イカリヤ食堂で、昼床を楽しんできました。もちろん、ひとりで。

2017年5月19日(金)


イカリヤ食堂で、昼床を楽しんできました。もちろん、ひとりで。

洛中洛外図・舟木本には、今まさに五条大橋を潜ろうとする川船が描かれています。
花見帰りらしき乱痴気集団が、踊り狂いながら橋を渡るその下を、薪を満載して進む、高瀬船。
当時の民衆の姿により焦点を合わせたと考えられている舟木本の、ハイライトとも言える描写です。
大仏殿再建の為に角倉了以鴨川疏通を行ったのは、この絵の製作期と推定される慶長期なので、
こういった光景は、時事トピック的な表現の格好のネタとして認識されていたのかも知れません。
もちろん、鴨川は白河帝も手を焼く暴れ川ゆえ、疏通で設置された河川施設をあっという間に粉砕。
了以はすぐ、より安全で確実に運行出来る運河・高瀬川の開削を、鴨川の真横にて開始します。
で、開削後の安全&確実な高瀬川が、京阪間交易の最重要ルートとなったのは、周知の通りです。
では、 「鴨川を川船が行き交う」 という舟木本の光景は、慶長期にのみ見られたものなのでしょうか。
そんなことも、ないでしょう。暴れ川も、暴れてなければ便利な川。船が通ることも、あったでしょう。
夏になれば、 「川床の前を川船が進む」 みたいな風雅な光景も、生じなかったとは限りません。
「春の陽気に誘われた民が、船を眺めながら河原で飲食」 なんてことも、なかったとは限りません。
河川交通によって都市が機能していた時代の京都とは、即ち、真に 「都」 であった時代の京都。
真の 「都」 としての京都について考えるなら、より立体的かつ体感的に 「都」 について考えるなら、
船に纏わるこうした風雅へ想いを巡らせることもまた、アプローチとして有効なのではないでしょうか。
そう考えた私は今回、この風雅を主として舌で体感すべく、イカリヤ食堂の床へ出かけてみました。
イカリヤ食堂。鴨川西岸の下木屋町エリアにあって、錨をシンボルとする川床付きの洋食店です。
出来た頃は確か夜営業しかやってなかったと思いますが、近年は昼床シーズンにランチ床を展開。
で、そのランチ床へ忍び込み、初夏の光に輝く鴨川を眺めながらスペシャルコースを食いまくり、
錨のロゴを見たりもしながら、錨があったかどうかは不明の川船へ想いを巡らせてみたのであります。
そう、これはあくまでも新たな挑戦なのです。 「都」 の風雅を体感的に捉え直す為の挑戦なのです。
決して、椅子席床の記事に客がよく来るので、ダメ押しで洋食店へ行ったのでは、ありません。
断じて、そもそも美味い店なので、単に美味いもんを食いに行ったわけでも、ありません。


単に美味いもんを食いに行くだけなので、どうでもいいことではありますが、一応、舟木本
秀吉が架けた新・五条大橋を渡るのは、高台院が率いる乱痴気集団。その下を進むのは、船二隻。
大坂夏の陣で消える豊臣方と、高瀬川に船を奪われる鴨川の、束間の栄華みたいなもんでしょうか。
この栄華の残り香を錨マークに求め、今回は鴨川へ出かけましょう。というテイで、出かけましょう。


で、真の 「都」 の風雅を求めるテイでやって来た、現在の五条大橋。時刻は、12時50分。
例年の昼床特攻と同様、この辺から床へ向かおうと思います。まずは木屋町通へ入るべく、渡橋。
五条大橋周辺、観光客はいなくはないですが、割と少なめ。中国人は、何故か川端通にやたら多し。
天気は、狂ったように良ろし。ので、極めて暑いです。堤防の花も、狂ったような勢いで咲きまくり。


狂ったように天気が良いので、橋上からは川底もよく見えます。魚の影を眺めること、しばし。
そういえば舟木本、漁師も描かれてました。泳ぐ奴も描かれてたけど。で、橋を渡って、木屋町通へ。
木屋町通は、西洋系の客が多し。そこに、日本の修学旅行生&修学旅行やり直し生が混ざるという。
橋から見えた床は混んでた鶴清、表は普段通りの風情。混み加減、表からだと、わかりませんね。


今回は、最初からイカリヤ食堂へ行くつもりです。が、混み加減次第では退却・転進も辞さず。
なので、改めて対岸の川東から川床の混み加減を確かめるべく、元々の五条橋 = 松原橋を、渡橋。
下木屋町エリアの昼床は、そもそも開いてない店と、客が入りまくってる店が、はっきり分かれる感じ。
で、際コーポレーションのスコルピオーネ吉右、そしてイカリヤ食堂の床は、パンパンに入りまくり。


どうしよう。日和ろうかな。別の店にしようかな。と、新緑越しに床を見ながら悩むこと、しばし。
でもイカリヤ食堂、割と美味いんですよ。私は、昼に数回行っただけですが。でも、美味いんですよ。
悩んだ末、昼のオーダーストップが13時半なので、とりあえず入れるかどうかだけ訊くことにしました。
で、団栗橋を渡ってまた木屋町通へ入り、鳥彌三をスルーして、南下。錨マーク、見えてきましたね。


