2019年への年越しを、妙心寺で除夜の鐘を聴くだけで迎えました。もちろん、ひとりで。

2019年1月1日(火)


2019年への年越しを、妙心寺で除夜の鐘を聴くだけで迎えました。もちろん、ひとりで。

聴くということ。耳を澄ませること、と言い換えても構いません。とにかく、聴くということ。
難しいことです。ネットの普及以降、視覚ばかり偏重される昨今では、なかなか難しいことです。
「見る暴力」 を行使する自由&権利が、ゼロ年代をまんま引き摺るような形で延々とデフレを続け、
愚鈍な視線が溢れ返ると共に、内省能力を喪失したイワシの如き民を大量発生させた、10年代。
イワシを見て 「やっとネットが漁場化した」 と考えた代理店は、社員を殺しながら民の家畜化を進め、
民は民で小さな画面の中へ認識を収束し、外部を負の感情の便所と見做すようになった、10年代。
見るということは、果てしなく安くなりました。大きな代償を支払うことで、果てしなく安くなりました。
この腐ったディケイドの最終年を迎えるに際し、私は、視覚偏重の風潮に異を唱えたくなったのです。
野蛮に見つめるのではなく、黙って聴くということ。むしろ、音 or 静寂から見つめ返されるということ。
聴覚の復権です。それはつまり、内省の復権です。この復権が今、必要であると思えるのです。
そう考えた私は、2019年の年越しを、妙心寺にて除夜の鐘を聴いて迎えることにしました。
妙心寺。言うまでもなく、臨済宗妙心寺派の大本山であり、禅寺の中の禅寺と言える大寺です。
京都・花園の巨大な境内は全域が禅テイストでまとめられ、質実&ストイックな精神世界を具現化。
また、国宝の梵鐘も持ち、そのレプリカで除夜の鐘も実施。で、この鐘が、参拝者は撞けないのです。
見るだけの無力さを痛感する前に偽りの主体性を得んと、鐘撞き体験へ走るイワシの愚さを排し、
耳を澄ませることで真の内省を促し、真のイニシエーションとしての年越しも成立させる、この姿勢。
正に、禅です。正に、己の内面と向き合う、禅ならではのスタンスです。正に、禅寺の中の禅寺です。
なので私も、真夜中の妙心寺で鐘の音に耳を澄ませ、聴くということに向き合ってみたのでした。
そう、これはあくまでも新たな挑戦なのです。当サイトが当サイトである為に必要な挑戦なのです。
決して、並んだりせずに簡単に年越しネタを成立させたい一心で出かけたのでは、ありません。
断じて、単に写真が殆ど真暗になったから聴覚がどうとかゴネてるのでも、ありません。


で、大晦日、徘徊写経もせずネタになる寺を探し、京都新聞で妙心寺の情報を見つけたの図。
23時半頃から太鼓を叩き始め、元旦0時から国宝である黄鐘調の梵鐘の複製鐘を90回撞くそうです。
残り18回は、日出時に近い朝5時から。そして、深夜の部も早朝の部も共に、参拝者の鐘撞きはなし。
いい感じです。鐘を撞くことを考えなくて済みます。何せ、撞けないんですから。行くだけで済みます。


ハーフタイムは何して暇を潰そうと思いながら、22時40分頃、四条大宮駅から嵐電で妙心寺へ。
嵐電、終夜運転はないですけど。JRも。ただ、北野天満宮まで歩けば、年越し終夜バスがあります。
乗った嵐電は、普通に混雑気味。といっても通勤・通学系の混み方ではなく、年越し系っぽい混み方。
観光丸出し系は中国人が少しいる程度で、他はほぼ地元系。皆さん、嵐山へ鐘を撞きに行くのかな。


