後祭・山鉾巡行当日の京料理田ごと本店で、鱧を楽しみました。もちろん、ひとりで。

2018年7月24日(火)


後祭・山鉾巡行当日の京料理田ごと本店で、鱧を楽しみました。もちろん、ひとりで。

御旅所祇園祭の宗教性を考える時、絶対に外すことができないファクターです。
そもそも祇園祭は、他の神社が行う大抵の祭と同様、神を街の中へと招き入れるための祭。
いや、他の神社と同様というより、祇園祭 = 祇園会こそこうした神幸祭の始祖とも言えそうですが、
とにかく、鴨川の向こう = 洛外の八坂神社より神輿に乗った神を招くのが、主たる目的なわけです。
ので、その他の祇園祭の行事は、基本的には、おまけ。神輿渡御に付随する行事に過ぎません。
一般的にはメイン中のメイン行事と思われてる山鉾巡行もまた、神輿のフロントアクトみたいなもの。
デコりまくったド派手な車体で路上を蠢く疫神を誘引&吸引し、神輿の巡幸路を清めてるのです。
2014年以降の山鉾巡行が17日&24日のW開催となったのも、イベントを増やすためでは断じてなく、
「両日の夕方に行われる神輿渡御のフロントアクト」 という元々の本義に、いわば単に従ってるだけ。
このように御旅所は、祇園祭の宗教性を考える時、絶対に外すことができないファクターなのです。
が、よくよく考えてみると、当サイトではこの御旅所、がっつり扱ったことがありませんでした。
扱ったのは、日和神楽くらい。後は、前を通るだけ。混雑が嫌で、四条通自体を避けることも、多し。
これでは、いかんのではないか。アカデミックな当サイトが、この体たらくでは、いかんのではないか。
御旅所、いや何なら、全国の祭の礎となった神幸形式のコアたる御旅というトポス・ロゴス・パトスを、
五感を駆使した形で体感的かつ総合的に会得し、そして広く伝播する必要があるのではないか。
真摯にそう考えた私は、後祭・山鉾巡行の当日、御旅町・田ごとにて鱧を食そうと決意したのでした。
田ごと。目前を山鉾と神輿が通る四条通・御旅町にありながら、路地の風情を誇る店であります。
そんな店で、鱧メインの特別御膳を食し、鱧祭たる祇園祭のコアを、主に舌で体感してみたのでした。
そう、これはあくまでも新たな挑戦なのです。当サイトが当サイトであるために必要な挑戦なのです。
決して、また山鉾巡行ネタと鱧ネタを組み合わせ、アクセス増を狙ったわけでは、ありません。
断じて、そもそも追尾も徘徊も最早やる気が全然なくなったわけでも、ありません。


で、暑い最中に人力デコトラ観て何が楽しいという気分で、11:50に四条河原町へ優雅に到着。
向かう途中、大量の帰り客と擦れ違ったので焦りましたが、交差点はまだそれなりの人と車で渋滞。
ここへ進入する大船鉾だけ、チラ見しとくか。と思いましたが、よく見ると交差点、カメ集団の姿はなし。
あ、ヤバい。と思って、超望遠で四条通の彼方を見ると、巡行の最後尾である大船鉾の船尾あり。


交通規制を解除し始めた警察&信号を元に戻す作業車の彼方を、悠々と航行してる、大船鉾。
速いですね、大船鉾。いや、正しくはこっちが遅いんですけど。でも、まあ一応、チラ見はできました。
巡行終了直後の四条河原町一帯は、前後不覚の中国人が多い以外、早くも普段の顔に近い雰囲気。
「歩道に上がって下さい」 という警察の声がないと、巡行の残り香、何かすぐ消えてしまいそうです。


残り香が消える前に私も、御旅所へ向かいます。が、今の御旅所、御旅町の西にあるんですよ。
四条河原町からだと、御旅町・田ごとの方が、着くのが先。なので、先に田ごとに入ることへしました。
断じて、神輿参拝を後へ回すのではありません。舌の方で先に、祇園祭の真髄を会得するだけです。
田ごとの路地の入口は、 「田ざと」 にしか見えないロゴ看板の、真下。寄らないと、わかりませんか。


では、寄ってみました。寄り過ぎですか。ここ、人が多くて、適度な距離を取り難いんですよね。
表のメニュー看板には、鱧尽くし状態の 「特別御膳」 がしっかり出てます。値段共々、良い感じです。
当サイトの鱧企画 『ひとりで食べる鱧』 は、予算枠が3000円台。なので、そっち的にも、良い感じです。
店前は、看板やこのメニューを見入る人こそ多いですが、行列の類は特になし。行ってみましょう。


御旅町は、恐らく京都で地価が最高の町。そんな御旅町で、こんな路地の風情を守る、田ごと。
「特別御膳」 がギリ3000円台なのは確認しましたが、それでもこの風情を見ると、やはり緊張します。
そういえば田ごと、全国的には百貨店の催事の弁当でも、有名らしいですね。私はよく知らないけど。
本当の名物は、 「光悦水差弁当」 。でもこの弁当、鱧を付けると4000円を超えるので、私はパス。


