鳴滝・了徳寺の大根焚へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

2013年12月9日(月)


鳴滝・了徳寺の大根焚へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

「大根滝」 なるものが存在するとしたら、それは如何なるものでしょうか。
大根が滝の如く流れるものでしょうか。あるいは、滝が大根の如く流れるものでしょうか。
もし後者のような滝だとしたら、 「大根の如く流れる滝」 とは、如何なる状態を指すのでしょうか。
日本語の根源、いやもう言語そのものの根源さえ問い正しかねないそんな深遠なる疑問に、
正面から答えてくれるのこそ鳴滝は了徳寺の大根焚、というのは無論、完全なる大嘘であります。
鳴滝の大根焚。断じて、鳴焚の大根滝ではありません。京都の大根焚き界を代表する、大根焚です。
『蜻蛉日記』 において愛の籠城戦が展開される 「鳴滝籠り」 で著名な、京都洛西の鳴滝。
芭蕉も訪れた文学の香り高きこの地に立つ了徳寺は、浄土真宗開祖・親鸞に因んで創建された寺。
愛宕山に師・法然の遺跡を訪ねた親鸞聖人は、その帰りに鳴滝へ立ち寄り、しばし滞在&説法。
里人には饗応するものがなく、やむなく塩煮の大根を出しますが、聖人はこれに大変御満悦。
お礼にと、筆代わりにすすきの穂を持って 「帰命尽十方石寺光如来」 なる十文字の名号を授与。
で、そのエピソードが伝承+蓮如も訪問+了徳寺が創建+大根焚は報恩講として恒例行事化、と。
近年は京都のあちこちの寺で 「冬の到来を告げる風物詩」 的に行われる大根焚きですが、
鳴滝・了徳寺は、その由緒からも元祖と見なされ、凄まじい数の老若男女を狭い境内に集客しまくり。
いや、客層はより正確に言うなら、「中風除けの御利益を求める老老男女」 といった感じですが、
とにかく 「キング・オブ・大根焚」 と呼びたくなるような盛況ぶりを、12月の度に見せてます。
そんな鳴滝の大根焚、私も栄養的&呪術的にパワーアップを図るべく、頂きに出かけてみました。
狭い寺へ滝の如く人間が流入する混雑のため、大根焚自体のネタ採集がさほど出来ず、
補遺として、鳴滝の地名の由来となった鳴焚の大根滝ならぬリアル鳴滝も、訪問。
湯気+熱気+飛沫が舞う冬の風物詩、狂った駄洒落と共に御堪能下さい。


鳴滝へ嵐電北野線で来たの図。了徳寺の最寄駅は、鳴滝駅ではなく、御覧の宇多野駅
単線のワンマン対応で御覧のような妙な構造であり、また昔のホーム跡もありと、面白い駅です。
かなり最近まで 「高雄口」 という駅名だったので、そっちの名で憶えてる方も多いかも知れません。
高雄とは即ち、神護寺とか高山寺の高雄。でも、ここからだと無茶苦茶に遠いので、改名したと。


とはいえ現・宇多野駅、高雄は確かに遠いですが、高雄道 = 周山街道はすぐ近く。
ちょっと歩くと、周山街道が旧高雄道などと交差する変速六叉路の福王子交差点に到達します。
右手前に立つのは、旧高雄道を通って氷を運ぶ途中に死んだ役夫を末社で祀ってる、福王子神社
了徳寺があるのも、旧高雄道沿い。なので進むのは、奥の道。異常にややこしい交差点ですが。


ややこしいとはいえ、交差点、臨時のガードマンがいるので迷うことはありません。
また、「大根焚」 の幟がやたら立ってるので、それにも導かれ寺へ向かうと、呼び込みの声あり。
大根焚、呼び込みやってるのか。とか思ったらそうではなく、参道に並んだ露店の呼び込みでした。
露店、干し柿や漬物など、中高年のハートを鷲掴みにするアイテムばかりが見事に並んでます。


