鞍馬の火祭へ行ってきました。もちろん、ひとりで。 【後篇】

2012年10月22日(月)


鞍馬の火祭・後篇、いよいよ祭本番です。

鞍馬の火祭は、ただいたずらに松明を大量に燃やして、
アホの外人が 「ファ━━イアァ━━━━ッ」 などと絶叫するだけのものではありません。
ちゃんと神輿も出ます。神幸祭なのですから、本殿から御旅所へ向けて、ちゃんと神輿も出ます。
天皇の病や天変地異に際し、五条天神と共に社前へ閉門・流罪の印である靫を掲げられ、
スピリチュアルなスケープゴート的役割を担ってきたという、靫明神 = 由岐神社
そして、現在はその由岐神社の相殿に 「客神」 として合祀されているものの、
かつては鞍馬寺の鎮守社であり、鞍馬山上に独立した社殿も構えていたという、八所大明神。
この二神を乗せた神輿が、鞍馬の町を巡幸することこそ、鞍馬の火祭の本義なのです。
本当かどうかは知りませんが、元来の鞍馬の火祭は、ここまで松明燃えまくりだったわけではなく、
神輿と剣鉾こそが祭のメインという、極めてオーソドックスな神幸祭の形を持ってたとか。
もちろんそれは、祭の本義というものを考えれば、当然といえる話であります。
やはり重点的に見るべきは、燃えさかる松明ではなく、神輿ということになるのであります。
百数十本の松明が鞍馬寺門前に集まる松明集合も、本義を考えれば、見なくていいのであります。
凄まじい炎の中で行われるという注連縄切りも、本義を考えれば、見なくてもいいのであります。
「これを見なければ、鞍馬の火祭を見たことにならない。絶対、見たい。見せろ」 と、
怒り出す奴がいたとしても、本義を考えれば、見なくてもいいのであります。
と、先の流れがほとんど読めること書いてますが、鞍馬の火祭レポート、いよいよ本番です。
セコいコネ使って民家へ上がり込んだり、隅っこで屏風見てクールな観察者を気取ったりせず、
超絶的な混雑へ真正面から特攻したらどうなるか、それを全身で確認してきました。
火の粉の中で燃え上がる、怒り、苛立ち、徒労、疲労、絶望、尿意、空腹、
そして興奮や歓喜などを、とことん体感的に御堪能下さい。


くらま温泉から少し下った18時半頃、宿の前に担ぎ手さん達が現れました。
船頭篭手+締込み+脚絆+武者草鞋+南天の小枝という、正装束での登場です。
しかし、別にその気がないににしても、目はどうしてもワイルド&セクシーな褌に行ったりして。
早くも 「サイレヤサイリョウ、サイリョウサイリョウ」 と、宿の前でコールし合ったりします。


ワイルド&セクシーさに刺激されたのか、早くも見物客はヒートアップ。
祭なのか撮影会なのかわからないくらいの囲み状態が、鞍馬町の至るところで発生します。
最初に松明を担ぐのは、子供達。ミニ正装束というか、稚児のようにも見える格好をした、子供達。
担ぎ手やお母さんたちに担ぎ方を教えられながら、子供用の小松明を担いでいきます。


で、練り歩き。


練り歩き。


宿を出発した松明は、温泉 or 門前の方へ、練り歩きます。
既にとてつもなく混んでるように見えますが、18時台の門前より北は、まだ散策が、可能。
というか、歩けないと祭が進行不能なわけですが、一般人の通行規制もこの段階では、まだなし。
混雑が本格的に激化し始めるのは、19時頃にあちこちで太鼓が鳴り始めたあたりからです。


で、その太鼓。宿の前の太鼓は、若衆+女性+子供が交代で叩いていきます。
頭拍の前に三連 or 四連のフィルが付き、タイム感が妙にアブストラクトな、変わったフレーズ。
それを、ゲラゲラ笑いながら次々と回し打ちする男たち。これ以上ないくらい、祭なビジュアルです。
が、実は女性の方が演奏時間が長く、かつ演奏そのものも上手だったりするのは、ご愛嬌。


で、また松明練り歩き。


少しずつ松明を大きくしながら、練り歩き。


あちこちに貼られた前原誠二ポスターを火の粉で焦がしつつ、練り歩き。
担ぐ松明を見境なく大きくしていきながら、練り歩き集団は街道を上へ下へと行き交ってます。
時間は、19時半。門前はそろそろ、混雑地獄になってる頃でしょうか。そろそろ、行ってみますか。
というわけで、単独正面突破のモットーを遵守すべく、最混雑地帯の一方通行ゾーンへ、移動。


