妙心寺塔頭・東林院の 「小豆粥で初春を祝う会」 へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

2014年1月16日(木)


東林院の 「小豆粥で初春を祝う会」 へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

「関西の薄味は、味が薄いのではなく、色が薄いだけ」 。
某夜更かし発のそんな理解が広まりつつある、昨今の関西薄味事情であります。
否定は、しません。薄口醤油の塩分濃度など持ち出されずとも、我々は濃い味が大好きです。
京都にも、濃厚嗜好は歴然と存在します。特にラーメン領域では、それが露骨に顕在化。
脂を大量に投入する背脂系、炒飯まで真っ黒な新福・第一旭系、スープに箸が立つ天一などなど。
いずれも、病的です。異常です。薄味和食への欲求不満で発狂したかの如く、変態です。
が、その薄味和食にしても、出汁レベルでは塩分以上に濃厚だったりするのであり、
「ダシは張り込め」 を合言葉に、一般家庭でも案外と旨味に金と手間がかけられてたりします。
我々は濃い味が大好きです。単に醤油を煮詰めたような味は、やはり病的に嫌いですが。
とはいえ、本当に薄味を極め、素材の力を極限まで引き出す料理もまた京都には存在するのであり、
その典型が、寺院、特に禅宗寺院で食される精進料理であることは、言うまでもありません。
道元禅師の教えに従って、禅の思想を食でも実現し、後には和食の原点にもなった、精進料理。
もちろん現在でも寺で食され、京都でもいくつかの禅院では一般人も食することができます。
「沙羅双樹の寺」 こと妙心寺塔頭・東林院も、そんな精進料理が食せる寺のひとつ。
食せるのみならず、料理教室や宿坊でも知られる東林院ですが、様々な催しも行っていて、
「沙羅の花を愛でる会」 、そして1月中旬から月末まで開かれる 「小豆粥で初春を祝う会」 は、有名。
特に 「小豆粥で~」 は、精進料理のひとつとして禅宗で大切に継承されてきたという小豆粥を、
小正月に合わせていただき一年中の邪気を祓うという、精進度が高い感じの催しです。
ちなみに会費も精進度が高く、3700円。370円ではありません。3700円。
「何だそれは」 と、額に興味はあったものの、額ゆえに行く気は起きなかったんですが、
今年は奮発して、高価い小豆粥で一発、精進してみることにしました。
割高な精進に励む様から精進落としまで、お楽しみください。


やって来ました、臨済宗妙心寺派大本山、妙心寺。その南総門。
修行第一主義の禅風を誇る禅寺の門として、シンプルながらも堂々たる佇まいを見せてます。
時刻は、13時半。 「祝う会」 の時間は、11時から15時。数量限定でなければ、余裕で間に合うな。
そんなことを思いながら、南総門をくぐり、東林院へ。約10万坪の広大な境内へ、進入です。


少し歩くとすぐに現れる、御存知、三門仏殿法堂のトリプルな威容。
「日本最大の禅寺」 である、妙心寺。その中心・七堂伽藍のコアだけに、実に巨大であります。
とはいえ、この辺は生活道路として開放されており、近所の人の姿も多く、威圧感がないのが、味。
写真奥の法堂からは、手馴れ過ぎて逆に解読不能な拝観者向け説明の声が響いてました。


正に禅寺全開という感じの、白壁&石畳が見事な境内を、歩くことしばし。
1342年、花園法皇の勅願で離宮を禅刹に改め、関山慧玄を開山に迎え創建された、妙心寺。
写真左側は、その花園法皇が住み離宮跡とも言われる玉鳳院+関山慧玄が眠る開山堂・微笑庵
玉鳳院は法皇の、微笑庵は関山の、木像を安置。大半の塔頭同様、非公開ではありますが。


妙心寺は室町幕府と一線を画し、特に足利義満からは嫌われました。
寺領簒奪+寺名変更と幾多の法難を食らい荒廃しますが、米銭納下帳をつけ経済基盤を再建。
「算盤面」 と揶揄されながらも復興を果たし、戦国期に入ると一気に発展+優れた禅僧も多数輩出。
現在は境内に40以上の塔頭が林立し、到着したこちらの東林院も、そのひとつというわけ。


細川氏綱が建てた寺を、山名豊国がここへ移転&同家の菩提寺とした、東林院。
最近では、質実剛健な妙心寺内にあって 「おばんざい」 など女子寄りなワードで知られてます。
山門にかかってた 「京の宿坊」 という看板の通り、精進料理が食べられる宿坊としても、結構有名。
庭に並ぶ幾多のオブジェを見ながら、「小豆粥で~」 の看板に誘われるまま、本堂玄関へ。