で、到着した、イカリヤ食堂前。あ、手前の石壁は、別の店です。イカリヤ食堂は、路地の奥。
路地の入口には、昼床のメニューが張り出されてました。あれこれと全込みで、2000円台。入ります。
路地を進んで玄関へ行き、店員さんに 「ひとりなんですけど、床、行けますか」 と訊いたら、大丈夫と。
メニューがコース一種類のみの件と、なのでアレルギー大丈夫かの件の確認をしたら、しばし待機。


玄関で待つ間、おばさんグループが退店。これでまず座れるなと安心してると、呼ばれました。
靴のまま上がり込み、屋内席もかなり埋まってる町家リノベ系の店内を奥へ進み、少し狭めな床へ。
床は、10テーブル程度の席が、7割程度の入り。南側隅の川沿い席が空いてて、そこへ通されました。
床感は、極めて良好です。が、正直言って、暑い。日除けはしっかり効いてますが、それでも、暑い。


メニューの錨マークに船の趣を感じてると、店員さんが水を持ってきて、あとオーダーも再確認。
一種のみの川床コースは、こんな感じ。前菜・パスタ・メインにパン・ドリンクが付く、普通なものです。
これで、床で、2000円台。お得でしょう。料理ジャンルがフレンチなのか何なのかは、知りませんけど。
ドリンクは、暑いのでアイスコーヒーを頼みました。あ、ワインなどは追加でオーダーが出来ますよ。


で、まずは初夏らしい冷前菜。北海道産ダコのマリネ、赤パプリカのガスパチョで。


続いては、 「焼き上がりました」 とか言いながら運ばれた、パン。エシレバターで。


で、パンを速攻で丸食いしたので暇になり、茫然と隣の床でも眺めるの図。


まだ暇なので、客待ちしてる隣席の青い椅子越しに、鴨川でも眺めるの図。


来ました、ガルガネッリ。仔牛サルシッチャとエンドウ豆のレモンクリームソースで。


これが美味かった、イベリコ豚の肩ロース、香草パン粉焼き。ソースリヨネーズで。


で、メインの美味さに気を良くし、勢いで何ちゃらスイーツを追加したの図。


で、ラストのドリンクは、アイスコーヒー。コーヒーシロップと、コーヒーフレッシュで。


で、食い終わりました。美味かった。なかなか、美味かった。メインは、はっきりと、美味かった。
以前来た時は、パスタが良かったんですけどね。常に何か一皿、良いのがある感じなんでしょうか。
美味かったので、思わず食うことだけに集中してしまい、川床にいることさえほとんど忘れてましたよ。
なので食後には、床の情緒もしばし堪能。で、堪能したら、席で勘定し、退店。ごちそうさまでした。


女子二人がじぃ~っと見てる店前の路地を、まるで自分が見られてるような気分で歩いて抜け、
何だか自分が凄くイケてる奴になった気になりながら、鴨川へ出て勘定のレシートなど眺めるの図。
これだけ楽しんで、3000円少々。ウハウハです。舟木本がどうとか風雅がこうとか、忘れて当然です。
とはいえ、テイはテイで、大事。なので、レシートの錨と鴨川を重ねて、また船の趣を感じてみたり。


で、悦に入るだけ入ったら、帰ります。が、その前に、団栗以北の街の様子も見ていきましょう。
以前に昼床特攻したタイ料理店のバーン・リムナームは、相変わらず店前に関係ない車が停車中。
西石垣通のエロゾーンへ進むと、みつらん鉄道の勇姿が消えて、京都人妻何ちゃらに化けてました。
「回転式団地型」 なる 「型」 が生むのであろう、 「都」 の団地の風雅に、思わず妄想が湧きまくり。


先斗町へ入ると、アジア系の客が減少気味。遂に飽きられたのかと、感慨に浸ること、しばし。
逆に、西洋系外人客の姿は、増えたような。で、レベルが低めな人を見かけることも、増えたような。
鴨川をどり中の歌舞練場を抜けたら、三条大橋を渡橋。結局、船も風雅も関係ないまま、帰りました。
ただ、空は実に、風雅。舟木本の時代の人々が船から見た空も、きっとこんな色だったでしょうね。

この日のイカリヤ食堂の昼床、客は全ておばさんグループ。
仕事の昼休みのグループとかではなく、主婦らしきおばさん達のグループ。
オーダーストップ直前に入店したので、後客は一組だけでしたが、それもおばさん二人組。
床自体が小さめで、席のピッチも極めて狭い為、すぐ近くでおばさん達の会話を聞くこととなり、
ある意味、食うことに集中せざるを得ない、そんな昼床ではありました。
が、その食うことそのものの満足度はかなり高く、CPも相当に良いと思います。

そんなイカリヤ食堂の、昼床。
好きな人と行ったら、より川床なんでしょう。
でも、ひとりで行っても、川床です。


【ひとりに向いてる度】
★★★★
アウェーであることは間違いない。
おまけにかなり狭くて、接近戦を強いられる。
が、サービスおよびCPはかなり良好。
隣に変な奴や性質の悪い団体がいなければ、
恐らく問題はないと思う。

【条件】
平日金曜 13:20~14:10
 

イカリヤ食堂
京都市下京区木屋町斎藤町138-2
開いてる時は開いている

京阪電車 祇園四条駅下車 徒歩約5分
阪急電車 河原町駅下車 徒歩約5分

イカリヤ食堂 – 公式