ホテル洛西で聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【後篇】

2014年12月24日(水)


大枝のラブホ街にあるホテル洛西にて過ごす聖夜、前篇に続き後篇です。

「大枝」 と聞いたら、京都府民の多くは脊髄反射で 「柿」 と連想するでしょう。
実際、大枝の富有柿は名物ではあります。が、その歴史は、さほど古いものではありません。
御存知の方も多いでしょうが、富有柿の原産地は岐阜。大枝での栽培が始まったのは、昭和以降。
というか、徹底的に農村化したのも実は明治以降と、中々に面白い歴史をこの地は持ってます。
桓武天皇生母・高野新笠の母方のルーツたる大江氏から 「大江郷」 の名称が付いたという、大枝。
平安遷都以前から秦氏などの豪族が住んだとされ、現在も残る古墳が山のように作られましたが、
遷都以降は、平安京と山陰を結ぶ山陰道に於ける関所 = 「境界」 としての存在感が前景化。
都から見ると北西 = 鬼の進入口・乾に位置する為、中世までは酒呑童子伝説の恰好の舞台となり、
中世以後も、足利尊氏明智光秀といった反逆者が、ここから鬼の如く都へ侵攻したのでした。
近世に入り、鬼の住処も丹後の大江山へ移動すると、大枝は山陰街道の峠町としての存在感を強化。
旅人相手の商いを専業にする家が増え、茶屋や旅籠屋、休憩所が並ぶ宿場町となったのです。
そう、ここは明治以前の時点で既に、農業中心ではなくて商品経済に馴染んだ町だったわけですね。
維新後は、新峠建設で老ノ坂の峠町が衰退、明治32年の鉄道開通では大枝全体の状況も一変。
今は嵯峨野トロッコ鉄道として走るあの汽車へ、丹波の貨物はごっそり移り、山陰街道は急に閑散化。
街道で食ってた大枝は打撃を受け、商業中心から農業中心へと転進せざるを得なくなりました。
そこで、 「柿」 なわけですね。 作物を色々試した後、この地に合ったのが 「柿」 だったわけですね。
「柿」 と全く不似合いなインパクトを誇る大枝のラブホ街ですが、街道筋としての歴史を考えると、
ある意味、かつての時代の生々しい息吹 or 残り香を、現代に伝えるものと言えるのかも知れません。
大枝の変化は 「柿」 以降も止まることが無く、戦後は宅地に困った京都市の開発の歯牙にかかり、
「柿」 を潰す勢いでニュータウン開発が進行、文化的&景観的にラブホ街もなぎ倒す勢いです。
が、とりあえず今回は、ホテル洛西であります。元ラブホにて、ひとりで過ごす聖夜、続きであります。
京都魔界シーンのラスボス・首塚大明神の参拝から、飯、そしてラブホ窓から朝日を見るまで、
「境界」 が孕む妖しき魔力を見据えんとする孤独な精神戦、お付き合い下さい。


サンリバーの廃墟前を通過し、真っ暗な小道を進むと、真っ暗な旧峠町へ出たの図。
貝原益軒をして 「京都及び山城諸山、能見えて佳景也」 と記させた峠町の、現在の姿であります。
とはいえ、数軒は民家があり、クリスマスのイルミネーションが光ってたり、自販機もあるんですけど。
すんません、夜分に。恐縮しつつ、急に冷え込んだ夜道を鹿威しの音を聞きながら歩くこと、しばし。


で、首塚大明神へ到着。もちろんここも、肉眼ではかすかに鳥居が見える程の漆黒加減。
罰当りながら、フラッシュ焚かせてもらいました。改めて夜分の訪問を詫び、参拝させてもらいます。
こちらの首塚が祀るのは、鬼の首。一条天皇の時代、都に現れて若い娘をさらったというの首です。
朝廷から討伐を命じられた源頼光らにより、神使鬼毒酒で酔わされ討たれた、酒呑童子の首です。


鳥居を潜ったばかりの辺は、比較的新しく出来たらしき石段があるので安心して入ったら、
御覧のようにすぐに自然化、数mの標高ながら夜登山な気分で参道ならぬ野道を登ること、しばし。
切られてもなお暴れ、頼光に襲いかかった鬼の首塚には、似つかわしい荒々しさという感じでしょうか。
切られた首は都へ送還されるも、老ノ坂峠にて動かなくなり、やむなくこの地に埋められたんだとか。


