アサヒビール大山崎山荘美術館へ睡蓮を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

2019年5月30日(木)


大山崎山荘美術館へ睡蓮を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

『蘆刈』谷崎は、新京阪で大山崎まで来て、巨椋池の話をする男に出会います。
いや、厳密に言えば男は巨椋池の話でなく、池の畔に住む 「お遊さん」 の話をするんですが。
モダニズム華やかなりし頃の阪神間に住み、 「山城と摂津のくにざかい」 へお出かけした谷崎に、
池畔の別荘で夢のように暮らす女の話を語り、男は夢のように淀川の中州から消えたわけです。
巨椋池は、大山崎・天王山八幡・男山の間をボトルネックにして出来たような、淀川水系の遊水池。
谷崎の友人である和辻哲郎書いてる通り、蓮見物で有名であり、多くの遊覧客も呼んでました。
が、戦時の食糧増産+湿地ゆえの超激烈な蚊害対策として、昭和8年からの干拓で姿を消してます。
『蘆刈』 が発表されたのは、昭和7年。谷崎が池の干拓を知ってた可能性は、充分あるでしょう。
開通直後の電車で楽に行ける場所にて、恐慌軍靴に蹴散らされる吞気な時代の残り香と、出会う。
当時生じてたかも知れない、そんな時代の 「くにざかい」 も、 『蘆刈』 は描いてるのかも知れません。
吞気な時代の残り香、実は現代の 「くにざかい」 にはまだ、残ってます。大山崎山荘です。
大山崎山荘。今の正式名称は、大山崎山荘美術館。もとい、アサヒビール大山崎山荘美術館。長い。
元は、大阪・船場のぼんである加賀正太郎が約30年かけて昭和初期に完成させた別荘であります。
正太郎は、渡欧経験を活かして自ら設計を行い、広大な庭園付き英国風山荘を作り上げました。
が、正太郎の死後は人手に渡りまくり、新たな時代の境界であるバブル時には解体の危機にも直面。
その危機を、うんこビルを建ててた頃のアサヒビールと行政に救われ、現在は美術館なわけです。
美術館としては、正太郎と交流があったアサヒビール創業者・山本為三郎のコレクションが軸であり、
バブルの残り香で仕込んだらしきモネ 『睡蓮』 も売りですが、建物自体や庭園もしっかりと見所。
巨椋池跡&その周辺は今でも蓮&睡蓮の咲き加減が良いんですが、此処もまた睡蓮が良く咲き、
夏前の睡蓮シーズンには、モネ 『睡蓮』 と庭園の生睡蓮との競演も大きな目玉となってます。
で、巨椋池の名残にも見えなくもないその睡蓮を、大量の蚊と共に拝んだのでした。


サントリー蒸留所が有名な山崎、アサヒビールの工場もしっかりあります。というのは、嘘です。
もっとも、山崎蒸留所にいたマッサンに出資してニッカを立ち上げさせたのは、加賀正太郎ですけど。
大山崎山荘、JRも便利ですが、今日は谷崎と巨椋池を偲んで、新京阪 = 阪急大山崎駅から訪荘。
天気が良いので、バスもパス。側溝を流れる水にさえ水の良さを感じながら、のんびりと歩きます。


『蘆刈』 の谷崎は、水無瀬神宮を目当てに大山崎駅から西へ歩きました。が、山荘は逆の東側。
なので東進し、かつて此辺で新京阪の超特急に抜かれてた省線 = JRを渡って、天王山に入ります。
山麓の宝寺傍に建つ山荘へ向かうべく、死にかけの漱石駕籠に揺られて登ったという坂道を登坂。
そう、セレブ好きの正太郎に呼ばれ、山荘の建設初期には漱石も来たとか。磯田多佳女も連れて。


漱石は山荘の命名も依頼され、 「大山崎山荘」 の名を正太郎に贈りました。というのは、嘘です。
正太郎は漱石案を没にして、自ら決めた 「大山崎山荘」 を門額に揮毫しました。というのも、嘘です。
いや、命名依頼も没も正太郎が決めたのも本当ですが、純粋トンネルの額を揮毫したのは荒巻禎一
それ誰やねんって言われても、本当に誰なんでしょうね。不思議の国の門を潜る気持ちで、荘内へ。


で、門を潜るとそこにあるのは、濃過ぎるくらいの緑加減を誇る、庭園の緑。


緑が溢れる庭園の中で、補色の鮮やかさを放つツツジ。


その庭園の広場的な所から望む、頭だけチラ見させてる山荘。


その奥で拝む、天王山から溢れ出た豊かな水が流れる、庭園のミニ滝。


豊かな水、そしてこちらも豊かになって来た蚊と共に、モネっぽい庭園池を拝む。


昼過ぎのためか、早くも店じまい気味の睡蓮を、蚊と共に拝む。


モネというよりは、ジブリっぽい感じが感じられる通路も通る。


で、現場に来てみると写真がやたら撮り難い大山崎山荘を、正面から拝む。


で、山荘の建物近くにある庭園の池でも咲いてる睡蓮を、拝見。


モネ感より、和辻哲郎が書いてた巨椋池の蓮を連想させる睡蓮を、拝見。


蚊もやはりそれなりに大量にいる中で、巨椋池感のある睡蓮を拝む。


そんな睡蓮が咲く池を、緑に埋もれた栖霞楼などを借景として拝む。


で、かなり狭い上にやたらとギシギシ音が鳴る入り口のドアを開け、入館。


入館料を払って中に入り、入ってすぐの売店を抜けると、その先が展示コーナーです。
あくまで別荘で展示をやってるという感じの作りのレイアウトであり、正直、建物だけで見たい。