で、玄関に入り、白帽かぶった人に 「ひとりなんですけど」 というと、すぐ中へ通されました。
通されたのは、店の奥にある、掘り炬燵式の座敷。奥には花も誂えられて、中々に結構な部屋です。
とはいえ、先刻まで目前を山鉾が巡行してたわけですから、店内は空いてはいません。むしろ、満杯。
世界も遂に私の偉大さに気づいたかと、御機嫌で靴を脱ぎ座ると、お茶とメニューが運ばれました。


偉大な私が頼むのは、メニューを見るまでもなく、リーズナブルな鱧尽くし 「特別御膳」 です。
あと、何か席料も偉大に払いたい気分になったので、ノンアルのカシスオレンジを追加で頼みました。
で、頼んだ後、部屋を眺めたり、またメニューも見たり。で、メニュー、案外1000円~2000円のも、多し。
あと、蕎麦も、多し。実際、蕎麦を食う客も、多し。三条の蕎麦屋・田毎と、何か関係あるんでしょうか。


とか思ってるうちにやって来ました、 「特別御膳」 第1部。そして、偉大なるカシスオレンジ。
第1部は、もちろん鱧の落としと胡麻豆腐、そして 「光悦水差弁当」 の名が入った箸であります。


落としは、まあ普通。値段相応のオーソドックスなレベルの落とし、というか。
ただ、梅肉は何気に、美味い。味噌か何かの甘味&出汁味が混ざってて、美味い。


第1部の第2部である胡麻豆腐は、普通に胡麻豆腐。粘度の高い豆腐です。
もっちりというよりむっちりした感じで、付け出汁やワサビの感じ・風味も、ごく普通。


で、その胡麻豆腐を食ってると、第2部のそうめん・茄子田楽・鱧寿司が登場。
そうめんは、エビなどの具が少し乗ってる、そうめん。出汁の味と共に、至って普通。


茄子田楽、これは美味い。田楽は、大抵美味いもんですが、これは美味い。
茄子そのものの瑞々しさも光りますが、何よりその上に乗る陰陽の味噌が、美味い。


で、鱧寿司。こちらはまたしても、普通。鱧の食感も、タレの味わいも、普通。
骨が少し多めに残してる感じは、鱧っぽさがあっていいですが、普通といえば普通。


と、普通普通と思いながら鱧寿司を食ってると、〆のわらびもちが来ました。
味はもちろん、普通。普通普通と思い続けながら、熱いお茶と一緒に全てを丸呑み。


そして最後に来た、杵形の棒に席番号だけが書かれた勘定表。私の番号は、栄光の1番。
やはり、私の偉大さに気づいたようです。 「Public Enemy No.1」 という意味ではないと思います。


で、この1番棒を持って、入店時は気づかなかったけど土産販売スペースも兼ねてるレジへ。
で、土産の勘定をしたおばさんに続き、勘定。額は、4300円ほど。偉大な分、少し予算オーバーです。
土産スペースも兼ねるレジは、ロビーでもあり、3組のおばさん連中が待機中。やはり、混んでますね。
勘定後、店を出て路地の風情を改めて眺めてると、着物の若い女が入って来て、引き返してました。


で、食ったら、帰ります。ではなくて、祇園祭の宗教性を真摯に考えるべく、御旅所へ向かいます。
祭のコアたる御旅というトポス・ロゴス・パトス、タクシー舐めの遠景として洒落乙に拝んでみました。
断じて、道路を渡るのさえ面倒だったのでも、タクシーを避けるのさえ面倒だったのでも、ありません。
で、がっつり御旅所を拝んだ後は、山鉾解体中の鉾町も徘徊。大船鉾の新しい鉾頭を、拝んだり。


大船鉾からそのまま北上して、南&北観音山も拝んだり。で、拝んだら、暑いのでもう、帰ります。
帰り際、ほぼ普段通りになった四条通を眺めたり。で、眺めながら、でもやはり何か違うとも思ったり。
正直、これくらいの舐め腐った距離感の方が、濃厚に祭感を感じるんですよね。山鉾を追尾するより。
部外者の正しい感慨、でしょうか。あるいは、これこそが御旅を体感してるということなんでしょうか。

この日の田ごとの客層は、中高年が主体。
地元系と観光系の比率など細かいことは、ずっと座敷にいたので、基本、不明です。
とりあえず、四条通を騒ぎながら歩いてる着物女や中国人団体は、見かけませんでした。
CPに関しては、微妙という感じでしょうか。微妙というか、まあまあというか。
味はとにかく、普通。より正確にいうなら、ひと昔前の普通。昭和の感じがするというか。
山鉾を観たすぐ後に鱧が食せるという点では、十二分にペイすると思えますけど。

そんな京料理田ごと本店の、鱧。
好きな人と食べたら、より京都の夏の風物詩なんでしょう。
でも、ひとりで食べても、京都の夏の風物詩です。


 
【ひとりに向いてる度】
★★★
CPも、普通といえば普通。
アウェー感も、外観ほどではない。
山鉾を観た勢いで鱧を食えることを考えれば、
割といいチョイスにはなるかもしれない。

【条件】
平日火曜+後祭巡行当日 11:50~13:10
 

京料理田ごと本店
京都市下京区御旅町34
11:30~15:00 17:00~21:00

阪急電車 河原町駅下車 徒歩約1分
京阪電車 祇園四条駅下車 徒歩約5分

京料理田ごと本店 – 公式