神泉苑へ大念仏狂言と静御前の舞を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

2012年5月3日(木)


神泉苑へ大念仏狂言と静御前の舞を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

神泉苑
現在は太いうどんが売りである平八の庭みたいな存在感を放ってますが、
元々は平安京造営と同時に作られた禁苑であり、京都で最も古い史跡のひとつであります。
平安初期には多くの天皇が行幸、池に舟を浮かべ管弦の宴などが開かれたそうですが、
かの空海が西寺僧と祈雨バトルを繰り広げてからは、徐々に祈雨修法の道場化。
空海がバトルの切り札としてチベットから呼んだ助っ人外神・善女竜王を池のほとりに祀り、
多くの真言密教僧たちが 「雨ふれ、雨ふれ」 と、様々な修法を繰り広げました。
のちには義経の愛妾となる静御前も祈雨の舞を奉納するなど、賑わいを見せた神泉苑でしたが、
結局、平安時代が終わると衰退を始め、時を重ねるごとに果てしなく、荒廃。
江戸期には二条城に土地と水もブン盗られますが、遷都以前から残る池だけは何とか守り、
平安時代のリアルな残り香のようなものを、平八と共に現代まで伝えてくれています。
そんな神泉苑で、毎年5月3日を中心として開催されるのが、神泉苑祭
善女竜王社前で行われる、祈雨道場時代のような大般若経六百巻転読祈願法要をコアとして、
子供みこし、稚児お練、雅楽や太鼓の奉納など、様々な催しが目白押しなんですが、
目玉は何といっても、京都無形民俗文化財である神泉苑大念仏狂言、そして静御前の舞。
前者は、壬生狂言の流れを汲む無言劇であり、この祭の期間中だけ執行されるもの。
後者は、義経を魅了した祈雨の舞を、現代に蘇らせるというものです。
GW真っ只中ですが、特に用事もないので、出かけてみました。


17時半頃に着いた、神泉苑祭開催中の神泉苑。
昼間は、子供神輿や稚児お練りで賑わったそうですが、この時間は落ち着いたもんです。
寺内ながら神社全開の善女竜王社の前には、「祇園祭発祥の地」 の幟と共に剣鉾の姿、あり。
言うまでもなく、祇園祭はここで行われた初の公式御霊会が、発端になってます。


社の手前には、さらに神社全開の神輿、あり。
西寺守敏との祈雨合戦の際、あらゆる竜神を水瓶に封じられ窮地に立った空海は、
北天竺に住む善女竜王を霊感で見つけ、ここへ勧請、見事に雨を降らせバトルに勝利しました。
そんな縁で、真言宗の寺ながら社があるわけです。いや、知らんけど。多分、そうです。


神泉・法成就池にかかる法成橋。ここが、静御前の舞の舞台となります。
百人の僧に読経させても雨が降らないのにブチ切れた後白河院が、白拍子百人を招集。
その中の一人が静御前であり、見事雨雲を呼んだその舞と美貌は、院をも深く感心させました。
義経はその場で静御前に一目惚れ。これから始まる舞は、その伝説を元にしたものです。


「一つだけ願いが叶う」 という橋の上に、私も立ってみました。
池を挟んだ向こう側には、それなりに混雑中。観光客より、氏子さんや近所の人が多い感じ。
その奥のテントではたこやき屋が出店し、他にもヨーヨー釣りや、ドリンク販売などをやってます。
写ってませんけどカルメラ屋なども来てて 「昼はよお儲かった」 とか言ってました。


張り出された祭のタイムテーブルでは、18時からになってた、舞。
しかし、会場の法成橋前の張り紙には 「18:15&18:30」 と紙が付け足されてました。
謎な展開と、張り紙の謎なインパクトに感心してるうち、18:15、白拍子コスの静御前が登場。
貞子、出てきたで」 と騒ぎ立てる近所の子供たちの声を背に、法成橋へ向かいます。


静御前の舞、一回目のショーが始まりました。
1000年前の祈雨と同じ場所で行われる、舞。これぞ正しく、平安風俗の再現であります。
バックに流れる音楽が思いっ切りシンセ多様のあり物であろうとも、平安風俗の再現であります。
周囲にたこ焼きの香ばしき匂いが充満しまくっていようとも、平安風俗の再現であります。


義経を魅了したエレガントな舞を繰り広げる、静御前。
エレクトリックな音楽に合わせて、時折、実にエクスペリメンタルも歌声を響かせます。
あまりのエクスペリメンタルさにエキサイトしたのでしょうか、ベラベラ煩かった近くのカメラ爺が、
私の隣に立つ地元のおばちゃん相手に、エキセントリックな無駄話をおっ始めました。


「私、三大祭り、全部見てますねん」 という知らんがな話から始まり、
「葵祭、祇園祭、時代祭。全部見て初めて、京都市民って言える思いますねん」 と続き、
「静御前、平安の悲劇の女」 と時代がかった声で言いきったあとは、ひたすら連想のサーフィン。
「私なんか、浮気全然せえへん」 とか、「最近、何とかいう俳優が二股かけてるけど」 とか。


おっさんの連想サーフィン一人語りは、止まる所を知りません。
「芸能人は何であんなに浮気するんでっしゃろ」 「京都から出る俳優・芸能人は多い」
沢田研二もそうや」 「沢田研二、元々京都でGSやってたんですわ。ビートルズが来日した時代」
「ビートルズ、最初のレコード、シー・ラブス・ユー。あれが出てから、今年で50年っ」 とか。


