夏越祓に長岡京・小倉山荘竹生の郷本館へ行き、茅の輪をくぐって『夏のしるし』を買いました。もちろん、ひとりで。

2022年6月30日(木)


夏越祓に小倉山荘へ行き、茅の輪をくぐって『夏のしるし』を買いました。もちろん、ひとりで。

2021年の夏越ネタで俊成を扱った以上、2022年の夏越では定家を扱わざるを得ません。
藤原俊成の息子である、歌聖・藤原定家。そして無論、小倉百人一首の撰者でもある、藤原定家。
実作者としても研究者としても突出した評価を誇る、間違いなく和歌史に於ける最重要人物です。
平安/鎌倉という時代の端境に生きた点では、当サイトの裏テーマ 「境界」 の観点からも、最適。
夏越の 「境界」 性に注目した高踏な展開を、継続出来るし。絶対、扱わざるを得ません。
ただな、定家の夏越の歌ってよく知らんのよな。百人一首の中には、定家作の夏越の歌はないしな。
定家、夏越は好きじゃなかったのかも。ひょっとして 「夏越は家隆に譲る」 とか思ってたのかも。
となれば、定家を絡めた夏越ネタをやるというのは、どうだ。流石に、どうだ。ちょっと、無理ないかな。
と思ったんですが、2021年の夏越で俊成を扱った以上、2022年は定家を扱わざるを得ません。
どうしても夏越と定家を絡めなくてはならんのです。ので今回、小倉山荘へ買物に行くことにしました。
小倉山荘長岡京市の米菓のメーカーであります。全国的には、無撰別の通販で有名でしょうか。
店名通りに小倉百人一首をブランドイメージに採用し、定家推し商品でも人気を呼ぶようになりました。
6月前後にはもちろん、夏越アイテムも展開。百人一首の歌へのオマージュも、忘れてません。
風そよぐ 楢の小川の 夕暮は 御禊ぞ夏の しるしなりける (藤原家隆/百人一首98番)
小倉山荘 『夏のしるし』 は、米菓 『をぐら山春秋』 の夏版と、水無月に似た 『寄石恋』 のセットです。
もはや定家とは全く無関係とも言えますが、この歌を小倉百人一首に選んだのは、あくまでも定家。
選んだ際の定家の心に思いを馳せながら買えば、きっと歌の心のようなものを会得出来るはずです。
また、夏越に小倉山荘へ買物に行きたくなるのには、他にも大事な理由があります。茅の輪です。
小倉山荘の本店、夏越には店先に茅の輪を出すんですよ。長岡天満宮のお祓いをしたという。
アカデミックな夏越の探求が出来て、茅の輪もくぐれる。正に一挙両得です。ダブルチャンスです。
そう考え、晩夏と初夏の違いこそあれど 「夏のしるし」 を求め、長岡京市へ出かけました。


小倉山荘の本店があるのは先述通り、長岡京市。嵯峨・小倉山にある落柿舎前店は、支店です。
それゆえ本店の最寄駅は、阪急・長岡天神駅 or JR・長岡京駅。そこから先は、阪急バス長岡京線
この日の私はJRの方が都合が良かったので、長岡京駅までJRで行って阪急バスに乗り換えました。
13時半発のバスは、地元客で半分くらい埋まる感じ。小倉山荘へ向かいそうな人は、ほぼいません。


JR駅前を出たバスは、昭和感溢れる阪急駅前で多くの客を乗せてから、本格的に西進を開始。
昭和街ゾーンを抜け、バブル期直前に整備されたようなテイストの街へ入り、そこも抜けて行きます。
ガラシャ祭記事でも書きましたが、長岡京市は昭和後期にベッドタウン化と企業誘致が急に進んだ街。
駅から離れる形で移動すると、どんどん街並が新しくなり、発展過程を体感してるようで楽しいです。


