千本六斎会の千本ゑんま堂奉納を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

2012年8月14日(火)


千本六斎会の千本ゑんま堂奉納へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

京都の夏は、六斎念仏です。
大文字でもなく、千日参りでもなく、いわんや京の七夕でもなく、六斎念仏です。
私の中では、そう決まってます。初めてまともに奉納を見てハマって以来、そう決まってます。
なので皆さんも、送り火コンプなどといった下らないことは止め、六斎念仏を見ましょう。
自転車やバイクで北山通や北大路を爆走し、死にかけたり殺しかけたりして、一体何が楽しい。
あの世へ行くより、あの世から帰ってきた死者の霊と共に、夏の夜を踊り明かそうではないですか。
というわけで、六斎念仏です。それも、死霊がより沢山溢れてそうな場所で、六斎念仏です。
本来は 「六斎日に斎戒謹慎して念仏を唱える」 という宗教戒律だったものが、
都ゆえに溢れる多種多彩な芸能と結びつき、極度にエンターテイメント化した、京都の六斎念仏。
とはいえ、念仏のエッセンスは現行の六斎にも残存し、念仏狂言との関連性も、深し。
壬生寺、そしてこちらの千本ゑんま堂でも、狂言と六斎の保存会は密接な関係にあるとか。
京都の三昧地のひとつであった蓮台野 = 紫野の入口に位置し、冥界の王・閻魔法王を本尊とし、
あの世とこの世で働きまくったダブルワーカー・小野篁の伝説も持つ、千本ゑんま堂。
衆生からは、鳥辺野・六原などと同じく 「あの世へ続く場所」 として今も昔も認識され続け、
お盆となれば、西陣近辺に於ける 「精霊迎え」 スポットとして、多くの善男善女で溢れかえります。
千本六斎の一山打ち、いわばホームでのフル公演が行われるのは、その精霊迎えの頃。
お盆期間の8月11日から15日にかけて、地域の個人宅を回る勧善廻りを行い、
そのクライマックスとして、ゑんま堂狂言も行われる特設舞台にて奉納が斎行されるのです。
迎え鐘の真横での、念仏踊り。それは、死霊との盆踊りみたいなもんかも知れません。
そんな宴の様、こっそり潜り込んで見つめてきました。


18時40分に到着した、千本ゑんま堂。門前には、精霊迎えの看板あり。
バス停からここまでの短い間にも、店先で供養用の花を並べるのをよく見かけました。
「自動車の駐車はできません」 の文字。でも、いつもながら自転車で来る人は、いっぱいです。
特設舞台は、この時点では半分くらいの入り。浴衣姿の講中の人も、まだうろうろしてます。


私は精霊迎えはしないので、閻魔大王へ念入りに、お参り。
冥界の王・閻魔大王が、年に一度だけ死者をこの世へ帰るのを許可してくれる、精霊迎え。
いつもは怖過ぎる閻魔像ですが、今日はちょっと優しく見えます。お供え物が可愛いからでしょうか。
境内、六原のように人で溢れ返ってるかと思ってたら、案外そうでもないようです。


本堂裏、水塔婆を流す地蔵供養池にも、人はちらほらといる程度。
もう14日なので、ほとんどの人は 「おしょらいさん」 を迎え終わったというところでしょうか。
あるいは、六斎の後でするのかな。とにかく客の大半は、六斎が始まるのをひたすら待ってます。
十重塔の前の紫式部像や、その足元のちっこい七福神たちも、心なしか、暇そうです。


18時55分、奉納に先立って、千本六斎会の代表らしき人が挨拶。
特設舞台の椅子席は、ほぼ満員。ゆっくり来た人たちで、ゆっくりと埋まりました。
「子供は多いが中堅どころが少ない」 「役を兼任するため、衣装替えで演目ごとに若干時間があく」
みたいなことが話されたのち、ジャスト19時、もちろん 『発願』 から奉納、スタート。


声明のような合唱&シンプルな太鼓が打たれる 『発願』 に続き、
笛が加わり 「浪速」 「道成寺」 「素雅楽」 など数曲をメドレーで演奏するという、 『豆太鼓』 へ。
メドレーといっても、曲の違いはほとんどわかりませんが。太鼓を振り回したりと、アクションは多彩。
口唱歌から節を取るそうで、リズムより言語性を重視する六斎のドラミングが、早くも全開です。


出ました、 『四つ太鼓』 。子供たちが、相打や曲打まで披露してくれます。
猿回し的におどけたりと見所満載ではありますが、やはり目は徹底した片手打ちに釘付けです。
写真では両手で交互に叩いてるように見えますが、ここでも六斎ならではの一本ブチこそが、基本。
片手を後頭部に拘束する演奏も、当然あり。この面白さ、実際に見ないと、わかりません。


10年ほど前、ASA-CHANG&巡礼というユニットが 「花」 という 曲を出しました。
パーカッションの言語性と言語の音楽性を極限まで混乱させ生まれた、奇跡的な名曲です。
六斎の四つ太鼓、それも一本ブチで歌をなぞる太鼓を見るたびに、私はあの曲を思い出します。
リズムから開放されたところで太鼓が放つ、何か。この辺も、実際に見ないと、わかりません。


四つ太鼓で大盛り上がりの後は、また 『豆太鼓』 。曲は、「山姥」 。
笛から始まる、いわば、バラード。確か三連系のリズムで、しんみりと聞かせます。
いわば、太鼓が物語を 「歌う」 わけです。 「語る」 の方が、正確でしょうか。あるいは、その両方か。
「山姥」 というタイトル、何かエグい世界を想像させますが、めでたい意味もあるんだとか。


