京町家一軒貸し宿泊処・懐古庵を一軒借りして、聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【3】

2012年12月24日(月)


町家・懐古庵を一軒借りしての聖夜、いよいよ最終回です。

子供の頃に見た町家は、ただただ暗い気分にさせられるものでした。
下松屋町通沿いに住む親戚の家は、古い壁に虫籠窓が開いた、ただ単に古い町家。
中もまたただ単に古く、狭くて暗くて圧迫感のある部屋、得体の知れない化物が並ぶ台所、
至る所から響いてくる木の悲鳴、そして何より家そのものから濃厚に漂う不気味なオーラを感じて、
子供心に 「こんな狭くて暗くて気味悪いところには、絶対住みたくない」 と思ったものでした。
あ、為念で言っておきますが、この頃の我家は4畳半&6畳のアパート暮らし。狭いもいいとこです。
にも関わらず、町家は狭く見えたのでした。それも、自分の家と比べて、狭く見えたのでした。
何かが、いるんですよ。何かが、あるんですよ。で、それが、空間を圧迫してるんですよ。
こんな原体験を持つためか、私は現在に至るも、町家が人気を呼ぶ理由が、よくわかりません。
元から住んでた人が、家を大事に想ったり、大事に使い続けようとするのはわかりますが、
「憧れの町家」 みたいな狂気のフレーズと共に、他所の人が有り難がる理由が、よくわかりません。
90年代後半あたりから、『超力ロボ ガラット』 の主題歌で有名な某女性作詞家を始めとして、
アート or オサレな連中が多く町家へ移住しましたが、あの感じが未だに受け続けてるんでしょうか。
あるいは、リノベのオサレさが受けてるとか。でもそんなの、すぐ陳腐化するしな。
ひょっとすると、町家ブームがここまで長続き&拡大してる理由は、オサレやリノベなどではなく、
私が子供の頃に感じた町家独特の不気味さみたいなものにこそあるのかも知れません。
オサレの影で生き続ける、何か。丸出しにされると引くけど、オサレに包まれると魅かれる、何か。
人間が凄まじく狭いところへ密集し、何世紀にも渡って生活しないと醸成されない、何か。
そんな何かが町家ブームの背後で暗躍してくれてると楽しいんですが、そんな戯言はともかく、
そんな何かがかなり丸出しになってる懐古庵でのクリスマス、いよいよ最終回です。
ラストは、夜散歩、炭酸晩酌、そして狂気の朝食まで、一気に突っ走ります。
孤独、寒さ、太鼓、そして白味噌と戦う様、とくと御覧下さい。


懐古庵は、24時間出入り自由。なので0時過ぎ、夜散歩に出かけてみます。
路地入口に陳列された大量の妖しきオブジェたちは、夜が深まると、より一層の妖しさを発揮。
「京の我が家」 と心温まるフレーズと共に飾られた御覧のお面など、もはや純粋に恐怖物件です。
第41・42代京都府知事・林田悠紀夫が書いた 「懐古庵は青春」 という字も、謎といえば、謎。


懐古庵を出て、人も車もまばらな東山三条の交差点を渡り、
やはりほとんど無人の古川町商店街を抜け、聖夜の白川で行者橋の上に立ってみたの図。
夜の水面が実に美しいですが、観光客もカップルも、全然見かけません。沿道は、車が走るばかり。
懐古庵より高価な町家宿を眺めたりしながら、沿道を真っ直ぐ南下して、古門から知恩院へ。


タクシーが数台寝てるだけの知恩院と、人間皆無の円山公園を抜け、
正月準備が進む境内を警備員が見張ってる八坂神社西楼門から、聖夜の祇園を望むの図。
円山公園なら金ないカップルや馬鹿な若者が溜まってるかと思いきや、その手の輩の姿は、なし。
河原町とかで遊んでるんでしょうか。あるいは、既にしかるべき施設へしけこんだんでしょうか。


