細見美術館の琳派展へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

2016年9月27日(火)


細見美術館の琳派展へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

琳派。 『琳として派閥』 という名前のバンドの略称です。というのは、もちろん、嘘です。
琳派。近世京都の町衆文化を象徴する様に誕生した、装飾性豊かなアートの流派であります。
光悦村を作った本阿弥光悦を創始者&ディレクターとし、 『風神雷神図』俵屋宗達を経て、
呉服屋の放蕩息子にしてデザイン性が高い図案を量産した尾形光琳で、琳として爆発した、琳派。
その強い魅力は、時空を超えて私淑のフォロワーを生み続け、近世後期には江戸でも隆盛化。
更に近代では海外で大きな評価も集め、評価が逆輸入された国内では 「琳派」 の呼称が定着化。
そして現代に入ると、 「かわいいは正義」 という狂った世風と過剰なまでの親和性&共鳴力を発揮し、
ヘッドロックを決める犬口半開きの鹿などが女子供の人気を集めてるのは、御存知の通りです。
で、そんな琳派の作品を集中的にコレクションしてるのが、今回訪れた細見美術館であります。
昭和初期の大阪・泉大津にて毛織物で財を成した初代・細見古香庵が、その成功後に収集を始め、
二代・古香庵が、琳派を始めとする江戸期の作品を大幅に加える形で拡大させた、細見コレクション。
そのコレクションを公開する場として、1998年に岡崎の地にて開館したのがこの美術館であり、
「琳派美術館」 という別名に相応しく、様々な観点から作品を紹介する 「琳派展」 も、定期的に開催。
京都発祥ながら、近世後期からの経済没落の為か何なのか、あちこち散逸している琳派の作品に、
京都の人間も気軽に、かつ集約された形で、接することが出来るようになった、というわけです。
そんな細見美術館、私、館前こそしょっちゅう通ってるんですが、そもそも芸術にあまり縁がない為、
若冲展や春画展で行列が出来てる際も、 「混んどるなあ」 とか思いながら、通り過ぎてばかりでした。
が、京都の 「ベタ」 を追い求めるのが、このサイトの趣旨。琳派もまた、看過は許されないでしょう。
というわけで、琳派をより琳として探求すべく、琳派誕生401年という記念すべき年を敢えて選び、
「琳派展」 の第18弾、その名もずばり 「京の琳派」 と銘打たれた展覧会へ、出かけたのであります。
そう、これはあくまでも、新たな挑戦なのです。当サイトが当サイトである為の、挑戦なのです。
断じて、9月のネタ採集が全く出来てないのを月末になって思い出し、でも床特攻も飽きたので、
何か目新しいことをしようと思い、冷やかし半分でフラフラ出かけたのでは、ありません。


細見美術館がある岡崎は、もちろん、平安神宮がある岡崎。近辺を少し歩いて行きましょうか。
明治期のイベント用ハリボテとして生まれた平安神宮、巨大ゆえ洛中に場所はなく、この地に鎮座。
以降、近代風味の効いた大バコ級美術館などが次々と集まり、岡崎は一大文教ゾーンとなりました。
現代も美術館は集まり続けており、昭和製の国立近代美術館では、何かのハリボテが客引き中。


国の美術館があれば、無論、市の美術館もあり。名標の一部が欠けてる、京都市美術館です。
欠けてる字は、 「大礼記念」 。明治感溢れる岡崎、昭和の大礼の残り香も、案外濃かったりします。
が、向かいに建つ京都府立図書館は実に、明治丸出し。以前は内部まで明治丸出しで、恐怖でした。
地下は、改修で出来たもの。というか、この壁以外は全て改修済。でも空調は、今もレトロに暑め。


中の本殿が改修どころか再建されてる平安神宮も、元ハリボテゆえ、岡崎の大事なアート。
「実躰を Building に籍り形式を線條躰裁に訴へて眞美を發揮」 せんとした、伊東忠太の初作です。
忠太好みのアートな幻獣が見当たらないのは、放火事件で全部燃えたからかな、と妄想してみたり。
その代わりなのか何なのか、京都市勧業館 aka みやこめっせの門前では、謎の怪人が見張り中。


そして、みやこめっせ向かいの京都会館では、謎の鳩おっぱいさんが、謎に鳩おっぱい中。
こんな風に、妙な感じで洋邦が入り交じり、そして今も入り交じり続けている、岡崎なのであります。
アール・ヌーヴォーにも影響を与えた琳派の美術館が建つには、相応しい場所なのかも知れません。
などと適当なことを思いながら、そんな岡崎の根源たる artificial な川 = 疏水も、アートとして拝見。