で、やっと着いた、本殿。祟りが恐過ぎるので、念入りにフラッシュを詫び、祈っときます。
とか言ってると本当に恐がられそうですが、実際の首塚大明神は、割とネイティブ&普通の神社。
「首から上の病気に効く」 というネイティブ信仰も篤く、酒好きの酒呑童子に因んで酒を飲む人も多し。
大量の酒瓶が集められたゴミ捨て場があり、中にはツマミらしきサンマの缶詰の空き缶もあったり。


というわけで、私もスパークリングワインを奉納&御相伴。鬼さん、メリー・クリスマス。
頼光一行に 「血の酒」 を飲むよう強いたという鬼さんなら、赤ワインの方が好みかも知れませんが、
あれは、 「難破船の外人が正体」 説もあったりする丹後・大江山の鬼さんの嗜好ではないでしょうか。
で、帰ります。あ、もちろん瓶は持って帰りますよ。楽しいことは、皆の力で維持し、守りましょうね。


帰り際、首塚の入口近くに境石があったはずと思い、漆黒の闇の中で目を凝らすと、
「首から上の病気に効く」 という首塚の御利益で近視が緩和したのか、見つけることが出来ました。
境石。そう、正しくここが丹波と山城の国境ということになります。畿内と畿外の 「境界」 なわけです。
魔物の侵入ポイントと見做され、四角四堺祭 or 畿内十処疫神祭が行われた 「境界」 なわけです。


そんな 「境界」 の魔力ゆえか、心霊スポットとして知名度を上げた首塚なわけですが、
よりアーシーに続く 「境界」 ゆえの信仰も存在しており、それが戻ってきたR9沿いの、子安地蔵
元々は峠を行く旅人の為の道祖神として祀られてたらしいですが、近世以降は安産の御利益で有名。
無論、R9 = 新峠が出来る以前は旧道沿いにあり、首塚近くの大福寺に地蔵が安置されてたとか。


現在のR9開通により、当然ながら旧道の交通量は減り、峠町も寂れ、子安地蔵も移転。
「境界」 ゆえに栄え、繁栄を齎す交通が変化すると打撃を食らうのもまた、 「境界」 の宿命です。
何かここは、去年泊まった橋本に似てるとか思いました。 「境界」 の町は、性質が似るのでしょうか。
とか思いながらバス停へ向かい、20:06の京都行に乗車。ちなみに京都行最終は、次の20:40


またしてもグニャングニャンなR9を、今度は降坂するバス。交通量は、またしても多め。
鉄道開通時は大枝の主産業を変えるほど通行量が減ったことを考えると、皮肉な車量であります。
高度成長期、道路拡幅+モータリゼーション進展により、R9は交通量が一気に増え、混雑が常態化。
それに伴い、同じ高度成長期に発生したであろうラブホ街は、皮肉というよりは、奇果であります。


で、奇果街を一旦通り過ぎて、飯を食うべく、飯屋がある沓掛一帯まで戻って来ました。
といってもこの辺、あるのは典型的なロードサイド店ばっかり。それも、チェーン店の支店ばっかり。
「焼肉やる気」 で、行き場の無いやる気でもチャージしようかなと思いましたが、混んでたので遠慮。
どことなく、いや完全に丸パクリなエヴァ風看板が、焼肉オーダーバイキングへ誘ってはいますが。


そうだ、どうせエヴァ繋がりなら、 「やる気」 の向かいに立つ王将へ行っときましょう。
餃子の王将・洛西芸大前店。外観は、どうにもこうにもロードサイド仕様な王将支店に過ぎません。
が、この店は、 『関西縦断ブログ旅』 のゴール祝賀会が行われた店なのです。そう、聖地なのです。
どう聖地なのかは、説明が面倒+基本どうでもいいことなので、気になれば自分で調べて下さい。


聖地の証明として、2階のロビーみたいなとこには、宮村優子稲垣早希のサインあり。
宮村優子の 「あんたバカァ」 の言葉が、馬鹿以外の何物でもない行動をしてる身には、沁みます。
あと 「稲垣早希ちゃんとアスカ役声優さん」 という表記も、世間一般の物の見方を感じて、沁みます。
客は、年齢高めの家族連れとおっさんグループで、テーブルは満員。で、カウンターはガラ空き。


