MOVIX京都へ 『風立ちぬ』 を観に行きました。もちろん、ひとりで。

2013年7月25日(木)


MOVIX京都へ 『風立ちぬ』 を観に行きました。もちろん、ひとりで。

『風立ちぬ』 。言うまでもなく、宮崎駿、2013年の最新作です。
それが何か京都に関係あるのかといえば、関係ありません。全く何も、ありません。
では何故記事にするかといえば、ネタにして映画代の元を取りたいのが一番の理由ですが、
同時に近年の京都、いや新京極周辺に於ける映画状況の激変に触れたかったからでもあります。
私が最後にジブリ作品を京都で観たのは、今から十何年も前の、 『もののけ姫』 でした。
で、後の作品は基本、スルー。 『千と千尋』 は大阪で安い日に観ましたが、後は全て、スルー。
予告篇だけで 「駄目」 と断定し、NHK特番だけ眺めて 「オッサン、まあ勝手に頑張れよ」 と済まし、
作品自体はTV放送さえ無視し続けてきたんですが、今回の 『風立ちぬ』 は、何か来たな、と。
『もののけ』 予告の土鬼なタタリ神&首チョンパ&腕ピョーン以来の、本気感、ガチ感を感じたのです。
というわけで、上映されてるシネコン・MOVIX京都へ、レイトショー狙いで出かけたんですが、
そういえば 『もののけ姫』 を観た1997年頃って、こんなシネコン、なかったなあ、と。
ジブリなら、東宝公楽か、京宝か、あるいは京極東宝か。でも、どこも全部、つぶれたなあ、と。
というか、河原町&新京極の映画館自体、全滅したなあ、と。シネコン一館以外は、全滅したなあ、と。
明治初頭の府による上地+歓楽街としての再開発以前から、多くの寺と芝居小屋が林立し、
近代に入るとその芝居小屋がストレートに映画館へ移行したという歴史を持つ、映画の街・新京極
そんな由緒を持つがゆえに、劇場の存在はこの街のレゾンデートルだと思ってたんですが、
シネコン化の流れの前には、そんなゴタクは屁のツッパリにもならなかったようです。
十数年ぶりにジブリ作品を京都で観ることで、私はその現実を急に意識して、愕然としたのでした。
というわけで、映画を見る前に潰れた映画館跡をめぐって徘徊し、時の流れを感じることで、
単なる個人的な映画鑑賞を、無理矢理に記事に仕立て上げてみようと思います。
凡庸な時代の波を凡庸に受けまくる凡庸な地方都市としての京都の姿を、
何となくでも感じ、そして楽しんでもらえると、幸いです。


映画館跡めぐり、まずは東宝公楽跡のホテル+マンション+進々堂から、始めましょうか。
京都における東宝の一番館であり、私が 『もののけ』 を観たのも、ここです。でも確か、2回目。
台詞をよく聞き取るためにここへ来て、でも音響は最悪で、何も聞き取れなかった思い出があります。
あとは、千円の日にどうでもいい洋画を観たくらいでしょうか。売上に貢献せず、すんません。


東宝公楽跡から、河原町通を少し上ったところにあった、朝日シネマ跡。
『エヴァ』 旧劇の時だけ行列が出来た単館系ミニシアターで、現在は四条烏丸へ移転&改名
建物の朝日会館は、健在。というか映画館自体が割と新しかったので、もったいない気もしますが。
私は 『ロスト・ハイウェイ』『アヴァロン』 を見たくらいです。売上に貢献せず、すんません。


河原町通を下れば、京宝こと京都宝塚劇場&京都スカラ座跡。現在は、MINA
階下に入ってた書店・駸々堂へ、どれだけ行ったことか。そして、トイレをどれだけ借りたことか。
東宝公楽と共に、子供向けアニメを観る時は、大抵、ここ。 『もののけ』 の初見も、確かここのはず。
故に長じてからは、かなり敬遠しがちでした。駸々堂も京宝も、売上に貢献せず、すんません。


