京町家一軒貸し宿泊処・懐古庵を一軒借りして、聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【2】

2012年12月24日(月)


町家宿・懐古庵を一軒借りしての聖夜、続きです。

京都の町家の源流は、実に平安時代まで遡れるそうですが、
現代に続く町家の形は、応仁の乱の後、町人が街の主役になってから整い始めます。
正方形の条坊制町割に秀吉が図子を通し細分化して以降、土地の高度利用はさらに活性化し、
町家本来のレゾンデートルである商売スペースの共有や、間口割の賦課金低減などのため、
家々の間口は 「間口三間」 とよく言われるようにどんどん狭化+奥行きは果てしなく深化。
いわゆる 「うなぎの寝床」 の誕生です。 「これ、どこまで続くねん」 なアレの誕生です。
この果てしなき奥行きは、坪庭を挟むような表屋造の立派な町家などにも当然活用されましたが、
土地を前後で二分し、奥には家賃収入を見込んで借家を建てるケースも、増加します。
表通りから路地 = ロージが引かれ、 その路地を 「一軒路地」 として独占的に使う一軒家や、
井戸や流しや便所が共同+路地自体も半ば公共空間と化したような長屋が、多く建てられました。
「オモテ」 に面した町家が、江戸期以降、各々の家が調和した美しい町並を形成したのに対し、
路地裏の長屋 = 路地長屋は、それらとはまた違う、生活感に満ちた独自の景観を形成。
明治に建てられたというこちらの懐古庵も、そんな路地長屋の形を伝える建物だったりします。
ゆえにここには、坪庭や通り庭、虫籠窓といった、町家の代名詞的なアイテムは、さほどありません。
しかし、ハードコアな共同生活の残り香を激烈に感じさせるオープンおくどさんを始めとして、
リノベをミニマル、あるいはミニマル以下に抑えた敷地内には、よりリアルな何かが、猛烈に残存。
昔日の生活感がきれいサッパリ脱臭されたような、オサレで現代的なリノベ町家にはない、
迫力や渋み、そしてストレンジな味わいを、そこかしらから感じられたりします。
そんな懐古庵の一軒を、ひとりで借りて過ごす、聖夜。ここからはいよいよ、夕食です。
台所が付いてるのをいいことに、リアルな生活感が残る町家に相応しい、
リアルおばんざいをリアルな手抜きで作ってみましょう。


改めて、夕食の材料、一覧。雪だるま君に抱負を語ってもらいましょう。
「独虚坊兄さんは、予約を入れた段階では、それほど自炊するつもりはなかったんだよ」
「昼・マルシン飯店+夜・龍門+早朝・またマルシンという、東山三条中華地獄を考えてたんだよ」
「でもやっぱり宿の出費が痛いのと、おばんざいでの検索流入も狙って、自炊にしたんだよ」


で、台所。冷蔵庫のみならず、炊飯器や電子レンジも完備。
炊飯器の傍には、米が2合ほど入ったペットボトルもあり、もちろん米は自由に使えます。
1合半の米を炊飯器へ投入し、続いて可愛い聖護院大根を、雪だるま君の目の前でバッサリ解体。
面倒臭いので、皮は剥きません。バッサリです。もうちょっと大きく切った方が、良かったかも。


稼動させても最初は音が一切しない、古くて小さい炊飯器で飯を炊きながら、
聖護院大根と揚げを炊き、謎の野菜と揚げを炊き、持参したワカメと白味噌で味噌汁を作り、
異音を放つ電子レンジでローストチキンを温めたら、聖夜のおばんざいディナー、できあがりです。
仲良しだった聖護院大根の変わり果てた姿を、雪ダルマ君が謎の笑顔で見つめてます。


山盛りに盛った、大根とお揚げさんの炊いたん。たんとおあがり。
醤油以外の調味料は、台所のを使用。ほんだし、味醂、砂糖、それくらい。茹で時間も、適当。
大根は、皮もそのままですが、隠し包丁もなし。聖護院大根は、それでも楽勝で火が通るんですよ。
「それだけじゃないよ。兄さんは、大根の皮の食感と、奥に残る白いとこが好きな、変態なんだよ」


素性不明の菜っ葉とお揚げさんの炊いたん。そして、ワカメの味噌汁。
こちらの炊いたんもまた、醤油以外の調味料は、台所のを使用。レシピは全て、適当です。
何やて。大根にも菜っ葉にもお揚げさん入ってるって。やかまし。文句あるんやったら、食べんとき。
味噌汁のレシピは、ほんだし+白味噌のみ。刻みねぎは、昼の残りの九条ねぎであります。


そして、クリスマスの惣菜のおきまり、198円のローストチキン。
テラテラとゴージャスな輝きを放つチキンに、カメラも目が眩んだのか、ピンボケになってます。
「惣菜と呼ぶのは、面白がってるだけじゃないよ。実際の味の方も、チキンなのにかなり惣菜だよ」
「特に表面の片栗粉感が、とっても惣菜だよ。でも、198円の割には、本気で美味しいよ」


