節分の大江山へ行ってきました。もちろん、ひとりで。 【前篇】 鬼瓦公園・日本の鬼の交流博物館

2018年2月3日(土)


節分の大江山へ行ってきました。もちろん、ひとりで。

「異界」 は、それを希求する度合に応じて、物理的な距離を生じさせるものです。
有体に言うと、近過ぎては、いけない。といって、出かけるのが面倒なほど遠過ぎても、いけない。
「家に霊が出る」 とか 「地元で●●●●●を売ったり打ったりしてる」 とかいうのは、やはり困るし、
といって 「1か月かけて登頂した山で、遂にイエティに会えた」 みたいなのは、余りにしんど過ぎる。
ゲスな興味と、適度なお出かけ感。これらを上手く満たす場所こそが、 「異界」 になり得るのでしょう。
ので逆に、交通の発達などで人々の側の意識が変化すると、 「異界」 の適格地もまた移動します。
節分の日に 「異界」 を持ち込み、豆を以て外界へ再び追いやられるもまた、事情は同じです。
「むかし丹波の大江山」 なる歌で、京都のみならず全国的に知られる酒呑童子の棲処、 「鬼の里」 。
この 「鬼の里」 と比定される場所に関し、 「老ノ坂から大江山へシフトした」 という見方があります。
前者は、京都&丹波の境界・大枝にある坂。後者は、その先、丹波&丹後の境界に聳える山。
京都洛中にて鬼の恐怖が薄らぐのに連れ、 「異界」 性を仮託できる場所には距離が必要となり、
徒歩で日帰りも可能な老ノ坂から、遥かに遠い大江山へ 「鬼の里」 が移った、というわけです。
京都中心の、勝手な見方ではあります。が、勝手さを等閑視すれば、しっくり来る見方でもあります。
京都府南部の八幡に生まれ育ち、家庭の事情で幼少期に老ノ坂を日常的に通過してた私にとっても、
老ノ坂は渋滞を生む単にウザい坂であり、大江山こそが 「鬼の里」 を夢想し得る地、となります。
ので、一度は本物の 「鬼の里」 に、出かけてみたい。出来ることなら節分の日に、出かけてみたい。
そして、 「異界」 への興味をゲスく満たしてみたい。そんなお出かけを、私も実は夢想し続けてました。
で、2018年に至り、遂に時間と予算の確保が実現。で、今回、丸一日かけ出かけてみたわけです。
赴いたのは、鬼瓦公園日本の鬼の交流博物館元伊勢三社という、いわば大江山鉄板コース。
「おぬ」 がゆえに鬼が視界へ現前するような逆相の 「異界」 を期待し、雪中を徘徊したのでした。
で、実際の大江山は、そんな期待を不思議な形で受け止める場所だったのです。


と、普通に 「大江」 「大江」 と言ってますが、具体的な地理が不明な方も多いかも知れません。
大江は、京都府北部に位置し、今は福知山市に属する町です。ので、山陰線で丹波を北上します。
諸般の事情により徹夜のまま乗り込んだ6時半発の山陰線は、北上する毎に霧&雪で車窓が白化。
8時半過ぎに到着した福知山駅は、当然、寒し。京都と劇的には変わりませんが、やっぱり、寒し。


で、此処から丹鉄へ乗り換えるわけですが、徹夜明けなので、駅前のニコニコ温泉にて朝風呂。
あるんですよ、そんな温泉が。超巨大な建物の非常階段からは、未だ霧の中の福知山が拝めます。
で、潔斎が済めば、いよいよ丹鉄へ乗車です。人力改札の横の自販機にて、320円の紙切符を購入。
車輌は、運賃だけで乗れる観光列車。なので、混雑回避よりお得が好きな客層で、超満員。地獄。


「この阿呆共の何人かが、 『大江で鬼退治!!』 とかいって大江駅で降りたら、どうしよう」 と、
恐怖に駆られながら大江駅で地獄列車を降りましたが、そんなことを考える阿呆は、私ひとりでした。
で、ひとりで駅前の鬼瓦公園に入園。鬼瓦公園、丹鉄 = KTR開通記念で出来た、町おこし施設です。
御覧の通り、日本全国の鬼瓦の力作が集まった、いわばウェルカム鬼という感じの公園であります。


というか、出来の良過ぎ加減+寂れの凄み加減から、鬼の首塚公園に見えなくもないですけど。
皆さん、色々言いたいことありげな顔、されてますね。 「顔に苔が生えて痒い!!!」 とか。


