干菜寺へ小山郷六斎念仏奉納を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

2013年8月20日(火)


干菜寺へ小山郷六斎念仏奉納を観に行ってきました。もちろん、ひとりで。

京都の六斎念仏は、二つの系統に分類できると言われてます。
一方は、元来の念仏フォーマットを遵守して、鉦と太鼓のみで演奏される、念仏六斎。
もう一方は、「花の都」 ゆえに溢れる芸能を導入しまくって、極度にエンタメ化した、芸能六斎。
どちらの系統にも、京都 or 京都外に点在する講中へ免許を授ける総括寺院が存在し、
念仏六斎の 「干菜寺系」 、芸能六斎の 「空也堂系」 なる呼称は、その寺名から出来たわけです。
総括寺院が分かれてるからといって、両系統がバトルしてるということはもちろんなく、
時代の流れの中で転向した講も多数存在し、特に念仏六斎から芸能六斎への転向組は、多し。
念仏と言えどやはり楽しいのが一番なのか、空也堂系は江戸期以降、大いに勢力を伸ばし、
遂には京都の大半の六斎講中が芸能化、その状態は現在に至るも続いてたります。
しかし一方では逆に、芸能六斎から念仏六斎へ転向した上鳥羽橋上鉦講中のようなケースも存在し、
両系統の交錯ぶりはなかなかに面白かったり、あるいはミステリアスだったりするんですが、
そんな交錯ぶりがより顕著に表われてるのが、干菜寺での小山郷六斎念仏奉納ではないでしょうか。
干菜寺。正式名称、干菜山光福寺。言うまでもなく、干菜寺系念仏六斎の総本寺です。
秀吉が訪れた際に干菜を献じたことから、現在の通称を授けられたという由緒を持つ、干菜寺。
授けられたのは通称だけでなく、六斎念仏の講を統括する免状もまたもらったようで、
干菜寺は 「六斎念仏総本寺」 として、以後広範に伝播する六斎の宗教的支柱となっていきます。
が、先述の通り、時代を下ると干菜寺系はどんどんと空也堂系にシェアを食われまくり、
地元の田中六斎も途絶状態、盆の奉納は近所の空也堂系・小山郷六斎が行うようになりました。
そう、つまり念仏六斎の 「総本寺」 において、空也堂系の芸能六斎が奉納されるわけです。
不思議といえば不思議、奇遇といえば奇遇、時代の流れといえば時代の流れですが、
とにかくそんな干菜寺での芸能全開な六斎奉納、観てきました。


干菜寺の最寄り駅は、京阪電車&叡山電車の出町柳駅となります。
というわけで、20時からの奉納に合わせ、19:40頃に出町柳駅を出て駅前に立ったの図。
駅付近はごくごく、普段通り。腹減ってないのに構内のパン屋でパンを買いたくなるのも、普段通り。
同志らしき人間は特に見当たらず、周囲を歩いてるのはごくごく普通に帰宅する人ばかり。


駅を出て東方面へ進み、セブンイレブンのところをちょっと奥へ入ると、
壁に張った 「光福寺」 という本名看板、その先に 「田中村六斎念仏」 と立て看が立つ山門あり。
真っ暗でよく見えませんが、こちらが干菜山光福寺であります。駅から、徒歩2分くらいでしょうか。
前の道は、駅前と同様に人通りが多いですが、皆、寺の前を通り過ぎていきます。もったいない。


門の右には、「干菜寺六斎」 と題された 「宝永花洛細見図」 の絵を刻んだ石、あり。
かつて毎年6月25日に、開山忌の法要として六斎を執行した 「大斎会」 の様が、描かれてます。
絵の中の演者は、当然というか何というか、太鼓と鉦を持った人しかいません。獅子とか、いません。
「六斎太鼓の打初め」 と記されたこの奉納、干菜寺の支配下講中が大集結する催しだったとか。


モニュメント石の隣には、堂々 「六斎念佛総本寺」 と書かれた石標も、あり。
寺伝 「浄土常修六斎念仏興起」 によると、光福寺は干菜寺になる前の1265年に六斎を始め、
正和期には 「常行六斎念仏」 の勅諚を、永正期には 「六斎念仏惣本寺」 の勅許を賜ったそうです。
ただ、この辺の話は 「伝説」 とも言われてますが。光福寺、その頃はここにはなかったそうだし。


