宮川町歌舞練場へ京おどりを観に行きました。もちろん、ひとりで。

2013年4月8日(月)


宮川町歌舞練場へ京おどりを観に行きました。もちろん、ひとりで。

宮川町。言うまでもなく、京都五花街のうちのひとつです。
川端四条の南、祇園祭の神輿洗式が行われる鴨川 = 宮川のほとりにあって、
伏見城方広寺建設で大和大路が賑わった時代あたりから、茶屋が並ぶようになり、花街化。
近くの河原では出雲阿国歌舞伎を創始し、現在も残る南座を始めとして芝居小屋も林立、
さらには美少年の歌舞伎役者が女犯禁止の僧侶相手に男娼となる 「陰間茶屋」 でも名を売るなど、
実に 「聖」 と 「芸能」 と 「俗」 が濃厚に入り混じる、花街らしい由緒を誇る街であります。
「俗」 「裏」 は時を経るごとに後景化、昭和33年の売春防止法施行以降は芸舞妓一本となり、
現在は観光テイストが濃い甲部のお隣にあって、比較的ネイティブな花街の存在感を見せてます。
京おどりは、そんな宮川町の芸舞妓はんらが芸を披露する、春の舞踊公演。
「京をどり」 ではございません。あくまで、「京おどり」 。何故かは全然知りませんが。
初演は昭和25年と、明治スタートの都をどり鴨川をどりなどと比べると割と最近ですが、
楽しんでもらうことをモットーとした若柳流の振付で、観光客のみならず地元にも愛好者、多し。
で、そのおどりへ行ってきたわけです。もちろん、予約とか一切なしの、飛び込みで。
私は知ってます。 「京都 をどり チケット」 で検索をかける人間の多さを、私は知ってます。
うちみたいな零細サイトにさえ、どれだけの人がそのワードで飛んでくるかを、私は知ってます。
本当に観たいなら、事前にチケットを確保した方がいい。わかってます。でも、しない。
何故か。面倒くさいから。あと、飛び込みでどれくらい行けるか、確認したいから。
というわけで、また手ぶらで特攻です。よい子は真似しちゃ、駄目。


宮川町歌舞練場があるのは、南座から南へ行ったあたり。
阿国歌舞伎発祥地の石碑の前を過ぎ、しばらく歩くと、「京おどり」 と書かれた雪洞が現れます。
花街なビジュアル全開の歴史的景観地区を通って劇場へ向かうのも、もちろんいいですが、
町の名の由来である宮川 = 鴨川をより近くに感じて歩くのも、いいもんですよ。


で、「宮川」 の名の生むことになった、鴨川の河川敷。
桜がきれいに咲いてますが、夏になれば、ここで祇園祭・神輿洗用の水を汲むわけです。
現在は奥に写る四条大橋の上で行われる神輿洗式ですが、元来はここで行われたという話も。
ゆえにこの辺の鴨川は宮川と呼ばれ、その河原に出来た町は宮川町と呼ばれた、と。


近くには、謎な名前のラブホあり。 「と、いうわけで」 とは、どういうわけだ。
なかなかに嘆かわしいですが、しかしそもそもここは、出雲阿国が激エロスに踊った地。
坊さん相手に美少年の役者が体を売り、そして他の花街に比べ比較的遅くまで遊郭が残った地。
この猥雑さこそが、あるいは美観地区よりも相応しいのかも知れません。いや、嘘です。


「第64回京おどり」 のデコが輝く、宮川町歌舞練場玄関にやって参りました。
現在の建物は、1969年製。それ以前の15年間は、近くの南座を借りて行われてたとか。
じゃ、チケット買いましょうか。公演は、12時半・14時半・16時半の三回制。で、現在、12:40。
14時半の回は無理としても、16時半は、何とか、いけるかも。勝負です。


で、チケット、あっけなく買えました。14時半の回の二等席、2000円なり。
「今日の分、ありますか?」 と窓口で訊くと、当たり前のように 「はい」 。空いてるんでしょうか。
ゲットしたのは、イ列の2番。2階席、最前列です。一番上手寄りの席です。空いてるんでしょうか。
一等4000円&一等お茶席付4500円の売り行きは、訊いてもいないので、知りません。


