浄禅寺へ上鳥羽橋上鉦講中奉納を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

2012年8月22日(水)


浄禅寺へ上鳥羽橋上鉦講中奉納を見に行ってきました。もちろん、ひとりで。

京都の六斎念仏は、二系統に分かれると言われてます。
ひとつは、干采寺系。念仏そのものに重きを置く、本来の六斎念仏と言えるものです。
もうひとつは、空也堂系。こちらは都に溢れる芸能を吸収した、より娯楽色が濃いものです。
系統の名はそれぞれ掌握した寺の名に由来し、江戸初期あたりまで主流だったのは、干采寺系。
通称をもらうほど秀吉の覚えめでたい干采寺 = 光福寺は、 「六斎念仏総本寺」 と自ら名乗り、
洛内外に多数存在した六斎の講を統括しましたが、江戸期以降になると芸能化に走る講が、急増。
干采寺の管轄を抜ける講も増え、これらを 「芸能化、全然OK」 と一手にキャッチした空也堂は、
やがて干采寺系を凌ぐ勢いを誇るようになり、皇族の焼香式に参列して権威面の裏づけもフォロー。
現在に至ると、京都市内の大半の講は空也堂系となり、干采寺系は若干マイナーとなりましたが、
それでも両系統は共存、時に双方の要素が入れ違うようなケースも見受けられたりします。
京都市南部で活動する上鳥羽橋上鉦講中は、そんな両系統交錯の典型例かも知れません。
「鉦講」 という名が示す通り、上鳥羽橋上鉦講中は、鉦、そして太鼓に特化した講。
清水寺での盂蘭盆会奉納で、中堂寺に先立ち念仏六斎を奉納するのを見た方も、多いでしょう。
となれば、干采寺系の講中と思えますが、かつてここは芸能六斎で名の知れた講だったとか。
ゆえに、念仏テイストたっぷりで演奏される太鼓曲も、空也堂系の由来を持つ 『焼香太鼓』 。
さらには近年、まるで先祖帰りするように芸能六斎の復活に取り組んでるそうです。
芸能六斎から念仏六斎になり、そしてまた芸能六斎へ。六斎は、深い。そして、面白い。
そんな上鳥羽鉦講のホーム公演と言えそうなのが、六地蔵めぐり真っ最中の浄禅寺での奉納。
鳥羽地蔵の名で親しまれる寺に集まった観客は、近所の人と信心深い人ばかり。
そんなディープなシチュエーションに於けるディープな六斎奉納に、
他所者かつ信心も足りぬ者ながら、忍び込んできました。


浄禅寺は、上鳥羽の千本通沿い、名神京都南インターの北北西にあります。
電車の最寄駅は、近鉄上鳥羽口駅 or 地下鉄竹田駅。といっても、徒歩20分くらいですが。
私は何故か京阪丹波橋駅から、歩き。写真は途中で通った、鳥羽伏見の戦いの勃発地・小枝橋。
鳥羽地蔵の幟が立ってました。六斎ではなく、六地蔵めぐりの宣伝。めぐり、人気ありますね。


千本通といっても、このあたりの千本通は元々、鳥羽街道
羅城門で本来の千本通と接続され、現在は鷹峯から淀まで続くやたら長い道になってます。
巨大ダンプ & 道を見切った地元車ばかりが爆走する、殺伐とした 「千本通」 を歩くこと、しばし。
写真は、名神の下を潜る漆黒トンネル。そういえば、ここにも鳥羽地蔵の幟は立ってました。


レトロな農家と普通な民家を通り抜けて到着した、浄禅寺
六地蔵めぐりで、かなりな賑わいです。門前ではそんな客目当てに、タクシーが待機中。
あ、タクシーでなくても、市内中心部からならバスがありますよ。四条大宮から一時間に2本くらい。
左側の背後にそびえるタワーは、NTTの電波塔。もちろん、京都タワーではありません。


