花園・妙心寺北門前の京料理・萬長で、鱧づくし御膳を楽しんできました。もちろん、ひとりで。

2018年8月10日(金)


京料理・萬長で、鱧づくし御膳を楽しんできました。もちろん、ひとりで。

禅宗と、。関係がないと言われたら、あまりにも関係がない組み合わせです。
かたや、食さえも厳格に修行化すべく、殺生の一切を排す精進料理を生み出した、仏教思想。
かたや、遠海からでも運搬可能な生命力の塊をザクザクと骨を切って食らう、京都の夏の風物詩
禅の思想をそのままレシピ化した精進料理が、名に反して精を削ぐストイックさを誇るのに対し、
生命力溢れる鱧は、食えば食うほど精つきまくりの夏バテ防止策と、違うにも程があるという話です。
しかし私は、禅宗と鱧の間には何か近いものがある、と感じてます。関係がある、と思ってます。
厳密に言うなら、鱧の調理法には精進料理からの影響が感じられる、と言った方が正確でしょうか。
本当に美味しい鱧の落としを食した時などに感じる、 「技術によって、生魚が作られてる」 という印象。
あの、食材そのものよりも技術こそが 「生」 を生む感じは、精進料理の何かに近いのではないか。
鯰を瓢で得ようと無理を通す禅の心と、夏の京都に 「生魚」 を現出させることは、近いのではないか。
禅と鱧を巡るそんな思念を深めるべく、私は今回、妙心寺北門前の萬長へ赴いたのです。
妙心寺。言うまでもなく、臨済宗妙心寺派の大本山であり、禅寺の中の禅寺と言える大寺であります。
京都・花園の広い境内は、全域が禅テイストでまとめられ、質実&ストイックな精神世界を具現化。
数多の塔頭も擁し、その中の東林院が精進料理を供してるのは、うちの小豆粥記事でも触れた通り。
萬長は、そんな妙心寺の北門のすぐ前にあって、妙心寺と同様に質実な雰囲気を持つ料理店です。
夏は鱧も扱ってて、昼には 「鱧づくし御膳」 も提供。で、今回、これを食べに行ったのであります。
魚肉を食せぬ環境に於いて、それでも何とか肉食の満足を得んとして大きな発達を見た、精進料理。
そんな精進料理の影響を受けて発達した京料理の中で、夏の 「生魚」 を現出させた、鱧料理。
この両者の関係を、大禅刹の目前で 「鱧づくし御膳」 を食いながら哲学的に考えてみたのでした。
断じて、 『ひとりで食べる鱧』 の予算枠・3000円台に合致する店を検索してたら萬長を見つけ、
「鱧づくし御膳」 が税別ジャスト3000円なので行っただけ、なのではありません。


萬長の最寄駅は無論、嵐電北野線・妙心寺駅。 妙心寺南門は、JR花園駅が近いんですけど。
ただこの日は、妙心寺駅の前の御室仁和寺駅で下車。近いので、仁和寺も門だけ拝んでおきます。
世界遺産・仁和寺、激暑+盆で流石に客は少ないかと思ったら、門付近にはやはりそれなりに客あり。
北野線へ乗り換える帷子ノ辻駅では、白人が屯してましたが、ここも白人が多し。盆休みでしょうか。


仁和寺の門を拝んだら、きゅうり封じの蓮華寺の前まで東進し、ややこしい交差点を斜南東へ。
風情は突如、濃厚に昭和な生活感溢れるものに変化します。この感じ、今ではむしろ貴重ですけど。
謎な匂いがするかしわ屋や謎な雰囲気のカフェ、 「町の本屋」 な町の本屋などの先には、妙心寺駅
妙心寺駅、千鳥式配置で、渋い。そして、近い。御室仁和寺駅からだと、徒歩10分もかかりません。


で、その妙心寺駅を過ぎてすぐ、文字通り妙心寺北門のすぐ前に、京料理・萬長はあります。
妙心寺北門は、右奥に見えてる、あれ。この日はおしょらいさんをやってて、往来が結構、盛んです。
そう、妙心寺でもおしょらいさん、やってるんですよ。そのせいか何なのか、車などが通る数も、多め。
そんな場所に建つ萬長は、町家を店っぽくした感じの雰囲気とサイジング。渋めなお店であります。


店の前には出格子看板があり、萬長の名物という 「つれづれ弁当」 の表記が一際大きくあり。
つれづれ。当然、 『徒然草』 第52段に仁和寺の坊主が出てくることに因んだネーミングなんでしょう。
妙心寺前なのに、これ如何に。なんですが、妙心寺の地は元来、仁和寺境内。なので多分、無問題。
それに、私が食べるのは 「鱧づくし御膳」 。出格子看板にも 「鱧づくし御膳」 、出てます。入ります。