八坂神社を出て東山通を南進、しかるべき施設に囲まれた安井金毘羅宮へ。
参道を歩いてるとホテルから聞こえてくるのは、シャワー音、女声、そして妖しき笑い。う~む。
夜中の縁切り石は、不気味さ、爆裂。くぐると、途中で胴体を食い千切られるに違いありません。
縁切り本殿では、今セックスしてる全ての人の縁切りを祈願しときました。メリー・クリスマス。


で、東山通を今度は北進し、三条通は西進し、またフレスコ御池店へ。
写真撮るの忘れてましたが、フレスコ御池店、こんな感じです。シャンメリー178円を購入。
右の写真は、フレスコから宿への帰りに通りがかった、京都随一の超ナチュラルレトロ銭湯・柳湯。
外見も強烈に渋いですが、中はもっと壮絶。定休日にかち合わなければ、絶対におすすめ。


で、懐古庵へ戻り、聖夜の晩酌です。雪だるま君に解説してもらいましょう。
「シャンメリーは、ピーチ味しか残ってなかったよ。でも、ピンクな気分が凄く盛り上がるよ」
「アテは夕方買ったエロ男火気、珍ちんおつまみ・よろめきだよ。ピンクな気分がもっと盛り上がるよ」
「でも兄さんは、ひとりで飲むんだよ。 エロ川柳カードを見ながら、ひとりで炭酸を飲むんだよ」


「寂しくてTVを点けたら、明石家サンタをやってて、兄さんは余計に寂しくなったよ」
「あ、ここは別に酒禁止じゃないよ。グラスもあるよ。兄さんは単に、酒代をケチっただけだよ」
「男火気は普通におかきだよ。シャンメリーに意外と合うよ。でも、兄さんは全然嬉しそうじゃないよ」
「兄さんは、炭酸でどんどん悪酔いしていくよ。町家が、単に荒んだ独男の部屋に見えてきたよ」


いかん、こんなことをしてては、家にいるのと変わらんじゃないか。
一万以上も払って、料理ばかりやって、あげく炭酸で悪酔いして寝るのか。駄目だ、駄目だ。
と、理由なき酩酊をこらえて撮った、町家っぽい一枚。実に、町家っぽいです。町家っぽいと言え。
他にも、ガラスに映る明石家サンタなど撮りましたが、いい加減、疲れました。もう寝るか・・・。


二階へ上がり、エアコンを30度で回し、自分で敷いた布団へ潜るの図。
やはり起動直後は異常に賑やかなエアコン、暖房効果はさほど発揮してくれません。寒い。
これなら酒飲んだ方が、体が暖まって良かったかも。そんなことを思いながら、午前3時半、就寝。
聖夜を越える全ての同志たちに、孤独な精神戦を戦う全ての戦士たちに、メリー・クリスマス。


とか思いながら寝たら、3時間後の6時半、太鼓の音で叩き起こされたの図。
懐古庵の向かいには、日蓮本宗本山・要法寺があり、そこが朝のお勤めをやってるわけです。
雪だるま君は起きていて、虫籠窓でも何でもない窓が明るくなっていくのを、じっと見つめています。
とりあえずトイレで下へ下りると、死ぬほど寒い。一階のエアコンを入れ、しばし、二度寝。


二度寝するも、容赦なく鳴る太鼓に急かされ起床、人肌に温もった一階へ。
夜の洗い物を済ませ、ゴミ類をまとめ、それと同時進行で朝食である白味噌雑煮を作ります。
作るといっても、ほんだし+味醂+持参した白味噌を溶いた汁で、昨日買った餅を煮るだけですが。
餅は、丸餅。でも、どっちみち液状化して原型がなくなるまで煮るので、角餅でも構いません。


餅が煮えたら、やはり持参した鰹節をかけ、白味噌雑煮、完成。
チキンのデコをまた流用し、ホワイトクリスマスを演出してみました。ちょっと、黄色いけど。
正月に食う白味噌雑煮を、何でクリスマスに食うのかって、細かいことはまあ、いいじゃないですか。
「Merry Xmas And A Happy New Year」 ってやつですよ。 「War Is Over」 ですよ


