松尾大社の八朔祭へ嵯峨野六斎念仏を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

2014年9月7日(日)


松尾大社の八朔祭へ嵯峨野六斎念仏を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

踊り念仏の始祖とされる空也上人は、松尾神と浅からぬ縁を持つそうです。
疫病が蔓延して、死体が転がりまくってたという、末法テイスト爆裂な平安中期の京都。
そんな都で手製の台車を引き、疫病対策レクチャーと共に仏の教えを説いて回った、空也上人。
その市中説法の途中、大宮通の傍らにて上人は、爺さんの姿をした松尾明神に出会ったとか。
上人を空也と見抜いた松尾神は、震えながら懇願します。自分は、法華経の衣は持ってない、と。
ゆえに、妄想と煩悩で苦しんでる、と。どうか、法華の衣の法施を自分に与えてくれないか、と。
気の毒に思った上人は法華の衣を松尾明神へ差し出し、松尾明神は上人の守護を誓ったのでした。
書き起こすと、どうにもこうにも伝説 or 説話としか言いようのないテイストのエピソードですが、
しかしこのエピソードに基づく両者の縁は今なお続き、その証はしっかりと現実界にも残ってます。
空也建立の六波羅蜜寺を守る松尾社や、松尾祭・衣手社神輿の上人レリーフは、その良い例。
そして、松尾大社八朔祭嵯峨野六斎念仏奉納もまた、この縁の証たる行事ではないでしょうか。
「祇園で芸舞妓が挨拶回り+それをつけ回す報道とカメ」 が定番イメージな京都の八朔ですが、
言うまでもなくそもそもは、稲の穂入りを目前に控える八月朔日すなわち8月1日という意味であり、
「田の実」 たる五穀が豊穣に実るよう風雨無難を神 「頼み」 する、 「たのみの節」 であります。
農村信仰テイスト寄りなこの本来意義に基づく行事もまた、京都の幾つかの寺社では行われていて、
松尾大社が旧暦8月1日の時期に行う八朔祭も、そんな農村テイスト寄りな 「八朔」 のひとつ。
相撲や子供神輿、女神輿に盆踊りと、アーシーなテイスト溢れるコンテンツが目白押しな祭ですが、
中でも当サイト的に見逃せないのが、嵯峨野六斎念仏保存会による六斎念仏奉納公演です。
踊り念仏をルーツとして、京都では郊外農村地域にて都の芸能の影響を強く受け発達した、六斎
その六斎の、空也と縁深く、また初めて踊り念仏を行ったともいう松尾神前での、奉納。
観ないわけには、行きません。というわけで、深き縁の念仏、観てきました。


八朔祭当日の14時前、阪急・松尾大社駅で下車し、松尾大社の鳥居前に立つの図。
電車の中に、祭客っぽい客はさほどおらず。多くは、上桂で降りる地元客か、嵐山まで行く観光客。
松尾大社駅でも、地元客が数人降りたのみ。駅前も御覧のように、祭客っぽい人の姿は、さほどなし。
「八朔祭、こんなもんかな」 とか思ったら、鳥居横のとりよねは流しそうめんなどの屋台を営業中。


で、鳥居をくぐると一気に、祭。参道に奉納提灯が大量に並び、屋台も大量に並びまくり。
六斎は、16時開始。まだ時間があるので、小さい子供がそこら中で走りまくる境内をうろつきます。
春の松尾祭の時と同様に、ローカルな祭テイストが漂う、実に和やかかつ穏やかな良い雰囲気です。
いや、人が若干少なめ+神輿絡みでテンパったり殺気立ってない分、和やかさはこちらが上かも。


参道同様に祭感溢れる本殿前へ行くと、14時過ぎ、子供神輿の巡幸が始まりました。
「飛び込み歓迎、寄って、寄って」 と、アナウンスが子供の飛び入り参加を呼びかけること、しきり。
酒樽に稲穂を付けたミニ神輿は、群がるカメ爺に 「退いて、出られへん」 とか言いながら、巡幸開始。
本ちゃんの松尾祭の神輿の人らしき人が、 「ほいっと、ほいっと」 と掛け声をかけ、拝殿を回ります。


拝殿を回った子供神輿は、楼門をくぐって石段を降り、人間が密集する参道を巡幸。
参加してる子供の保護者らしき人たちや、 「イタリアンスパボー」 などの屋台に群がる子供たち、
そして楼門をくぐる様を正面から撮ろうとして 「退いて」 と言われてるカメを退け、参道を直進します。
酒樽だけでなく、普通の神輿っぽいものなどを含めた全3基が、賑やかに巡幸を行ってました。


