壬生寺へ壬生狂言を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

2013年4月23日(火)


壬生寺へ壬生狂言を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

壬生狂言。正しくは、壬生大念仏狂言。
京都にいくつか残る大念仏狂言の中でも、最も有名といえるものでしょう。
創始したのは、鎌倉時代に壬生寺を再興すべく、勧進聖として聴衆を集めた、円覚上人。
巧みな説法が庶民から支持され、「十万上人」 と呼ばれるほど圧倒的集客力を誇った上人は、
PAなどあるわけ無い時代に更なる大ハコ系法会を成立させるべく、持斎融通念仏を創始。
声を使わず身振り手振りを用いることで、スタジアム級の聴衆にも仏の教えを説くこの踊躍念仏は、
やがて大念仏会という名の法会となり、時を経て仏教無言仮面劇・壬生狂言となりました。
近世に入ると壬生狂言は、能や物語など同時代の芸能からもエッセンスを導入するようになり、
節分の炮烙奉納 & 『炮烙割』 のガッシャーンも定着するなど、娯楽や行事としても発展。
以後、現代に至るまで、アマチュアである地元の壬生大念仏講中の人たちによって公演が続けられ、
激レアな面&衣装と共に、 「壬生さんのカンデンデン」 の伝統は継承されてるわけです。
素晴らしい。実に、素晴らしい。しかし、今までうちでは壬生狂言、がっつりとは扱ってませんでした。
節分奉納にはチラッと触れてますが、メイン公演である春の公開は、ずっと未訪のままでした。
理由は、ふたつ。壬生狂言には、鑑賞料がかかるから。そして、撮影が禁止だから。
鑑賞料は、まあ、800円。それに撮影禁止なら、神泉宛狂言だって同じ。ですが、Wだと、な。
吝嗇+記事プランが立たんという知らんがな事情が重なり、ずっとスルーし続けてたのであります。
が、何度でも繰り返しますが、うちのサイトの趣旨は、メジャースポットの単独正面突破。
壬生狂言も当然、メジャーです。初日の 『炮烙割』 は京都新聞に絶対載るほど、メジャーです。
それに、他の念仏狂言は観といて、壬生だけ観ないのも、妙です。そして、不勉強です。
行かねばなるまい。下手すると全画像が漆黒の闇になっても、行かねばなるまい。
そんな狂った義務感と、狂言への興味も一応抱き、暮春の壬生へと出かけたのでした。
結果、やはり黒画像ばかりが延々続く無茶苦茶な内容の記事となりましたが、
想像力を働かせるのも無言劇らしいと考え、お楽しみくださいませ。


阪急大宮駅を降り、新撰組屯所であった旧前川邸前を通り、壬生寺を目指してるの図。
壬生狂言を観に行くらしき人の姿は、特に見当たりません。新撰組関係の輩もまた、見かけず。
休日ともなれば、「誠」 な人たちがウロウロしてるエリアですが、平日だから、こんな感じでしょうか。
ちなみに道の先に見えてるのは、同じく新撰組屯所の八木邸、ではなく、金つばの幸福堂


本当に人いないのかなとか思い、もうすぐ祭りの元祇園梛神社方面へ歩いてみたの図。
この壬生寺道には、写真にこそ写ってませんが、明らかに狂言客とわかる人が結構歩いてます。
バス停・壬生寺道は、阪急&嵐電大宮駅より全然寺に近い為、そこから来る人が多いんでしょうか。
嵐電にも壬生駅、あればいいのに。というか、昔は本当にあったそうですが。この踏切近くに


で、やってきました、壬生寺。 aka 律宗大本山・心浄光院宝憧三昧寺。
総門は、工事中。全く壬生寺に見えない有様になってますが、間違いなく壬生寺であります。
三井寺の快賢僧都が、仏師・定朝作の地蔵菩薩を本尊として、「小三井寺」 の名で1005年開創。
「地蔵院」 とも呼ばれましたが、地名由来の呼称である 「壬生寺」 の方が定着したようです。


