蹴上インクラインへ桜を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

2011年4月10日(日)

インクラインでくつろぐ人々
蹴上インクラインへ桜を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

古びたレール。煉瓦。そして線路沿いには、ソメイヨシノ。
何故か男の心を、それも妙に生理的なところを突いてくる、明治の鉄の香り。
京都には案外と少ないそんな香りが、三条蹴上のインクライン=傾斜鉄道跡には漂ってます。
東京遷都による凋落を回避すべく、近代化へ乗り出した明治初頭の京都。
何をするにもまず、水が足りない。で、作られたのが、琵琶湖疏水。
「琵琶湖の水面標高は、東寺の五重塔より高い。東山に穴を開けたら、水は流れてくる」と、
当時の知事・北垣国道が、23歳の技術者・田辺朔郎をワイルドに抜擢&ワイルドな計画を実行。
常識外れの予算を叩き込んで完成させた疎水は、頑丈過ぎて、百年経った現在も現役。
熱いのであります。明治なのであります。
そして、その情熱に東京遷都への焦燥が滲んでるあたり、京都なのであります。
京都の近代化へ大々的に寄与し、今なお京都市の水道水の大半をまかなう琵琶湖疎水ですが、
一方で時代の荒波を越えられなかった設備もあり、それがこちらのインクライン。
「明治」にして「京都」なスポットに、「鉄」と「廃」と「桜」を足した、お好きな方にはたまらない世界。
なので「インクラインって、インクのラインってこと?」などと言ってる場合では、ありません。
「院蔵院、下から読んでも、院蔵院」などと戯言を言ってる場合でも、ありません。

京都市美術館と鴨東運河
平安神宮の大鳥居や美術館わきの桜を眺めながら、仁王門通を歩くこと、数十分。
インクライン、最寄駅は地下鉄蹴上駅ですが、岡崎を通って行くのもいい感じです。

南禅寺前交差点前
たどり着いた、南禅寺前交差点前。
右手にあるのは渋好みの無鄰菴、左手には琶湖疏水記念館や、レンガ造りの旧発電所。
左に現われる金色のわけわからんオブジェのところで階段を降り、インクラインの舟だまりへ。

インクライン舟だまり
かつてインクラインがザバーっと突っ込んでたであろう、舟だまり。そして、満開の桜。
インクライン、クラインの壺にインするという意味でもありません。英語で「傾斜」という意味です。

南禅寺前交差点前の下
蹴上岡崎間にある滝下りのような高低差へ舟を通すため、
舟ごとケーブルカーの台車に乗せレール上を移動、水路をつなげたものであります。
線路の真ん中の石、あそこにケーブルが走ってたわけですね。

インクライン、桜の天井
そんなこと一切知るかとばかり、桜を見上げる人たち。
高低差は発電に利用され、京都駅と伏見の間に日本初の電車を走らせました。

インクラインと桜
気持ちはわかるけど、もうちょっとだけレールにも注目してあげてほしい・・・。
てっきり最初から発電ありきで琵琶湖疏水は計画されたと思ってたんですが、
実際は結構後になってから発電所のプランも盛り込んだとか。

インクラインと桜②
本当に気持ちはよくわかるけど、でももうちょっとだけレールにも注目してあげてほしい・・・。
1000年以上も電気なしで首都をやってた京都ですから、
水運や水力にもウェイトを置きたくなるのはむしろ当然なのかも知れません。
でも、蹴上で生まれた電気は、確実に京都を生まれ変わらせました。

インクラインの台車と運輸船
線路の中ほどで、近代産業遺産然とした佇まいを見せる、インクラインの台車と運輸船。
水運は荷物のみならず、旅客の扱いもありました。
疏水には、大津を商圏に組み込んで京都の衰退を止めようという意図も、あったんだとか。

インクラインのレール
鉄道より割安の運賃で、明治期は結構人気のあった疏水舟運でしたが、
大津と京都を結んだ省線=国鉄=JRは、大正の頃に東山トンネルをぶち抜き、スピードアップ。
さらには、京津国道が整備され、京津鉄道=のちの京阪京津線も開通。
疏水の舟からは旅客がいなくなり、荷物もなくなり、とうとう舟運自体がなくなりました。

台車と犬インクラインから眺める道路
ある意味、鉄道によって引導を渡された傾斜鉄道・インクライン。
渡した方の京津線も、長らく三条通を走ってましたが、三条御陵間が廃止&市営地下鉄乗り入れ。
同区間の運賃は以前より割高となり、山科区民や大津市民から恨まれました。

上流側広場の導水管
台車遺構近辺よりもさらに人がいない、上流側の広場。そこに置いてある、導水管。
右側にチラっと見えるのは、田辺朔郎紀功碑。足を止める人は、特にいません。

田辺朔郎銅像ねじりまんぽ
偉大なる田辺朔郎の若き頃の銅像、そして偉大なるねじりまんぽのレンガトンネル。
ねじりまんぽの扁額には、北垣国道による『雄観奇想』の文字。
未来を見据えた雄大なる考えは、時として奇想と受けとめられるが、それでくじけてはならない。
才能に溢れながら理解が得られない若き田辺へ、北垣が告げた言葉です。いや、嘘です。

当然のように、人は多し。
カップルも多いんですが、雰囲気は案外とのんびりしてます。
桜があまりに見事なので、色気を出すのを忘れてるのかも知れません。
早朝だったからか、カップルのみならず、それ以外の層もはしゃいた感じはなし。
加えて、地元の人が犬の散歩をしてたりするので、観光丸出し感はかなり和らいでました。
鉄あるいは近代遺産なスポットでもあるわけですが、その筋な方は割と少なめでしょうか。
でも、三脚立てたカメラマンは当然多し。一眼を持った単独女性も目立ちます。

そんな蹴上インクラインの桜。
好きな人と見たら、より明治なんでしょう。
でも、ひとりで見ても、明治です。

インクラインと桜③

【客層】 (客層表記について)
カップル:2
女性グループ:1
男性グループ:0
混成グループ:0
修学旅行生:0
中高年夫婦:2
中高年女性グループ:0
中高年団体 or グループ:2
単身女性:1
単身男性:2
【ひとりに向いてる度】
★★★★
特になし。
プレッシャー、あるといえばあるが、
ないとも言える。 

【条件】
日曜+桜満開 8:00~8:45

インクラインと桜④

蹴上インクライン

京都市左京区南禅寺福地町
終日うろつき可能
京都市営地下鉄「蹴上」駅 下車徒歩5分