「観光の晒し物にするなら、せめて美味い物、食わせてくれ。口が開くようにしてくれ」 とか。


「こうなっちまったら、酒でも呑むしかねえよな。頭だけの奴は大変だな。ワハハハハ」 とか。


「こんな異境の地で苔塗れで朽ち果てるなんて・・・悲しい・・・故郷へ帰して欲しい・・・」 とか。


と、様々な人生模様、ならぬ鬼生模様が垣間見える、首塚公園、ならぬ鬼瓦公園でございます。
首を狩られて持ち去られ、そして無慈悲に晒される。それが、いつの世でも鬼が背負う、悲しき宿命。
「鬼の里」 でも、その宿命からは逃れられない感じでしょうか。単に、町おこしの失敗にも見えますが。
で、そのうち、バスの時間となりました。此処から、大江山麓の 「酒呑童子の里」 へと向かいますよ。


「酒呑童子の里」 は、鬼博物館などがある施設。で、そこへ向かい、マイクロバスは雪道を疾走。
道中には、棚田などの名スポットや、二瀬川など酒呑童子絡みの伝説スポットが、多数点在します。
が、バスの車窓はほぼ真っ白で、よく分かりません。となれば、バスを降りて直接見るべきですよね。
豪雪+激坂で歩きが面倒でも、自分の足で歩いて直接見るべきですよね。本当に、そうですよね。


進む毎に積雪が激化して、やがて雪の中を走るような状態になった道を、マイクロバスは疾走。
道中には、鬼ヶ茶屋や鬼の足跡など数多の伝説スポットに加え、案内の鬼人形なども点在します。
が、バスの車窓はほぼ真っ白で、よく分かりません。となれば、バスを降りて直接見るべきですよね。
豪雪+激坂で歩きが面倒でも、自分の足で歩いて直接見るべきですよね。本当に、そうですよね。


という熱い想いを胸に秘めたまま、バスは終点へ着きました。 「酒呑童子の里」 、到着です。
大江町が鬼を推し始めたのは、1980年代。税収を支えた鉱山の閉鎖と、過疎への対処の為でした。
で、その鉱山跡地に出来たのが、この 「酒呑童子の里」 。博物館ロッジ、宿泊所などを擁してます。
周囲は、ほぼ雪山。八足の大門も、瑠璃の如き山も、水精の砂もないですが、スキーにはいいかも。


で、建物の近くには、山伏ルックのスキーヤー、ではなくて源頼光御一同様のオブジェ。


そんな頼光一同に向かい、 「神便鬼毒酒くれえい」 とせがんでるような、赤鬼オブジェ。


歩いてる者がほぼいない雪道の中で、盃に盛った雪豆腐を勧め続ける、青鬼オブジェ。


と、オブジェの感じは何ですが、御覧の巨大鬼瓦+イカつい建築の博物館は、鬼気、満ちまくり。
大江が 「鬼の里」 の根拠としてるのは、3つの伝説です。ひとつは、言わずと知れた、酒呑童子伝説
しかしあとの2つは、日子坐王の陸耳御笠征伐伝説麻呂子親王の鬼賊征伐伝説で、共に古代もの。
都の都合で 「鬼の里」 扱いされる前から鬼だった、という気概、建物に感じます。入ってみましょう。


受付で320円払い、入館。節分おまけでもらった鬼面、紙製ながらやたらイカつくて、ナイス。
着けて入館しようかと思いましたが、監視カメラの映像を受付の人が見てるかもと思い、やめました。
館内は、文字通り鬼関係のあれこれを展示中。目玉というか、一番インパクトがあるのは、面でしょう。
各時代の鬼面が色々並び、楽しいです。また世界の鬼面も、並べて見ると興味深いものがあります。


この日は江戸期の鬼画を集めた特設展示も開催してて、何故か顔ハメ撮影コーナーもあり。
ハメて撮影しようかと思いましたが、監視カメラの映像を受付の人が見てるかもと思い、やめました。
で、一通り見た後、退館。割と楽しい博物館だったと思います。が、正直に言うと、少し物足りません。
「異界」 へのゲスい興味、満たせ切れません。となれば、やはりあそこへ行くしかないのでしょうか。


