなし。
単独は、おおむね男です。単独男率、高いです。客全体が少ないので、目立ちます。
カメラマンというよりは、変人系、あるいは物好き系。

そんな、曼殊院の秋のライトアップ。
好きな人と見たら、より紅葉なんでしょう。
でも、ひとりで見ても、紅葉です。


【客層】 (客層表記について)
カップル:2
女性グループ:1
男性グループ:1
混成グループ:0
修学旅行生:0
中高年夫婦:2
中高年女性グループ:0
中高年団体 or グループ:2
単身女性:0
単身男性:2

【ひとりに向いてる度】
★★★★★
幽霊掛け軸の他は、
プレッシャーを与えてくるものが何もない。

【条件】
平日金曜 19:00~20:40

曼殊院
京都市左京区一乗寺竹ノ内町42
通常拝観 9:00~17:00

京都市バス 一乗寺清水町下車 徒歩約20分
叡山電鉄 修学院駅下車 徒歩約20分

曼殊院門跡-オフィシャルサイト – 公式

曼殊院 – Wikipedia