浄禅寺といえば、六地蔵めぐりも有名ですが、文覚上人の恋塚でも有名です。
神護寺を再興したり、頼朝に 「やってまえ」 と挙兵をそそのかした、エネルギッシュな僧・文覚。
その文覚が武士時代、同僚の女房・袈裟御前に横恋慕、誤って殺した物語を伝える塚であります。
林羅山の何ちゃらであり、袈裟の首が埋まるとも。愛欲過多気味の方は、祈っておきましょう。


そんなエネルギッシュな文覚が開基とも言われる、浄禅寺。
とはいえ、悲恋に狂う猛者好みの風味が溢れるわけもなく、テイストはとことんディープです。
山門には六斎奉納の看板が立ち、 「鉦講中」 と、鉦に特化した講であることを明記する文字、あり。
隣には、芸能六斎復活を目指して結成されたという、上鳥羽六斎ジュニアの名前もあります。


境内は、狭いです。そして、無茶苦茶に暑いです。
十一面観世音菩薩の御開帳&めぐりグッズである 「御幡」 300円也を売ってる観音堂、
そして奥の鳥羽地蔵菩薩へ、六地蔵まいりの客が途切れることなくやってきて、ごった返しまくり。
人間密集+風通しの悪さ+供養のローソクばんばか焚きまくりで、汗が全く止まりません。


地蔵堂と観音堂の間には、六斎用に小さい舞台がセッティング。
さらにその前には、テントを張った客席が用意され、たくさんの人が六斎開始を待ってます。
六地蔵めぐりの客は用事が済むとすぐ帰りますが、六斎を待つ人たちはほぼ全員が、顔見知り。
アウェー感、半端ありません。「誰?」 と、顔を見られること、しきり。すんません、潜り込んで。


席に居づらくて、小さな 「舞台」 にディスプレイされる鉦と太鼓を眺めるの図。
金銀箔に加え、立派な菊紋まで入った太鼓が、目を引きます。 『焼香太鼓』 用のものです。
後発である空也堂系六斎が、権威づけのため皇族の焼香式に参列+演奏したという、『焼香太鼓』 。
鉦講中には、太鼓以外にも大葬奉仕にあたって空也堂からもらった免状などが残るんだとか。


20時、挨拶&仏大の姉ちゃんの紹介に次いで、念仏六斎が始まりました。
1曲目は、鉦と念仏だけの長尺曲。 『節白舞』 でしょうか、あるいは 『飛観音』 でしょうか。
東一口の双盤念仏でも感じたことなんですが、鉦、キーの音とその半音上の音が混在しています。
不思議なハーモニー感。寸法の誤差でそうなったんでしょうか、あるいは意図的なんでしょうか。


2曲目は、鉦を置いて金銀箔の太鼓を持ち、『焼香太鼓』 。
4人がさっきの太鼓を手に取り、片方2人が金、もう片方2人が銀の太鼓を受け持ちます。
空也堂系とはいえ、皇族の焼香式用のためか、基本的には淡々と叩き歌う、念仏六斎スタイル。
しかし中盤あたりからは、左右に振ったりと、ちょっとだけ六斎っぽい芸も披露されたました。


3曲目、回向。いや、正確なタイトルは知りませんが、何となく、回向。
「ナーンマイダー」 と、その場にいる全員で合唱。私も手を合わせ、歌わせてもらいました。
どうでもいいことですが、六斎中、めぐり客はもちろん、テントの観客も平気でくっちゃべりまくり。
さらには、あちこち移動もしまくり。色んな意味で、物凄くディープ&ネイティブな空間です。


そして20:40、鉦講中の奉納が全曲終了しました。
続いては、上鳥羽六斎ジュニアが登場。先述の通り、芸能六斎復活を目指す小学生たちです。
昔は千本など他の講に教えるほど盛んだったという上鳥羽の芸能六斎ですが、90年程前に途絶。
それを、壬生六斎の助けを借りて復活させると。ジュニア、演舞の前にまずは地蔵堂へお参り。