子供神輿が出てもまだ時間があるので、境内の 「樽占い」 をやってみましたよ。
社務所でお金を渡し、先端が肩叩きみたいな矢を2本取って射る、というシステム。一回、300円。
樽に入ると、入賞。さらにその中の的に入ると、大当たり。それ以外は、外れ。で、私は2回共、外れ。
「外れです」 と社務所へ言いに行き、残念賞・亀の小物 「福亀」 の金の方を選び、もらいましたよ。


それでもまだまだ時間があるので、とりよねの流しそうめんもやってみましたよ。
焼鳥屋台で料金を払い、竹に配置された兄ちゃんに出汁をもらう、というシステム。一回、500円。
味は、麺・出汁共に普通。いや、出汁は少し美味かったかも。途中、ミニトマト放流のサービスもあり。
気前がいいのか、延々と麺を流してくれるので腹一杯となり、 「もうよろしわ」 と中座しましたよ。


腹が膨れても、時間はまだ15時過ぎ。六斎までには、まだまだ時間があります。
日陰を求めてうろつき、そこにカメ爺がいるのに舌打ちしたりしてると、女神輿が帰って来ました。
10分ほど休憩して気合いを入れてから、またしても群がるカメを石段から駆逐したのち、宮入り開始。
女神輿、メインの舁き手は20代~40代っぽいため、子供神輿と違い、ノリは完全に松尾祭のそれ。


楼門を通った神輿は、盆踊りが雨天順延されたため櫓が残る境内へ突入し、拝殿周り。
鳴鐶がシャカシャカと鳴りまくりますが、神輿が若干小振りなのか、より高速で鳴ってる気がします。
拝殿を回った神輿は、拝殿前で差上げ。さらに拝殿を回って、差上げ。それが終わると、遷霊で終了。
本殿前でバラされた神輿は、酒樽が前面に並ぶ神輿庫でなく駐車場の方へ運ばれていきました。


で、16時、六斎仕様の浴衣着姿の人や、願人坊の格好した人がうろつく中、
触れ太鼓が 「ド━━━━━━━ン」 と鳴らされ、いよいよ嵯峨野六斎念仏の奉納が開始されます。
3年前に阿弥陀寺で観た、寺全体をビート音で振動させる驚異の爺さんは、引退されたんでしょうか。
とはいえ今日の触れ太鼓も、腹に響く良い音色。で、進行役の女性の曲紹介に続き、本編開始。


演舞の1曲目は無論、六斎念仏を念仏たらしめている 『発願』 。
石段がカメたちで埋め尽くされているとはいえ、神前にて朗々と響き渡る 「南無阿弥陀仏」 。


続いて、タイトルは猿入りだけどオーソドックスな太鼓曲の、 『猿回し』 。
『四段』 と続けての演奏らしいですが、区別はつかず。大太鼓を小太鼓が囲み、打ち回ります。


ストイックな太鼓曲に続いては、コミカルな演目の 『願人坊』 。
着物・黒帯・前垂れ・鉢巻・襷姿の生臭坊主4人が、豆太鼓 aka マメダを踊り打つ芸物です。


全体にユーモラスな 『願人坊』 では、太鼓を置いての手踊りも入ります。
さらには、御覧のように鳥の物真似も入ったり。さらには、飛び跳ねる芸も入ったり。


次は一転して、 『四季』 『せり上げ』 『娘道明寺』 と、太鼓曲を連発。
マメダの掛け合いをじっくり魅せてくれますが、御覧の 『娘道明寺』 では振りも結構多め。


太鼓曲の連打の後は、仮装した子供4人がコミカルに踊る芸物、 『時雨』 。
女装の子×2とちょんまげの子×2が、マメダを叩きながら軽妙なフットワークを魅せてくれます。


太鼓曲 『八嶋』 に続いては、出ました。六斎太鼓の基本中の基本、 『四つ太鼓』 。
基本中の基本ながら、嵯峨野六斎では御覧のように、ひょっとこが乱入し、バカテク&芸まで披露。


大人→乱入してきたひょっとこ→子供→大人のバカテクと回していく、『四つ太鼓』 。
ソロ演奏がメインですが、相打ちもあり。打ち方は無論、1本打ちを基本とする六斎独特のもの。


