妙蓮寺宿坊で聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。【後編】

2011年12月25日(日)


クリスマス・イヴ@妙蓮寺宿坊、続きです。

日本人にとってのクリスマスとは、一体何だったのでしょう。
「だった」と過去形なのは、最盛期の馬鹿騒ぎが現在のクリスマスには、ないからです。
姦淫を以て主の生誕を祝う不埒の輩どもが地虫の如く涌いた、20世紀後半の日本。
飴玉をもらった子供のように浅ましく「聖」と「性」を貪る当時の熱狂は、現在はもう、ありません。
凡庸な性的レジャーとしてのクリスマスを楽しんだ凡庸な人間たちの多くは、
消費社会の成熟や不況の深化とともに、凡庸な家庭や凡庸な友人たちとの集いへ帰っていきました。
今となっては、本気で「クリスマスで何とかしよう」と焦る人など、きっと少数派なのでしょう。
「そんなことはねえっ!!!!!!!!!!」 「イルミネーションのプレッシャーは年々増す一方だっ!!!!!!!!!!」
「仮に恋愛プレッシャーはなくなっても、凡庸な家庭や凡庸な友人すら俺にはねえっ!!!!!!!!!!!!!」
と叫んでしまう同志の方もいるかも知れませんが、しかしそんな方でも、
クリスマスの拡散に伴う陳腐化と性的衰退は、心のどこかでしっかり感じているはずです。
私達の戦いの半分は、終わりました。土俵へ上がる前に。
残った敵は、別の何かに対する、別の浅ましさ。その浅ましさが、今なお、私達を叩き続けている。
そして、昔とは違う形の袋叩きとして、現代日本のクリスマスは機能し始めている。
そんな気が、しませんか。私はあんまり、しないんですけど。
というわけで、どういうわけかわかりませんが、宿坊の聖夜、前編に続き後編であります。
妙味爆裂のクリスマス和菓子を用いた狂乱のひとりパーティーから、
法華曼荼羅の世界へ導かれる朝のお勤めまで、妙なる聖夜をお楽しみ下さい。


妙蓮寺近隣で揃えた、クリスマス和菓子一覧。
何時からこんなもんが現れたのかは知りませんが、現在では結構な老舗も、参入中。
右から俵屋吉富鶴屋吉信愛信堂の袋。いずれの店も、寺から余裕の徒歩圏内にあります。
とはいえ、どこも夕方には閉まるので、買い込みはチェックイン前に全て済ませました。


まずは、俵屋吉富
商品名は、豪華な金箔紙に縦書きで記されてる通り、そのものずばりの 『クリスマス』
雪ダルマの麩焼きをメインに、干琥珀の雪輪や星、打物のツリー、金平糖などを敷き詰めてます。
上品に溶ける金平糖が、一番美味かったような。小川店で平積みされてたのを、購入。945円なり。


続いては、鶴屋吉信『きよしこの夜』
クリスマスツリーをイメージしたきんとんに、小豆餡を入れ、超細かいデコをつけた逸品。
本当は 『聖おじさん』 が欲しかったんですが、売り切れ。『聖夜』 は、ボリュームが凄過ぎるし。
味は、餡ときんとんの味という感じか。本店にて500円くらいで購入。


前の二軒に比べるとはるかに新しい、愛信堂
前を通った時、この「顔つき」が目について、衝動買いしました。多分、最近出来た店。
『ホワイトクリスマス』 は、浮島生地の上に白いきんとんの草原&ねりきりの柊の葉が乗る逸品。
399円一個だけの買い物で「お気をつけて」と見送りまでされ、恐縮でございます。


皆さんお揃いで、一枚。メリー・クリスマス!!!!
妙蓮寺オリジナルの茶碗に書かれた「妙」の字が、珍妙なビジュアルをよりブーストしています。
麩焼き雪ダルマ、可愛いな。茶碗の「妙」にも、妙に似合ってるし。


ちなみに、撮影風景はこんな感じ。パーリィタイッ!!!!
こんなところで、ひとりで、和菓子の写真を撮ってるわけです。パーリィナイッ!!!!
撮るだけ撮ったら、即座に食います。食い切れるか不安でしたが、やってるみると瞬殺でした。


というか、和菓子じゃちっとも腹が膨れねえ!!!!
なので、朝食用に考えてたタンタシオンダンジュのケーキも、即座に食います。
いちごのショートケーキ、美味っ。やっぱり洋菓子、美味っ。ベイクドチーズケーキは、普通だけど。
敵であると同時に親でもある外来種を、麩焼き雪ダルマが茶碗の影から見つめてます。


スプーン&フォークなし、素手でケーキを丸飲みして、一段落。
だんだん、雪ダルマに情が移ってきました。いかん。このままだと、食えなくなる。
本気で保存を考え始めたりする前に、バリっと捕食。口の中で、パウダースノーが砕け散りました。


23:30、特にすることもないので、寝ます。
布団を部屋の隅に敷いてるのは、少しでもエアコンに寄るため。性格の問題ではありません。
本当にそれぐらい、寒い。さっさと寝てしまって、寒さを忘れましょう。
おやすみなさい。そして、メリー・クリスマス。


2:00、寒過ぎて、寝られません。
エアコンを30度設定で稼動させまくってますが、それでも全然、寒い。
ちなみに私は暑がりで、エアコンを稼動させたまま寝たことなど、生涯一度もありません。