さらに進むと、今度は住宅地自体がほどけて、西山を西景とする田園風景が広がり始めました。
下車したのは、何とか中学前。降りた目前には田んぼが広がり、陽を浴びて稲と水面が光ってます。
視界に入る緑が多い。空も青くて広い。小倉山荘本店があるのは、京都西部らしいこうした場所です。
小倉にも嵯峨にもあんまり関係ないけど、食い物を作るにはこれ以上ない場所、とは言えるでしょう。


そんな緑を見ながら少し歩き、着きました。本名、長岡京・小倉山荘竹生の郷本館。着きました。
店、大きい。駐車場も、広い。この立地だと、普通は車で来るわな。そして奥には、何かしらの輪が。


輪はもちろん、茅の輪。立派なの、出してます。サイズも、標準か、それよりも少し大きいくらい。
玄関前の設置ながら、玄関ビルトイン型でなくスタンドアローン型で、メビウスくぐりも余裕の大きさ。


というか、近くに置かれてる茅の輪くぐり案内板では、メビウスくぐりこそをしっかり推奨してます。
では、久し振りの茅の輪、メビウスくぐりでくぐらせてもらいましょう。ちとせのいのちのぶというなり。


くぐれた、くぐれた。久し振りにくぐれた。と、何か満足してしまいそうだけど大事なのはこれから。
『夏のしるし』 を買うため店に入ります。門を抜け、菓子店としては大きめの庭を見ながら、入口へ。


入口の前には、待ち客用の椅子あり。なので、歩きで出た汗が引くまで、緑を眺めながら少し休憩。


汗が引いてから入った店は、一般的な和菓子店としては破格に広いけど、普通といえば普通。
特に混んでるわけでもなく空いてるわけでもない店内で、買おうと決めてる 『夏のしるし』 を探します。
『夏のしるし』 、しっかりありました。店の表側で、棚積みになってました。ので、購入。買った、買った。
あと、ネタを無理矢理に定家に絡ませるべく、 『定家のおきにいり』 なるものも購入。買った、買った。


買ったら表に出て、 『夏のしるし』 が入った袋を悦に入りながら眺めます。袋、歌が書いてあるな。


書いてあるのは当然、小倉百人一首の歌。家隆と定家の歌が、ちょうど隣同士になってます。
家隆 「風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける」 の真右に並ぶ、定家の歌。
来ぬ人を まつほの浦の 夕凪に 焼くや藻塩の 身もこがれつつ (藤原定家/百人一首97番)
松帆の浦は、淡路島の浦。藻塩は、淡路島の塩。海の香りが漂って来そうな傑作と言えるでしょう。


切ない想いと、美しい海。そんな詩情を感じてると、淡路島の名物・穴子が食いたくなりました。
ので、小倉山荘で穴子を食ってくことにします。此処、カフェが併設されてて、穴子も食えるんですよ。
お洒落なメニューの中で異彩を放つこの穴子のご飯は、こだわり米で炊いた飯に穴子が載ったもの。
当然、定家の歌にインスパイアされて出来たメニューなんでしょう。きっと、そうです。そのはずです。


夕凪の空のような色に焼き上げられた、穴子。そして、悶える藻塩の如くその身を捻らせる、海苔。
そんな97番感溢れる穴子のご飯、味の方は、割と美味。穴子と海苔は普通でしたが、米と葱は美味。
何て褒め方だという話ですが、本当に米と葱は美味いです。流石は米菓屋。流石は西山。でしょうか。
釜飯なので底のお焦げがまた美味く、ガツ食いに走ってしまい、結果として周囲から浮くことしばし。


あ、周囲は妙齢女性グループか高齢夫婦が大半で、こんなデザートを品良く食ってる人ばかり。
此店の名物というキーマカレーの香りは漂いまくってるけど、汗だくで食う奴の姿は見当たりません。
私も空気を読んで飯のおまけのデザートを品良く味わおうとしましたが、気が付くと丸呑みしてました。
穴子のご飯、このデザートなどが付いて、約2000円。97番を味で体感したい方には、おすすめです。