上鳥羽六斎ジュニアが始まったのは、去年 = 2011年からだとか。
始まった段階では6人だったのが、今年は子供たちが24人にまで増えたんだそうです。
それでもまだ2年ということで、奉納されるのは芸能六斎の基本中の基本である、四つ太鼓のみ。
壬生の講中の人たちが笛でヘルプを行う中、子供たちが六斎太鼓を叩いていきます。


四つ太鼓のみとはいえ、ジュニア、はっきり言って、上手いです。
「去年は始めたばかりだったが、今年はかなりのもの」 と、偉いさんが自負されてましたが、
何人かの演奏はかなりのレベルに達していて、また、太鼓の周りをおどけたりと芸もありました。
芸能六斎の名声を取り戻す日も、近いかも。六斎ファンは、しばらく目が離せないでしょう。


ラストは、ジュニアに指導協力してる壬生六斎による、模範演技。
セッティングの時間稼ぎに蜘蛛の糸を撒き、鉦などが揃ったところで、演舞開始。
舞台が超狭いためか、こちらも演奏するのは四つ太鼓のみ。しかし、これがまあ、物凄かった。
至近距離で拝むため、壬生寺で見たよりも遥かに派手に見え、迫力が半端ありません。


一本ブチでの高速4連打・曲打ち・相打ちなどを、次々と決めまくる壬生講中。
効率的な叩き方を排し、全身で小さなドラムマシンを演奏するような、六斎の異様なドラミング。
ゆえにモタリ負荷みたいなのが凄まじく、叩き手の体から放射されるグルーヴは、極めて強烈です。
硬質な振動が直に伝わるのが最高ですが、太鼓を目の前で見てる子供たちの顔も、最高。


で、21時頃、全ての奉納が終了しました。
普通なら、しばし境内に残り余韻に浸ったり、人々の動きを眺めたりするんですが、
あまりの暑さで一秒も我慢できず外へ飛び出し、ハーハー言いながら門前の写真撮ったの図。
自転車、多し。バスはもう無いのかと思ったら、四条大宮行きの奴が北上していきました。

客層は、何度も書いてる通り、徹底的に地元メインです。
というか、より正確に言えば、近所メイン。もっと正確に言えば、檀家メインというか。
誇張ではなく、その場にいるほぼ全員が、顔見知り。アウェー感 or 場違い感、とんでもありません。
7割くらいは30~80の中高年で、爺ちゃん婆ちゃんが小さい孫を連れてるケース、多し。
若者は、とにかくいません。これも書きましたが、「誰?」 と、顔を見られること、多し。
ネイティブ感、超過大。人圧の凄まじさもあって、超過大。あと暑さも、超超過大。
ただ、この客層+狭さ+暑さがないと生まれない空気が溢れてることは、確かだと思います。
ネイティブ系六斎に興味がある方は、潜り込んでみるのもいいんじゃないでしょうか。

そんな浄禅寺の、上鳥羽橋上鉦講中奉納。
好きな人と見たら、より六斎なんでしょう。
でも、ひとりで見ても、六斎です。

【客層】 (客層表記について)
カップル:若干
女性グループ:0
男性グループ:0
混成グループ:0
子供:0
中高年夫婦:1
中高年女性グループ:2
中高年団体 or グループ:6
単身女性:微 (仏大の姉ちゃん)
単身男性:1 (カメ。老人メイン)

【ひとりに向いてる度】
★★★
色気のプレッシャーはないが、アウェー感と人圧は甚大。
はっきり言って、他所者の独男が紛れ込むと、不審者全開。
しかし、この雰囲気を見てほしいとは思う。

【条件】
平日水曜 19:00~21:10


浄禅寺
京都市南区上鳥羽岩ノ本町93
通常拝観 9:00~17:00

京都市バス 地蔵前下車すぐ
近鉄電車 上鳥羽口下車 徒歩約20分
近鉄電車 or 市営地下鉄 竹田駅下車
徒歩約22分

恋塚浄禅寺(鳥羽地蔵) – 京都観光Navi