光福寺が現在地へ移転したのは、1582年。移転させたのは、月空宗心なる僧。
秀吉を干菜で饗したのもこの宗心で、 「干菜寺」 の名とともに六斎統括の免状もゲットしました。
史実はこの辺からとも言われてますが、何せ資料の無い六斎の世界、細かいことはわかりません。
とにかく、干菜寺であります。で、六斎奉納の会場は山門をくぐった先、御覧の本堂であります。


本堂の中は、本尊を前にして演舞スペースと客席が正対するようなレイアウト。
客席は、30人くらいでしょうか。クーラーが無いためか、椅子に座らず外で見る人、かなり多し。
20時、住職の挨拶に続き、田中村六斎の代表が登場。今夜の奉納について、若干説明をされます。
干菜寺系の総本山で芸能六斎が奉納するの件、人員が足りず小山郷の助けを借りるの件など。


説明は続き、芸能六斎へシフトすることが多く念仏六斎の講は少ないの件、
子供達は太鼓が楽しい四つ太鼓をやりたがるの件、ゆえに念仏六斎の伝承は難しいの件など。
だからというわけでもなく、六斎はどこでもそうですが、奉納は念仏の唱和たる 『発願』 でスタート。
続いて 『打ち出し』 『鳥追い』 と、太鼓がメインの念仏六斎テイストの濃い曲が演奏されます。


次の曲は、四人一組で太鼓の曲打ちを決める 『三社』 と 『しのぶ売り』 。
『三社』 は、三社 = 伊勢・賀茂・八幡についての曲。 『しのぶ売り』 は、歌舞伎由来でしょうか。
「公家六斎」 の異名を持つ小山郷六斎独特の、何となく可愛らしい感じの振り付けが、早くも登場。
あまりに近くで見てるため、演者が原曲の歌詞を小声で歌ってるのも、クリアに聞こえます。


続いては、あらゆる芸能六斎の定番中の定番演目である、 『四つ太鼓』 。
小山郷の 『四つ太鼓』 は、繋ぎや相打ちなしで、一人完結のプレイを繰り返していくスタイル。
小さい子から大人までが、六斎独特の一本ブチメインで高速フレーズを難なく叩き込む様は、圧巻。
左右交互の効率的な叩き方ではなく、片手ゆえの言語的な打音が、何度観ても謎、そして凄し。


『四つ太鼓』 で派手に盛り上がったあとは、じっくりと太鼓曲の 『万歳』 。
『三社』 『しのぶ売り』 と同じく四人一組で、この曲では「ドンドン」 と 「タンタン」 の掛合いを展開。
もちろん、ここでも独特の可愛らしい動きは登場。オリジナルの詞を囁く声も、かすかに聞こえます。
あ、そういえばこの頃から、お堂の外で見る人が増えてきました。中、席空いてるんですけどね。


お次は、函谷鉾の囃子を取り入れたという 『祇園囃子』 。いや、月鉾だったかな。
とにかくガンガン鳴らされる吊り鉦と笛の音をバックに、ハードな太鼓バトルが展開されます。
昔はこの演目、途中に 「入れごと」 すなわち余興が挟み込まれてたそうですが、現在は演奏一本。
熱い。そして、扇風機だけの堂内は、さらに暑い。外で見る人の気持ちがわかってきたりして。


そして出ました、『猿回し』 。 2011年、数十年ぶりに復活したという演目です。
『曽根崎心中』 の劇中劇である 『猿回し』 から題材をとったそうですが、内容は基本、余興路線。
「拍手がないと猿が出てこない」 という猿回しに促されて拍手すると、夫猿&嫁猿の夫婦猿が登場。
夫婦猿、軽く飛び回ったのち、狂言のような小芝居を打ったり、嫁猿が夫猿に酒を注いだり。


夫猿、酒を飲みまくり、紙垂みたいなのを持って腰振ったり、踊り狂ったり。
芸能であります。とことん、芸能であります。念仏六斎の総本寺ながら、全開で芸能であります。
小山郷は元々、干菜寺所蔵の 「六斎支配村方控牒」 にも名を連ねる念仏六斎系の講だったそうで、
それを考えると、不思議さ加減・奇遇さ加減・時代の流れさ加減がよりブーストされる一幕です。