帷子ノ辻駅で北野線に乗り換えると、車内はさらに混雑気味。客は、若い地元系が占めてます。
北野線は、終点が北野天満宮駅。初詣には少し早い時間帯ですが、やはり初詣混雑なんでしょうね。
そのまま電車は、妙心寺駅へ普通に到着。初詣客と別れて、降ります。私と一緒に降りた人は、ゼロ。
客は撞けない妙心寺の鐘、やはりミーハー人気はない感じなんでしょうか。そのまま駅を出て、寺へ。


年越し蕎麦が食えそうな店を、あるわけないと思いながら視界の隅でそれとなく探しながら歩き、
鱧を食った萬長が開いてると嬉しいけど当然開いてないのを確認した頃、着きました、妙心寺・北門。
除夜の鐘があるのだから、もちろん、門は開門中。といっても、ここは常に通用門が開いてますけど。
臨済宗妙心寺派大本山、妙心寺。それゆえ境内が巨大過ぎ、通行出来ないと不便なのであります。


で、その通用門から、境内へ。夜の妙心寺は実に、ゼ━━━━━━━━━━━━━━━ン。


日を間違えたかと思うくらい、人気がない中を、ゼ━━━━━━━━━━━━━━━━━ン。


と、夜の禅風味を楽しんで時間を潰してると、23時半に近付いたので、境内西側にある鐘楼へ。
立派な鐘楼です。ほぼ完全に真暗で、何が立派かわからないかも知れませんが、立派な鐘楼です。
周囲には、30人くらい客の姿あり。撞くのを期待して来た輩はおらず、皆さんあくまで聴きに来た感じ。
流石は、大本山の地元です。と感動してると、リムショット的な音が、次いで太鼓が、鳴り出しました。


で、0時、ゴ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ンと、除夜の鐘、スタート。
黄鐘調にチューニングされたという、鐘。複製鐘の音はF#な感じでしたが、深く鳴る音で、実に除夜。
あと、撞く時のスイング音も割と壮絶。体力が要るように思えますが、ひとりの坊さんが撞いてるとか。
そんな音に、暗闇の中でじっと耳を澄ませます。聴くということに、そして己の内面に、向き合います。


ゴ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ン。


ゴ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ン。


ゴ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ン。


ゴ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ン。


ゴ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ン。


ゴ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ン。


ゴ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ン。


ゴ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ン。


ゴ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ン。


ゴ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ンと、1分に1発くらいのペースで鳴る鐘、
最初の5発ほどで半分以上の客が帰り、後はゆっくりと減り続け、1時頃には鐘楼前に客の姿はなし。
なので、少し寄って鐘楼を拝みます。この頃には私も、 「寒い」 以外のことが考えられなくなりました。
どうやら私の内面は、 「寒い」 ということのようです。耳を澄まして、聴き取りました。向き合いました。


この瑞々しい覚醒を、一期一会の覚醒を、惰性で音を聴き続けることにより、揮発させたくない。
と思えたので、南門から帰ります。ではなくて、一時避難します。早朝の部には、また戻って来ます。
帰る途中、何人かの客と擦れ違いました。やはり、鐘を聴きに来た感じ。流石は、大本山の地元です。
皆さん、後はお願いします。私も、朝には戻ります。明日の朝かどうかはわかりませんが、戻ります。


そんな約束を南門と交わした後は、年越し深夜バスがある北野天満宮へ行くべく、徒歩で東へ。
途中、ラーメン親爺が開いてたら年越し蕎麦にいいなと思って前を通りましたが、当然締まってます。
ので、そのまま北野天満宮へ。近付くに連れてしょうもない若者が増え、門前まで来ると大混雑状態。
屋台で何か蕎麦を食い、初詣も済まそうかと考えましたが、その気も全く起こらず。もう、帰ろうかな。


