瀧尾神社の神幸祭へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

2013年9月29日(日)


瀧尾神社の神幸祭へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

明治初頭に行われた荒っぽい神道国教化政策により、
平安期から日本で親しまれてきた神仏習合の信仰スタイルは、一掃されました。
ビッグネームな寺や神社が林立する京都も、この神仏分離政策は無論、しっかり適用範囲内。
ビッグゆえに 「お上」 と縁が深く、ゆえに 「お上」 の意向 or 顔色を窺う必要があったのか、
「祇園感神院→八坂神社」 を始め、多くの神社が改名したり、神宮寺が破却されたりしたわけです。
私の地元の石清水八幡宮などは、 「お上」 と縁深いのに神仏習合度が強かったため、
慌てた挙句、山中にあった数十の寺を全て破却する事態に至ったりしてますが、それはともかく。
そんな感じで、建物レベルや運営レベルではかなり徹底的に行われた神仏分離ですが、
しかし京都は一方で 「東京遷都以降は基本、全否定」 の精神がこっそりひっそり息づいてもいる街。
粟田祭における青蓮院への神輿突入や、新日吉祭における妙法院僧侶による神輿前読経など、
祭儀レベルでは、神と仏が入り交じるスタイルの儀式を持つ祭も、結構残存してたりします。
で、そんな神仏習合の残り香を、よりダイナミックかつエンターテイメント的に楽しめる祭といえば、
JR&京阪電車東福寺駅すぐそば、伏見街道沿いにある神社・瀧尾神社の神幸祭ではないでしょうか。
大丸の創業者・下村彦右衛門が、下積み時代の行商の道中に熱心な祈りを捧げたことで知られ、
後には同家&大丸の完全バックアップにより贅を尽くした社殿が建立された、瀧尾神社。
今は大丸がどう関わってるのか知りませんが、秋祭は神社の規模以上に賑やかなものであり、
神輿の差し上げは無論、京都独特の剣鉾の剣差し、さらには龍舞なども登場して、見所は実に多し。
中でも一番インパクトがあるのは、「御寺」 の呼称を持つ泉涌寺への神輿乱入でしょう。
皇室の菩提寺たる泉涌寺に、神輿が入り、のみならず坊さんが読経まで行ってしまうわけです。
神輿は近年復活したものだそうですが、祭儀が放つ香りは確かに古の祭の香り。
そんな古の祭の香り、東山南部へ嗅ぎに行ってきました。


12:40頃、到着した瀧尾神社を、伏見街道 = 本町通から望むの図。
大丸創業前の下村彦右衛門は、伏見から京へ行商に出たそうで、その際この街道を歩いた、と。
で、街道沿いに立つこの社へ朝に夕に祈りを捧げ、めでたく成功した後は援助を惜しまなかった、と。
あ、神幸は11時からとっくに開始。境内では、昼休みで帰ってくる行列の飯準備とかしてます。


帰ってくるまで暇なので、瀧尾神社名物・拝殿の8m級の龍を拝むの図。
江戸後期の彫刻家・九山新太郎の作。 「夜、水を飲みに抜け出す」 と囁かれたほどの出来です。
彦右衛門亡き後も下村家は援助を続け、今の額にすると億単位の費用をかけ、現在の社殿を道営。
龍も凄いですが、本殿は梶井法親王へ寄進&斡旋で貴船神社奥殿を移したとも言われてます。


と、社殿を見てても行列はまだまだ帰ってこないので、出迎えることにしました。
この時間の神幸列は、神社を出て東進し東大路通へ進入、新熊野神社の辺まで北上して西進、
本町通まで戻って北上し、七条通を回って鞘町通を南下、一旦神社へ戻るという行程になってます。
で、本町通を北上してると、七条通へ向かう行列が見えたの図。神輿の頭、見えるでしょうか。


行列は七条通を左折し、本町通の隣筋・鞘町通を南下。写真は、先頭の触れ太鼓。
「鞘町」 の名の通り、この辺は鞘師など武具関係の職人が住んだ町。残り香は微かにあります。
瀧尾神社がある一橋からこの辺りは、秀吉の大仏殿建立&伏見城築城以降えらく賑わったようで、
特に本町は 「其外一切諸品あらずということなし」 (『京羽二重大全』)という賑わいだったとか。


「諸品あらずということなし」 が現代も続いていることを体現するかの如く、
成人映画館 「本町館」 がディープな賑わいを添える塩小路本町にて、差しを決める3本の剣鉾。
本町館は、御覧の閉まってるデイサービスセンターの2階。両者が、仲良く同居してるのであります。
写ってませんが、行列には大丸マークをつけたも同行してて、もちろんここでも振りまくり。


で、神輿。瀧尾神社の神輿は、2基。男神輿女神輿と。で、写真は男神輿。
本町通が歩道橋で越える八条のJRを、京阪横の道の高架下を通って潜り、南進を続けるの図。
神輿は御覧の様に曳かれて進みますが、差し上げも結構な頻度で敢行。特に男神輿は、より敢行。
神輿、何となくきれいに見えます。よく知りませんが、ここの神輿は近年新調されたそうですよ。


神輿の新調のみならず、宵宮祭と共に祭も近年リニューアル (?) されたそうですよ。
最初に見た拝殿の龍にちなみ、鳥取の龍舞グループ・鳥取醒龍團も参加するようになったとか。
でも行列に龍舞っぽいの、見なかったな。先頭にいたのかな。あるいは、最後尾で遅れてるのかな。
とか思ってる間に、行列は神社へ帰着。皆さんは飯&休憩、剣鉾と神輿は本町通に一旦安置。