とはいえ、小山郷は太鼓演奏のウェイトも高く、次はその太鼓曲 『手まり歌』 。
この曲でも、ちょこんと飛び跳ねたり、小幅でとととと歩いたり、ここ独特の可愛い動きは登場。
のみならず、腰をかがめて太鼓を頭上へ持ち上げるという妙にスタイリッシュなポーズでの演奏や、
台へ置いた太鼓を叩きながらぐるぐる回ったりと、太鼓曲ながら様々な姿で魅せてくれます。


で、この後はいよいよ 『獅子の曲』 ですが、その前に準備&つなぎ話あり。
棚行的に民家で演じる 「おはらい六斎」 の件、その講が北白川・一乗寺・修学院にあったの件、
下鴨には最近まで残ってたらしいので道具が残ってないか調べたがひとつも出てこなかったの件、
といった話があった後、獅子を呼ぶべく太鼓を打つプレリュード 『獅子太鼓』 を、まずは演奏。


で、獅子、登場。


ひとしきり暴れる、獅子。


で、逆立ちに見事成功する、獅子。


が、あまりの暑さゆバテ、講の女子に中へ風を送ってもらう、獅子。


獅子がバテてるその隙をつき、マントをかぶった土蜘蛛が、こっそり登場。


獅子に近づいたり離れたりして、襲いかかるタイミングを計る、土蜘蛛。


目覚めた獅子を相手に、さらに間合いを詰めていく、土蜘蛛。


そして糸、ドバ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━っ。


さらに糸、ドバ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━っ。


土蜘蛛は糸を数回吐き退場、倒れた獅子を太鼓打ちが太鼓で盛り上げて・・・


獅子は復活、激しい太鼓と共に踊り狂って、奉納、めでたく結願でございます。


というわけで、念仏六斎の総本寺における芸能全開な六斎奉納でありました。
これはこれで面白いというか、六斎のリアルな現状としてはなかなか興味深いものがありますが、
田中六斎復活の動きがないでもないらしいので、念仏六斎奉納復活も勝手に期待したいところです。
帰り、本堂の前で女の子たちが 「ありがとうございました」 と挨拶してくれました。こちらこそ。

客は、全部で20~30人くらい。
客層は、完全にネイティブの中高年、というか老人が、メインです。
というか、そういう人しかいません。好き者系の若者やカメさえ、ほぼ皆無。
男女問わずこのテイストであり、一番若くて妙齢女性の二人組。あるいは、小さい子供だけ。
単独は割と多いですが、やはり好き者系の中高年であり、外来系でなく近所テイストの人ばかり。
極めてネイティブな状況で、極めてネイティブな奉納が拝めるという感じでしょうか。

そんな干菜寺での、小山郷六斎念仏奉納。
好きな人と見たら、より六斎なんでしょう。
でも、ひとりで見ても、六斎です。

【客層】 (客層表記について)
カップル:0
女性グループ:微
男性グループ:0
混成グループ:0
子供:0
中高年夫婦:2
中高年女性グループ:2
中高年団体 or グループ:3
単身女性:1
単身男性:2

【ひとりに向いてる度】
★★★
プレッシャーは全くないが、
完全にアウェーというか、他所の家へ上がり込んだ感じは、大。
排他的な感じはまるっきりないが、浮くといえば多分、浮く。
「民俗芸能に興味がある or 研究してる」 みたいな顔をすると、
おそらく上手く場に馴染むと思う。

【条件】
平日火曜 19:40~21:40


小山郷六斎念仏 干菜寺奉納
毎年 8月20日 干菜寺にて執行

干菜寺 (光福寺)
京都市左京区田中上柳町56
拝観時間 よくわからん

京阪電車 or 叡山電車
出町柳駅下車 徒歩約2分
京都市バス or 京都バス
出町柳駅前下車 徒歩約2分

光福寺 (干菜寺) – 京都観光Navi

光福寺(干菜寺) – 京都風光

小山郷六斎 – 壬生村