三条右近橘にて聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【前篇】

2016年12月24日(土)


三条右近橘にて聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。

太陽神の生誕祭をルーツに持つクリスマスが、その内に孕んだ境界性を追求すべく、
当サイトでは、京都郊外にある境界 「四堺」 へと赴き、聖夜お泊まりを敢行し続けて来ました。
しかし、そんな崇高にしてアカデミックな荒行を、温泉浸ったり猪肉食ったりしながら続けてる内に、
辺境の真逆たる京都市中心部では、宿泊施設を巡り、事態が極めて激しく変化していたのです。
2011年には50万人強だった京都市の年間外国人宿泊者数は、2015年には300万人まで増加
宿泊施設が絶望的なまでに不足し始め、その不足によって生じる隙を狙った所謂ヤミ民泊も急増
行政は、ヤミ民泊を取り締まる一方で、グレーな施設に対しては旅館業法の許可取得を奨励
結果として、マンションや町家丸出しながら一応合法の簡易宿所が、激増することとなったのでした。
そう、極めて境界的なる性格を持つタイプの宿所が、都心にこそ溢れるようになってるわけです。
「本当の京都」 と有り難がられている洛中のど真ん中こそが、他所者が蠢く境界と化してるわけです。
「金余りの割にコンテンツ供給が足りてないバブル期に於けるセックス祭」 としての面が後退化し、
属性問わず人を消費へ誘う契機としてだけひたすら活用されてるようになったクリスマスを、
「教会祭」 ならぬ 「境界祭」 として認識し直し、その魔力との対峙を続けてきた当サイトとしては、
街中に新たな境界が出現し、氾濫&増殖しているこのカオスな状況、見過ごすわけにはいきません。
というわけで2016年の聖夜お泊まり企画は、これまでの辺境巡礼から一転して都心へと回帰し、
着物姿の某国人がマンションから団体で出て来る様をしょっちゅう見る洛中にて、敢行してみました。
泊まったのは、三条右近橘。怪しい宿では、ありません。日昇別荘が運営する、簡易宿所です。
では、宿代が安いだけの普通な宿かといえば、エントランスはトップ画像のような超ハードコアぶり。
マンション以外の何物でもありません。正に、民泊。相手にとって不足なし、と言うべきでしょう。
この宿にて聖夜を過ごすことで、新たな境界と向き合い、その素性を見極めんとしたのであります。
そう、これはあくまでも新たな挑戦なのです。当サイトが当サイトである為に必要な、挑戦なのです。
決して、翌日に用事がある為、移動時間が読み難い郊外特攻を日和ったのでは、ありません。
断じて、そもそも郊外特攻そのものがいい加減面倒になってきたのでも、ありません。


ネットの力により隆盛を誇っている、民泊。私も、三条右近橘は現場でなくネットで知りました。
で、何故か一番安かった近畿日本ツーリストから、予約。あ、Airbnbにも当然ページはありましたよ。
因みに、楽天やじゃらんでは、扱いなし。この辺の不可思議な存在感も、境界的というべきでしょうか。
予約したプランは 『京都で暮らそう』 で、6200円。府民もたまには、京都人として暮らしてみますか。


右近橘、何故か23日で終了のプランには 『あなたも、しばし京都人』 なんてのもありました。
このプラン説明、楽しいですね。 『朝食は、 「老舗。イノダコーヒー」 で頂く』 ですって。わはははは。
イノダ、改名したのかな。それに 「老舗。」 。わはははは。 「。」 。わはははは。 「娘。」 。わはははは。
京都人として暮らすからには、私ももちろん、聖夜翌朝は 「。」 へ行かせてもらうことにしましょうか。


三条右近橘、場所は名の通り、三条通近く。柳馬場三条下ルです。 「下ル」 。わはははは。
で、クリスマスイブ当日の14時半頃、三条通を歩いて、西へ。奇しくも土曜に当たった街は、チャラし。
それも、学生らの脅えと権勢が入り交じったチャラさが充満してて、ウンザリしながら歩くこと、しばし。
逆さ吊りの刑に処されたような雪だるま君が、そんな民と私を見て、ニヒルな笑みを浮かべてます。


「DVDでスッキリ 検索してね」 という看板と共に、立ちんぼの刑に処されたようなサンタを、
バカップルが視界から消そうと努力してるのを横目で見ながら、河原町通を抜けてアーケード街へ。
アーケード街は、陰鬱なチャラさがより悪化し、遠来観光客と近隣の阿呆ばかりいるような地獄地帯。
凄い密度で人民が蠢く新京極を横目で見ながら、そこへは足を踏み入れず、三条通を真直ぐ西へ。


