今宮神社のやすらい祭へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

2012年4月8日(日)


今宮神社のやすらい祭へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

やすらい祭。漢字にすると、夜須礼祭。
広隆寺の牛祭、鞍馬の火祭と共に、京の三奇祭に数えられる今宮神社の祭りです。
遷都以前から紫野の地にあり、既に疫神が祀られていたとも言われる今宮神社ですが、
本格的に疫病退散を祈願されまくるようになったのは、人間密集都市・平安京が成立して以降。
遷都の頃はまだ水が残ってたという元・湖の盆地なんかへ、大量の人間が密集して住んだため、
暑気+洪水+死体腐敗などの合わせ技が発生、この街には伝染病が流行りまくります。
特に春から夏かけては人がバッタバッタと死にまくりますが、当時の人々には何ら打つ手はなし。
しょうがないので、この災厄を疫神の仕業と断定。そして、この疫神の慰撫を企画。
風流や歌舞音曲で疫病を鎮めようと、あちこちの神社でお祭り騒ぎを開くようになりました。
それが、御霊会。平仮名だと、ごりょうえ。祇園祭のルーツと言われる、あれです。
祇園祭は山鉾などが過激に発展し、街が一ヶ月丸ごと祝祭空間化する現代の形になりましたが、
やすらい祭は、もう少しクラシックな御霊会の形を現代に継承してると言われてます。
桜や椿を挿した、山鉾のアーキタイプたる花傘。赤毛や黒毛を振り乱して路上で乱舞する、大鬼。
そして、ブルージーなメロディで 「や~す~ら~い~は~な~や」 と歌われる、やすらい歌。
やすらい祭の名物とも言えるそれらが放つ、実にストレンジで 「奇祭」 な雰囲気は、
一条天皇の時代に船岡山で開かれて以来、ずっとこの地に残ってる御霊会本来の息吹を、
ある意味、形式以上のリアルさをもって伝えているのかも知れません。
そんな 「奇祭」 の空気、たっぷりと堪能してきました。


今宮神社の近くに着いたのは、昼の13時頃。
堀川今宮付近で独特のメロディが聞こえ、巡幸中のやすらい行列と遭遇しました。
奥に映る花傘を筆頭に、大鬼や羯鼓、囃子方などなど。これがやすらい祭の行列 = 練り衆です。
練り衆は、近所の光念寺を正午に出発、歌い踊りながら氏子区域を門付けして回ります。


やすらいの花形ともいえる、大鬼。
赤熊&黒熊に、赤地の打掛、白袴という異貌で、太鼓や鉦を打ち鳴らし踊りまくります。
面白い。強烈に、面白い。凄く追いかけたくなりますが、演じているのは地元の小中高生とか。
変な奴に写真撮られたら、さぞ気持ち悪いでしょう。そう思いながら、でも撮るの図。


練り衆は訪問先リストに従って、どんどん門付けをこなします。
挨拶が何ちゃらとあって、羯鼓 = 小鬼が小太鼓を叩き、大鬼が踊って、1セット完了。
練り衆に寄ってもらいたい家は、事前に御神酒を収め、戸口にお札を張るシステムのようですが、
当日その場で祝い金を収めて、踊ってもらってるところも見かけました。


やがて練り衆は大徳寺へ進入、広い境内に並ぶ塔頭を挨拶して回ります。
さっきから行列の周囲には既に沢山の見物人がついて来てるように見えますが、
実際は大した数ではなく、後の今宮神社境内に比べたら、カメラマンもまだまだ少なめです。
このあたりの客も、やすらい目当てというより大徳寺の客が行列を見て寄ってくる感じ。


塔頭で行われる門付は、基本的に一般の見物人には見えません。
器用に畳んで山門を通るか、外で待機してる花傘の傍で、響いてくる音を聞くのみ。
しかし場所によっては外で踊ることもあり、禅寺風味溢れる石畳の上で大鬼が乱舞することも。
実に神仏習合、というか最早何が習合してるのかもよくわからんビジュアルではあります。