続いては、エンタメ路線大爆発の、 『祇園囃子』 。
曲の途中に入る余興 「入れ事」 の衣装準備のため、冒頭の空き時間、いろいろ話が出ます。
祇園囃子を太鼓曲化した演目だが、壬生六斎は綾傘鉾の実際の囃子と棒振りを担ってる、など。
で、派手なアクションを交えた 「地打ち出し」 が始まり、やがての 「雀踊り」 の雀、登場。


「雀踊り」 は、古くは江戸時代の流った風流踊り。歌舞伎でも踊られたとか。
雀に似せたという編み傘をかぶった男四人が、雀的なる動きで手踊り&太鼓を曲打ち。
他の六斎ならワイルドな棒振りが決められるところですが、ここではコミカルに盛り上げてます。
「雀」 が引っ込んだあとは、おっちゃん二人が 『祇園囃子』 ならではの太鼓バトルを展開。


続いては、更におちゃらけモードが炸裂する、『願人坊』 。
エロき願人坊主二人が、面白おかしく踊りまくり。去年、久しぶりに演じて評判がよかったとか。
他の六斎でも行う演目ですが、ここのはコミカルなアクションに終始する、圧倒的なお笑い路線。
狂言の 『寺ゆずり』 もそうでしたが、生臭坊主ネタになるとゑんま堂、やたら冴えを見せます。


「おばさんをちょぼくり、色のイの字でホイ、あ~字をおぼえ」
「裏のかみさん、向こうのおばさん、お松さんに、お竹さん、椎茸さんに、干瓢さん」
「お触り次第に、おててん枕に、やった挙句は、女郎買と出かけ」 「うちにゃ片時、おいどが座らん」
などなど、無茶苦茶言いながら 「おいど」 を振ってます。ツツツツテンテレ、ツテレツテンテン。


『願人坊』 の次は、一転して健康優良企画な、太鼓おどり。
子供たちが輪になって曲打ちしたり、猿回しっぽいことをしたり、いわゆる 「さらし」 が出たり。
女の子の講員が増加したため、あちこちの六斎で取り入れられるようになったという、 「さらし」 。
千本六斎は、早くから女性を入れてたので、 「さらし」 に結構年季があるんだそうです。


公演のクライマックスは言うまでもなく、『獅子舞』 。
プレリュードにあたる 『獅子太鼓』 に次いで、獅子、特に焦らすことなくあっさり、登場。
逆立ちを余裕で決め、御覧のように碁盤乗りも即座に成功。というか、何か異常に展開、早いな。
と思ってたら、蜘蛛の演者の方が夜勤前なのに出演してるんだとか。お疲れ様です・・・。


で、西陣織金襴の衣装をまとった出勤前の土蜘蛛、登場。
恒例のマントショーでもさほど焦らさず、というかあっけなく顔を見せ、糸を吐きまくり。
千本六斎の獅子は、現在は芸能六斎が途絶してる鳥羽から伝わったんだとか。興味深い話です。
が、そんなん知らんとばかり、土蜘蛛は客席にも糸を吐き、即、退場。仕事、頑張って下さい。


で、『攻め太鼓』 で獅子が踊りまくり、『結願』 で奉納は終了。
最初の挨拶では、終演は21時を回るとか言ってましたが、終了は20:40。巻きまくり。
といっても、最後の獅子だけ巻いてたのではなく、全体的に、早い。待ち時間があってもなお、早い。
「西陣ゆえ、織機のチャカチャカいう音みたいにせっかちな展開になってる」 んだそうです。 


終了後の舞台と梵鐘。梵鐘、開始前とは違い、迎え鐘を打つ人、多し。
現世へ帰られたばかりの死霊の皆々様も、六斎を存分に堪能されたんじゃないでしょうか。
そういえば、公演中 「中堅が足りない」 という話がやたら出てました。とにかく手が足らん、と。
住所不問、60代でもOKとか。興味のある方は、是非。私?人前に立てる顔じゃないしな。

客層は、圧倒的に地元メイン。えんま堂狂言と大体同じテイストです。
観光客がいないどころか、物好き系の若者の姿さえ、あまり見かけません。
学生風と在住系外人 (異常に体臭の強い女二人組) を除けば、とことんネイティブ仕様。
出てる方の顔見知りは多いですが、特に排他的な空気はなし。色気のプレッシャーも、ほぼなし。
単独は、男のカメラマンがちょっとと、あとは地元風の普通の人という感じでしょうか。
京都の夏の夜独特の濃い空気が味わえる、良い催しだと思います。

そんな千本六斎会の、千本ゑんま堂奉納。
好きな人と見たら、より六斎なんでしょう。
でも、ひとりで見ても、六斎です。

【客層】 (客層表記について)
カップル:若干
女性グループ:1 (地元・外人・学生)
男性グループ:1 (地元・学生)
混成グループ:1 (外人・学生、カメラ回してる奴など)
子供:0 (親子連れでカウント)
中高年夫婦:1
中高年女性グループ:1
中高年団体 or グループ:4 (若い家族連れから高齢者)
単身女性:0
単身男性:1

【ひとりに向いてる度】
★★★★
プレッシャーもアウェー感も、特にない。

【条件】
平日火曜 18:40~20:50


千本ゑんま堂
京都市上京区千本鞍馬口下ル閻魔前町34
通常拝観 9:00~17:00
六斎奉納は毎年8月14日開催

京都市バス 千本鞍馬口 or 乾隆校前下車 すぐ
嵐電 北野白梅町駅下車 徒歩約20分
市営地下鉄 鞍馬口駅 or 今出川駅下車
徒歩約25分

重要無形民俗文化財「京都の六斎念仏」
千本六斎会のサイト
– 千本六斎公式

千本ゑんま堂 – ゑんま堂公式

引接寺 (京都市) – Wikipedia