もちろん近年は、新撰組絡みの人気・知名度が上がりまくっている、壬生寺。
本堂手前では、新撰組ミュージアムの如き有料コーナー・壬生塚が、「誠」 な人を待ってます。
歌が流れる墓や闇雲に濃いノートなど、好き者ならずとも入場料100円の元は充分取れる所です。
が、GW入り直前のせいなのか何なのか、ここも特にそれらしき輩が溢れる様子は、なし。


新撰組フィーバーの一方、ネイティブな信仰も根強く集め続けている、壬生寺。
お参りもきちんとしておきましょう。というわけで、昭和37年の全焼後に再建された本堂を参拝。
写真ではよく伝わりませんが、何ともコンクリ感が強い、昭和テイストな威容を誇る本堂であります。
隣の千体地蔵でも、お参りを忘れずに。で、それが済んだら、写真右下の狂言堂兼保育園へ。


グレゴリ青山『ナマの京都』 で触れてた保育園が、ここ、壬生寺保育園
上から素焼きの皿が落ちまくり、 「炮烙割りやから、外に出たらあかんで」 と言われたっていう。
御覧のように、1階が保育園、2階が狂言観覧スペースになってるので、炮烙が落ちてくるわけです。
開始15分前ですが、入口前は既にパンパンの大行列。全席自由席なので、余計に混みます。


それでは、私も狂言堂へ入ります。鑑賞料は、先述の通り、800円。
鑑賞料は全額、狂言維持に使われるとか。衣装とか面とか、かなり費用が嵩みそうですしね。
100円玉2枚をエンドレスで返し続けてる受付のおばちゃんに、私も千円札を渡しておつりをもらい、
「再入場はできません」 と、やはりエンドレスで言い続けるおばちゃんに切符をモギられ、中へ。


ロビーみたいな場所では、売店ブースが設けられ、各種壬生グッズを販売してます。
私は、狂言解説パンフ200円と、寺紋が入った炮烙そっくりの炮烙せんべい600円を、購入。
『炮烙割』 が始まる前に、こちらの炮烙を早くも割って、賞味。味は、卵が効いたまろやかなる風味。
他にも、書籍類、飴やパックの飲み物、紙コップで出されるコーヒーなんてのも売ってました。


売店近くに張り出されていた、本日の演目。初番はもちろん、 『炮烙割』 です。
以降、 『鵺』 『酒蔵金蔵』 『賽の河原』 『安達が原』 と続きます。一番、休憩込みで一時間程。
『桶取』 や 『土蜘蛛』 、『蟹殿』 も観てみたいですが、まあ、何年かかけて観ていくことにしましょう。
2014年から春公演はGW開催となるので、平日昼間が多かった今までよりは観やすくなるし。


で、会場入り。以降、撮影禁止のため、全て漆黒の闇と文章のみでお楽しみ下さい。
舞台は、安政3年製の狂言堂。 「獣台」 「飛び込み」 などの演出装置を持つ、重文建造物です。
その狂言堂を、保育園の2Fから眺める形。といっても、前方は建物から迫り出してて、舞台に近し。
もちろん前方の席は、早くから並んでた人たちで既に、満員。トータルの入りも、9割5分くらい。


隅っこ席でミニ炮烙割をやってると、13時、カンデンデンの音が響きました。
壬生狂言、開演です。初番 『炮烙割』 は、免税特権を賭けて、羯鼓売と炮烙売が喧嘩する話。
拳を振り上げての殴り合いや、役人へのアピールで芸の競合いをコミカルに演じるうち、炮烙登場。
舞台の縁へ大量に積み上げられ、今にも落ちそうな炮烙に、客席からはどよめきが起こります。


炮烙売のやらかすユルこ悪行にブチ切れた羯鼓売は、炮烙を柱に押しつけて割り、
その勢いで、積み上げられた炮烙も片っ端からバシャバシャバッシャ─────────────ン。
厄除けでもある景気良い割りっぷりに、客席は大興奮。奇声が上がるほどです。で、初番は終了。
多くの客が席を立ちましたが、大抵はトイレ。この時点では、混雑はほとんど緩和されません。