玄関前に立つと、襖の奥から賑やかな女性の声。下駄箱には、和装用草履。
「わっ、アウェー」 と怯んでると、襖が開き、草履の主の着物おばさん軍団は帰って行きました。
で、その奥に、坊さんが座る受付あり。 「予約してませんが」 と一応確認しましたが、全然問題なし。
名前を伝え、粥&福茶の引換札をもらい、3700円を惜しげもなく払い、堂々入寺であります。


受付の後、沙羅双樹の庭が見える本堂へ通されます。で、しばし待て、と。
とりあえず、本尊にお参り。本尊、大般若札を授与中。堂内は暖房が効いてて、暑いくらいです。
しばらく待つと、福茶茶礼の盆が運ばれてきました。右から福茶、祝菓子。左のは、パンフと引換札。
元旦の若水で点てるという、福茶。ここのは茶でなく、梅干に白湯を注いだ梅湯。何故か、甘し。


説明書きのベールを脱いだ、めでたき祝菓子、その一覧。
小倉あん+小豆きんとんで出来た鼓月謹製主菓子、松の雪。共に縁起物の干菓子、結び笹。
万物をかき集める意で、干し柿。良い芽が出るのを祈り、くわい煎餅。代々栄える橙色の、みかん。
そして何となく、豆&昆布。これでもかとばかりに、めでたい語呂合わせの菓子、勢揃いです。


めでたいのはいいんですが、菓子、強烈に甘い。特に松の雪、強烈に甘い。
昆布とくわい煎餅の仄かな塩味では、全く中和できません。お茶に逃げるも、これまた、甘い。
写真は、あまりの甘さで背後の沙羅双樹がぼやけるのも構わず、これも精進と干し柿を食らうの図。
干菓子に駄目押しを食らいつつ、みかんまで完食したところで、突然、名前を呼ばれました。


名前を呼んだ給仕のおばさん曰く、書院へ移動してと。粥はそっちで食うそうです。
で、移動。千両の庭や宿坊浴室入口、写真右の献立書きなどを眺めつつ、書院へ向かいます。
和尚が料理教室やってることで有名な東林院ですが、小豆粥の膳は妙心寺御用達・阿じろが担当。
献立書きも当然、阿じろによるもの。 「薬湯」 と称して、佐々木酒造の酒も呑めるそうですよ。


「愚痴のお酒は飲む勿れ 無明のお酒に酔う勿れ」 という献立書きの言葉に、
酔うほど呑んでいいのかと思ってるうち、椀物以外がセッティングされた膳の前へ通されたの図。
手前から左回りで膳を紹介していくと、坪椀の黒豆、木皿の蛇腹昆布、香の物は塩昆布+くき大根、
また木皿で畑菜の辛子味噌和合、小皿がひじきしぐれ、そして食の心得を説く食事五観文


食事五観文を粛々と読んで粥を待とうかと思ってたところで、小豆粥と平椀、登場。
膳、全て揃いました。五観文など忘れ即刻食おうかとしたら、おばさんが 「さば、お願いします」 。
鯖にあらず。生飯 or 施食。自分の粥から少量の米を庭に供え小鳥に施すという、禅寺の儀式です。
本物の儀式は住職がやるということで、客は 「さば器」 なるものへ米を7粒ほど差し出します。


で、写真に写る木製のちりとりにしか見えない物体が、さば器。
そういえば給仕のおばさん、外人夫婦客にも 「さば」 を説明してました。完全に日本語だけで。
「あれ、これ、こう」 と。絶対、わからん。外人夫婦、苦笑しつつ渋々と、さば器へ米を入れてました。
「庭を育てた鳥へのチップ」 とでも言えばいいのかな。初日15日には、散飯式が行われるとか。


で、食います。当然ながら全ての食い物が、正真正銘の薄味です。
小豆粥に至っては、完全に無味。あまりの無味さゆえ、アップ写真を撮り忘れたくらいに、無味。
平椀である、丸大根と揚豆腐の炊いたんに粉山椒かけたんも、無味ではないものの、かなりな薄味。
粥は米と小豆の、平椀は大根の味が、クリアに感知できます。というか、感知せざるを得ません。


膳の中で最もインパクトのあるルックスを誇ってるのが、この蛇腹昆布でしょう。
昆布を不思議な形に細工して、揚げたもの。法事 or めでたい席などに、食べるものなんだとか。
食感は、昆布風味の残る野菜スナックという感じ。粥に入れてもいいそうなので、私は割って全入れ。
小皿のひじきしぐれもほぼ全入れにして、もはや何粥かわからなくなった粥を、精進、精進。