入ると、大将らしき人が 「おひとりですか」 と訊くので、そうと答えると、中へ通されました。
中は外観通り、リノベ系町家の店と同じくらいのサイジングであり、雰囲気もまた和風リノベ系な感じ。
といっても、お洒落系や気張ったテイストではなく、ちょっといいうどん屋よりちょっといいくらいな感じ。
7~8卓あるテーブルの玄関側を選んで座り、前の道の賑わいを感じながら、とりあえずお茶で一服。


そう、前の道、賑やかなんですよね。ただ通るのは、観光客よりも生活者の方が全然、多し。
やはり、おしょらいさんでしょうか。人気なんですね、妙心寺でも。帰りに、様子を覗いてみましょうか。
とか思いながら 「鱧づくし御膳」 をすぐに頼み、様々な調理音と調理香を感じながら待つこと、しばし。
揚音も、聞こえてきます。 「づくし」 、バラではなく、ある程度揃った状態で持ってくるみたいですね。


で、揃った状態で運ばれた、 「鱧づくし御膳」 。妙心寺から衣笠山までを描いた箸袋が、渋し。
ラインナップは、鱧の落としに天麩羅、蓋付きの丼系と吸物系、鱧きゅうらしき小鉢、そして香物。


最初に食べるのは、もちろん、鱧の落としです。味は、割と普通。でも、ちょっと美味しい。


美味しいのは、食感。骨切りの細かさと綺麗な牡丹ぶり、そして上手く残した皮が、割と美味。


天麩羅の方は、鱧天と野菜天。野菜天が意外に美味く、特にれんこんは異常に美味しい。


鱧天も、もちろん、美味し。ジューシーで旨味も多い感じ。そしてこちらも骨切りは、実に繊細。


丼系は、鱧の照焼き丼。タレが沁みた飯が柔らく、また山椒も効いてて、普通に美味しい。


吸物系は、鱧からちょっと離れて、魚そうめん&謎野菜・ジュンサイの吸物。魚そうめん、美味。


小鉢は、鱧ときゅうりの酢の物。プチトマトの色&味的なアクセントも効いてて、美味しい。


で、香物を茶と共に食して、食了。ちょっと良い昼食としては丁度な分量、という感じでしょうか。
世界遺産に間近な場所の割には、穏やかな雰囲気&リーズナブルに鱧が楽しめたと思います。


で、勘定を済まして、退店。席料やら何やら一切なしの、税込3240円でした。御馳走様でした。
店を出たら、昭和全開な割に往来が異常に激しい道を、改めて眺める。ここ、車も多いんですよね。
それも、狭くてややこしい道を見切った車ばかり。そういえば、食ってる最中にはバスも通ってました。
やはり、おしょらいさんでしょうか。となれば、帰る前に妙心寺に寄って、様子を覗いてみましょうか。


で、ひっきりなしに人と車が出たり入ったりしてる北門を通って、おしょらいさんの妙心寺境内へ。
伽藍では、奉納された沢山の灯籠が、掲揚中。 『進撃』 の灯籠には、どんなことを祈るんでしょうか。
水塔婆も、受付が複数設置される盛況ぶり。送り鐘も、よく突かれてます。実に、おしょらいさんです。
メガホンスピーカーでは、おばちゃんが御詠歌や水塔婆読み上げを延々展開。おしょらいさんです。


境内には、露店などもあり。禅風味爆裂な妙心寺の普段の姿を考えると、意外な気もします。
が、夜とかに近所の人が自転車が通り抜けてるのを思い返すと、意外でもない気もするんですよね。
墨絵風のバルタン星人灯籠は、どうにも意外ですけど。宇宙忍者には、どんなことを祈るんでしょうか。
あるいは、技術こそが 「生」 を現出させる鱧料理と同様、特撮は、禅宗の心に通じてるんでしょうか。

この日の萬長、入った時間が14時過ぎの為か、私の他にはおばちゃん1名のみ。
なので、混んでる時がどんな感じかは不明ですが、ただ前の道を歩く人の感じを見てる分には、
阿呆の観光客だらけで地獄になるような可能性は、極めて低いと思われます。
おしょらいさんの頃、アーシーな妙心寺を感じながら鱧を楽しむのも、いいんじゃないでしょうか。

そんな京料理・萬長の、鱧づくし御膳。
好きな人と食べたら、より京都の夏の風物詩なんでしょう。
でも、ひとりで食べても、京都の夏の風物詩です。


 
 
【ひとりに向いてる度】
★★★★
CPは、まあまあ。アウェー感も、ほぼなし。
ゆっくりかつリーズナブルに鱧を楽しめる点と、
場所の良さを考えると、有難い存在かも。
 
【条件】
平日金曜 14:20~15:00
 
 
 
京料理・萬長
京都市右京区谷口園町24
11:00~20:00 (17時以降は要予約) 不定休

京料理・萬長 – 公式