アーケードの先に現われるのは、近代建築&それを魔改造したおしゃれ系店が増えるゾーン。
この通に雨後の筍の如く出現しまくってるチョコ屋のひとつ・ジャンポールエヴァンの行列を見過ごし、
1928ビル aka 元・毎日新聞ビルの星形バルコニーなども横目で見ながら、更に西へ歩くこと、しばし。
東海道の始点ゆえ、そもそもカオスな場所ではある、三条通。しかし近年は、よりカオスであります。


この辺の客層は、アーケード街の客から20代と図に乗った中年を抽出した感じ。空気が、臭い。
京都ブランドに乗って発露される勝手&凡庸&無秩序な欲望に、魔界の香りを感じつつ、更に西へ。
ウンザリしながら歩き続ける内、江戸時代の豪商屋敷を日本旅館へ転用した日昇別荘の前を、通過。
三条右近橘は先述通り、ここの管理。ですが、手続きは右近橘でやるとか。なので、更に更に西へ。


で、更に歩き、アーバンリサーチYMCAが向き合う交差点を南へ曲がり、三条右近橘へ到着。
そう、こちらが、三条右近橘であります。京都市より 「簡易宿泊許可」 を得た、宿泊施設であります。
看板がないですが、歴とした宿泊施設であります。表札もないですが、歴とした宿泊施設であります。
という感じで、表向きは完全に、マンション。マンション度が過ぎて、何だかもう、都市迷彩状態です。


あ、玄関奥には、かろうじて表札がありました。でも、宿であることを示すものは、他に一切なし。
向かいに町家を魔改造したチョコ屋があるので、むしろこの店を目印にするといいかも知れません。
玄関には、宿泊者用インターホンあり。ここで名前やら予約の詳細を告げ、手続きをするわけですね。
さっき通った日昇に繋がるのかな、とか思いながらボタンを押すと、生の管理人さんが出てきました。


で、生の管理人さんにナンバーキー&部屋の説明をしてもらった後、部屋の中をじっくり拝見。
内装は藍色尽くし状態、床はあらゆる人の行儀に対応した鉄製ですが、やはり完全に、マンション。


かろうじて宿であることを示しているアメニティ類をナメながら望む、引き戸の奥のミニキッチン。
ミニキッチンは、IH・レンジ・最低限の食器類などを装備。ただ炊飯器はなかったりと、微妙に不便。


ミニキッチンの向かいには、ポット・有線LAN・中国語入り観光案内などを置いたテーブルあり。
風呂は、この角の壁を挟んだ向こう。部屋全体の広さは、同額のビジネスホテルより少し広い程度。


で、すぐ外出するので、キー番号が書かれた日昇別荘の名入りメモ紙を、カメラでバックアップ。
がっつり料理するのは難しそうなので、夕食は、京都ならではのおばんざいを仕込もうと思います。


おばんざいを買いに行くのは、もちろん、錦市場。右近橘から近いんですよ、錦。徒歩、約4分。
それに 「京都で暮らす」 なら、買い物は錦で決まり。近ツーのページも、そんなことを書いてました
が、錦へ入ってみると、京都人でも日本人でもない人民で溢れ返り、何が何だかよくわからん大混雑。
「買い食いストリートになってしまった」 と、皮肉を言う暇さえ、全くなし。正に、境界です。魔界です。


買い食い系行列は特にエグく、歩行もままなりません。市場ながら、買い物が出来ません。
鳥清のローストチキン売り場が、若干通から逸れてて買い易かったので、かろうじて1本買えました。
450円のローストチキン、なかなかに美味げです。が、ディナーのおかずとしては、少し淋しいですね。
おばんざい夕食は諦め、近ツー言う所の 「一流どころ、または隠れ家の食事処」 で頂きましょうか。


夕食が外食となれば、夕方が暇です。なので、チキンを部屋に置き、文博へ行くことにしました。
文博。即ち、京都文化博物館。錦やイノダにも近い三条右近橘ですが、文博にも近し。徒歩、約1分。
で、すぐ着いた、文博 aka 元・日銀京都支店。三条カオスの親玉たる威容を、聖夜も誇っております。
ここ、古い映画が安く観れるので、私は普段からよく来るんですよ。で、今夜も観ようと思うんですよ。


