知恩院のミッドナイト念仏へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

2012年4月18日(水)


知恩院のミッドナイト念仏へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

「今夜はオールで、念仏三昧」 。
末法テイスト溢れるそんなセリフを、現実に実行する催しが、春の京都にはあります。
といっても、妖しきクラブへ妖しき者たちが集い、妖しき飛び薬を吸ったり打ったりしながら、
「ブッダ・トランス」 とかわけのわからぬ音源を聴いて不穏な法悦に浸る類のものでは、ありません。
また、さらに妖しき者たちが、人もまばらな山中をパワースポットなどと称して参集し、
アセンションだの次元アゲアゲだの言いつつ、念仏と共に朝日を迎える類のものでも、ありません。
催しの名は、ミッドナイト念仏。行われる場所は、かの浄土宗総本山・知恩院
そう、マジなのです。メジャー中のメジャーである寺にて、オールナイトで念仏が行われるのです。
真に末法の時代であった平安末期、旧来の仏教教団からの弾圧にも屈することなく、
南無阿弥陀仏を唱えるだけで救済される専修念仏を民衆に広く説いた、浄土宗開祖・法然上人
上人が没した地・知恩院ではその遺徳を偲ぶべく、忌日に合わせ御忌大会を大々的に開催。
法要に加え様々な行事も行われ、ミッドナイト念仏もその一環というわけであります。
真面目な催しなのです。名前はほとんど面白半分な感じですが、真面目な催しなのです。
真剣に念仏を唱える人々と共に、興味本位&冷かし丸出しの若者や、酔っ払いなどが入り混じり、
全員でポクポクと木魚叩いて念仏トランスを目指す様は、奇観といえば、確かに奇観。
しかしその混沌こそ、無差別の救済を目指した上人の御心に沿うものとも言えるのでしょう。
そんな懐の大きいミッドナイト念仏、今回私はフルで参加してみることにしました。
20時のスタートから翌朝の終了まで、途中日和ってますが、ぶっ通しでポクポクしてきました。
闇の中の念仏で、何を見たのか。その果ての光の中で、何を見たのか。
真面目に、かつ興味本位&冷かし丸出しで、御覧下さい。


知恩院へ行く前、少し北にある食堂はやしへ寄り、腹ごしらえをしました。
ミッドナイト念仏は、出入り自由。腹が減れば外へ出たらいいわけですが、まあ、気持ち。
向かいのミッドナイト中華・マルシン飯店と迷いましたが、消化の良さを考え、和食系の食堂へ。
でも頼んだのは、とんかつ定食720円。体育会の連中で、店は異常に繁盛してました。


食うもの食って、19:30、特にライトアップされてない真っ暗な三門へ。
いつ見ても巨大過ぎる門の前には、やはり巨大な 「ミッドナイト念仏 IN 御忌」 の文字幕。
何かもう、やってる方も、面白がってないか。何ならもう、やってる方の方が、面白がってないか。
とか思いながら、門左側の拝観入口ゲートへ。あ、ミッドナイト念仏、参加は無料です。


開門前のゲートには、既に人が30人くらい並んでます。やはり、人気。
そばにあった注意書き看板には、ミッドナイト念仏公式 (?) マスコット・ポックマの姿、あり。
球形を組み合わせたような奇怪なボディに、完全に逝ってる目つき。実に、トランシーな熊です。
「僕、ポックマ!君も一緒にポクポクして、ポックリ逝っちゃいなYO!!」 みたいな。


で、19:50頃に開門。ミッドナイト念仏の会場は、この国宝・三門そのものです。
脚部の中の受付では、氏名年齢に加え、緊急時連絡用の電話番号記入を求められます。
ということは、「緊急」 な状態になる人がいるんでしょうか。飛んじゃったとか、あるいはポックリとか。
ちなみに、境内のうち開放されるのは、三門のみ。奥のトイレなどは、使えません。