乱入 = 入れ事の勢いは止まりません。次の 『祇園囃子』 では、棒振りが乱入。
1対1の太鼓バトルへ飛び込んだ棒振りは、鉦が乱打される中を走り回り、軽業を連発します。


棒振りのみならず、 『祇園囃子』 ではひょっとこ坊主&おかめ妊婦もまた、乱入。
対決感を若干出しながらも、後半は和やかに太鼓を打ち、最後はまた太鼓2人に戻って、〆。


続いては、太鼓曲の 『鉄輪』 。カンカン (長太鼓) が軽快に打ち鳴らされる曲です。
で、 『鉄輪』 の後は獅子の準備があるため、お姉さんが嵯峨野六斎の由来などのつなぎ話。


で、いよいよ獅子のイントロ組曲へ突入です。まずは、嵯峨野六斎の名物 『越後獅子』 。
赤獅子2人&青獅子2人が、手前の四つ太鼓&手に持つ豆太鼓を、踊りながら連打します。


獅子のプレリュードたる組曲、続いては太鼓曲の 『越後さらし』 と 『四枚獅子』 。
次々に位置を変えながら、激しい打ち合いまくり。特に 『四枚獅子』 は、最も激しい難曲だとか。


で、そのまま 『神楽獅子』 に入り、獅子が登場。


拝殿の中を、我がもの顔で悠々と暴れ回る、獅子。


逆立ち&碁盤乗りも難無く決め、喝采を浴びる、獅子。


そんな獅子の跋扈にキレ、土蜘蛛がダークなビジュアルで登場。


ひとしきり獅子と睨み合った後、土蜘蛛は糸を放出。


糸を食らった獅子は負けじと倒立を決め、その獅子に負けじと土蜘蛛はまた糸を放出。
その糸も食らった獅子は、またも負けじと倒立を決め、土蜘蛛が去って両者の立ち回りはお終い。
ラスト 『結願』 でまた念仏を唱え、奉納も終了。1時間40分に渡る、堂々たる一山打ちでありました。
松尾神の妄想と煩悩を吹き飛ばした仏力は、私の妄想と煩悩もまた吹き飛ばしてくれたはずです。

客層は、地元の家族連れと子供をメインとした、烏合の衆。
ベタな観光客は、少ないです。外人が妙に多いですが、観光系か移住系かは不明な感じ。
カップルは、少なめ。いても地元系が多いため、恋愛ハイや観光ハイな輩は少なめ。
そもそも色気づいた若者が、少なし。それ以前の小さい子供が、主に走り回っている感じ。
家族連れ&中高年は、よりどっぷりと地元系。家族連れは、小さい子供連れがメイン。
完全にネイティブ主体の層だが、キャパがそれなりにデカい分、さほどアウェー感はありません。
単独は、男はカメ爺と変な若いカメ。女は、カメ婆と地元系変人がちょっとだけでした。
祭の他のシーンおよび六斎奉納の周辺で、客層が大きく変化するようなことは、特になし。
拝殿の近くは混みますが、それ以外なら特に人圧的な問題もないでしょう。

そんな松尾大社・八朔祭の、嵯峨野六斎念仏。
好きな人と観たら、より六斎なんでしょう。
でも、ひとりで観ても、六斎です。

阿弥陀寺での嵯峨野六斎念仏奉納を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。 (2011)

【客層】 (客層表記について)
カップル:若干
女性グループ:若干
男性グループ:微
混成グループ:若干(外人)
子供:2
中高年夫婦:若干
中高年女性グループ:若干
中高年団体 or グループ:6
単身女性:微
単身男性:1

【ひとりに向いてる度】
★★★★
のんびりとした秋祭りの風情が漂う、いい祭。
春の松尾祭に近い空気だが、こちらの方がより和める。
ただその分地元感が濃いので、人によっては浮くかも知れない。
あと、カメが若干多いため、同族嫌悪の気が強い人は注意。

【条件】
日曜 13:45~17:45


八朔祭
毎年9月第1日曜 開催

松尾大社
京都市西京区嵐山宮町3
通常拝観 5:00~18:00

阪急嵐山線 松尾大社駅下車 徒歩約1分
京都市バス or 京都バス
松尾大社前下車 徒歩約1分
 

松尾大社 – 公式

八朔祭 – 松尾大社

嵯峨野六斎念仏保存会 – 公式