いや、そういえば買うときに 「お茶席、どうしますか」 と訊かれました。
都をどりでは一等席限定のオプションだった、芸舞妓さんのお点前によるお茶席。
ここでは、二等でも500円の追加でお願いできるようです。茶菓子の皿も、持って帰れるとか。
お茶を嗜む独男の方は、是非。私はお茶を嗜まずケチなので、すんなりとスルーどす。


開演まで時間があるので、劇場の近所、つまり花街をうろつきます。
町並が割と新しく見える宮川町ですが、観光用に捏造されたわけではありません。
むしろ、逆。普通に地元の人気が強いゆえ、普通に家を建て直してるだけだったりします。
他の花街で嫌われたどっかの社長が、腹いせで金をブッ込んだという説もありますが。


とはいえ、やはり指定を受けた歴史的景観地区だけあって、
普通に自転車で走る人の横でも、それなりに観光向けのショップが頑張ってたりもします。
写真はその典型、異貌ゆえテレビとかでもよく出てくる、変身舞妓屋の看板娘 「マイカ」 ちゃん
他にも、意外と安い宿やゲストハウス、美味げな食い物屋などが点在。


時間はちょうど、昼。私も美味げな店でメシを食うことにします。
この辺で美味げな店といえば、「焼きそば おやじ」です。誰も同意してくれなくても、決まりです。
かつては昼の2時間しか営業しないという蜃気楼のような店でしたが、現在は夜も営業。
ただ、その夜の営業時間もやっぱり2時間程度。基本、いつも閉まってます。

紙に自分で注文を書くという独特のシステムを持つ、おやじ。
「1玉+豚肉+キャベツ」 でオーダーし、鉄板で直にサーブされた焼きそば、900円。
「鴨川で釣った鯉がでこうなり過ぎて困る」 みたいな話を聞きながら、小皿に受けて食す。
ちなみに、店名は 「おやじ」 ですが、店を回しているのはおばちゃんだけです。


鉄板の真ん前で食ったため、全身からソース臭が爆裂状態。
このまま劇場へ行くのも気が引けるので、町をさらにうろついて、匂いを飛ばします。
全くどうでもいいことですが、私、随分前にWEB関係のバイトの面接でこの辺の●●に来たら、
思いっきり●●い風体の人に●●い仕事を紹介されました。あの●●、元気でしょうか。


14時、開演30分前になりました。ぼちぼち、入場しましょう。
先刻はほぼ無人の劇場前が、人だらけ。写真ではわかりにくいですが、和装率、高いです。
入ってすぐのところでチケットをもぎってもらい、お茶席で大混雑になってるエントランスを抜け、
やはり混雑で近づきようのない売店をスルー、二等席のある二階へ向かいます。


宮川町歌舞練場、二階から見た場内。結構、小さいですね。
キャパは、トータルで487席。一階の方がずっと多くて、328席。二階は、159席。
開演まで時間があるためか、みなさんお茶席で忙しいのか、上下ともさほど埋まってません。
あ、一階席の奥にあるのは、お囃子ボックス。こっち側の真下にも、あります。


開演10分前、自分の席イ-2に座ってみました。舞台、近っ。
結局、一階席は9割5分の入り。後がちょこっと空いてるくらいで、ほぼ満員になりました。
対して二階席は、3割程度の入り。後から遅れてきた団体が入りましたが、それでも4割くらい。
真横に照明の兄ちゃんが来たと思ったら客電が落ち、14:30、京おどり、スタートです。


上演中はもちろん、撮影禁止。なので、文字と漆黒の闇のみでお楽しみ下さい。
今年の演目は、京都の四季折々の風物をテーマに舞絵巻を展開する 「京浪漫花吹雪」 。
初夏の藤に始まり、夏の都大路、冬の雪女、そして翌春の桜に至るまでを、全七景で描きます。
さっそく芸舞妓さんたちが現れ、金屏風を背に舞う第1景 「夜の藤」 の、始まり始まり。


舞妓はん芸妓はんらが、はんなりと斜め上を見つめる、決めポーズ。
二階の上手にいると、そのポーズのたびにこっちを見てる気がして、しょうがありません。
何度も目が合ってるような気がして、しょうがありません。う~む、ええわ。ものすご、ええわ。
などと呆けてる内に、舞台は風の稚児と水の娘が夏の到来を告げる第2幕 「風と水と」 へ。