凄まじくピッチが急で巨大な階段を登り、普段は非公開の楼内へ、タダで進入。
中はもちろん、撮影禁止です。なのでしばらくの間、漆黒の闇と字のみでお楽しみ下さい。
仏殿前面には、宝冠釈迦如来坐像や十六羅漢像が鎮座、興味本位の衆生を睨みつけてます。
床に並ぶ座布団と木魚は、既に満席状態。やはり、人気。楼内の隅で、しばし空き待ち。


20時となり、いよいよミッドナイト念仏、スタートです。
まず楼内中央でお坊さん達が何らかの儀式を行い、声明らしきことを30分ほど続けます。
で、お坊さん達が退場して、念仏開始。儀式スペースが空いたので、私も木魚にありつけました。
さあ、これから明日の朝まで、ポクポクです。夜通し、オールで、ポクポクです。


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ポックポックポックポックポックポックポックポック、何かペース、速いなあ。


木魚のポクポク、かなりのハイペースです。
BPMで200以上あったんじゃないでしょうか。平均年齢が若いせいか、とにかく走り気味。
一応、お坊さんが大太鼓でリズムのリードらしきことをしてくれますが、これがそもそも狂いがち。
木魚を叩くのに忙しくて、 「南無阿弥陀仏」 と唱える暇、なし。手、凄く疲れます。


ポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポック、
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ポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポック、
ポックポックポックポックポックポックポック、何か変な音鳴ってるぞ。それに酒臭っ。


22時を過ぎたあたりから、酩酊状態の方々が増えました。
知恩院といえば、祇園東が近所。夜が深まれば、それなりな方々も参拝されたりします。
周りのリズムを完全に無視して己のビートを刻む酒臭き者、好き勝手に歌を歌いだす酒臭き者、
裏拍を打つ酒臭き者、バチをひっくり返して鋭いオブリガードを叩く酒臭き者などなど。


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ポックポックポックポックポックポックポックポックポック、あ~しんどっ。もうあかんっ。


25時前、疲労と空腹が我慢できなくなり、外へ出ました。
足が完全に痺れてるので、しばし延ばした格好で休んでから、這うようにして出口へ。
遊び帰りなのか何なのか、三門の受付周辺には、学生らしき連中が大量になだれ込んでます。
ライトアップされた門前には、やはりしょうもない若者たちが大量にうろつきまくり。


知恩院といえば、円山公園の隣。しだれ桜も、拝んでおきましょう。
大分葉が出てはいますが、2012年は開花が遅かったため、まだ何とか花はもってます。
見物人はほとんどおらず、ライトアップされたしだれ桜を独り占めするようにしばし眺めるの図。
と思ってたら、25時でライトは消灯。目の前で真っ暗になりました。


で、メシですよ、メシ。天下一品の、その名も知恩院前店へ。
精進落としどころか、精進の真っ最中でありながら、こってり730円なりをガッツリ食す。
セントラルキッチン制といえど、店ごとにスープの濃さが異なる天一。ここは、まあまあでしょうか。
腹がふくれた後は、腹ごなし。しばしフラフラと、夜の街を意味もなく歩き回ります。


と言いながら、いきなりネカフェで1時間ほど休み、外へ出ると、午前3時。
さっさとミッドナイト念仏へ戻るべきです。でもなあ、ちょっともうなあ、しんどいなあ。
足が全然知恩院へ向かないまま、海鮮居酒屋を見ながら幕末の志士に想いを馳せてみたり、
三条大橋の桜と銅像を見ながら、近くの珉珉の餃子定食に想いを馳せてみたり。


さらには、夜の白川周辺をうろついてしまってる、午前3時半。
さっさとミッドナイト念仏へ戻るべきです。でもなあ、ちょっともうなあ、しんどいなあ。
とか思いながら、痛ましい事故が起こった現場に手向けられた花を、つくづくと眺めてみたり。
その真横をバンバカ爆走しまくる夜の車のスピードに、いろんなことを考えてみたり。