文博でこの日上映されるのは、御覧のポスター通り、小津安二郎監督作品 『戸田家の兄妹』
小津の常連である三宅邦子の生誕100周年記念企画が行われており、その一環としての上映とか。
そう、今日これから、これを観るんですよ。イブに、小津を観るんですよ。聖夜といえば、小津でしょう。
何せアメリカではかつて、クリスマスの季節になると 『オズの魔法使い』 が出版されてたそうですよ。


で、普段通りに文博へ入り、普段通りに通常展示をチラ見してから、3Fのフィルムシアターへ。
シアター、ガラガラかと思ってたら、半分以上は埋まってました。やはり聖夜といえば、小津でしょう。
客層は、普段の古い邦画を上映する時と、全然同じ。大半が、地元系の中高年、というより老人です。
三条通を歩いてそうな輩は、全然おらず。魔界の住人には、小津の魔法は効かないんでしょうかね。


しかし独男にとっては、生涯独身墓には 「無」 の一文字など、神とも崇めたくなる、小津。
独&虚を名乗る私も、私淑する義務があります。が、正直言うと私、好きじゃないんですよね、小津。
『東京物語』 観ても、 「長い。早よ終われ」 「じじい、お前もさっさと死ね」 としか思わないんですよね。
原節子も、何か女装のおっさんに見え、 「腕相撲とかめっちゃ強そう」 としか思わないんですよね。


あと、あの構図を観続けてると、脳内の酸素が減ってく気がして、気持ち悪くなるんですよね。
しかし聖夜といえば、小津。それに 『戸田家』 は、独男の神の個人的な面を反映した内容らしいし。
ひょっとしたら、独男がこの日観るのに相応しい映画かも。とか適当なことを思いながら、しばし待機。
で、所蔵フィルムの状態が悪いので音声が酷いという説明の後、 17時、 『戸田家の兄妹』 、開映。


戦前の財界で名を轟かせる、戸田家。しかし家長の父が急死すると、負債も多いことが判明。
一族は、屋敷を売却。で、母と末娘・節子は長男の家へ身を寄せるも、嫁・三宅邦子がいびりまくり。


ピアノいびりの際の三宅邦子の美しさ、半端なし。ただ、いびられる側はたまらんので、家出。
母と節子は長女の家へ移るも、そこの阿呆餓鬼を巡って揉め、血縁者からもキレられ厄介者扱い。


キレる際の吉川満子の美しさも、半端なし。ただ、キレられる側はたまらんので、またも、家出。
廃屋同然の別荘で身を潜める内、やって来たのは父の一周忌。そして、天津から帰って来た次男。


小津を反映しているとも言われる次男・昌二郎は、母と節子への一族の仕打ちを知り、激怒。
ほぼ口しか動かないのに盛り上がるという異常なクライマックスの後、母と節子は天津行きを決意。


節子に、天津で結婚の面倒を見るという、昌二郎。すると妹も、昌二郎の面倒を見ると、宣言。
友人女性を紹介しようとすると、昌二郎は別荘前の海へ逃走。で、そのまま何処かへ去って、終映。


という感じの 『戸田家の兄妹』 でした。小津の構図、劇場で観ると頭が痛くならないもんですね。
独男がクリスマスに観るのに相応しい映画かどうかは、知りませんけど。いや、案外、合ってるかも。
無責任に放浪し、気まぐれに糾弾し、捕まりそうになれば逃げる、という。ある意味、独男の手本かも。
特に最後のカットは、今まで抱いてた小津の印象とは違う、妙な打撃力を感じるものでありました。


と、京都の中心に建つ全く京都らしくない建物で、全く京都に関係ない映画を観た後は、夕食。
近ツー言う所の 「一流どころ、または隠れ家の食事処」 にて、クリスマスディナーを頂くわけですよ。
都心回帰を果たす以上、食事も都心。というわけで、現代京都の真の中心・烏丸御池へ移動します。
「一流どころ」 は無理ですが、私の 「隠れ家」 は教えてしまいましょう。というわけで、以下、後篇。

三条右近橘にて聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【後篇】 へ続く

三条右近橘にて聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【前篇】
三条右近橘にて聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【後篇】
 


 
 
 
 

三条右近橘
京都市中京区柳馬場三条下ル槌屋町82

市営地下鉄 烏丸御池駅下車 徒歩約10分
市営地下鉄 京都市役所前駅下車 徒歩約10分
京阪電車 三条駅下車 徒歩約12分
阪急電車 河原町駅下車 徒歩約12分
 

三条右近橘 – 近畿日本ツーリスト

三条右近橘 – Airbnb