で、その疏水に架かる二条橋を渡った先、交差点の角に建つのが、御覧の細見美術館です。
誰ですか、 「包み紙が剥がれて浮いたキャラメルみたい」 と、アートの欠片もない暴言を吐く人は。
「一昔前の調子に乗ったマンションとかで、よく見た感じ」 なんて舐めくさった戯言も、言わせません。
展覧会の看板、ちゃんと出てるでしょ。いや、エントランスとかにではなく、非常階段みたいな所に。


ベランダに干された布団の如く掲示されている、美しき書体の 「京の琳派」 看板。これですよ。
このゴシック体なんですよ。 「眞美」 の追求が最後に行き着く所は結局、このゴシック体なんですよ。
「MSゴシックはダサい」 などとほざき、フォントいじりで己れの駄文のルック改善を試み続ける阿呆は、
このゴシック体の前で深々と頭を垂れ、根本的な作文能力の欠如こそを猛省するべきなんですよ。


と、狂った感慨を抱きながら、一昔前のマンションが荒れたような草溢れる館外を、少し拝見。
細見美術館、開館は先述の通り、1998年。設計は、ファーストキャビン創業でも知られる、大江匡
外観こそキャラメル全開ですが、壁は櫛目引き仕上げがフィーチャアされ、和の精神を尊重してます。
壁の色も多分、和の精神を尊重したものです。キャラメルの精神を尊重したものでは、ない筈です。


一昔前のマンションのガレージ入口 or 通用口の如きエントランスには、ランチの案内あり。
細見美術館、こちらのランチの主であるカフェ 『CAFE CUBE』 、ミュージアムショップ 『ARTCUBE』
美術蒐集と共に 『現代の茶席道具』 なる書まで著した初代・古香庵に因む茶室 『古香庵』 を、併設。
茶はどうでもいいけど、飯、気になるな。美術館に来たなら先に絵を観るべきだけど、腹、減ったな。


時間は現在、14時だしな。先刻の案内によると、ランチタイムは14時半で終わりらしいしな。
と、美術館に相応しい芸術的かつ哲学的な思考を巡らせた末、先にカフェへ行こうと決め、地下へ。
カフェとショップがあるのは、地下。というか、館のスペースの大半が地下で、中庭が光を通してます。
で、その中庭の底へ向かって非常階段みたいな階段を降りたら、アートなカフェ、現われましたよ。


絶対開きそうにない壁みたいな自動ドアを通り、 『CAFE CUBE』 に入ると、空いてたので、着席。
赤と木のアートな色使いの店内、先客は、おばさんグループ1組と50代に見える男女くらいでしょうか。
注文したのは、1500円のパスタコース。選んだパスタに、前菜&パン&コーヒーが付くというものです。
で、サーブされた前菜は、何らかと何とか、何かしらと何か。フォーク一本で、男らしく丸食いします。


暖められたパンを手掴みでワッシワッシと食い散らかし終わった後、運ばれてきた、パスタ。
選んだのは、ベーコン&野菜&パスタがガーリックオイルでまとめられた、アーリオ・オーリオです。
数量限定だそうですが、味の方は割と、普通。パスタが結構なアルデンテだった以外は、割と、普通。
あと、私の舌には味が少し濃いかなと。あっという間に水を飲み干すと、瓶で持ってきてくれました。


で、コーヒー。これが意外に、美味い。いや、カフェなので、美味くて当然かも知れませんが。
デザートとコーヒー類のセットが評判良かったり、展示会に因んだスイーツも出たりするそうなので、
あんまり腹が減っていなければ、カフェらしくカフェメニューを楽しんだ方がいい店かも知れませんね。
ランチタイムを過ぎ、メルヘン風な単独カフェおばさんが後客で入ってきた頃、退店。さて、帰るか。


じゃなくて、絵を観に来たんですよ、絵を。絵を観る為に、わざわざ来てるんですよ、美術館に。
と、満腹で忘れかけてた本来の用事を思い出し、1階へ戻って、藤袴が前で咲いてる美術館受付へ。
入館料を支払うと、細見美術館の 「ホ」 マークが入ったシールが渡されます。このシールが、入館証。
これを、服や鞄に貼るわけです。で、絶対開きそうにない鉄板みたいな自動ドアをまた通り、入館。


「京の琳派」 展、入ってすぐの第一展示室では、琳派創生期を 「琳派の誕生」 として特集。
伊年のデカい 『四季草花図屏風』 が1スペースを占め、その向かいに光悦や宗達の絵が並びます。
江戸初期に於ける犬のヘッドロックの実態を描いた為に、プロレス史的にも貴重な 『双犬図』 も登場。
ただ実物、小さくて薄いんですよね。スコープを持ってない私には、かなり、いや全然、見えません。