結局、朝の4時頃になってから、知恩院へ再入場。
この時間でも、学生風の若者、どんどん入りまくり。アンケートでは20代が一番多いとか。
木魚のポクポク音、この辺にいても聞こえます。円山公園でも、聞こえました。正直、不気味。
ポクポクというよりは、ドンドンという地鳴り系の音に化けてるので、よけいに不気味。


残りは3時間ちょっと。ラストスパートのように、ひたすらポクポクします。
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ポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポック。


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ポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポック、
ポックポックポックポックポック、あ、宝冠釈迦如来坐像の後から、後光が差してる。


宝冠釈迦如来坐像の背後の壁には、ほんの少し隙間があるようです。
夜が明けるにつれ、そこから覗く色が変化し始めました。闇から、青へ。そして青から、光へ。
全員が半醒半睡のトランス状態に入ったのか、ポクポクのリズムが乱れることは、もうありません。
私も、自分の意思と関係なく手が勝手にポクポクしてる状態に。ラスト、一時間。


ポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポック、
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ポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポックポック、
ポックポックポック、ピシャ───────────────────────────ン。


完全に明るくなった午前6時半、拍子木が鳴らされ、ポクポク終了。
偉いさんらしきお坊さんが 「ミ~ッドナ~イト~念仏~」 とか言いながら経を読み、締め。
木魚を回収すると共に、戸がオープン。外へ出て、快晴の京都市街を西の彼方まで見通します。
有難い。ただ、有難い。「華頂山」 の扁額、間近で見ると小さくて、でも大きいものでした。


骨がケラケラと笑ってるような足で、恐怖の階段を下り、出口へ。
受付では、余ったらしき知恩院カレンダーを配布中。もちろん、私ももらいましたよ。
朝日を背負う三門を、改めて見上げます。しんどかった。かなり、サボった。でも、解脱した (嘘) 。
学生風の連中は、みんな門前に止めた自転車で帰っていきました。

客層ですが、楼内は暗いので、細かいことは正直よくわかりません。
少なくともスタート20時に入った時点では、若老比は6:4、男女比半々くらい。
観光テイストは希薄で、地元 or 近隣の学生系&物好き系の若者と、中高年の信者系が多い感じ。
信者系は、地元ではなく外来系な感じで、コアなテイストの方もちょくちょくいたりします。
25時以降は学生系が多くなり、終了の翌7時前には8割ほどにまでなってました。
カップルはいなくもないですが、そもそも暗いわポクポク音が凄まじいわで、プレッシャーは特になし。
単独も、男女ともそれなりにいます。いずれも、近場の物好き or ディープ系という感じ。
興味があれば、気楽に覗いてみるのも、いいんじゃないでしょうか。

そんな、知恩院のミッドナイト念仏。
好きな人と行ったら、より南無阿弥陀仏なんでしょう。
でも、ひとりで行っても、南無阿弥陀仏です。

【客層】 (客層表記について)
カップル:1.5
女性グループ:1
男性グループ:1.5
混成グループ:1
子供:0
中高年夫婦:1
中高年女性グループ:1
中高年団体 or グループ:1
単身女性:1
単身男性:1

【ひとりに向いてる度】
★★★
プレッシャーは特になし。
そもそも、周りが気になるほどの視界がない。
ぶっ通しで参加するのは単純にしんどいが、
終わったのは晴れ晴れしさは、たぶん、癖になる。
特に、早朝の三門上からの眺望は、素晴らしい。

【条件】
平日水曜 19:30~翌7:15


知恩院
京都市東山区林下町400
通常拝観 9:00~16:30

京阪電車 祇園四条駅下車 徒歩約10分
阪急電車 河原町駅下車 徒歩約20分
地下鉄東西線 東山駅下車 徒歩約8分
京都市バス 知恩院前下車 徒歩約5分

ミッドナイト念仏
毎年4月18日に開催

総本山知恩院 – 公式

知恩院 – Wikipedia