で、無論カウンターに座って頼んだのは、青椒肉絲+エビチリ+餃子1人前+ライス大。
青椒肉絲は単品、エビチリはジャストサイズ。クリスマスを意識したカラーリングにしてみましたよ。
エビチリは飲み、●●●●●の香り感じる青椒肉絲はガシガシと噛み千切り、飯と共に食らうこと、しばし。
デザートは、 『ブログ旅』 祝賀会で食ってたプリンアイスを、原価を推理しつつ食らうこと、しばし。


で、食ったら、ホテルへ戻ります。ホテルと呼ぶべきかどうか悩むホテルへ、戻ります。
途中、何故か何軒もあるローソンの一軒へ寄り、半額のクリスマスデザートとシャンメリーを購入。
店員が 「フォーク、2つ要りますか」 と訊くので、独男の誇りと共に 「ひとつでいいです」 と返しました。
で、またラブホ街を歩く途中、歩道からホテル洛西を改めて望んだら、やっぱりしみじみ、ラブホ。


で、しみじみラブホな部屋へ戻り、 「境界」 が孕む魔力を本格的に見据えようとしたら、
早くも魔力が作用したのか何なのか、極めてラブホ的なるワードがテレビの画面へ踊り出たの図。
博物館状態なアンティークや設備が揃うホテル洛西の部屋ですが、テレビは流石に液晶へ更新済。
写ってるTEDによると、交尾するには水中に入る必要があるそうですよ。そうですか、そうですか。


というわけで、交尾する必要は無いですが、魔力の挑発に乗って一戦交えるべく、風呂へ。
きっとここで、数多のカップルが交尾をしたんでしょう。交尾には若干、狭かったかも知れませんが。
無駄な心配をしながら湯を張り始めたら、不穏な白濁と泡が出たので、シャワーだけで済ませました。
シャワーも、湯の出は不安定。丁寧に調整を続けないと、風邪を引くか火傷します。やるな、魔力。


アメニティは割と充実。ただ、充実した浴衣の刺繍の名は、ラブホ。ホホホホ。


風呂から上がれば、半額スイーツをシャンメリーと共に丸呑み。ホホホホホホ。


改めて魔力を見据えるべく、ラブホなムードを堪能。ホホホホホホホホホホホ。


さらに、堪能。ホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホホ。


それにも飽きて、明石家サンタ見てたら、寝落ち。ホホホホホホホホホホホホ。


で、6時半に起きるも、ラブホ窓の魔力で開けるまで朝と気付かず。ホホホホ。


で、隣が出す音を聞きながら身支度して、8時に棟を退出。ホホホホホホホホ。


棟の外は、地元の軽が大量に駐車。ナンバー隠しの車もあり。ホホホホホホ。


で、チェックアウトの為に受付という名のプレハブへ行くと、また人の姿がありません。
今度は、中にいる気配もなし。今度は、張紙通りに電話しようかと思いましたが、それも面倒臭い。
鍵を放置していこうかどうか迷ってるところで、おばちゃんがプレハブの裏にいることに気付きました。
鍵を返すと、普通に 「はい、ありがとうございました」 。で、入口にも同じことを言われつつ、退出。


で、帰りますが、旧R9 = 山陰街道の朝の姿も、通行人に怪しまれながら少々拝見。
ホテル洛西からちょっと東へ行った辺に立つこちらの祠は、関明神 aka 大江関跡。関所ですね。
大江関、軍事ポイントとしても重要視されてたとか。尊氏や光秀など、反逆者はよくここを通りますし。
建てられたのは、平安遷都以前の白鳳8年。日本で最も古い関のひとつとも言われてるそうです。


遷都以前から関が存在するように、大枝の歴史はプレ京都な時代にまで遡るもの。
御覧の石標は、御覧の通りに桓武天皇の生母である高野新笠の御陵 aka 大江陵の入口ですが、
その高野新笠の母方のルーツが、この大江郷に住んだとされる出雲系の豪族・土師氏 aka 大江氏
土師氏 or 秦氏のものと考えられている古墳もここには大量にあり、大枝山古墳群を形成してます。


