蔵王堂光福寺へ久世六斎念仏を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

2012年8月31日(金)


蔵王堂光福寺へ久世六斎念仏を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

都ゆえに溢れる芸能、その影響を受けた、京都の六斎念仏
しかしその講の多くは、都の中心というより周辺部、かつて農村だったエリアに集中してます。
近世、市街地に比して娯楽が少ない農村では、自分の楽しみとして、また若者流出防止策として、
多くが六斎の講を結成し、農閑期であるお盆近くとなれば、練習に励み、奉納を行ったとか。
また、大八車へ道具を積み込んで町場廻りも行い、貴重な現金収入なども得ていたといいます。
が、そんな民俗色の濃い農村エリアも、現代に入ると、格好の住宅地として開発されまくり。
六斎の講は残っても、その講の土台となった農村テイストが残る土地は、極めて稀になりました。
京都市内に点在する六斎の奉納を見て、あるいは奉納場所へ出かける途中のプロセスで、
昔は溢れてたであろう 「鄙」 な雰囲気を感じることは、少ないんじゃないでしょうか。
しかし、市の中心部から若干離れた南区久世・蔵王堂光福寺の久世六斎は、違います。
祇園祭最大のミステリーとも言われる久世駒形稚児を送り出す綾戸国中神社の近所にあって、
かつて 「京の七森」 と呼ばれた 「蔵王の森」 を持つ、修験系の寺・蔵王堂光福寺。
周辺こそベッタベタな郊外感&開発感が満ち満ちてますが、寺には濃いオーラを放つ森が残り、
八朔宵宮の8月31日夜になれば、縁日が立ち、超ネイティブな盛り上がりが展開されます。
久世六斎は、この蔵王堂光福寺発祥の六斎であり、この宵宮に行う奉納は、正にホーム公演。
他にはない大勢の観客、他にはない大勢の講員、そして森が生む闇に囲まれて観る奉納は、
「昔の六斎はこんな感じだったんじゃないか」 と思わせるものが、過剰にあります。
そんな超ディープで超ネイティブな久世六斎、忍び込んできました。


蔵王堂光福寺の最寄り駅は、JR桂川駅。バスは、よく知らん。
時間があるので、ミステリアスな久世駒形稚児を出す綾戸國中神社へ寄っていきました。
隣は新幹線の高架+向かいブックオフ+入り口もこんな感じ。どう見ても、普通の神社であります。
が、ここから出る稚児が到着しないと、祇園祭の神輿は動かんのです。実に、ミステリアス。


元々は 「綾戸」 と 「國中」 が別の神社だったという、綾戸國中神社。
本殿には、両方の看板と鈴が用意。当然、両方を参拝。賽銭箱は共同なので、一回だけ支払。
國中社の方は、これから向かう蔵王堂の中にあったとも言われてます。鎮守だったんでしょうか。
そんなミステリアスな雰囲気に浸りながら、手水の水を汲みオッチャンを横目に見つつ、退出。


で、蔵王堂光福寺へ。同好の士、というかネイティブ住民、多し。
駅からこの辺までは、それらしき人が全然いないのに、寺へ近づくと一気に増えました。
暴走自転車の二人乗り子供集団や暴走自転車の二人乗り母子集団などが、爆走すること甚だし。
道よく知らんけど連中に付いて行けば大丈夫だろと、田んぼの中の道を歩いてるの図。


嵐のような路上駐輪の向こうにあった、蔵王堂光福寺の入り口。多分。
寺の入り口というより露店ロードの入り口な感じですが、全ての人はここへ雪崩れ込んでます。
あそこ、入りたくないなあ。どこまで続くか、わからんもんなあ。寺のディティール、わからな過ぎ。
しかし、しょうがありません。常に正面突破が、我がサイトの身上です。というわけで、特攻。


特攻した途端に襲ってくる、暑気の熱気+人間の熱気+鉄板の熱気。
おまけに道狭過ぎ+混み過ぎ+露店で立ち止まる子供のため、行列はちっとも前へ進まず。
例えるなら、サウナで子供たちに押しくら饅頭され、その真横で焼き鳥を焼かれる感じ。たまらん。
さらには、延々と牛歩を続けてる最中、遠くの方から念仏の響きあり。やばい、もう始まったか。


結局、15分も牛歩を続けた末に到着した本堂前、六斎会場である拝殿。
開演には何とか間に合いました。さっきの念仏は何だったんでしょう。狂気の幻聴でしょうか。
それにしても、客、多し。拝殿前には150人くらいの長椅子席があり、もちろん全部が埋まってます。
周囲にも、立ち客&座り込み客、極めて多し。六斎でこんな大入り、見たことがありません。


到着してすぐ、19:20頃から、挨拶に次いで子供六斎が始まりました。
演奏は、四つ太鼓がメイン。とにかく、子供の数がまず多い。そして、レベルが平均的に高い。
どこの子供六斎にも突出して上手い子はいますが、ここはレベルが揃い、尚かつクオリティも高し。
大人がヘルプで入りがちな笛も、ここではほとんど自分たちが交代でやってました。凄い。


本堂と拝殿の間を渡す橋掛りでも、大勢の子供たちが演奏中。
人数も、練習量の多さを想像させるあたりも、六斎の定着度の強さを感じさせてくれます。
あ、この橋掛り、私は妙に好きで何度も下をくぐったんですが、普段からあるもんなんでしょうか。
というか、何で橋があるんでしょうか。演者は地面に降りない決まりでもあるんでしょうか。