で、京宝から六角通を西進して新京極へ突入すると、京都ピカデリー跡が登場。
建物はそのまま残っていて、壁の文字もそのまま。中は、映画館時代からスーパーが入居中。
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』 をここで観た帰りもスーパーへ寄り、精神がかなり混乱したものです。
映画と日常のギャップが、酷過ぎて。他の映画は、記憶なし。売上に貢献せず、すんません。


ピカデリー跡、絵になるので引いてみましょうか。壁文字の残り方は、こんな感じ。
写ってませんが、右には誓願寺、あり。新京極以前から芝居小屋が並んだ、芸能ゆかりの地です。
全く映画と関係ないことですが、さらにその奥に、黒人のオッサンがやってるラーメン屋がありました。
確か、今は 「電気ブラン」 になってるとこ。すぐ、つぶれたけど。売上に貢献せず、すんません。


で、新京極を下ると、出ました、2013年閉館ホヤホヤの新京極シネラリーベⅠ&Ⅱ
建物、丸残りです。生々しく、痛々しい。映画祭とかもやってて、結構人気があった館でしたが。
でも私は、「弥生座」 の頃に親に連れられ来ただけ。帰りに狭い階段を降りたことのみ、憶えてます。
近くに菊栄という館がありましたが、そっちは入る前に閉館。共に売上に貢献せず、すんません。


さらに新京極を下り、四条通の手前に立つ、SY松竹京映跡。
私は、ここに入り浸ってました。といっても、映画館時代ではなく、ネカフェに化けてからですが。
「フジヤマカフェ」 なる名で、建物を上手く使ってましたよ。だだっ広さを、環境音楽で誤魔化してたり。
それもつぶれ、現在は何ちゃらバー化。映画館もネカフェも、売上に貢献せず、すんません。


SY松竹京映跡の横の路地を進むと見えるのが、美松劇場跡。
何を観たかの記憶がなく、客席の傾斜の凄まじさとスクリーンのデカさだけ、憶えてます。
現在は、忍者メシ屋化。以前は古着屋が入ってました。いや、今も建物の半分は古着屋でしょうか。
すぐそばの成人映画館・八千代館も、古着屋に変身。どちらも売上に貢献せず、すんません。


美松の前を通って右へ進むと、京極東宝跡。そこに立つ、スーパーホテルの雄姿。
建て替えで、昔の風情は一切なし。ただ、映画館時代にも古い建物の印象はなかったですが。
近年シネコン風のリニューアルもしてて、『イノセンス』 なんかを席指定で観た記憶があったりします。
が、普段は階下のビーバーレコードにばっかり行ってました。売上に貢献せず、すんません。


それにしても、語る映画の思い出がやたら貧弱だなあ。何か、恐縮であります。
私、大きくなってからはこの辺で映画観てないんですよ。大阪へ行くか、みなみ会館ばかりで。
「映画の街」 とかいっても、この辺、小さい作品はかからんもんなあ。単に地方の歓楽街だもんなあ。
と、やや逆ギレ気味で裏寺を歩くの図。そういえば、この辺の300円お好み屋も、なくなったなあ。


正直、映画館が全滅する前から、「映画の街・新京極」 という認識は消えてたなあ。
と思いながら、松竹裏のラブホ前を歩くの図。八千代館もそうだけど、ここも入らず終いだなあ。
『もののけ』 を観た頃は、十何年後の自分がまさかこんな有様になるなんて、思ってなかったなあ。
あ、でもそういえば、あの頃もやっぱり、ひとりだったなあ。あの頃からずっと、ひとりだったなあ。


と、狂気の感慨へ耽ってるうちに、MOVIX京都へ到着しました。
旧松竹館の松竹座+京都ロキシーの場所で2001年にオープンした、シネコンでございます。
まず松竹館を潰し、次に東宝館を潰し、結局その他全ての館を一掃したのが、こいつでございます。
それにしても、『風立ちぬ』 の看板やポスター、見かけません。場所、間違えたんでしょうか。


