京の民宿・大原の里にてぼたん鍋を食べて聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【後篇】

2015年12月24日(木)


京の民宿・大原の里でぼたん鍋を食べて過ごす聖夜、前篇の続きです。

ごく小さな子供の頃、野生の猪がウロウロしてるのを見かけた記憶があります。
両親の実家がある丹波のどっかの山奥にて、団体で野外すき焼きをやってた時のことでした。
子供の頃から団体行動が嫌いだった私は、すき焼きの場を逃げ出して周囲を徘徊してたんですが、
その際、歩いていこうとした道の先に、恐らくはまだ子供であろう猪がウロウロしてるのを見たのです。
こちらが一歩踏み出した瞬間に逃げてしまった為、本当に猪だったかは正直、よくわかりません。
が、そんな遭遇があっても不思議がない程、京都府域にも猪は多数生息してるという話であります。
御存知かどうか知りませんが、丹波というのは、京都市街から車だと1時間程度で行けるエリア。
そんなとこに野生動物がバンバカ生息するエリアがあるのも、京都の食文化を豊かにしてる一要素。
「京に田舎あり」 、なわけです。最近は、獣害の侵攻ラインもどんどん人界へ近付いてはいますが。
現代へ入ると、京都近郊に於けるそういった田舎の風情は、観光面でも大きな資産となり、
大原もまた、市街地に近い場所にありながら 「侘」 の風情が色濃いエリアとして、人気を獲得。
「京の奥座敷」 の呼称+ 「京都大原三千院」 のフレーズと共に、愛されるようになりました。
そんな大原、近年には観光資産の価値を更に高めるべく、先刻から私が入りまくってる温泉も掘削。
「侘」 の風情と天然温泉、現地で育まれた滋味溢れる野菜、そして体が芯から温まるぼたん鍋と、
これらをまとめて楽しめてしまう大原の里での冬の一夜は、正に至福の世界と言えるでしょう。
って、そんなグルメ&旅エッセイ気取りの戯言はいいんですよ。問題は、 「境界」 ですよ、 「境界」 。
「四堺」「艮」 、つまり鬼門に当たる最強 or 最凶の 「境界」 たる途中峠・和邇の攻略に際し、
猪肉の摂取により英気&霊気を養うべく臨んだ、今回の聖夜ひとりお泊まり@京の民宿・大原の里
後篇では、猪肉を煮込んだ鍋へ京地鶏も投入して食いまくり、食った後で温泉にもまた入りまくり、
更にはすぐ蒲団でダラダラしまくり、朝にはまたまた温泉に入りまくり、朝食もバカスカ食いまくります。
そう、今回のお泊まりはあくまでも、準備なのです。真なるミッションを達成する為の、準備なのです。
決して、心の底から猪肉と温泉を堪能し、全てがどうでもよくなり始めてるわけではありません。
断じて、峠を攻略する気なんか実は最初から更々なかったわけでもありません。


というわけで猪肉、ガンガン食っていきます。で、食う前に改めて肉を拝むこと、しばし。
改めて拝むと、赤身と白身の美しいコンビネーションが、こじつけではなくクリスマスにぴったりです。
七面鳥を焼き食いする鬼畜サンタの服の色のようにも見え、ある意味、聖夜に相応しい晩餐でしょう。
あ、猪肉は煮込んでも固くならないので、早めに全てを鍋にブチ込み煮込むのも、全然ありですよ。


で、猪肉を全てブチ込んで、更には野菜も全部投入して、味噌鍋でグツグツ煮ること、しばし。
私は煮潰れたような野菜が好きなので、肉は煮込まず即で食いまくり、野菜はグツグツ煮続けます。
前篇でも少し書きましたが、野菜、美味いんですよ。もやしを筆頭に、どこかコーン的な風味があって。
水気が飛び野菜の旨みが味噌出汁に溶け始めると、汁のピリ辛な旨みも引き立つようになりました。


生でも美味そうな白菜をほぼ液状化させ食い切ったところで、いよいよ、うどん投入タイム。
なんですが、うどんと共に鶏肉も入れたくなりました。この出汁に鶏は、猛烈に合うんじゃないかと。
席にはオプションメニューが置いてあり、ドリンク類やデザート類と並んで、追加用の肉の表記もあり。
ぼたん肉は流石に一名分が2000円ですが、鶏肉は京赤地鶏ながらも550円とリーズナブル。おお。