とか言ってるうちに、拝殿には何と、獅子が登場。しかも、三匹も。
写真でもわかる通り、かぶりものの下は、まるっきり体操服の子供。完全に、単なる子供です。
なのに、動き出すと獅子そのもの。ごくごく普通に、クライマックスの盛り上がりを演出しています。
その後、土蜘蛛も何と三匹登場。獅子と格闘して、見事に糸吐き。で、子供六斎は終了。


子供の部とは思えない子供の部が終わったあとは、高学年の部。
高学年から中学生以上の子たちが出てきて、より本格的な太鼓曲を演奏してくれます。
四つ太鼓を決めると、こちらも獅子&土蜘蛛、登場。で、大人さながりに暴れまわったのち、糸吐き。
「これで終わり?」 「まだ大人のがあるやろ」 という声が聞こえるほどの完成度でした。


ハイレベルな子供六斎で、すっかり六斎を堪能した気分になっていると、
20:15、寄せ太鼓が打ち鳴らされ、大人の部というか、本当の久世六斎が始まりました。
最初の演目は当然、発願。ここではソロ+マイクで、念仏がよりクリアに聞こえる形で歌ってます。
続いて、「鉄輪」 などの太鼓曲を立て続けに演奏。拝殿まわりの客、増えるばっかりです。


「祇園囃子」 では 「入れ事」 として、仮装した乱入者、多数あり。
まず、いかつい顔した小坊主が木魚を叩きながら現れ、次いで太鼓片手のひょっとこが闖入。
そして御覧のおたふくが、大人の部に相応しいというか、ほとんど18禁な腰振りを、延々と展開。
本当にカックンカックンと、振りまくってました。ファンキー。もしくは、豊穣祈願。


大暴れの後、演目はじっくりと太鼓の技を見せる展開へ移行します。
「八兵衛さらし」 、そして相打ちなどを決める 「四つ太鼓」 など、太鼓曲を続けて演奏。
「祇園囃子」 の何でもありな大騒ぎから一転して、雰囲気は念仏六斎に近いものを感じるほどです。
久世六斎で何より印象的だったのが、このあたりの太鼓曲の曲数&演奏の充実ぶりでした。


二人が表拍と裏拍を超高速で打ち分け演奏する 「やぐら」 や、
「猿まわし」 「八嶋」 「汐汲み」 など、見栄えも良い太鼓曲が次々と繰り出されていきます。
特に 「源平盛衰記」 では、御覧のように大太鼓の人まで太鼓を背中に乗っけての曲打ちを披露。
バラエティと念仏のジャストな共存。これもまた、まるで六斎の原風景を見てるようです。


そして、ハードな曲打ちの 「獅子太鼓」 に続き、いよいよ獅子が登場。
2匹現れた獅子は、周りの子供をビビらせながら絡み&逆立ちを展開したのち、1匹が退場。
何故か消防局員にも見守られながら、残ったもう一匹が御覧のように碁盤乗りを決めてくれます。
獅子自体もそうですが、周囲の人の緊張感が常に凄く、この演目はどこで何度見ても、怖い。


そして最後はもちろん、ラスボスである土蜘蛛が登場。
マントを被ったまま獅子と激しいバトルを繰り広げたのち、マントを捨てて糸を吐きまくり。
ここの土蜘蛛は、「ええもん」 か 「ワルもん」 か、どっちなんでしょう。どっちでもいいんでしょうか。
客席にも大量に糸を投げ、21:50、終了。 「これこそ六斎だ」 と言いたくなるような公演でした。


で、終わったら、帰ります。というか、帰れるのか。
依然として、混雑で寺のディティールは、掴めません。ここは、どこだ。どこの、どのあたりだ。
結局、帰りも流れに流されるまま露店ロードを牛歩、最初の入口まで12分かけて辿り着きました。
でも、桂川駅まで着くと、祭の喧騒はほとんど、なし。やはり、超ネイティブ&超ディープです。

客層はとことん、地元メイン。
いずれの属性も、地元テイスト。観光系はおろか、近隣からの客も少なそうです。
JR駅から祭へ向かう人間が皆無に近いのに対し、自転車で寺へ向かう人は凄まじく多し。
カップルは、いなくはないですが少なく、おまけに完全地元系なので、観光系の恋愛ハイはなし。
若者は多いですが、子供寄り+地元なので、無軌道にはしゃぐ阿呆は案外と少ないです。
親子連れもまた、完全地元系。ニューファミリー的なノリではなく、とことんネイティブ。
単独は、男がカメと変人がちょっとずつ。女は、殺伐とした好き者系がほんのちょっといるくらい。
人圧は、強烈。人そのものも多いし、境内も狭い。走り回る子供が、常時ぶつかってきます。
おかげで、超ネイティブでありながら、細かい浮きを気にしなくて済むかも知れません。

そんな蔵王堂光福寺の久世六斎。
好きな人と観たら、より六斎なんでしょう。
でも、ひとりで観ても、六斎です。

【客層】 (客層表記について)
カップル:若干
女性グループ:1
男性グループ:1
混成グループ:若干
子供:2
中高年夫婦:1
中高年女性グループ:1
中高年団体 or グループ:4
単身女性:微
単身男性:若干

【ひとりに向いてる度】
★★★
基本、人圧が最大のプレッシャー。
再生産系プレッシャーはかなりあるかも知れないし、
超ネイティブ空間ゆえ、アウェー感もかなりのものだが、
あまりにも混み過ぎるため、細かい事は気にならない。
おおむね、体力勝負。

【条件】
平日金曜 18:50~22:10


蔵王堂光福寺
京都市南区久世上久世町826

JR東海道線 桂川駅下車 徒歩約10分
阪急電車 洛西口駅下車 徒歩約20分
京都市バス 北上久世下車 徒歩すぐ