と思いましたが、近くのへんくつうどんは営業中。うどん屋ですが、蕎麦もあります。入ります。
食べたのは、年越しゆえ普通の海老天蕎麦。へんくつうどん、スタミナうどんが名物なんですけどね。
年越し蕎麦も済ませたら、後はバスで帰るだけ。ですが、バス停は大混雑で、乗る気が全く起こらず。
結局、地下鉄・今出川駅まで歩き、そのまま勢いで京阪・出町柳駅まで歩き、年越し電車で八幡へ。


で、京阪で地元の石清水八幡宮まで戻って来て、初詣は地元でさくっと済ませてしまうぞの図。
この後、また京阪&地下鉄の年越し電車に乗れば、早朝の部が始まる頃に妙心寺へ戻れそうです。
いいプランニングです。絶妙の流れともいえるでしょう。石清水妙心寺は、共に仁和寺に縁もあるし。
なので、戻ります。面倒だとか、思うわけありません。必ず、戻ります。いつの日か、必ず、戻ります。

妙心寺の聴くだけ除夜の鐘、客層は基本、地元の中高年がメインです。
家族連れといった方が正確で、小さい子を連れてる所帯も多いですが、基本は中高年。
自分でも鐘が撞けると期待して来た若者などは、全然いません。若者自体が、あまりいません。
単独も概ね、地元系。私みたいなややこしい奴の姿は、あまり見かけませんでした。
客数は、MAXで50人くらいでしょうか。人は殆どいないと踏んでましたが、そうでもないです。
ジャスト0時前後の頃がピークで、大半の人は何発かを拝聴し、そして帰っていくという。
多くの人が鐘楼の前で音に集中してる様は、何か少し、感動的な光景でした。

そんな妙心寺での、年越し。
好きな人と越せば、よりゆく年くる年なんでしょう。
でも、ひとりで越しても、ゆく年くる年です。
 

2018年への年越しを、東山浄苑にて昼間に済ませました。もちろん、ひとりで。
2017年への年越しを、永観堂で写経だけをして迎えました。もちろん、ひとりで。
2016年への年越しを、京都帝釈天で迎えました。もちろん、ひとりで。
2015年への年越しを、八幡で迎えました。もちろん、ひとりで。
2014年への年越しを、京都で迎えました。もちろん、ひとりで。

2013年への年越しを、嵯峨嵐山で迎えました。もちろん、ひとりで。 【前篇】
2013年への年越しを、嵯峨嵐山で迎えました。もちろん、ひとりで。 【後篇】

2012年への年越しを、京都で迎えました。もちろん、ひとりで。 【1】
2012年への年越しを、京都で迎えました。もちろん、ひとりで。 【2】

2011年への年越しを、京都で迎えました。もちろん、ひとりで。 【1】
2011年への年越しを、京都で迎えました。もちろん、ひとりで。 【2】
2011年への年越しを、京都で迎えました。もちろん、ひとりで。 【3】

【客層】 (客層表記について)
カップル:微
女性グループ:微
男性グループ:微
混成グループ:微
子供:微
中高年夫婦:2
中高年女性グループ:若干
中高年団体 or グループ:7
単身女性:超微
単身男性:微

【ひとりに向いてる度】
★★★
地元中心の客層ゆえ、アウェー感はあるといえばあるが、
だだっ広い境内なので、離れて居ればどうということはない。
ただ、だだっ広い分、深夜は死ぬほど寒い。
あと、歩く足 or タクシーの金がなければ、帰るのは面倒。

【条件】
大晦日+元旦 23:00~1:00

妙心寺
京都市右京区花園妙心寺町64

嵐電 妙心寺駅下車 徒歩約3分
JR嵯峨野線 花園駅下車 徒歩約5分
京都市バス or 京都バス 妙心寺前下車
徒歩約4分

京都花園 臨済宗大本山 妙心寺 – 公式
 
 

へんくつうどん
京都市上京区鳥居前町653

嵐電 北野白梅町駅下車 徒歩約12分
京都市バス 北野天満宮前下車 徒歩約5分

へんくつ うどん – 食べログ