おっさんのフリーダムなサーフィンぶりもなかなかでしたが、
そのフリーダムな話を、まるで拳法の達人のように軽くいなすおばちゃんが、面白過ぎて。
そっちへばかり耳が行ってる間に、静御前の舞、終了。合計30分ほどの平安時代でございました。
あ、ちなみにビートルズの最初のレコードは、シー・ラブス・ユーではありません。


平安時代を満喫したあとは、大念仏狂言です。境内東側の狂言堂へ。
狂言公演は基本13時から18時なんですが、3日と4日は22時までの夜公演もあります。
入場無料ですが、入口には狂言保存募金みたいなのと、ほおらく500円やたけのこの販売もあり。
私は 「狂言のしおり」 150円を買い、靴を脱いで、観覧席へ上がりこみました。


私が見れた演目は、3つ。まずは、 『橋弁慶』 です。
五条天神へ参詣に向かう弁慶は、通行人の太刀を集める千人斬り・牛若丸の噂を聞く。
周囲の止める声も聞かず弁慶は五条大橋へ赴き、牛若丸との斬り合いに挑む・・・という話ですが、
牛若丸の千人斬りが子役ばかりで演じられるため、どっと笑いが起きる、なごやか舞台。


キャパ100~150人くらいの観覧席は、19時の段階で7割ほどの入り。
しかし、時間が経つにつれ客はどんどん増え続け、結局20時頃には満員になりました。
それ以降は、ひたすら立ち見が増えていくのみ。客は、ほとんど地元の人ばかり。えらい人気です。
観光客は、途中で帰ったり、あるいは撮影できないのでそもそも入口で引き返したり。


『橋弁慶』 に続いては、花見時の茶店を舞台にした 『山端とろろ』 。
茶店の客から盗みを働く盗人を、店の下男がとろろの付いたすりこ木で反撃する話です。
とろろが床にこぼれ、ドロドロになった二人が転びまくるクライマックスになると、客席は大爆笑。
顔見知りが多いのか、女将にちょっかい出す下男の動きも、異常に受けてました。


ラストの演目は、出ました、『土蜘蛛』 。
土蜘蛛に憑かれた源頼光を助けるため、渡辺綱&平井保昌が戦う、定番中の定番です。
京都では、他の念仏狂言はもちろん、六斎念仏などでも必須のように演じられるストーリーですが、
こちらの神泉苑狂言でも、立ち回りから糸吐きまで、実に見所いっぱいの内容になってます。


派手なアクションが映える舞台は、締めに相応しい大盛り上がり大会。
土蜘蛛の動きが非常に良く、サービス満点で糸の吐きまくるあたりもまた、実にナイス。
綱&保昌も、土蜘蛛を追って襷がけ+地獄へ向かって飛び込みを決めるあたり、実にナイス。
興奮した子供たちは、土蜘蛛が糸を吐くたび 「殺せ!!殺せ!!」 と絶叫してました。


で、21時半を回った頃、全ての演目が終了。
劇中、瓦を転がすような 「ガチャガチャ」 という音がどっかから聞こえてたんですが、
終わってから狂言堂に近づいて見ると、子供が舞台と客席の間、割れたほおらくで遊んでました。
糸を取る講員の人に、「糸くれ」 とせがんだり。伝承の正しき姿を見る思いです。


帰り際、改めて夜の法成就池と法成橋を眺めるの図。
それにしても神泉苑というところは、しみじみと面白く、そして不思議なスポットだと思います。
ぶっちぎりで京都最古レベルを誇る王朝史跡でありながら、この胡散臭さ、そしてこのネイティブさ。
しかし、その妙味こそがある意味、京都そのものと言えるのかも知れません。いや、嘘です。

客層は、全体としては観光客4:地元客6くらいのバランスです。
人数的には大した数ではありませんが、池周りは狭いため、それなりに混みます。
観光客は、わかりやすい観光客ではなく、若干王道を外した感じの人たち。
カップルは、少なめ。その他、リア充ワナビーの類の若者などは、全く見当たりません。
単独は、カメがメイン。それも、本格的なカメではなく、変人系、多し。
あとは、地元の物好き系若者、ディープな単独女など。単独親父も、それなりに見かけました。
狂言は先述の通り、完全地元モード。中高年メインというか、老人が8割という感じ。

そんな神泉苑の、大念仏狂言と静御前の舞。
好きな人と観たら、より平八なんでしょう。
でも、ひとりで観ても、平八です。

【客層】 (客層表記について)
カップル:1
女性グループ:1
男性グループ:1
混成グループ:0
子供:0 (子供は親子連れに含める)
中高年夫婦:1
中高年女性グループ:1
中高年団体 or グループ:4
単身女性:若干
単身男性:1

【ひとりに向いてる度】
★★★★
色気のプレッシャーは、ほとんどない。
ネイティブな雰囲気が濃い場所もあるが、
アウェー感はさほど感じないだろう。
妖しさや妙さを積極的に楽しむ気持ちで、
足を運ぶと、楽しいと思う。

【条件】
GW祝日 17:30~21:40

神泉苑
京都市中京区御池通神泉苑東入門前町167
拝観終日自由

阪急電車 四条大宮駅下車 徒歩約10分
JR嵯峨野線 二条駅下車 徒歩約10分
市営地下鉄 二条城前駅下車 徒歩約2分

神泉苑公式ホームページ – 公式

神泉苑祭 – 神泉苑公式

神泉苑 – Wikipedia