鶏肉、というか京都的には 「かしわ」 こそが、そもそもこちらの味噌鍋ではデフォの肉
これは、食っとくべきでしょう。猪とミックスで、食っとくべきでしょう。というわけで一名分、オーダー。
オーダーは、キッチンカウンターで宿の人に頼み、しばらくして席まで持ってきてくれるというシステム。
で、やって来た、京赤地鶏1人前。で、美しき肉肌にしばし見惚れた後、うどんと共にすぐ投入です。


で、猪の肉汁と野菜の旨味を吸いまくった味噌出汁で、鶏肉と共に煮たうどん、完成。
これがもう狂ったように、美味い。鶏、肉そのものの味も良いですが、味噌との相性がやはり、最高。
で、うどんを即座に食い切った後は、食い放題の白飯&汁で、鍋→椀→口の無限ループ運動を開始。
角味が良いんですよ、この出汁。なので、雑炊で味を丸める前に、セパレート食いで延々とループ。


という感じで汁+飯のループを続けてると、急に腹が膨れ上がり、何も食えなくなりました。
改めて鍋を見ると、残る汁はごく僅か。飲み干した大量の汁、胃の中の物を膨張させてるようです。
雑炊+茶漬の〆、もう絶対、無理。無念であります。皆さんも、出汁の美味さには充分御注意下さい。
あと、体を温める猪肉の効果が発現してるのか、というか発現し過ぎてるのか、浴衣一枚でも暑い。


そんな暑い時には、アイスクリームで決まり。というわけで、デザートの白味噌アイス、登場。
ぼたん鍋コース、アイスが付くんですよ。味噌鍋が名物であるこの宿特製という、白味噌アイスが。
普通なら、嬉しいところです。しかし今は、苦しい。獣肉と味噌出汁が胃袋に充満してる今は、苦しい。
が、食います。味噌風味が仄かながらも濃厚で、再び味噌鍋を食ってる気になりますが、食います。


で、食い終わったらリバース寸前状態で部屋へ戻り、倒れること、しばし。


1時間ほど倒れてリバース危機から脱した後、部屋から庭を見ること、しばし。


夕方以上に濃厚になった自然の空気の匂いを感じながら、庭を見ること、しばし。


犬だろうけど犬とは思えん何かの遠吠えなんかも聞きながら、庭を見ること、しばし。


という感じでひたすらダラダラとし続けてると、温泉クローズ時刻の23時が近付いてきました。
獣肉を煮込みまくった鍋の湯気でグチャグチャになった体を洗うべく、風呂にもう一度入っときます。
夜も遅い為か、浴場は人が少なめ。なので、さっと体を洗った後、露天の五右衛門風呂もさっと堪能。
見える空はもちろん、真っ暗。その分、夕方の時ほどの開放感はないですが、やはり清々しいです。


で、部屋に戻り、ここは蒲団敷きもセルフなので、こんな感じで自分で蒲団を敷いたの図。
TVを見て夜更かしをしたいのではありません。たまたま敷いた蒲団の前に、TVがあっただけです。
蒲団の押し入れが御覧の様にTVの傍なので、楽に敷こうとしたら、このレイアウトになっただけです。
あ、押し入れには蒲団が沢山入ってて、一人分だけシーツ付き。敷布団は、シーツもセルフでした。


で、再び魔除けの赤帽をしっかりと装着し、聖戦の戦士としての自覚と共に休息をとるの図。
TVを見て夜更かしをしてるのではありません。たまたま寝転んだ目の前に、TVがあっただけです。
「境界」 は真近ゆえ、画面を通して魔物が現れる可能性を考慮して、休みつつも監視してるだけです。
あ、水流音が聞こえたので、風呂の湯を抜いてるのかと思ったら、宿の前を流れる小川の音でした。


で、魔物パトロールを継続してると、 「クリぼっち」 増加を伝えるニュースが流れたの図。
思いっきりTVに見入ってしまってるのではありません。変化する聖戦の現状を偵察してるだけです。
同志増殖を喜びたいところですが、SNSに縋る輩は 「ぼっち」 に非ずと、内心で一蹴してるだけです。
あ、下に流れる偽ツイートを見て、今年はフォーク以前にケーキも買ってないことを思い出しました。