いや、この辺の映画館はもうここだけだから、場所は間違えようがないんだけど。
とか思いながら辺りを見回すと、こんなポスターが一枚だけありました。何か、盛り上がらんなあ。
ここは名前の通り、松竹の小屋。それに対し、 『風立ちぬ』 の配給は、東宝。関係あるんでしょうか。
タケマツ画房の看板を復活させろとは言わんが、看板は出せよ。シネコンのこういう所、嫌だなあ。


とか思いながら、文化の香りが全くなく、代わりに砂糖臭が爆裂するフロントへ。
シネコンのこういう所も嫌だなあ、とか思いながら、でもレイトショーという恩恵はちゃっかり享受。
真ん中と後の方が空いてるというので、最後列のチケットを1200円也で購入しました。悪いね、駿。
で、スクリーンへ向かいます。もちろんパンフなど、買いません。ポップコーンも、買いません。


中へ入ると、席は平均的に空きがあり、ぱっと見で5~6割程度の入り。
客の大半は若者。といっても、いわゆる 「濃い」 連中ではなく、私には異様に見えるほど、薄い。
『もののけ』 の頃と比べたら、5分の1くらいに薄まったと感じるほど、薄い。時代は、変わったのね。
照明が薄暗くなり、TVCM、結婚式場のCM、邦画の予告編が流れますが、これもまた、薄い。


と思ってたら、いきなり濃い口な、高畑勲の 『かぐや姫』 の予告編。


で、完全に暗くなり、『風立ちぬ』 本編上映開始。


上映中。マナーは、上映前と比べたら、気味悪いくらい良い。


上映中。関東大震災、揺れの絵、凄い。
が、その直後の、人間の心を一番潰すまったりした嫌な時間の表現が、怖いくらい凄い。


上映中。 「君たち、ひもじくない」 で、爆笑しかける。
狂気に近いまでの無神経さ。庵野も狂ってるが、これを採用する宮崎駿もやっぱり狂ってる。


上映中。
自主学習会での、全くプレゼン向きでないのに、異常にプレゼン能力の高い声。魔の声。


上映中。もちろん新境地の作品だが、だんだん 『コナン』 と変わらん気もしてくる。
ギガントみたいなのも、出てきたしな。黒川さんが、ジムシーとダイスの合成に見えてくる。


上映中。ヒロインは、開き直ったようにラナとかクラリスだし。
そうだよ、等身大の女性なんか、どうでもいいんだよ!!知ったこっちゃないんだよ!!


上映中。周囲から、啜り泣く声が聞こえ始める。


上映中。九試が飛ぶ。


上映中。本編が終わる。


アナログ盤の針音から始まる、エンディング 『ひこうき雲』
爆音で聞くと、歌声が震えてるのがよくわかり、それが何かちょっと、やばかった。


で、終了。23時を回ってるので、とっとと帰ります。が、立てない女性、多し。
席の隙間をよっこいしょと抜け、劇場を出ました。彼女たちは、何故、泣いてたんでしょうか。
それがわかれば、私も幸せになれるのでしょうか。あるいは、それは、全く幸せではないのでしょうか。
と、十何年前も現在も、そして十何年後も多分無関係の世界に思いを馳せつつ、帰りましたとさ。

客層に触れるのはあまり意味がないとは思いますが、一応書いときます。
カップル率は、そこそこ。数はいますが、場が場なので、プレッシャーはたいした事ありません。
グループ率、妙に高し。それも、「それ系」 なグループではなく、実にしょうもない若者のグループ。
単独、グループ問わず、コアな奴や、あるいは逆に仕事帰りっぽい奴は、あんまりいません。
ゆとり溢れる人たちが、何というか、「食らってる」 感じの館内でございました。

MOVIX京都の、 『風立ちぬ』 。
好きな人と観たら、よりシネコンなんでしょう。
でも、ひとりで観ても、シネコンです。

(写真および文章における映画館跡の状況は、2013年7月に於けるものです)


MOVIX京都
京都市中京区新京極通三条下る桜之町400
営業時間は上映スケジュール次第

阪急電車 河原町駅下車 徒歩約15分
京阪電車 三条駅下車 徒歩約15分
市営地下鉄 京都市役所前駅下車 徒歩約15分

MOVIX京都 – 公式

風立ちぬ – 公式