で、完食。あ、食事五観文、読むの忘れてた。食後ですが、読んどきましょう。
一には、功の多少を計り彼の来処を量る。二には、己が徳行の全欠を忖って供に応ず。
三には、瞋を防ぎ過貧等を離るるを宗とす。四には、正に良薬を事とするは形枯を療ぜんが為なり。
五には、道業を成ぜんが為に将にこの食をうくべし。先に読んだら、もっと味したんでしょうか。


ああ、精進の味に触れたことで、何かすっかり身体が清められた気がします。
が、何となく3700円の元を取れてない気もするので、回収気分で庭を拝観。まずは、蓬莱の庭。


水琴窟。


千両・万両の庭。


千両の庭へ入り込み、実をバクバク食ってた鳩。


改めて見たら、しっかり生飯が置いてあった、沙羅双樹の庭。


と、ダラダラ庭を見てるうちにクローズの15時になったので、帰ります。
来た時は気づきませんでしたが、玄関には宿坊ゆえの札類がいっぱい。宿坊って、民宿なのか。
玄関を出ると、奉仕で動員されてた学生さんなのか何なのか、若い兄ちゃん数人とすれ違いました。
兄ちゃん達、でっかいビッグスクーターや大型バイクで、禅が全開な石畳を走って行きました。


で、南門を出て、御用達ゆえそのすぐ傍にある阿じろを眺めるの図。
左奥の建物は、妙心寺の宿泊施設である、花園会館。近代化された宿坊という感じでしょうか。
一般者の宿泊も全然可能で、大衆演劇公演などもあり。レストランでは、精進料理も食べられます。
阿じろでも当然食べられるので、小豆粥からハシゴで精進を極めるのもいいんじゃないでしょうか。


でも私はもう、充分です。充分、精進しました。今からは、精進落としだ!!!
というわけで、阿じろの数軒隣のラーメン親爺へ。場所も食い物も、実に精進落としにふさわしい。
「己が徳行の全欠を忖って供に応ず」 ですよ。 「道業を成ぜんが為に将にこの食をうくべし」 ですよ。
系統で言えば、新福系、いやもっと古い原・醤油ラーメン系というか、とにかくクラシック系の店。


オーダーしたのは、真っ黒なスープに大量の肉が蠢く、チャーシュー麺850円です。
味は、肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉、葱葱葱葱葱葱葱葱葱葱葱葱葱葱葱葱葱、
そして脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂脂。
舌や胃袋のみならず、全身が鉢へ吸い込まれるのを感じます。生きてる。今、私、生きてる。


でもまだまだ体内の精進値は、高し。なのでもう一発、精進落としだ!!!
というわけで、親爺から徒歩数分のみつくらラーメンへ行ったら、閉まって跡地になってたの図。
あのチャーシューが、もう食えないなんて。いやそれよりも、みつくらが親爺より先に閉店するなんて。
祇園精舎の鐘の音、沙羅双樹の花の色。実に諸行無常です。移転でないなら、ただただ合掌。

小豆粥で初春を祝う会の客は、
単独のおばさん、先述のおばさん軍団と外人夫婦、「意識が高い」 感じの学生、そして私。
着物おばさん軍団に囲まれたりすると、かなりアウェーな状況にはなるでしょうが、
値段が値段なので、阿呆な連中や阿呆な混雑にまみれる可能性は、薄いんじゃないでしょうか。
特に厳格なマナーが必要な感じでもなく、色気&宗教的プレッシャーも限りなく希薄かと。
CPについては、何とも言えません。私ははっきり高価いと思いますが。
しかし、精進料理は食自体が修行なので、食の対価を払うこともまた修行なんでしょう。

そんな妙心寺塔頭・東林院の 「小豆粥で初春を祝う会」 。
好きな人と食べたら、より精進なんでしょう。
でも、ひとりで食べても、精進です。


妙心寺塔頭 東林院
京都市右京区花園妙心寺町59
通常非公開 特別拝観時のみ公開

小豆粥で初春を祝う会
毎年1月中旬~月末 開催

JR嵯峨野線 花園駅下車 徒歩約10分
嵐電 妙心寺駅 or 龍安寺駅下車 徒歩約10分
京都バス or 市バス 妙心寺前下車 徒歩約7分
JRバス or 市バス 妙心寺北門前下車
徒歩約7分

東林院 – Wikipedia

東林院 〔妙心寺〕 – 京都風光

京都花園 臨済宗大本山 妙心寺 – 公式