フロントで白味噌ケーキ売ってないかなとか思ってる内に、明石家サンタが始まったの図。
思いっきりTVに見入ってしまってるのではありません。カップル客がうるさくて、寝れないだけです。
小川の音が聞こえる宿ですから、離れた部屋のカップル客の笑い声もよく聞こえ、寝れないだけです。
あ、他の客の物音も丸聞こえということは、ありません。常識程度の物音なら、聞こえませんでした。


で、結局は4時頃まで寝られず、やっとウトウトしたところで夜が明けて、目覚めたら、7時。
魔除けのサンタ帽を被り込み、悪霊退散を唱えながら蒲団に潜ってたんですが、効果はほぼゼロ。
100均は、やはり効力が弱いんでしょうか。峠越えを前にして、完全な睡眠不足です。ちょっと、不安。
しょうがない、起きて温泉と朝食で元気を補給します。あ、暖冬ゆえか、寒さの方は全然問題なし。


少しでも体に良さげなことをすべく、そして1円でも元を取るべく、改めて温泉浴場へ。
ここの朝風呂は、7時~9時。まだ空いてるだろと思って大浴場の前へ来ると、大量のスリッパあり。
「うわっ」 と思いましたが、入口の暖簾は 「女」 。朝風呂は、大浴場と中浴場がチェンジするようです。
中浴場で物足りなかった女性客が、殺到してるのかな。で、 「男」 の中浴場へ行くと、先客は一名。


中浴場、もちろん小ぶりではありますが、造りは大浴場よりも旅館っぽく、桶も木製。
半露天風呂も、あり。その奥には、大浴場と同じく石段を登って入る露天五右衛門風呂も、あり。
無論、また全裸で石段を登って、入浴。湯に浮かぶ落葉を眺めつつ、朝の外気を感じること、しばし。
ただやはり、外は寒い。頭と体の温度差が凄過ぎて、早々に退湯。上がる頃には中浴場、満員。


元は取ったけど余計疲れた状態で部屋へ戻ると、8時過ぎ、朝食出来たのアナウンス、あり。
昨夜はリバース寸前まで膨れた腹ですが、12時間経過した今は、空腹。獣肉、血肉化したようです。
で、養分を追い足しに、食堂へ。すると今度は、部屋番号ごとに準備された大広間へ案内されました。
庭を見ながらの朝食、であります。ただやはり、ここも内と外の温度差が凄くて、窓は曇ってますが。


朝食は、特に説明する必要もないような、実にオーソドックスな和風な宿の和風な朝食。
用意されてるおかずは、鮭、かぼちゃの煮付、何らかの山菜和え、生卵、海苔、冷奴、そして漬物。
白飯&味噌汁&田楽大根は、セルフ&食い放題。充実してると共に、非常に和んで食える朝食です。
これから死闘へ挑む身としては、穏やか&確実に栄養補給ができる、理想の朝食と言えるでしょう。


で、サーバーゾーンの煮立つ鍋からセルフで取ってきた、田楽大根。田楽味噌で食います。
この味噌がまあ、美味い。大根を一瞬で丸飲みした後、皿をベロベロ舐め回して食い尽くしました。
当然おかわりしようかと思いましたが、同じ欲求に駆られた者でサーバーゾーンが混み、断念。無念。
そういえば大原の里、味噌庵という名で味噌の販売もやってますが、田楽味噌も売ってるのかな。


おかずを片っ端から平らげて、田楽味噌の残り香が付いた皿を更に舐め回した後は、〆。
〆は無論、茶漬です。昨夜、味噌出汁のトラップに嵌って食い損なった、大原の漬物での茶漬です。
並々と注いだお茶と共に食う痛恨の茶漬の味は、まあ、普通。当然美味しいわけですが、まあ、普通。
しかしこの普通さが、田楽味噌を舐めた後では、沁みます。昨夜の味噌鍋の後にも、食いたかった。