二番は、 『鵺』 。 「頭が猿」 「胴が虎」 「尾が蛇」 という妖怪・鵺の、退治ものです。
平安末期、内裏へ夜毎現れる鵺に苦しむ、近衛天皇。僧による降魔折伏の祈祷も、効かず。
そこで関白は、源頼政に鵺退治を命じ、頼政は家来・猪早太と共に鵺を見事に捕獲&ぶった斬り。
関白が武勇を褒めて上句を詠むと、頼政が下句をつけ、これぞ正に文武両道、みたいな話。


『平家物語』 にも書かれた 『鵺』 の物語ですが、ここのはかなりな娯楽仕様。
橋掛かりの前の 「獣台」 を使ったアクロバティックな綱渡りの、「飛び込み」 の2連発も、見事。
鵺の動きがまた良くて、仮面の異貌もナイス。ナイス過ぎて、たまに写真を撮ってる奴がいますが。
単に撮影禁止を知らないおばちゃんや親子連れが多く、隣の人がそっと教えたりしてました。


三番の開始前、ちょこっと人が減少。で、前に空きが出来たので、移動します。
観覧席、段差がついてるので満員でも見れなくはないですが、隅っこは若干視界が狭いので。
ただ前、吹きさらしで寒いな。そんなどうでもいいことを考えてるうちに、三番 『酒蔵金蔵』 スタート。
能狂言 『棒縛り』 の脚色で、誘惑に弱い酒蔵番と金蔵番ををユーモラスに見せるというもの。


酒蔵番の面は貴重なものらしいですが、前方席でも 「怖い」 以外、よくわからんな。
そう思ってるうちに、酒蔵番と金蔵番は番をするはずの酒と金に手を出し、大尽から棒縛りに。
再び大尽が外出すると、二人、懲りずに縄を解いて呑みまくり、入れまくり。で、また大尽に、露見。
大尽、殺すかなと思いきや、ヤケクソ化。最後は三人で踊り狂うという、大らかな大団円です。


休憩中、観客席でパンフを売るおばちゃんたちの声を聞きつつ、先の結末について、
「会社の金は盗んだ方が、皆な幸せになるのか」 と思ってるうちに、四番 『賽の河原』 、開始。
閻魔大王に終生地獄道の判決を食らい、鬼共から袋叩き+釜茹で+丸食いにされた餓鬼亡者を、
壬生寺本尊のお地蔵さんが慈悲で復活させるという、壬生狂言ならではの宗教劇であります。


火を焚く際に見せる、鬼の特異なダンス。閻魔大王が餓鬼を脅す時の、天丼効果。
餓鬼を殴りまくり、舌を引き千切り、「てい」 という言葉を具現化したような釜茹でにする様。
そして、座布団を連結したような茹で立て遺骸を、鬼が丸ごと食い千切るという、スプラッター大会。
怖いけど笑える、笑えるけど怖い。現代のお笑いと妙に近いものを感じさせてくれる演目でした。


さらに人が減った状態で始まった、本日ラストの演目である 『安達ヶ原』 。
能の 『黒塚』 で知られる、福島県二本松市の 「安達ヶ原の鬼婆」 伝説に題をとった演目です。
一夜の宿を求めてやって来る旅人たちを、愛想良く家へ招き入れる、老婆。しかしそれは、トラップ。
老婆の正体は、鬼女。口を耳まで裂いた恐るべき形相で、旅人たちを次々と食い殺していく・・・。


そこへ山伏がやってきて、鬼婆屋敷へチェックイン。もちろん鬼女は、捕食開始。
しかし山伏はホラ貝&数珠の法力に加え、鬼の弱点である柊の枝を鬼女へ突きつけて、KO。
「老女の親切を真に受けると、黄泉の如き愛欲地獄へ落ちる」 という教訓を伝える (嘘) この演目、
人気は薄く、観客が少ない雨の日用の 「雨降り狂言」 なんだそうですが、全然面白いですよ。


