上賀茂神社の賀茂競馬へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

2013年5月5日(日)


上賀茂神社の賀茂競馬へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

Godspeed You 。ゴッドスピード・ユー。
「あなたの成功を祈ります」 「幸運を祈ります」 みたいな意味のフレーズです。
が、語尾に 「Black Emperor」 と付けると、暴走族映画のタイトルに化けてしまう通り、
日本ではその筋の嗜好と思考を持つ方々から重用され、高い認知度を誇る慣用句であります。
「God」 + 「speed」 。故に、 「神速」 。DQN的なセンス溢れる誤訳とは言えるでしょう。
しかし、それが本当に単なる誤訳、脊髄反射レベルの誤訳に過ぎないとは、私は思いません。
むしろ 「Godspeed」 という言葉の深層には、神とスピードの間にある親和性が潜むと考えます。
「宇宙で神に遭遇した」 とか言い出し、後には教団へ入ったりした、どっかの宇宙飛行士。
「S字で神を見た」 とか言い出し、後には自分も天高く昇天してしまった、どっかの音速の貴公子。
現代であっても、死と隣り合わせの速度の中にいる人たちは、何かと神を感じがちです。
モータリゼーション皆無時代の人々なら、その親和性に一層、敏感だったのではないでしょうか。
多くの神社で行われる、馬の奉納。または、競馬等の形式で行われる、馬の速度そのものの奉納。
それらの伝承は、私たちに 「Godspeed」 的なる何かを、力強く語りかけてる気がします。
神は、スピードである。スピードは、神である。そんなこと、感じたことはありませんか。
と、別の意味のスピードが好きな人が聞いたら、瞬間冷凍で大喜びそうな与太話はともかく、
京都の神社で馬が爆走するといえば、競馬の神様・藤森神社の駆馬神事が、あまりにも有名です。
が、駆馬神事と同じ5月5日に、葵祭の前儀として行われる上賀茂神社・賀茂競馬もまた、有名。
平安期の宮中武徳殿に於いて、端午の節会に行われたという 「くらべうま」 に始まり、
賀茂氏人が引き継いだ後も、現在に至るまで雅なるマナーで受け継がれてきた、賀茂競馬。
しかし、神のために爆走する馬が発するスピード感、そして衝撃波の如き音と風は、
単に雅なだけの鑑賞神事ではない、 生々しいまでの 「Godspeed」 を感じさせてくれます。
そんな賀茂競馬、奮発して千円のセレブなる有料席で観てみました。


当日13:40、 「Godspeed」 とは程遠い速度のバスでやって来た、上賀茂神社前。
46系統に乗ったのではありません。37系統で37分ほど揺られ、「上賀茂御薗橋」 で下車。
で、ここまで徒歩。混むのが嫌いな人には、おすすめです。本当に死ぬほど時間がかかりますが。
前の道は案の定、乗用車で混みまくり。神社の駐車場は、「満車」 で客を断り続けてました。


既に人でいっぱいの、上賀茂神社境内。競馬を行う 「埒」 は、参道の向こう。
賀茂競馬、競馬の本番である 「競馳」 は14時開始ですが、様々な儀式が朝から執行中です。
競馬観覧のため神にお遷り頂く 「頓宮遷御の儀」 、宮中由来の行事 「菖蒲の根合の儀」 などなど。
でも、皆が観たいのは、馬。タダ見ゾーン&500円の有料席では皆、ひたすら馬を待ってます。


向きを変え、左方後見高台と左方念人幄 (あく) ごしに眺めた、500円席とタダ見席。
それにしても、暑い。天気が良過ぎる昼に西向で埒を眺めるため、逆光でとんでもなく、暑い。
ちなみに、西向で埒を見る500円席とタダ見席もまた、当然ながら、逆光です。もちろん、暑いです。
暑さと撮影困難を回避するには、埒の西側にある千円席にいくしかありません。どうしようかな。


などと思案してると、熱中症で倒れた人が出たとか言って、救急車が登場。
これは、いかん。この時点で500円席&タダ見ゾーンを諦め、千円席へ入るのを決めました。
完全にボッタクリな値段ですが、競馬存続にも費用は要るはず。協力するのも、悪くはないでしょう。
参道脇でも、収益を競馬存続に使う青年団の売店が、こんな感じの競馬パネルで客寄せ中。


「売店に寄ってくれ」 と叫び続けるアナウンスを聞きながら、本殿へ。
既に神が外陣か何かに遷座してるためでしょうか、楼門の前までしか入れませんでしたが、
とにかく本日の競馬の無事&成功、そして私が熱中症で倒れないよう、しっかり祈願しておきます。
本殿、特別拝観をやってるとかで、ここでも新聞みたいなチラシを配り、客を呼び込んでました。


本殿を出て、千円席のある埒西側へ向かう途中、覗いてみた、馬場元。
馬場元とは、馬のスタート地点。この少し前あたりから走り出して、奥へ向かい爆走する、と。
左のテントは、千円席。右jは、タダ見&500円席。で、手前にいる人は、馬の尻を狙う覗き魔 (嘘)。
時間は、14:00。警固衆役の子供が、埒のチェックを始めました。競馳、ぼちぼちスタートです。