もう少し先へ進むと、今度は大量のツアー客が滝の如く寺へ雪崩れ込む姿あり。
周山街道沿いに大型バス駐車場があり、そこから延々と人が流れて来ます。えらい人気ですね。
そういえば嵐電も、混んでました。嵐山への客かと思ったら、帷子ノ辻でほぼ全員が北野線に乗換。
で、やはりほぼ全員が宇多野で下車。皆さん、大根焚が目当てのツアー客。えらい人気ですね。


辿り着いた、了徳寺の山門。正式名称、法輪山了徳寺。当然、浄土真宗の寺です。
親鸞が残した大根&名号の故事はこの地で生き続け、後世にはそれを慕った蓮如なども来訪。
さらには1524年、正西が寺院を創建。それがこちらの、了徳寺。で、この寺の報恩講こそ、大根焚。
正に大根焚のために生まれたような寺であり、 「大根焚寺」 の石碑もその由緒を現してます。


山門をくぐってすぐのところには、本堂、そして親鸞像が見守る受付あり。
ここの大根焚は、こちらの受付で大根チケットを買い、本堂へ上がって食べるというシステム。
大根チケットは、一枚、900円 (2014年から1000円) 。チケット+お箸+由緒書きがもらえます。
他にも、かやくごはんとおかずのセット 「お斎」 や、テイクアウトの大根焚なども売ってました。


受付からちょっと奥へ進むと、御覧のような樽に入れられた大量の大根あり。
京都で大根といえば聖護院大根という感じですが、こちらではよりノーマルな青くび大根を使用。
下村さとし 『京都 鳴滝』 によると、そもそもこちらの大根焚は 「鳴滝大根」 なるものを使ってたとか。
この行事は、名産品PRの意味もあったそうです。現在は、鳴滝大根絶滅+亀岡産大根を使用。


大根樽の隣では、奉仕されてる檀家の方々が、釜で大根を焚きまくり中。
釜、300万もするとか。でも、5年ほどで割れるとか。つまり、一回50万以上かかる勘定だとか。
雪崩れ込み続けるツアー客を引率するガイド+坊さんが、そんな説明をツアー客相手にしてました。
なるほど。釜代を調達するためにも、ツアー客も大量に受け入れる必要がある感じでしょうか。


ではぼちぼちと、大根実食です。靴を脱いで、本堂内へ。
屋内では、本堂のみならずあちこちに座卓が設置され、適当なところで食べることが出来ます。
着席して御覧のように券を出してると、奉仕の方がお茶を持ってきて、しばし大根を待つという流れ。
私は、御本尊の近くに空席があったので、そこへ座りました。で、大根を待ってる間に、お参り。


で、お参りを済ませて席に戻ると、すぐのタイミングで運ばれてきた、大根焚。
かなり巨大な切り方の大根2切れと、やはりかなり大きめなお揚げさんという布陣であります。
食べ始める時には無論、手を合わせること、しばし。いや、私も普段そんな行儀、完全無視ですが。
周りの人が皆そうしてたから、真似しただけです。そんな雰囲気の中、大根を食うこと、しばし。


前の写真にもチラッと写ってましたが、お椀には 「鳴滝 了徳寺」 の文字入り。
気合、入ってます。それだけこの大根焚は、了徳寺にとって大切な行事だということなんでしょう。
鳴滝大根が健在の頃は、商売的にも大切だったかも知れません。何か、食ってみたいな、鳴滝大根。
『京都 鳴滝』 によると 「福王子蕪」 というのもこの辺の名産だったとか。それも、食ってみたいな。


そういえば、福王子神社の七草粥に付いてた蕪の漬物が異常に美味かったけど、
あの味のクオリティは福王子蕪と何か関係あるのかな、などと考えながら食い続ける、大根焚。
味は、ベーシックで程良い醤油味。あ、でも親鸞聖人木像には故事通りの塩煮が供されるそうです。
のんびり食いたいところですが、団体客がバンバカ来るため、早々に完食。御馳走様でした。