門付の所要時間は、1セット数10秒という感じでしょうか。
「始まった」 と思ってカメラを起動すると、写せるようになったところで終わってる、みたいな。
最初は太鼓や鉦を叩くだけなのが、音頭取りのキューで徐々に決めのポーズを激しくし、
やがて跳ねが入り、髪振り乱すという流れ。音楽は、完全にノンストップです。


大徳寺を出た練り衆は、氏子区域の巡幸を再開。
門前に並ぶ老舗は、概ねどこも店員が総出で店の前へ立ち、練り衆を待ち伏せ状態。
門付をしてもらうのとともに、入ると無病息災を得られるという花傘の中へ潜る人も、多数。
のどかといえばのどか、平和といえば平和、奇祭といえば奇祭であります。


やすらいには、いくつか種類があります。今まで見てたのは、上野やすらい。
他にも、近所の玄武神社や川上大神宮、そして上賀茂で、やすらい踊保存会は活動中です。
玄武と川上のやすらいは、この日の開催。でも、写真の玄武神社とこのんは、既に終了。
近所らしき人が 「入っとこ。頭、良うなるで」 と、境内に置かれた花傘に入ってました。


川上のやすらいは、上野に近いタイムテーブルで行われます。
14時頃、上野の練り衆が参上するのに先駆け、川上の鬼たちが今宮神社に現れました。
上野の鬼よりちょっとモコっとした感じのルックスが、ユーモラスかつ不気味で、より奇祭的です。
ルックスのみならず、歌のメロディも異なり、こっちの方がより歌っぽいというか。


とんでもない混雑でごった返す境内を進む、川上の大鬼たち。奇祭であります。
左側に写る拝殿では、人形流しの花傘を設置中。傘の下を回って、厄を人形に移すという。
蘇民将来之子孫也の札がもらえます。16時頃には営業終了するので、用向きの方はお早めに。
どうでもいいですが、毎年拝殿にある不気味な幼女マネキン、あれは一体何なんでしょう。


本殿の前に並んだ、川上の大鬼たち。完全に、奇祭であります。
周囲は 「前はこんなに混んでなかった」 という声を毎年必ず耳にする、大盛況状態。
特に露店が並ぶわけでもなく、この大鬼たちを見るためだけに、観客は集まってるわけです。
大鬼たちは、上野に比べるとかなり大人しめの舞を披露。続いて、摂社を回ります。


疫神社の前で太鼓をかかげて踊る、川上の大鬼たち。
やすらいの本来の目的 = 疫病の退散を考えると、本殿以上に重要な奉納と言えるでしょう。
鬼が神の前で踊るというのも妙な気もしますが、そのあたりもまた実に、奇祭であります。
写真で見ると、ワイルドに踊ってるようにも見えますが、実際はやはり大人しめ。


川上の大鬼たちが、疫神社に続いて日吉社でも踊ってる頃、
上野の練り衆たちが大挙してあぶり餅の門をくぐり、今宮神社境内へ入ってきました。
川上の後で改めて見ると、圧倒的に人数が多いというか。鬼たちも多いし、囃子方なども凄く多い。
花傘まで多くないかと思ったら、上野は赤組と青組の二班体制なんだそうです。


練り衆は拝殿をぐるっとまわり、俄カメラマンで埋まる本殿前へ集結。
やすらいの由来が説明され、祝詞奏上するのを聞き届けてから、踊りを奉納します。
「調子をそろえて踊れ、いさぎよく踊れ」 という音頭取りの声で、太鼓を叩き、宙を舞う大鬼たち。
それにしてもこのやすらい歌、実にラインがペンタトニックというか、ブルース的です。


音階のミッシングリンクを妄想したくなる、 「やすらいはなや」 のペンタの響き。
しかしこの歌、自然発生的に生まれたものではなく、出元は宮中の楽人という話もあります。
大嘗祭のため、当時としては異常な音階で作られたの歌を、祭りに転用したとか。う~む、深い。
大鬼たちは疫神社&日吉社でも、乱舞。もちろん、見物人はその度に民族大移動です。