じっとしてるのが、もう、寒い。
なので少し動いて、体を暖めます。部屋の中を歩き回ったりとか、光の十字架作ったりとか。
廊下はもう、ツンドラ地帯。雪は降ってませんが、気温だけはホワイト・クリスマス状態。


ほぼ眠れないまま、朝を迎えました。
陽はまだ登ってませんが、時刻は6:25。朝のお勤めの時間です。
指定された玄関で住職さんがやってくるのを待ってると、他の泊客も下りてきました。
どうせ独男か面白がりの学生と思ってたら、女の子二人組。クリスマス、やっぱり終ってます。


6時半ジャストに、セコムを鳴らしながら住職さん、登場。
本堂改修中のため、お勤めは奥書院の仮本堂にて行うということで、全員、移動。
「無茶苦茶寒い」という予告通り、本当に無茶苦茶寒い部屋で正座で座り、
綿帽子をかぶったウィンター仕様の日蓮像に見守られながら、朝のお勤め、開始です。


「お勤め」と言っても、泊客は特に何かするわけではありません。
住職さんが、木魚系のパーカッションを連打しながら高速で「南無妙法蓮華経」を唱えるのや、
「南無妙法漣華経」と同じ拍子のリズムを太鼓で叩きながら連呼するのを、見守るのみ。
淡々としてますが、観光くさい「参加」型よりは、全然いいです。


お勤めのあとは、妙蓮寺名物・十六羅漢石庭をじっくり拝観。
小堀遠州の高弟であり、桂離宮の造営にも関わったとされる、この寺の僧・玉淵坊日首の作庭。
日首は秀吉とも仲良しだったそうで、中央の青石 = 臥牛石は伏見城からもらったもの。
有料ですが、一般拝観も可能です。宿坊に泊まれば、見放題。


宇宙を感じさせる白砂に、霊的な波紋を拡げる、石。
臥牛石は永遠の仏陀を表し、周囲の石は真理に呼応する菩薩を表す。
パッと見はまるっきり禅宗の庭ですが、法華曼荼羅の世界観を体現してるんだそうです。
では、白砂の上に点々と残っている何らかの小動物の足跡は、一体何を表現してるのでしょうか。


足跡の謎を哲学的に考えてると、下手人、登場。
「宇宙」の上を好き放題に歩き回ってます。歩くのはともかく、破壊は止めろ、破壊は。
下手人、しばらくすると哲学的な顔で「朝のお勤め」を果たし、どっかへ行ってしまいました。


で、9時、チェックアウト。
帰る前に、しばし境内をうろつきます。左は 「余乃花をみな末寺なり妙蓮寺」 の、妙蓮寺椿。
右は、10月から4月まで咲く妙なる桜、御会式桜。この日もちょっとだけ、咲いてました。
他にも、芙蓉などで知られる妙蓮寺。茶花として愛用されたことでも、有名です。


本堂改修工事を指揮するかの如き、指差しポーズの日像上人像。
そして、江戸時代バリバリの硬派なルックスを誇る、ウエスト細過ぎな袴腰鐘楼。
そういえば、そばの駐車場の車には、霜がちょっと残ってました。
あの寒さ、やっぱりホワイト・クリスマスだったんでしょうか。私には、どうでもいいことですが。


今の私にとって重要なのは、腹が減ったということ。
朝食用のケーキを夜中に食ってしまったため、起きてからまだ何も食ってません。
さあ、何を食おうか。と、精進落としモード全開なことを考えながら、退去。お世話になりました。
で、足は、何となく終い天神をやっている西方面へ。


12月25日といえば、クリスマスではなく、終い天神
北野天満宮で毎月25日にやってる市の、年度末スペシャル版です。
為念で言うと、特に妙蓮寺から近いわけではありません。徒歩、20分。腹、減った。
屋台で何か買えばいいのに、空腹が我慢できず、手前の天神堂で焼餅買うの図。メリー・天神。

「山の中+精進料理+写経+掃除」みたいな、
わかりやすい「宿坊」のイメージからは程遠い、都市的な立地と利便性を誇る、妙蓮寺。
確かにわかりやすい修行ごっこがしたい方には不向きかも知れませんが、
周辺エリア込みで京都の空気感みたいなのは、濃厚に味わえるところではないかと。
また、気楽に寺へ泊まりたいという人や、単に宿代を安く上げたい人にも、向いてるかなと。
客層については、前述の通り、女の子2人組のみ。
普段はどうか知りませんが、クリスマスはあんまり客はいないでしょう、多分。

そんな妙蓮寺の宿坊。
好きな人と泊まれば、より妙なんでしょう。
でも、ひとりで泊まっても、妙です。

【前編】 妙蓮寺宿坊で聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。


【ひとりに向いてる度】
★★★★
色気のプレッシャーは、あるわけなし。
逆に、宗教的プレッシャーも、希薄。
ただ、防寒対策だけはしっかりしていこう。

【条件】
クリスマスイブ 17:00~翌9:00

妙蓮寺
京都市上京区寺ノ内通堀川西入ル
通常拝観 10:00~16:00

京都市バス 堀川寺ノ内下車 徒歩約3分
市営地下鉄 鞍馬口駅 or 今出川駅下車
徒歩約17分

大本山妙蓮寺 ホームページ – 公式

妙蓮寺 (京都市) – Wikipedia