で、安置されてる剣鉾を拝見。いずれも真ん中のエンブレム (?) は 「瀧尾社」 。
手前の鉾には、龍の彫り物あり。いや、彫り物というよりは、盛り物という感じで凸ってますけど。
龍の凸った所だけ補修したんでしょうか。あるいは、こういうカラーリングになってるんでしょうか。謎。
舁き手さんは、神社周辺の至る所で弁当中。境内では、学生か何かが太鼓か何かを演奏中。


「13:50まで休む」 みたいな声が聞こえたので、私もその辺で何か食べることにします。
近くに伏見桃山の名店・大黒ラーメンの東福寺支店があったので、入店して、並&ライスを注文。
店内は、舁き手さんで満員状態。弁当500個用意したけど余るなどの話を聞きつつ、食うことしばし。
鶏+醤油なのに別の何かに感じる高中毒性のスープは、本店譲り。安過ぎる値段も、本店譲り。


14:10ごろ、巡行は再開。ここからは、写真メインでざっくり見てもらいましょうか。
まずは、触れ太鼓について本町通から泉涌寺道へ入る、行列先頭の猿田彦&巫女さんたち。


どこにいるのかなと思ってた鳥取醒龍團、ここから行列へ合流。
カラフルな龍が道中で拝む人の頭を噛み、知恵や育毛の御利益を授けることしきり。


で、泉涌寺道交差点まで来ると、剣差しを敢行。


そして、中国テイストの高速パーカッションに乗せ、龍舞も展開。


もちろん、神輿も差し上げ。まずは、女神輿。


そして、男神輿。


神輿差し上げが終わると、神幸列は泉涌寺道を進み、いよいよ 「御寺」 へ。
総門をくぐり抜け、緑が生い茂る坂道をゆっくり進む、猿田彦などの神社テイスト爆裂なメンツ。


で、大門へ着くと、 「大丸でっせ」 という勢いで振り回される、大丸印の纏。


続いて2基の神輿も、大門から堂々と泉涌寺 へ入山。


カラフルな龍も、堂々と入山。それにくっついて、私も堂々と無料で入山。
行列のため門を開放せざるを得ないので、無料入山を黙認する感じでしょうか。すんません。


で、仏殿前では坊さんの真ん前で、神輿差し上げ。実に、神仏習合です。


続いて、剣差し。実に、神仏習合です。


そして、坊さんが2基の神輿の前で読経。実に、極めて、あまりにも、神仏習合です。
何ゆえ近所の新熊野神社ではなく、瀧尾神社の神輿が泉涌寺に入るのかと思ったんですが、
瀧尾神社は元々泉涌寺の鎮守であり、かつては泉涌寺の境内に建ってたという話もあるそうですよ。
彦右衛門の社殿造営も、梶井門跡へ御用金+泉涌寺の当番寺院の名を以て願い出たとか。


で、ラストは龍舞。先述の 「夜、水を飲みに抜け出す」 伝説に基づく演舞だそうです。
「水、飲みたい」 とか、あるいは 「水くれえ」 的な感情を、荒々しく表現してるんでしょうか。


「水くれえええええええええええええええええええ!!!」


「水くれえええええええええええええええええええええええええ!!!!」


水を追い求める龍は、そのまま大門を出て、バスに乗り込んで、帰還。
門を出る様は実に奇景ですが、帰る方も見送る方も共に手を振る様は実に穏やかなものでした。
鳥取醒龍團は2014年2月で活動を終了。以後、龍舞がどうなるかは、知らん)


神仏習合祭りのあと、龍以外の行列は瀧尾神社へ帰ります。
泉涌寺を出て、泉涌寺道から住宅地を通って東福寺方面へ進む、神輿。


東福寺では、老人ホーム・洛東園への神輿入り+剣差し。


で、瀧尾神社へ戻れば、神輿が徹底的に差し上げ。


とことん差し上げ、神輿リーダーの 「堪忍して」 の言葉で、終了。
強烈なインパクトの神仏習合ぶりとビジュアルが、実に充ち満ちた祭でございました。

客層は、完全に地元メイン。
というよりは、ほぼ神輿の舁き手の身内、しかいない感じです。
カップル、絶無。観光客も、ほぼ絶無。若者自体がそもそもほとんど見当たらないというか。
泉涌寺はもちろんそれなりの観光客がいますが、特に熱烈な興味を示すということはありません。
あとは、沿道の家族連れの見物人か、たまたま出くわして目を止める通行人くらい。
単独は、男のカメがちょっとだけ。女はほぼ絶無。

そんな瀧尾神社の、神幸祭。
好きな人と行ったら、より神仏習合なんでしょう。
でも、ひとりで行っても、神仏習合です。

【客層】 (客層表記について)
カップル:0
女性グループ:2
男性グループ:0
混成グループ:0
子供:1
中高年夫婦:2
中高年女性グループ:2
中高年団体 or グループ:3
単身女性:0
単身男性:微

【ひとりに向いてる度】
★★★
色気や人圧のプレッシャーは全くないが、
周囲が身内ばかりなので、アウェーというか、不審者同然。
ポイントを泉涌寺だけに絞り、ベタな観光客のフリをして、
神仏習合の祭儀だけ観るのもいいかも知れない。

【条件】
日曜 12:40~17:20


瀧尾神社神幸祭
毎年 9月最終日曜 開催

瀧尾神社
京都市東山区本町11丁目718
拝観自由

JR&京阪電車 東福寺駅下車 徒歩約2分
京都市バス 東福寺下車 徒歩約4分
 

瀧尾神社 – HIGASHIYAMA district

瀧尾神社 – 京都風光

瀧尾神社 – ちょっと言いたくなる 京都通