馬の尻しか見えない馬場元を去り、セレブな私は、セレブな千円席へ。
駐車場前の千円席入口、目立たないというか、さりげに設置されてます。さすが、セレブ (愚)。
客寄せはせず、通行人も覗いては 「高価っ」 と吐き捨て立ち去っていきます。さすが、セレブ (狂)。
浅黄幕をくぐると、受付巫女さんが 「立ち見席ですがよろしいですか」 。さすが、セレブ (満席)。


移動しながら立ち見するのもよしと、千円を払い、中へ。さすが、セレブ (粘)。
受付では、胸リボンとパンフがもらえます。胸リボン付けてたら出入り自由、かどうかは知らん。
パンフは、先刻の青年団売店パネルと同じ内容ですが、しかし競馬の説明は極めて詳細かつ明快。
この記事のもっともらしい説明は、大半がこのパンフからの受け売りです。さすが、セレブ (飽)。


で、満席とはいうものの、とりあえず様子を見に来た、千円席のテント席。
逆光直撃で熱中症寸前の●●達を眺めつつ、セレブの方々は日陰で優雅に埒を眺めてます。
ただこのテント、見物的には凄く、邪魔。皆が大人しく座ってるのは、立つと視界が狭くなるからです。
実際、カメラ爺達はこの辺に全くおらず。テントのないエリアに密集&三脚の立て合いを展開中。


で、テントのない青天井エリアの人間密集加減は、こんな感じ。これが、セレブ (涙)。
千円払ったメリットは、こうなるともう、順光だけ。しかし、悔いはない。それが、セレブ (再涙)。
カメラ爺が少ないですが、連中はこのアングルの裏でさらに密集。もはや、近づくこともできません。
「三脚そんなとこ立てんな」 などのセレブな罵り合いを聞くうち、馬が埒へ入ってきました。


パドックの如く埒内をうろつき続ける、赤 = 左方、緑 = 右方の、乗尻。
いわゆる、慣らし運転というやつです。先刻のパンフによると、「賀茂悪馬流」 の作法である、と。
上賀茂神社は、かつて日本各地に競馬料所なる荘園を持ち、「清い馬」 が競馬用に献進されました。
「清い馬」 = 野生馬。素性不明の馬も混じるため、慣らし運転が必須、と。ゆえに、「悪馬流」 。


古式に 「神主」 と呼ばれる宮司、そして諸役は、頓宮南側の神主幄へ着座。
頓宮は、左側の小屋。神が一時滞在する場所であり、競馬の勝者はここへ参拝を行います。
この競馬はあくまで、神様に観覧頂くものなのです。 「God」 に 「speed」 を捧げるものなのです。
人間なんて、二の次であります。千円席でも、二の次であります。とはいえテント、邪魔・・・。


頭にかかる菖蒲の葉、邪魔・・・と思ってるかどうかは不明な馬の、アップ。
慣らし運転は結構長い時間、続きます。 「三遅」 「巴」 「小振」 の儀と呼ばれるものだとか。
この写真の馬は大人しいですが、数頭はかなり殺気立ってて、馬場元では立入禁止エリアが拡大。
実に、勇ましい。「Black Emperor !!」 と叫びたくなる 「Godspeed」 が期待できそうです。


宮中左右近衛府官人と同じという重コスな乗尻が、淡々と続ける、慣らし運転。
奥に、鉾が5本立ってるのが見えるでしょうか。頓宮前のこの鉾は、神の降臨を示してます。
面白いのは、この5本の鉾、競馳の中盤で下ろされること。つまり、神様は途中で帰ってしまう、と。
神の存在を、逆にリアルに感じさせるための演出でしょうか。やはり、神の為の競馬です。


などと適当に感心してると、いきなり一番手の馬が走り出しました。
妙にゆっくり埒を駆けるのは、左方の馬のみ。しかし、ゆっくり圧勝してるわけではありません。
一番手の馬は、左右バラバラで走ります。で、先に走る左方が、勝ちとなります。そう決まってます。
かつて一番手の左方は徳川家からの奉納馬だったため、絶対に勝たないと具合が悪いのです。


神の為に行う競馬という割には、えらく権力を気にした出来レースじゃないか。
そんな気もしますが、しかし 「賀茂祭」 を 「葵祭」 と呼ぶほど徳川には世話になった、賀茂社。
ぞんざいには扱えません。というわけで、左方から少し遅れる形で出来レースをこなす、右方の馬。
先刻の左方は右手を前へ、今度の右方は後へ出してますが、何の意味があるかは、知らん。


二番手以降は、普通の勝負が行われます。初番を入れて、勝負は全6回。
とはいえ、両者が同時スタートではなく、先の勝負の勝者が一馬身遅れて馬を出すんだとか。
で、追い馬側がゴールである 「勝負の楓」 の時点で、差を詰めたか or 抜くかで、勝負を決めると。
あ、写真は右方が追い馬になってるので、二番手ではありませんよ。何番手かは、知らん。