で、自分で作ったものを、自分で淡々と食らい尽くした、聖夜の晩餐。
量が多過ぎたため、大根が残りました。ので、ローストチキンのデコを差して、遊んでみたり。
味は、まあまあだったな。あ、でも、白飯は結構、良かったな。台所の水、地下水使ってるのかな。
で、この後、洗い物。出したけど使わなかった大量の皿も、洗ったりして。メリー・クリスマス。


「兄さん、もう、21時になったよ。お風呂に入らないと、駄目だよ」
そう、懐古庵の風呂は、近所迷惑にならないよう、22時までに入らなくてはいかんのです。
民家が超絶的に密集した京都の路地裏ならではのルールかと言えば、多分、そうではありません。
きっと写真右側、長屋の前に並ぶ風呂が、超DIYな作りなので、物音を盛大に出すからです。


入口で 「入浴中」 の札をひっくり返し、ヒンジのみのセキュリティで、風呂へ。
浴室は、脱衣場との間にドアなし&カーテンのみ。そこへ、五右衛門風呂をぶっこんでます。
蛇口から湯を張り、輻射効果で暖まる風呂は、正直、寒い・・・。寒さで温度が逃げていく感じです。
上がる時は、床の底面のふたを開けてストッパーを外し、湯を放流。メリー・クリスマス。


銭湯行った方が良かったかな。近くにド級のレトロ銭湯・柳湯があるしな。
とか思いながら風呂上り、風情があり過ぎな長屋棟前の路地を、しばしウロウロします。
電気が点いてる家がないので遠慮なく奥へ行くと、レンガ積みの超ド級レトロ竈 = おくどさん、あり。
そして、その上の荒神棚には、レトロを通り越してホラーなまでの存在感を放つ、布袋さん、あり。


布袋さんや大黒さん、愛宕さんのお札などが守護する路地の共同おくどさんは、
やはりホラーな存在感を放つ井戸と共に、半ば以上、いやもうほとんど、野外キッチン状態。
現役の頃は、文字通り井戸端会議なんかも行われてたんでしょう。というかここ、今でも使えるかも。
ガス管、現役だし。横の流しも、お飾りに見えないし。適当に置かれたルータは、御愛嬌だけど。


さて、メシも食ったし、洗い物も済んだし、風呂にも入りました。
あれこれと妖しいオブジェで飾り立てられた部屋を、改めてじっくりと見てみましょうか。
狭いくぐり戸の向こう、踏込だけの土間では、鷹&お福、そしてナチュラルレトロな下駄がお出迎え。
表の間に掲げられた明治天皇の肖像画と共に、悪鬼の侵入を防いでくれること、間違いなし。


室内に入っても、妖しいオブジェはそこら中に潜んでます。
箪笥の上で布袋さんが破顔てるかと思えば、その箪笥の奥にはレンタル落ちのVHSあり。
『ツイン・ピークス』 『マイアミバイス』 『マニアック・コップ』 と、何かが 「見える」 ラインナップです。
VHSのデッキはあるのかとか思いつつ、町家名物である激烈に急な階段を登り、次は二階へ。


六畳間と二畳ほどの間がある二階にも、あれこれとオブジェは満載。
御覧の掛け軸の他にも、「子安の坂はいのち坂」 などと書かれた書画をドドーンと展示中。
人形も、やはり御覧の恐過ぎる立お多福の他に、虚空に向けて笑みを浮かべる翁の人形も、あり。
あ、布団類が用意されてるのは、この二階です。お多福さんに見守られて、寝るわけです。


じゃあ、このまま二階で、聖夜らしくケーキでも食べましょうか。
昼間に買った見切り品のキャラメルアップルパイを、棚にあった桂由美の皿に盛ってみました。
長屋で過ごすクリスマスには最適とも言えるリアルスイーツの登場に、雪だるま君、嬉しそうです。
「兄さんは、本当はケーキを買おうとしたよ。でも値段を見て、哀しい目をして、止めたんだよ」


ローストチキンのデコを、また転用して差してみました。
結構それらしくなるなと喜びながら、値下価格180円のパフェをひとりで食う、聖夜の22時半。
二階の空調は、エアコンだけ。窓を猛烈に振動させて動くそのエアコンは、全然効いてくれません。
寒いです。何もかもが、寒いです。私は、聖夜を越えることができるのでしょうか。以下、次回。

京町家一軒貸し宿泊処・懐古庵を一軒借りして、聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【3】 へ続く

京町家一軒貸し宿泊処・懐古庵を一軒借りして、聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【1】
京町家一軒貸し宿泊処・懐古庵を一軒借りして、聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【2】
京町家一軒貸し宿泊処・懐古庵を一軒借りして、聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【3】


懐古庵
京都市左京区新間之町仁王門上ル366
受付 9:00~17:00

京阪電車 三条京阪駅下車 徒歩5分
市営地下鉄 東山 or 三条京阪駅下車 徒歩5分
京都市バス 東山仁王門下車 徒歩5分

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