第3景から第5景は、「都大路」 。祇園会に湧く京の町での女模様を描きます。
コミカルな大原女、女水売りのソロ、子供のような舞妓さんの歌と演奏と、見せ所いっぱいです。
舞台の進行は、都おどりと同じく、ほぼ完全にノンストップ状態。セットチェンジも、ほぼ一瞬。
あまりに一瞬で場面が切り替わるため、拍手をするタイミングさえ掴めません。


第6景 「雪女」 では、雰囲気を変え、ドラマティックな三人芝居を展開。
京おどりは今年から演出家が変わったそうですが、それゆえでしょうか、ここは特に演劇的。
京都に雪女がいるかは知りませんが、照明や仕掛を駆使しての大芝居は、実に盛り上がります。
それに、雪女が実に艶っぽかった。私の席からだと首筋がよく見えて、何かもう、エロかった。


第7景は、フィナーレ・大団円にあたる 「宮川音頭」 です。
天井からいきなり大量の提灯がぶら下がり、舞台は桜吹雪の大覚寺唐門へと早がわり。
花道にまで芸舞妓さんたちが並び、総踊りを繰り広げます。で、踊りながら幕が下りて、終了。
トータルタイム、ジャスト一時間。あっという間の京の浪漫でございました。


終わったので、帰ります。また鬼のような混雑の中、帰ります。
「お茶席は終了しました」 というアナウンスを聞きながら、牛歩で出口を目指すの図。
売店などはまた、全然見れませんでした。パンフとか、宮川町グッズとか、見たかったなあ。
あ、左に写ってるレッド・ツェッペリンみたいなマークは、宮川町の紋章です。


レミングの行進に巻き込まれ、歯磨きのように外へ押し出されたの図。
劇場の周囲では、観劇客が余韻に浸ったり、集まって歓談に花を咲かせたりしています。
その中を、地元の原付が 「邪魔じゃ邪魔じゃ邪魔じゃ」 と、ひき殺す勢いで疾走してたりもします。
天国への階段を登らされないよう、往来に気をつけながら、私も帰りますどす。

客層は、ほぼ完全に中高年オンリーです。
若いカップル、女性グループ、アホの若者団体などは、影も形もありません。
観光テイストは意外と低く、全体の半分もいってない感じでしょうか。団体も、少なし。
残りは地元系なわけですが、といってもディープとかネイティブ全開という感じではなく、
それなりに身なりも挙動も外出モードでちゃんとしてる人たちが大半です。
花街に関係してるのか舞踊を習ってるのか知りませんが、とにかく客の知り合い率、高し。
その手の連中の和装率、特に一階席の和装率の高さは、尋常ではありません。
洋服でも、ラフな人は少なめ。シャツ1にジーパン姿なのは、私だけだったんじゃないでしょうか。
単独は、私みたいなのと、仕事絡みか花街好きっぽいおっさんくらい。

なかなかに、アウェーな状況です。貧乏独男的には、アウェーな状況です。
しかし、色気などのプレッシャーはありませんし、それに何より、花街の本来の客は、男。
金がない男は除外される気もしますが、とにかく遠慮する理由はあまりありません。
興味があれば、浮くのを覚悟で出かけてみるのも、いいんじゃないでしょうか。

そんな、宮川町歌舞練場の京おどり。
好きな人と観たら、よりおどりなんでしょう。
でも、ひとりで観ても、おどりです。

【客層】 (客層表記について)
カップル:微量
女性グループ:0
男性グループ:0
混成グループ:0
子供:0
中高年夫婦:2
中高年女性グループ:3
中高年団体 or グループ:5
単身女性:微量
単身男性:微量
【ひとりに向いてる度】
★★
独男だと、基本的に間違いなく、浮く。
これといったプレッシャーはないが、間違いなく、浮く。
むしろアウェー感を楽しむくらいの気持ちで、行ってほしい。

【条件】
平日月曜 12:40~15:40


宮川町歌舞練場
京都市東山区宮川筋4丁目306

京阪電車 清水五条駅下車 徒歩約7分
京都市バス 河原町松原下車 徒歩約7分
市営地下鉄 三条京阪駅下車 徒歩約20分

京おどり
毎年4月上旬、宮川町歌舞練場にて開催

舞妓さんにあえるまち|宮川町 – 宮川町公式

京おどり – Wikipedia

宮川町 – Wikipedia