穴子から定家の歌の心を感じ取った後は、さっさと帰るわけですが、帰る前に庭園を眺めて休憩。


休憩しながら、玄関に置かれた茅の輪に対する人々のリアクションも、何となしに眺めてみたり。
車で来る人は、くぐり方を知らない場合が多いようです。もっとも、来る人は全員が車で来てたけど。


私は、車以外で帰ります。店を出たら、バスに乗って帰ります。が、肝心のそのバスが、少ない。
ので、西山の緑に挨拶してから踵を返し、阪急電車が掴める東へ向かってテクテク歩きましたとさ。


そして帰れば、 『夏のしるし』 開封の儀。


儀。


儀。


儀。食います。


『をぐら山春秋』 は、百人一首モチーフの包に小粒のおかきをまとめた、小倉山荘の看板商品。
そして 『夏をぐら山春秋』 は、その夏版。春秋と名乗りながら、夏版。日本文化って、難しいですね。
ただ、味は明快にナイス。特に 「夏衣」 は、柚子蜜の甘辛感が本当に初夏っぽくて、私のお気に入り。
何より、どのおかきも柔らかめに仕上がってるのが、幼児のような歯を持つ中年男には嬉しいです。


『寄石恋』 は、文字通りの涼菓。二条院讃岐の歌に因むんだとか。日本文化って、難しいですね。
去年食った末富の葛製の水無月に似てますが、味は全く独特で、ベースも葛や寒天でなくてゼリー。
小豆もいわゆる小豆でなくドライフルーツ的 (?) で、全体の味わいもはっきり洋風でまとまってます。
水無月が苦手な方には、割とうってつけかも。何気に入ってるアルコールが、私は特にお気に入り。


そう言えば、小倉山荘では 『定家のお気に入り』 なるものも買ったのでした。こんな感じで。


中身は、こんな感じ。私には、単なる煎餅にしか見えません。日本文化って、難しいですね。


日本文化に悩んでると、脳の糖分が欠乏してきたので、 『寄石恋』 の追い食いで補います。
『寄石恋』 、本当に美味。オフィシャルの指示通り冷やしても美味いけど、常温のぬるっと感も美味。
常温だと、アルコール感も何か良いんですよ。糖分に加え酒分も効き、脳の回転が良くなりそうです。
この糖酒力で、日本文化と定家、そして夏越と煎餅について、さらに考えを深めて行こうと思います。

夏越の日の小倉山荘、客層は基本的に近所系の中高年が主体。
おばさん二人組~グループを主軸として、そこに中年高齢夫婦が混ざる感じ。
それ以外の層は、ほぼ見かけませんでした。観光客風も、皆無ではなかったかなと。
男ひとりで行くのに向いてるかと問われたら、
特に向いてはいないし、浮くといえば間違いなく浮くし、不審でもあります。
ただ、買物だけで出かけるなら、強烈なアウェー感を感じることもないように思います。
「身内に頼まれてお使いで来た」 と自己催眠でもかければ、ほぼ問題はないはずです。
むしろ、興味・関心のボリュームより単にアクセスの不便さの方が勝ってしまい、
何となく行くのを面倒に感じることの方が、ハードルは高いかも知れません。

そんな小倉山荘本店の、夏越。
好きな人と出かけたら、よりちとせのいのちのぶというなりなんでしょう。
でも、ひとりで出かけても、ちとせのいのちのぶというなりです。


 
 
 
 
 
長岡京・小倉山荘竹生の郷本館
京都府長岡京市今里蓮ケ糸45
10:00~18:00 無休 (年末年始を除く)

阪急バス 長岡第二中学校前下車 徒歩約3分
阪急電車 長岡天神下車 徒歩約30分

小倉山荘 – 公式