でも、地下にも部屋がある別館は完全に美術館で、モネ 『睡蓮』 もそこにありました。
真近でじっくり拝みます。とか言いながら、実はその向かいの風景画の方が好きなんですが。


本館に戻って、バーナード・リーチの美術品なども拝見。でも、何かよくわかりません。
やはり同じ金払って建物だけで観たいと思ったり。特に、巨大な暖炉のある部屋は、圧巻です。


そんな建物には、山城エリアを見渡せるバルコニー&カフェもあり。私も、ケーキなど食らいます。
アサヒビールの運営ゆえ、酒もあり。なので、ウイスキー山崎、でなくてアサヒクラフトビールを飲酒。
いくら何でも美術館でガチビールは出さないだろうと思って飲んだら、思いっきり本物のビールでした。
ケーキは、山本為三郎が創建したリーガから、展示テーマに合わせて取り寄せてるんだそうですよ。


食後は、改めてバルコニーから山城を拝見。巨椋池は、向かって左側に広がってたわけです。
あ、正面の山は、私のホーム・八幡の男山。こっちの天王山とあの山が、ボトルネックなわけですね。
正太郎も此処から、山以外の一面が水浸しになる洪水の光景を、何度か目にしたに違いありません。
それにしても、こうして男山を見るとパワスポ感が半端ないと思うのは、地元民の贔屓目でしょうか。


で、食うだけ食って観るだけ観たら、そろそろおさらばの時間です。土産でも買って帰ります。
入り口近くの売店で何か良い物を探し、でも結局は金が惜しくて絵はがき数枚だけを買い、退館。


で、改めて見ると確かに美術館より邸宅な感じの玄関を、再見。


で、帰り際には、また山荘の近くにある庭園の池にて、蚊と共に睡蓮を拝む。


モネというよりは、巨椋池の蓮の酒を想起させる睡蓮を拝む。


早く店じまいしたいかのように花を閉じる睡蓮を、蚊と共に拝む。


そして、かつてはすぐ前を水が流れてたから 「流水門」 だという流水門を抜ける。


抜けた先の広場で拝む、ウサギ人間的な存在感を放つ謎の動物アート。


その先で拝む、すっかり店じまいな感じで閉じてしまった睡蓮。


先程の滝とは違って、創建時っぽい雰囲気で流れる水。


という感じで、水と睡蓮と蚊をたっぷり堪能した後、帰り際に再見したツツジ。


で、山荘を退荘。純粋トンネルの裏側に掲げられた 「天王山悠道」 の額が、見送ってくれました。
こっちこそ、正太郎の揮毫です。というのは、嘘です。本当は、漱石の揮毫です。というのも、嘘です。
こっちを本当に揮毫したのは、樋口廣太郎。それ誰やねんって言われても、本当に誰なんでしょうね。
道草のハルジオンなら、何か知ってるかも知れませんよ。この山荘が完成した頃に渡来した花だし。


うんこビルさえ解体の噂が立つ現在も、吞気な時代の香りを残す、大山崎山荘。割と、タフです。
ハルジオン並み、などと言うと、本当は洋蘭ヲタながら睡蓮推しを黙ってる正太郎も、怒るでしょうか。
まるで元気な幻影を見たような不思議な気分になりながら、水の音があちこちから響く天王山を下山。
陰翳の欠片もない青空の下を、モダンな阪急で駆け抜けるように駆けて、大山崎を後にしましたとさ。

この日の大山崎山荘、客層はおばさんグループが大半。
次に多いのが中年夫婦ですが、おばさんグループとの数の差は圧倒的です。
その他は、おおむね中年各種。若者の姿は、あらゆる属性においてあまり見かけません。
単独は、大抵が物好き系というか、所謂ちゃんとした美術館の客。
楽に行ける場所でもないためか、冷やかしや観光系の輩は見かけませんでした。

そんなアサヒビール大山崎山荘美術館の、睡蓮。
好きな人と観たら、より 「くにざかい」 なんでしょう。
でも、ひとりで観ても、 「くにざかい」 です。

【客層】 (客層表記について)
カップル:0
女性グループ:0
男性グループ:0
混成グループ:0
子供:0
中高年夫婦:2
中高年女性グループ:7
中高年団体 or グループ:微
単身女性:微
単身男性:微

【ひとりに向いてる度】
★★★
ひとりでいることのアウェー感は、ほとんどない。
喫茶室ではかなり浮くかも知れないが、レベルは知れてる。
ただ、よほどのモネ好きか洋館好きでもない限り、
交通費や手間を含むトータルコストの元は取れないと思う。
あと、行くなら蚊対策は必須。

【条件】
平日木曜 14:00~15:30


 
 
 
 
 
アサヒビール大山崎山荘美術館
京都府乙訓郡大山崎町銭原5-3
10:00~17:00 月曜定休

阪急京都線 大山崎駅下車 徒歩約10分
JR京都線 山崎駅下車 徒歩約10分
両駅より無料送迎バスあり
 
 
アサヒビール大山崎山荘美術館 – 公式

アサヒビール大山崎山荘美術館 – Wikipedia