「すすき塚」 など見所もある了徳寺ですが、あまりにも団体客が流入して来るため、
大量の客をどこへどう座らせるか話し合うツアコンの声を聞きつつ、酸欠気味で寺を早々に脱出。
しかしこれだけだと、ネタがちょっと不足気味だな。そうだ、地名の由来となった鳴滝に行ってみるか。
と思い、大型バスからまだまだ客が溢れる周山街道を、 「なでふことな」 く北上すること、しばし。


鳴滝、それなりに名は知れてますが、場所はわからんという人が多いそうです。
『京都 鳴滝』 にも、そんな話が出てました。しかし、私は以前来たことがあるので、余裕&楽勝。
と、調子乗って歩いてたらしっかり迷い、かなり北方で見かけた紅葉を眺め、心を慰めること、しばし。
で、家々の壁に張られた 「大根焚」 のポスターを横目で見ながら、元来た道を戻ること、しばし。


見当のある場所まで戻り周囲を窺うと、車で入口が塞がってるのを見つけました。
よっこいしょと隙間を通り、住宅街の裏を流れる御室川へ入り、何とか辿り着いた、これが鳴滝。
そう、これが鳴滝です。 「鳴滝籠り」 で知られ、かつて芭蕉も訪れ句を残した、鳴滝です。本当です。
「梅白し 昨日ふや鶴を 盗まれし」 という芭蕉の句碑が立ってるから、本当です。多分、そうです。


かつては御室川の氾濫を音で知らせたが故に、鳴滝なる名が付いたという、鳴滝。
現在は住宅地へ埋没した流水路という感じですが、異常なくらい大自然感が残ってたりもします。
写真で伝わるかどうかはわかりませんが、現場の感じとしては、かなり、滝。正直、怖いくらいに、滝。
とにかく滑落が、怖い。周囲が住宅地なのも、誰も助けてくれない感が変にブーストされて、怖い。


幻視しようと努力したら、水流が青くび大根の首に見えないこともない、滝の前面。
平安期のここは禊場で、様々な宗教行事が行われてたとか。じゃあ、鳴釜神事もやってたかも。
米焚いて釜を鳴らす、あれ。即ち、鳴焚。おお。で、流れるのは大根の如き滝。即ち、大根滝。おお。
二つを合せたら、即ち、鳴焚の大根滝。おお。おお。と、狂った駄洒落を呟いて、帰りましたとさ。

了徳寺の客の大半は、中高年です。ツアー客の団体、異常に多し。
本当に滝の如く、あちこちのバス駐車場&嵐電から、ひっきりなしにやって来ます。
とはいえ、観光モード丸出しで騒ぎまくるタイプはあまり見かけることはなく、
喋ってる言葉からは、遠来というより近郊系が多い感じでしょうか。
ネイティブ系や信者系との区別もそれほど明確ではない、そんな感じです。
ネイティブ系の中高年&家族連れ&子連れは、結構多し。
カップルは、全く見かけません。というか、若者自体を全然見かけません。
単独の姿も、ほとんどなし。せいぜいお年寄りか、信者系か、近所風がいる程度。
混雑は、かなり壮絶。境内が極めて狭いので、極めて混みます。

そんな鳴滝・了徳寺の、大根焚。
好きな人と食べたら、より大根焚なのでしょう。
でも、ひとりで食べても、大根焚です。

【客層】 (客層表記について)
カップル:0
女性グループ:0
男性グループ:0
混成グループ:0
子供:0
中高年夫婦:2
中高年女性グループ:3
中高年団体 or グループ:5
単身女性:0
単身男性:微

【ひとりに向いてる度】
★★★
客層的にプレッシャーを感じることは、ほとんどない。
ネイティブ主体のアウェー感も、感じることはまずないだろう。
ただ、そんな細かいことを言ってる場合ではないくらい、
混雑、体感人圧が、かなりヘビー。

【条件】
平日月曜 13:50~15:00


鳴滝の大根焚
毎年12月9日&10日 開催

了徳寺 (鳴滝 大根焚寺)
京都市右京区鳴滝本町83
9:00~16:00

嵐電 宇多野駅下車 徒歩約7分
京都市バス 鳴滝本町下車 徒歩約3分
 

了徳寺 – 公式

了徳寺 – Wikipedia