思わぬクリスマス朝食の登場に、雪だるま君もすっかり嬉しそうです。
「兄さんの生家は貧乏なので、白味噌雑煮には餅以外、小芋も人参も何も入れないんだよ」
「餅がほとんど溶けてるけど、茹で時間を間違えたんじゃなくて、兄さん的にはこれが普通なんだよ」
「というか兄さんは、餅が液状化で消滅した白味噌ゲルスープが一番好きな、変態なんだよ」


雑煮を食った後は、峰山で凄い雪が降ったと報じるTVを観ながら、一服。
一服の後、雑煮を片付け、ゴミをおくどさん横のゴミ箱へ捨て、その奥のお地蔵さんに合掌。
で、荷物をまとめて、チェックアウトです。電気を消した途端、朝でも中が暗い町家を、後にします。
「式部」 さん、わけのわからん奴に丸一日いろいろと酷使され、本当にお疲れ様でした。


チェックアウトは、決済が済んでたら、部屋に鍵を置いていくだけでOKです。
帰り際、懐古庵名物のレトロポストに、自分宛のハガキを投函していこうかなと思いました。
自分で自分に送る、狂気のクリスマスカード、と。でもな、このポスト、郵便局員が回収するのかな。
あのおばちゃんが回収して送るんじゃないかな。そう思うと恥ずかしくなり、止めときました。

で、客層とか所見とかなんですけど、他に客はいなかったので、客層はパス。
所見的には、ナチュラルレトロ好きや、妖しいゲストハウスが好きな人には向いてるんじゃないと。
逆に、 「町家宿」 といったワードに高級感を求める向きには、ちょっとしんどいかなと。
そのあたりの感じは、楽天のレビューなどを見たら大体わかると思います。ああいう感じです。

他に客がいないので、木造家屋ゆえの音漏れ加減はよくわかりませんが、
隣の部屋へ物を取りにきたおばちゃんの入室・足音・行動・退出はかなりクリアに聞き取れたので、
女性グループや団体客と隣り合わせになると、独な同志の方は結構、大変かも知れません。
逆に、超隣接してる近所の人の声や前の道の音などは、さほど聞こえなかったりします。
車の多い三条通に近い立地ですが、外界の騒音もほぼ聞こえませんでした。
あ、朝は寺の太鼓の音がガンガン聞こえましたけど。

あと、当たり前の話かも知れませんが、ひとりで一棟はやっぱり、広過ぎ。
ひとつひとつの部屋は実に狭いですが、それでもひとりでは、とても全てを使い切れません。
観光をほぼせず、昼から朝まで室内にこもりっきりでも、こんな感じです。で、値段は1万円以上。
なので、ひとり借りはちょっと、もったいない。言い方を変えれば、ちょっと、贅沢。うふふ。
そのあたり、ひとり町家泊を考えてらっしゃる方は、ご参考までに。

そんな懐古庵での、聖夜の一軒借り。
好きな人と泊まれば、より路地長屋なんでしょう。
でも、ひとりで泊まっても、路地長屋です。

京町家一軒貸し宿泊処・懐古庵を一軒借りして、聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【1】
京町家一軒貸し宿泊処・懐古庵を一軒借りして、聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【2】
京町家一軒貸し宿泊処・懐古庵を一軒借りして、聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【3】


【ひとりに向いてる度】
★★★★
隣の客の巡り合せが悪くなければ、
特にプレッシャーを感じることはないと思う。
ただ、「上等な町家」 などという言葉に
思わず魅かれてしまう下等な魂を持つ人や、
現代的な利便性を確保しながらも、
町家の上っ面だけ消費したい人には、不向き。

懐古庵
京都市左京区新間之町仁王門上ル366
受付 9:00~17:00

京阪電車 三条京阪駅下車 徒歩5分
市営地下鉄 東山 or 三条京阪駅下車 徒歩5分
京都市バス 東山仁王門下車 徒歩5分

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