上野の練り衆は、再びあぶり餅の門をくぐって退出します。
祭りでなくても休日はいつも人だらけの、向かい合う二軒のあぶり餅屋 『かざりや』 と 『一和』 。
普段は客の引き合いで忙しい両者ですが、ここまで混むと引っぱりようもありません。
もちろん二軒とも門付を頼んでるらしく、ここでも大鬼たちが激しく踊ります。


今宮神社を出ても、やすらいは終わりません。
各行列は、氏子区域の門付を再開。住民たちが外に出て、練り衆を出迎えます。
そういえば大鬼たち、随分前から延々と踊り続けていますが、人員交替をした様子はありません。
その割に疲れてないように見えますが、若さでしょうか。それともこれが、奇祭の力でしょうか。


無病息災を願って花傘の下へもぐる人も、あとを断ちません。
ちゃんと理由と目的があって行われてることではありますが、どう見ても、奇祭であります。
今宮神社を出て以降は、ネイティブ色が前面化。やる方も見る方も、地元の人間ばっかりです。
境内で小暴れしてた俄カメラマンたちは、あぶり餅でも食ってるんでしょうか。


などとカメラマンを悪く言ってますが、私なんか、それ以下ですわな。
大鬼をしつこく追っかけ過ぎ。撮られる方は、本当に気持ち悪かったでしょう。ごめん。
でも、撮る。面白いから。特に街中は、面白いから。写真はヘロヘロでも現場では抜群に面白い。
特にこの頃の、街全体が奇観化していく感じが、写真では全然伝わらないけど、面白い。


練り衆は、花傘が通るのも難しいような狭い路地の家々から、
車がバンバカ走る大通りに面した大銀行まで、あちこちを見境なく門付していきます。
写真は、上野湯の前を通る、上野の練り衆。「上」 の紋は、もちろん上野の「上」です。多分。
牛若丸生誕の地なども通ってから、陽が傾き始めた頃、巡幸の終点である光念寺へ。


で、17時半頃に光念寺へ到着して、終了。
別々に巡幸してた二組が、上手い具合に同時に到着し順番に入っていきました。
神社の祭りなのに寺へ帰るのも妙ですが、元々ここにはやすらい会の惣堂があったんだとか。
中では、数珠を頭上に当てる儀式が行われるそうです。神仏習合。奇祭であります。

客層は、地元がメイン。地元かつ近所らしき中高年が、メイン。
近所なので、皆さん特に徒党を組むこともなく、三々五々やってきます。
他所者は、普通の観光客というより、一目でディープだとわかる感じの人、多し。
若者は、少ないです。カップルも、全然いません。物好き系がウジャウジャいるということも、なし。
境内での奉納は極めて混雑しますが、若い馬鹿や観光丸出しな人はほとんどいないため、
俄カメラマンたちの横暴を除けば、さほど荒れることもないでしょう。
単独は、男はカメラマンばっかり。女はディープなおひとりさまか、カメラ女。
ネイティブな香りを、のんびりと楽しめる祭りではないでしょうか。

そんな今宮神社のやすらい祭。
好きな人と行けば、よりやすらいなんでしょう。
でも、ひとりで行っても、やすらいです。

【客層】 (客層表記について)
カップル:若干 (観光 or 学生)
女性グループ:若干 (地元風)
男性グループ:若干 (地元風)
混成グループ:0
子供:1
中高年夫婦:1
中高年女性グループ:1
中高年団体 or グループ:7
単身女性:若干
単身男性:1 (おっさんカメラマン)

【ひとりに向いてる度】
★★★★
プレッシャーなどは、特にない。
まるで田舎まつりのようなのどかさが漂う。
ただ、どことなく不気味でひんやりした雰囲気もあって、
奇祭のイメージも味わえるのではないかと。

【条件】
日曜 13:00~17:30


今宮神社
京都市北区紫野今宮町21
拝観時間自由 社務所9:00~17:00

京都市バス 今宮神社前下車すぐ
or 船岡山下車 徒歩7分
市営地下鉄 北大路駅下車 徒歩約25分

やすらい祭
毎年4月第2日曜開催

今宮神社 – 公式

今宮神社 (京都市) – Wikipedia