移動したら、御覧の有様だよ・・・。火ではなくライトで浮かび上がるのは、難民の群。
鞍馬は道が全然ないため、一番混む門前周辺は超細い裏道を一通で無理矢理使ってます。
一般見物客は、その一通路をループ歩行するしかありません。なので、この時ならぬ難民状態。
道も狭いですが、途中渡る橋がもっと狭いため、警察により規制中。混雑、全く、動きません。


混雑があまりにあんまりなので、街道へ戻ったら、剣鉾が移動してました。
門前集合に向かってるのです。クライマックスが、じわじわ近づいてるのです。焦ります。
鉾がやってくると、通行路確保のため、地元民以外の一般見物客は、道そのものからも締め出し。
後では警官が 「民家敷地での見物はできません。No Public」 と、アナウンス。居場所、なし。


仕方なく戻ってきた、立ちんぼ地獄。あまりのあまりさに、もはや笑えてきます。
しかし、いくら笑ったところでこの地獄を抜けない限り、門前の松明集合は拝めないのです。
仮に規制を突破して、無理矢理門前へ向かったとしても、おそらくは火の粉を浴びて、全身全焼。
ただ、耐える。じっと、耐える。でも、混雑にじっと耐えてると、今度は寒さが襲ってきたりして。


あまりのあまりさに、もはや写真を撮るのも忘れた、立ちんぼ地獄。


あまりのあまりさに、後方ではしゃがみこんでる者多数発生の、立ちんぼ地獄。


「絶対に押さないでください」 というアナウンスを、何度も聞く、立ちんぼ地獄。


「前方も同様に混雑しております」 というアナウンスを、何度も聞く、立ちんぼ地獄。


そして時間は、遂に21時をオーバー。門前では、何かが始まったようです。
と同時に、もう絶対に動かないんじゃないかと思ってた混雑が、少しだけ動き始めました。
人が減り始めると、ここがとんでもない畦道だということに気づきます。何より、狭い。そして、寒い。
警察官もえづくほどの寒さの中、21:11、、いつ落ちても不思議のないボロさの橋を通過。


でも、橋を渡った先も、大混雑。道が2~3人が通れるほどの幅なので、大混雑。


歩くうち、一人しか通れないほどの幅&単なる山道となり、さらに大混雑。


道なき道で牛歩してると、右手にかなりはっきり、煙と火花が見えました。
あの下ではきっと、「サイレヤサイリョウ」 の掛け声と共に、松明が集まっているのでしょう。
そして、注連縄が切られ、集まった百数十本もの松明が、盛大に焼き捨てられているのでしょう。
正に、火祭のクライマックスです。現場から数10mの場所で、私は今、何をしてるのでしょう。


不条理を感じながら、火祭と全く関係ない川沿いの狭い道を歩くの図。


30分間歩いて門前へ出るも、規制で鞍馬駅へ回され、帰り客で満員の叡電を見るの図。


で、やっと門前へ着いたら、もう時刻は21:45になってたの図。
松明集合は、完全に終わってました。はるか彼方で火は一応燃えてますが、極めて小ぶり。
クライマックスを、きれいに見逃したということになります。それこそ、絵に描いたようなタイミングで。
あまりにも、残念です。あまりにも、無念です。が、祭本来の主役・神輿は、まだ動いてないはず。


と思ってたら、21:55頃、若衆たちが石段を登り、神輿を下ろし始めました。おおっ。
荒々しく石段を下りる、神輿。青年が担ぎ棒にぶら下がる 「チョッペンの儀」 も、行われてます。
多分ですけど。だって、遠いから全然見えないし。女性たちが綱を引いてるというのも、よく見えず。
後で写真を見たら、かろうじて両足を広げた姿が映ってましたが、これがチョッペンでしょうか。


石段を下り切った二基の神輿は、くらま温泉方向へ向けて巡幸を開始。
行ってしまうと門前はお開きムードとなり、さっきまでの大混雑が嘘のように、人が減ります。
神輿にリーチできるかは、規制のため、不明。なので、しばしその場で呆然と立ち尽くしてるの図。
猛烈に空腹を感じましたが、付近で開いてるのは木の芽煮屋だけ。饅頭屋の類さえ、なし。