とにかく本気でレースの馬は、速い。圧倒的に、とんでもなく、速い。
一応 「さあ走り出します」 的アナウンスはありますが、聞こえた時には既に馬は、目の前。
ゆえに写真、全然撮れません。馬が写っても、それが何番手の馬なのか、正直もう、わかりません。
あ、でもこの写真は神の鉾が下りてるので、神が帰った後の後半戦だと考えられます、多分。


三回目の競技が終わったところで、警固衆がまた埒を点検し、神は帰還。
しかしそれ以降の後半戦でも、馬たちは 「Godspeed」 的な走りを見せつけ続けてくれます。
そんな神速で駆け抜ける馬を、ぐっと加齢臭が濃くなるカメ爺密集ポイントに近づき撮ってみたの図。
確か連写で撮ったはずなんですが、写果はこんなのばっかり。で、これが一番マシという。


「遷宮で金かかるぞ」 の件、「瓦が名前入りで奉納できるので是非しろ」 の件、
「特別参拝もやってるから来い」 の件などがアナウンスされる中、爆速で通過していく馬たち。
右上の看板は、 「勝負の楓」 の看板。つまりこの辺は、決戦ゾーン。体感速度はもう、異常域です。
が、私のカメラで撮ると、爆速馬もこんな感じ。脚に漂う謎の頓馬感は、一体何なんでしょう。


結局、わけがわからない内に馬たちは通り過ぎ、15時半、全ての競馳は終了。
で、千円の値打なかったなあと思いながら千円席を抜け出し、埒の東側へやってきたの図。
帰る見物客で参道がごった返す中、奉仕員は小川の向こうにある庁屋へ。直会でもやるんでしょう。
と思ったら、係員が、「写真撮影あります、無料サ~ビス~」 。まだまだ休めない、奉仕員。


一方、馬は一の鳥居近くの原っぱに設けられたスペースで、既に休憩中。
大半の馬は走り疲れたのか、キャーキャー言う近所の子供たちへ力のない眼差しを向けたり、
5月1日に足汰式・足洗いの儀が行われた小川を、ただ 「飲みたい」 という目で見つめたりしてます。
もうちょっとしたら、トレーラーに乗って家へ帰れるはずです。神速奉納、おつかれさまでした。


ならの小川の上流では、さらに疲れる撮影大会へ向かう、奉仕員の姿あり。
とか思って庁屋へ行くと、撮影大会は観光ハイの馬鹿騒ぎではなく、むしろ濃厚な身内モード。
奉仕員の方は皆さん、旧社家の末裔。この競馬も、無償奉仕。その身内が集まってるんでしょうか。
何にせよ、私は場違いのお邪魔虫なので、特に写真も撮らずに退散。ぼちぼち、帰ります。


帰り際、ガラ空きだったのでじっくりと眺めさせてもらった、埒。
馬はここを、数秒で駆け抜けてました。馬場元から、左少し奥の 「勝負の楓」 までで、5秒程度。
神は、スピードである。スピードは、神である。そんな自分の与太を自分で信じたくなる、神速でした。
で、神社を退社した後は、壮絶な混雑の市バスに乗り、神速と真逆のスピードで帰りましたとさ。

千円席の客層は基本、中高年がメイン。
その内、地元・近隣系の老若入り乱れた家族連れが6割、4割がツアー団体。
近隣系は、毎年見てるか見慣れてるのか、特にはしゃぐこともなく、穏やかに眺めてます。
観光系はかなり典型的・古典的なテイストですが、やはりハイになることはなし。
というか、あまりに馬のスピードが速過ぎ、馬鹿盛り上がりにならない感は、なくもありません。
カップルその他、若者は非常に少なく、いずれの属性も点在する程度。
単独は、もちろんほぼ全員が、中高年のカメ男。狭いエリアに密集してます。凝縮してます。
500円席&タダ見ゾーンの客層は、上記の層に4割ほど若い奴を足した感じ。
全体の雰囲気的には、思ってたよりもネイティブなテイストが濃く、
のんびりとしたムードの漂う競馬でございました。

そんな上賀茂神社の、賀茂競馬。
好きな人と見たら、より Godspeed なんでしょう。
でも、ひとりで見ても、 Godspeed です。

【客層】 (客層表記について)
カップル:若干
女性グループ:若干
男性グループ:微
混成グループ:微
子供:0(親子連れは中高年団体扱い)
中高年夫婦:2
中高年女性グループ:1
中高年団体 or グループ:6
単身女性:若干
単身男性:1

【ひとりに向いてる度】
★★★
色気のプレッシャーは、これといってない。
人圧はかなり高いが、全体的には特にどうってことない。
ただ、500円席&タダ見ゾーンがどうかは、知らん。

【条件】
日曜+GW真っ只中 13:40~16:00


賀茂競馬 (かもくらべうま)
毎年5月5日 上賀茂神社にて開催

上賀茂神社
京都市北区上賀茂本山339
通常拝観 10:00~16:00

市バス or 京都バス 上賀茂神社前 下車すぐ
市営地下鉄 北山駅下車 徒歩約25分

上賀茂神社 (賀茂別雷神社) – 公式

賀茂別雷神社 – Wikipedia