で、その古墳をいくつかぶっ潰して出来たのが、故・西武都市開発桂坂ニュータウン
もっとぶっ潰して出来た南側の洛西ニュータウンと共に、正直、現在の大枝の中心地であります。
魔界ばかり散々見せてきましたが、大枝、こんな普通 or 凡庸なニュータウンも形成されてるのです。
橋本記事では 「遊廓跡だけ見て安易に盛り上がるな」 とか言いながら、余りな偏向ぶりなのです。


でもこの辺、やっぱり八幡に似てるな。聖なる山を削って街が展開される感じが、似てるな。
大枝の人が 「ふざけんな」 と思うだろうことを思いつつ、これまた普通 or 凡庸なるコメダ珈琲へ。
どうせなら、地元農家が家前で売ってる柿を食いたかったんですが、見当たらなかったんですよね。
余りな偏向のお詫びも兼ね、富有柿と同じ東海発祥のチェーン店で、朝食を食っていきましょう。


凡庸なるチェーン店にて、非凡を通り越して異常なる名古屋式小倉トーストを食らうの図。
鉄道開通で逆に農村化したり、ラブホが林立したりと、時代の変化を常にモロで受けてきた、大枝。
現代に入り、凡庸化 or 均質化の波をモロに食らうのも、あるいは 「境界」 ゆえなのかも知れません。
去年同様に 「境界」 の拡散も感じ、結局は何だかよくわからんまま、2014年聖夜ネタ、終了です。

ホテル洛西の客層については、
設備の旧来の目的ゆえというか何というか、顔を合わせることが無いので、不明。
駐車してる車は先述の通り、地元車が多し。わかるのは、それくらいです。
隣の部屋の音は結構聞こえてましたが、旧来の用事で来てる感じはありませんでした。
棟やタイミングによって違うのかも知れませんけど。ナンバープレート隠しを使ってる車もあったし。
設備の感じは、各方面で色々言われてる通り。コスパ的には、まあいい感じじゃないでしょうか。
ここまでの交通費&時間を考えれば、もっと中心部で安い宿を探した方がいいとも思えますが、
こういったテイストを面白がれるタイプの方には、確実に楽しいスポットになるでしょう。
ひとりに向いてる度は、★★くらいではないでしょうか。

あと、首塚大明神とサンリバー跡については、やった私が言うのも何ですが、
普通に民家もある場所ですので、基本的に夜の訪問は止めといた方がいいですよ。
私は、霊感などは一切無く、また小さい頃から家庭の都合で何度も老ノ坂を通っているので、
心霊関係の噂については正直、 「アホちゃうか」 としか思わないタイプの人間です。
だからこそ可能な夜訪問であり、本気で霊感がある方は昼でも近付かない方がいいでしょう。
憑かれて騒いだりしたら、足を滑らせて、怪我したり死んだりするかも知れませんしね。
怪我したり死ぬだけなら勝手ですが、地元の方の迷惑になるかも知れませんしね。
とか言って、私の訪問もいい加減、迷惑でしょうけど。

そんなホテル洛西@大枝での、聖夜。
好きな人と泊まれば、より境界なんでしょう。
でも、ひとりで泊まっても、境界です。

ホテル洛西で聖夜を過ごしました。もちろん、ひとりで。 【前篇】

首塚大明神
京都市西京区大枝沓掛町旧老ノ坂峠
拝観自由

京阪京都交通バス 老ノ坂峠下車 徒歩約10分

首塚大明神 – 京都風光

餃子の王将 洛西芸大前店
京都市西京区大枝沓掛町13
月曜~土曜 11:00~0:00 日曜11:00~22:00

京阪京都交通バス 芸大前下車 徒歩約1分
京都市営バス 国道沓掛口下車 徒歩約6分
ヤサカバス 国道沓掛口下車 徒歩約6分

洛西芸大前店 – 餃子の王将 公式
 

コメダ珈琲店 京都洛西店
京都市西京区大枝沓掛町9-140
7:00~23:00

京都市営バス 国道沓掛口下車 徒歩約1分
ヤサカバス 国道沓掛口下車 徒歩約1分
京阪京都交通バス 国道沓掛口下車 徒歩約4分

京都洛西店 – コメダ珈琲店 公式


 
 
 
 
 
 
ホテル洛西
京都市西京区大枝沓掛町7-47

京阪京都交通 薬師湯前下車 徒歩約8分
阪急電車 桂駅下車 徒歩約1時間
 

ホテル洛西 – 公式

ホテル洛西 – 楽天トラベル