で、食った後は、帰り支度をして帰ります。いや、ではなくて、出発支度をして出発します。
大変、お待たせしました。今回の聖戦の本編たる途中峠・和邇の攻略、これからいよいよ開始です。
その前に、フロントで精算。基本代金はカード決済で済みですが、温泉なので入湯税が要るんですよ。
で、入湯税150円と追加肉代を払い、チェックアウト。大原の里、素敵な時間と素敵な肉をありがとう。


で、チェックアウトが済めば、帰ります。いや、ではなくて、 「境界」 に向けて出発します。
が、大原の里の目の前には姉妹店の雲井茶屋があり、宿泊客は200円で珈琲が飲めるんですよ。
雲井茶屋、大原の里の名物・味噌鍋を小鍋仕様ながら2000円程度で食える店ですが、基本は茶店。
睡眠不足で溜った眠気を吹き飛ばすには、丁度良いでしょう。で、開店すぐのタイミングで、入店。


入店すると、すぐに 「向かいにお泊まりの方ですか?」 と訊かれ、200円の珈琲をオーダー。
店内にはテーブルと座敷があり、テーブルへ直行すると、店員さんが 「そっちでいいんですか?」 。
和室状態が続いて、テーブルに飢えてた自分に気付きながら、ウェルカムほうじ茶と珈琲を頂きます。
珈琲に写るのは、大原のあちこちで実る南天と、穏やかな青空。峠越え、いい感じで行けそうです。


雲井茶屋を出た後は、寂光院へ向かう観光客と擦れ違いながら、鯖街道 = R367方面へ。
実に絵になる朝の大原、地元の人は普通に朝の生活をしてて、学校からは部活なのか子供の声。
クリスマスなどもうすっかり忘れて、観光地の日常と、日常地の日常が、それぞれ始まるわけですね。
しかし、私の聖夜はまだ、終わってません。これからです。これからの途中峠制覇こそ、本番です。


で、R367へ到着。この道で峠を越え、琵琶湖へ降り、「四堺」和邇へ向かおうと思います。
移動手段は、徒歩です。途中峠を越えてくれるバスは、平日運行がありません。なので、徒歩です。
しかし、猪と鶏の肉を食い倒した今の私は、体の何割かが確実に、獣。温泉で、体も充分癒しました。
体調は万全です。さあ、最強&最凶&最後の 「境界」 の魔力と対峙すべく、峠越えを始めましょう。


と、出発しようとしたその時、大原バス停に京都バスがやってきました。何だ、バス、あるのか。
ただ、行先表示には 「途中峠」 の文字はなく、何か別の、どこか見慣れた字が躍ってる気がします。
しかし、バスはバス。便利なものを意味なく否定するのって、頭が悪いですよね。というわけで、乗車。
で、乗車したら、バス、峠とは逆の南を向いて、走り出しました。で、そのまま南へ走り続けました。

大原の里、客は30組くらいでしょうか。満員感がありました。
目にして記憶にある客層としては、カップルは1~2組で、夫婦風が1~2組、
白人外人四人~五人グループが数組、中国人夫婦が1組、中年女性二人組1組、
中高年家族連れが2組、そして単独男客が私以外に一人いたくらい。
テイストとしては烏合な感じですが、古典的な観光客な層という印象もあります。
当たり前といえば当たり前かも知れませんが、地元風・近隣系はさほどいません。
名前は 「民宿」 ながら、実に 「旅館」 という感じの客層でありました。

大原の宿、普通に宿としても、良い感じです。
ひとりで泊まれて、フル仕様のぼたん鍋も食える宿は、他にあまりありません。
独対応のプランをいつまで提供してるかは不明ですが、現状、我々に優しい宿と言えます。
昼間は街中で観光し、疲れた夜は鄙びた環境でゆっくりしたい人は、うってつけでしょう。
あと、京都市街で生活してる人にも、気軽に行ける温泉としては良い感じではないでしょうか。
運が悪いと、音がうるさいですが。というわけで、ひとりに向いてる度は★★★。

そんな、京の民宿・大原の里での、聖夜。
好きな人と泊まれば、より猪なんでしょう。
でも、ひとりで泊まっても、猪です。

京の民宿・大原の里にてぼたん鍋を食べて聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【前篇】


 
 
 
 
 
 
 
京の民宿・大原の里
京都市左京区大原草生町31

京都バス 大原下車 徒歩約15分

大原温泉の湯元・京の民宿 『大原の里』 – 公式