琳派などの展覧会で、客引きによく使われる動物の小物系は、やはり概ね、実際は小さめ。
本阿弥光甫 『梅に鶯図』 の鶯とか私は好きなんですが、やはり小さめ。頑張って、目を凝らします。
見づらい為か、背後ではおばさん連中が騒ぎ出しました。それを、単独のおじさんが注意してました。
騒ぎの中で目を凝らしてると、別のおばさん連中が騒ぎ出し、今度は学芸員さんが注意してました。


で、第一展示室が終わり、また絶対開きそうにないドアを通ると、その先は、先刻の非常階段。
階段を降りて地下1階へ行き、またまた絶対開きそうにないドアを通ったら、そこが第二展示室です。
第二展示室は 「花ひらく琳派」 などと題し、光琳・乾山から神坂雪佳まで琳派のメイン作品を展示中。
ここは目視でもよく見えるので、光琳の渦巻き宇治橋や乾山の金太郎筒などを、愛でること、しばし。


深江芦舟 『立葵図』 『簾に月図』 に何故か、インパクトを感じ、見入ったりもすること、しばし。
図版では何も感じないし、 『白象図屏風』 の方は実物を観てもなお何も感じないのに、不思議です。
そして出ました、中村芳中。近年人気で私も好きな芳中、 ここでも 「光琳を慕う」 としてしっかり特集。
『朝顔図』 での朝顔の丸っこさ加減、 『扇面貼交屏風』 での大根のもさっと加減などを、愛でまくり。


『月に萩鹿図』 の口半開き鹿も愛でますが、同時に、足のシャープな筆致にも目が行きました。
他の作品で描かれた花の花心とかも、妙に細かい。実物を実寸で観る醍醐味という感じでしょうか。
そして出ました、 『光琳画譜』 。かの 「芳中犬」 が出て来る版本です。が、この日の展示は別ページ。
残念。でも、シルエット風の鹿が一匹だけ口が芳中開きになってる気がして、しばし観入ってみたり。


で、雪佳の金魚を少し愛でた後、絶対開きそうにない鋼鉄のドアを、今度を自力で開け、外へ。
再び非常階段で地下2階へ降り、硯箱など小物を集めた第三展示室の 「美を愉しむ」 へ入ります。
ここでも、雪佳&祐吉 『帰農蒔絵螺細煙草箱』 の、帰農した奴の描かれてない顔を想像してみたり。
で、 「再入場できません」 と書かれた手動の退出ドアを開けて、退出すると、ショップへ出ました。 


「買い物せえ買い物せえ買い物せえ」 とばかりに、出口へ直結されたショップ 『ARTCUBE』 。
当然、琳派グッズを取り扱ってるわけですが、良さげなブツは概ね、高価し。ちょっと手が出ません。
貧民向けには、代表的な琳派作品の100円ポストカードや、マグネット、またシールなんてのが、あり。
あと、本もありました。無論、殆どが美術関係ですが、入江敦彦 『イケズの構造』 が混じってたり。


土産にポストカードでも買うかと思ったら、芳中犬が刷られた手拭と目が合ってしまいました。
今日は会えなかった、芳中犬。その手拭、千円也。いい加減散財してましたが、買ってしまいました。
愛嬌が良い顔をし、足元へ寄って来てはじゃれつき、そのじゃれつきが凄くくすぐったそうな、手拭犬。
ひとりリンパプレイの際に活用すると、バター風味が足せて、乙です。というのは、もちろん、嘘です。

この日の細見美術館、客層は、ほぼ全員が60代以上に見えました。
ショップなどには30前後の女性も若干いましたが、館内は全員中高年、というか高年齢。
特に、おばさんが多し。そして、和装率が高し。絵の習い事+茶室絡みで来てる感じでしょうか。
混雑は、全然なし。タイミングによっては、貸切り状態。第三展示室は、特に空いてました。
単独も、好き者系の中高年が主体。観光ついでに来たような奴は、ひとりもいません。

そんな、細見美術館。
好きな人と行けば、より琳派なんでしょう。
でも、ひとりで行っても、琳派です。

【客層】 (客層表記について)
カップル:0
女性グループ:0
男性グループ:0
混成グループ:0
子供:0
中高年夫婦:1
中高年女性グループ:7
中高年団体 or グループ:0
単身女性:1
単身男性:1

【ひとりに向いてる度】
★★★
展示にも依るとは思うが、
定例の琳派展なら、激的に混むことは多分、ない。
独男だからといって特にアウェーさを感じることも、ない。
茶室は知らないが、敷居の高さもさほどないと思う。

【条件】
平日火曜 13:30~15:30


 
 
 
 
 
細見美術館
京都市左京区岡崎最勝寺町6−3
10:00~18:00 月曜定休

市営地下鉄 東山駅下車 徒歩約10分
京都市バス 東山二条・岡崎公園口下車 徒歩約3分
 

京都 細見美術館 – 公式

細見美術館 – Wikipedia