で、22:30、警察の規制もなくなったので、神輿を追いかけてみたの図。


鎧武者が乗り、女性達が綱を引き、アブストラクトな太鼓が鳴る神輿の図。


神輿に着いて行ったら、剣鉾と神楽松明がスタンバる御旅所へ着いたの図。


御旅所の前で、若衆たちが 「サイレヤサイリョウ」 と延々踊るの図。


で、23:10過ぎ、遂に神輿が御旅所への宮入りが始まりました。
若衆が担がれた神輿は、もちろん振りや差し上げが行われますが、これがちょっと、独特。
曲がる方向の逆向きに揺らす、あるいはその逆かも知れませんが、とにかく独特の揺らし方です。
あと、写真には写ってませんが、鎧武者はこの時も神輿へ乗り、見事揺れに耐えてみせます。


荒々しい絶叫を飛び交わせながら、二基の神輿は鳥居をくぐり、
それぞれが転覆寸前のハードな揺らしを決めつつ、御旅所の奥へ安置されていきます。
見物客から拍手を浴びた若衆は、また神輿へ向かい、拝殿前でも揺らしを決め、やっと宮入り完了。
その後 「お~~~~~~~~~~~~~~~」 と、警蹕のような声が響かせ、多分、遷霊。


宮入りが完全に完了すると、若衆は 「サイレヤサイリョウ」 踊りを開始。
「サイレヤサイリョウ」 を繰り返し唱えながら手拍子で踊るという、実に男らしい踊りです。
手を上げ〆かと思いきや、最後にもう一回 「サイレヤサイリョウ」 と言って、急にその場をトンズラ。
ダッシュで駆け去る若衆に、見物客は大熱狂&拍手喝采。格好いい、あまりにも、格好いい。


祭りはこのあと、また神楽がありますが、雨が降ってきたので日和ります。
もう、限界です。疲れた。腹も減った。そして、本当はそれら全てを忘れるくらいに、寒過ぎる。
0時前の鞍馬駅に、数時間前の殺人的な混雑はありませんでした。駅舎にも、5人と人はいません。
車内も、半分くらいの入り。途中で乗る人もほぼなく、そのまま出町柳へ帰り着きましたとさ。

客層は、若めの烏合としか言いようがない感じでしょうか。
カップルの数は、そこそこ。女性グループや男性グループも、そこそこ。
いずれも学生風で、ある意味、DQNよりも性質が悪い連中です。
混成グループは、外人ばっかり。白人が多く、フランス・イタリア系が多い気がしました。
こいつらもまた全体的にふざけていて、程度が低く、マナーも悪かったりします。
そう、遠来で来てるためか何なのか、国籍・性別・属性問わず、全体にマナーの悪い奴が多いし。
標準語率が異常に高く、何というか、「火祭」 が好きな地方の人が多いような感じです。
単独は、女は、観光女 or 腐女 or 変人。男は、カメばっかり。

「京都で最も混む祭」 という言い方は、嘘でもありませんが、100%本当でもありません。
時間と場所を上手く外し、火ばかり追うのをやめれば、この祭をより深く楽しめるかとも思います。
いっそピークタイムは全てを諦め、御旅所でDVDでも見てるのが、いいかも知れません。
あと、あちこちで言われてることですが、一応生命に関わることなので触れておくと、
燃えにくい服装+食糧&上着持参+トイレがないから水分補給は控えめに。

そんな、鞍馬の火祭。
好きな人と行ったら、より火祭なんでしょう。
でも、ひとりで行っても、火祭です。

鞍馬の火祭へ行ってきました。もちろん、ひとりで。 【前篇】
鞍馬の火祭へ行ってきました。もちろん、ひとりで。 【後篇】

【客層】 (客層表記について)
カップル:2
女性グループ:1
男性グループ:1
混成グループ:2(外人率高)
子供:0
中高年夫婦:1
中高年女性グループ:1
中高年団体 or グループ:2
単身女性:若干
単身男性:若干

【ひとりに向いてる度】
★★
基本、地獄。
色気のプレッシャーはさほどではないが、人圧が激烈。
というか、細かいことをどうこう言ってられないほど、激烈に混む。
が、そんな苦痛を忘れるほどの面白さがあるのも、確か。
ひとりでじっくり見るなら、18時まで&22時以降の時間を、推奨。
間の時間は、山奥で天狗とでも遊んでおこう。

【条件】
平日月曜 14:00~23:50


鞍馬の火祭
毎年10月22日 開催

由岐神社
京都府京都市左京区鞍馬本町1073
通常拝観 9:00~16:30
叡山電車 鞍馬駅下車 徒歩約10分

京都鞍馬 由岐神社 – 公式

由岐神社 – Wikipedia

由岐神社例祭 鞍馬の火祭 – 由岐神社

鞍馬の火祭 – 京都新聞

鞍馬の火祭 – Wikipedia