で、17:50に 『安達ヶ原』 が終わり、本日の公演、終了でございます。
建物ぐらいなら撮っても構わんだろうと、帰り支度を急ぐ観客を横目に撮った、無人の狂言堂。
狂言が演じられたのは、右奥の本舞台。その左の空きスペースは、『鵺』 で使われた 「飛び込み」 。
ここで飛び込んだり、綱渡りなどをしたわけです。観客席の迫り出し&傾斜加減も、こんな感じ。


炮烙せんべいやパンフをお土産として売り込んでるロビーを抜け、
観覧スペースの外へ出ると、下階の保育園ではごく普通に園児の送り迎えがされてました。
とはいえ劇中、幼児の声は全く聞こえず。騒がないよう、指導してるんでしょうか。流石であります。
で、北口から帰ろうとすると、狂言堂が覗ける隙間に 「撮影禁止」 の張り紙。流石であります。


愛称が 「みぶろ」 の (嘘) 老人ホーム・ウェルエイジみぶの前を通り過ぎ、
北口から境内を出て、八木邸の近くをテクテク歩いてたら、こんな猫にじゃれつかれました。
壬生狼ならぬ、壬生猫。読みは、「みぶにゃ」 。ニャーと鳴き、立ち止まると足へすり寄ってきます。
炮烙せんべいの匂いでも、感知したんでしょうか。で、恵んでもらうことが多いんでしょうか。

壬生狂言の客層は、基本、地元の中高年がメイン。
観光や近隣系もそれなりにいますが、メインの空気を作ってるのはあくまで、地元系。
観光系の大半が老人寄りの高年齢層であるのに対し、地元系はもうちょっと年齢層が幅広く、
知り合いが出てるのを冷やかし半分で見に来た若い子多人数のグループもいたりします。
この連中、休憩時間はアホ全開でしゃべり倒しますが、狂言が始まると、完全沈黙。
そのギャップが何かちょっと凄くて、感動的でさえありました。
観光系は大半が高齢の夫婦連れであり、団体は少なくともこの日は見当たらず。
歳を食ってるせいか何なのか、観光ハイや京都伝統ハイなどで騒ぐ奴は、さほどおらず。
カップルの姿は、ほぼなし。観光系アホ若者の姿も、全然なし。新撰組系輩の姿も、まるでなし。
単独は、女は地元系も観光系も、ディープ系。いわゆるおひとりさまではありません。
男の単独は、舞台を見ずに手帳を見続ける奴や奇声を上げる奴など、概ね変人ですが、
フラッと見に来る地元系の爺さんの姿も、ちょくちょく見かけました。

そんな壬生寺の、壬生狂言。
好きな人と観たら、より大念仏なんでしょう。
でも、ひとりで観ても、大念仏です。

【客層】 (客層表記について)
カップル:微
女性グループ:若干
男性グループ:微
混成グループ:1
修学旅行生:0
中高年夫婦:3
中高年女性グループ:2
中高年団体 or グループ:3
単身女性:若干
単身男性:若干

【ひとりに向いてる度】
★★★★
色気のプレッシャーは全くないし、
ネイティブ主体ゆえのアウェー感も特に感じることはない。
程良くアーシーなテイストと共に、伝統芸能を楽しめるだろう。
ただ、開始すぐの 『炮烙割』 は、席がかなり混む。

【条件】
平日火曜 12:40~17:50


壬生狂言 春の公開
毎年春 壬生寺にて開催
2014年より、4月29日~5月5日開催

壬生寺
京都市中京区壬生梛ノ宮町31
通常拝観 8:00~17:00

京都市バス 壬生寺道下車 徒歩約4分
阪急電車 大宮駅 徒歩約8分
嵐電 四条大宮駅下車 徒歩約8分

壬生寺 – 公式

壬生寺 – Wikipedia

壬生狂言 – 壬生寺

壬生狂言 – Wikipedia