あそことは、大江山上にある、鬼嶽稲荷神社。あそこまで行けば、何か見えるのではないか。
鉱山 or タタラ or 製鉄集団と鬼を結ぶ何か、そしてその何かが伝える丹後制圧秘史に繋がる何か、
さらには、その何かが元伊勢三社と共に伝える日本の秘史にも繋がる何かが、見えるのではないか。
となれば、雪山でも行くしかありません。私には徒歩しか手段がありませんが、行くしかありません。


で、ヒマラヤ感溢れる山々に向かって鬼達が木霊を響かせるのを見ながら、登ることしばし。


真っ白な山肌を見て、イエティに会ってしまいそうな恐怖を感じたりしながら、登ることしばし。


って、実は道の除雪は完璧なんですが、でも坂のエグさには辟易しながら、登ることしばし。


と、適当な気分で登ってると、突然、激怒した鬼が出ました。で、指を差されて怒られました。
「誰じゃ、ワシの棲処へ忍び込む奴は!!!!此処は聖域じゃ、食うぞ!!!!!」 みたいな。


激怒されてるのは、鬼屋敷と比定される地に立つ、ウルトラ美術家・成田亨制作による鬼像。
残存する鬼の魂を、転写したような像なのであります。都を指差し、とにかく激怒なのであります。


意外とセクシーな脚してる鬼に激怒されては、しょうがありません。引き返して、山を降ります。
断じて、鬼嶽稲荷まで登るのが面倒臭くなったのでは、ありません。残念です。余りにも、残念です。
と、深い悔恨の気持ちと共に足取り軽く山を下ってると、何か腹が減りました。時間はもう、13時過ぎ。
そういえば先刻のロッジ、食事も出来るんですよね。雲海うどんというのが、あるらしいんですよね。


雲海は、鬼嶽稲荷の名物光景。代わりにうどんで見れば、鬼嶽稲荷の真実も開かされるでしょう。
で、戻ってきたロッジ。正式名称、大江山グリーンロッジ。レストラン併設の研修宿泊施設であります。
靴を脱いで入館すると、職員の人に声をかけられ、食事は受付で注文&精算、と教えてもらいました。
ので、注文してから受付奥のレストランというか食堂へ。あ、頼んだのはもちろん、雲海うどんです。


正直、味は全く期待してませんでした。が、その割に調理時間というか待ち時間が、結構長い。
で、割と待った後、雲海うどんが登場。で、カタカタ鳴ってる鍋の蓋を取ると、メレンゲの雲海が登場。
ルックス、美味げです。メレンゲが焦げる匂い&音も、美味げです。で、実際に食うと、実際に美味し。
で、雲海の下のうどん&山菜も、割と美味し。丹後&日本の秘史に繋がる何か、見えた気がします。


で、食って一服してると、職員の人が 「元伊勢内宮の神事に鬼が出る」 と、教えてくれました。
天照が伊勢以前に安座した、元伊勢内宮。寄る気ではありましたが、鬼が出るならすぐ移動します。
「内宮までお願いします」 とタクシー乗るみたいに言ってまたマイクロバスに乗り、雪中をしばし疾走。
で、降り際に運転手さんが教えてくれた道順で雪道を歩いて、 「天皇神道」 の幟が立つ門前町へ。


で、到着。元伊勢内宮こと、皇大神社。 「鬼の里」 なのに皇祖神が4年安座したとされる社です。
正直、もっと寂れた感じを想像してたんですが、マルシェとかあるみたいですね。杖レンタルもあるし。
尤も、開いてる店もないんですけど。賑やかでも侘でもない、不思議な雰囲気の門前町ではあります。
それでは、 「天皇神道」 の社へと忍び込む鬼の姿、見せて頂きましょうか。というわけで、以下後篇

節分の大江山へ行ってきました。もちろん、ひとりで。 【後篇】 へ
 

日本の鬼の交流博物館
京都府福知山市大江町仏性寺909
9:00~17:00 月曜定休

福知山市バス大江山の家線
大江山の家下車すぐ

日本の鬼の交流博物館 – 福知山市
 

酒呑童子の里
京都府福知山市大江町仏性寺902
月曜定休

福知山市バス大江山の家線
大江山の家下車すぐ

酒呑童子の里 – 大江観光株式会社

鬼瓦公園
福知山市大江町河守 大江駅前
拝観自由

京都丹後鉄道宮福線 大江駅下車すぐ

大江鬼瓦公園 – 福知山市