あらし山 遊月で鱧しゃぶコースと冷奴を楽しんで来ました。もちろん、ひとりで。

2018年8月29日(水)


あらし山 遊月で鱧しゃぶコースを楽しんで来ました。もちろん、ひとりで。

は、秋口にしゃぶしゃぶとかで食った方が、本当は美味い魚ではないだろうか。
そうしみじみ思ったのは、 『ひとりで食べる鱧』 にて、ひとり池田屋事件に臨んだ際のことです。
晩夏に敢行した、完全なネタモードの特攻。実際に落としは、ネタな期待に応えてくれるものでした。
しかし、鱧の小鍋は、違いました。あれは正直、美味かった。汁は辛過ぎたけど、鱧は美味かった。
鱧そのものの質は落としと同じはずなのに、茹でて温かい状態で食うと、段違いに美味かった。
で、しみじみ思ったのです。鱧は、夏らしく冷やして食うより、温食こそが相応しい魚ではないかと。
氷などを添えた落としよりも、鱧しゃぶといった鍋物の方が合う、晩夏以降に向いた魚ではないかと。
もちろん、秋鱧の美味さそのものは、広く知られています。夏ものよりも脂が乗って美味い、的な。
晩夏以降のもの、でなければ梅雨の水を吸った7月前半のものこそ、本当に美味い鱧というわけです。
実に食いたいところですが、当サイトは生憎、本当の美味さを求めるグルメサイトでは、ありません。
求めてるのは、常に京都の表象であり、その表象と現実の間に立ち現れる何かなのです。
ゆえに、鱧はあくまで 「夏の風物詩」 として重要なのであり、味などは二次的な問題に過ぎません。
いくら美味かろうが、鱧を秋に食うわけには、いかんのです。味ばかりを追及してては、いかんのです。
が、それでもやはり、食いたい。川床でもない限り空調はあるんだから、熱い鱧しゃぶ、食いたい。
秋に食ってはいけないのなら、せめて夏の終わりに、特攻とかでなくて落ち着いた感じで、食いたい。
などと思い、3000円台でひとりで鱧しゃぶ食える落ち着いた店を探してたら、ありました。遊月です。
遊月。あらし山 遊月。その名の通り、嵐山・中之島にあって、90年続くという料理店であります。
そう、あの如何にも高価そうな顔して中之島・大堰川右岸沿いに並ぶ料理店の、ひとつであります。
私も店の前は何度も通ってますが、金銭的にもひとり的にも縁なしと、意識野から消してたのでした。
が、ひとりでも予約出来たんですよ。で、鱧しゃぶコースは、税抜なら3000円台だったんですよ。
で、「夏の風物詩」 の別の味わいを楽しむべく、晩夏の嵐山へ出かけたのでした。


遊月の予約を入れたのは、 『一休』 です。あちこち苦労して探し回ってるうちに、辿り着きました。
ひとりはどうせ無理だろ。とか思ってたら、税別3700円の鱧しゃぶコース、普通に予約出来ましたよ。
税込みだと予算枠を越えますが、もう知りません。飛び込みの原則にも反しますが、もう知りません。
画面、良い座敷が写ってますね。でも、ひとりはどうせ食堂のテーブルとかに通されるんでしょうね。


と、喜び半分グレ半分の意味不明な気持ちで、予約日の昼過ぎ、阪急嵐山駅を出て、嵐山へ。
夏の終わりの嵐山、阪急では車内&駅が中国人だらけでしたが、外に出たら客の感じはいつも通り。
中国人ももちろん多いですが、日本人の修学旅行やりなおし系、関西一円の下らんカップルも、多し。
あ、晩夏といえど周囲は無論、暑いです。まるで温泉の脱衣場にいるかのような勢いで、暑いです。


直射日光と蒸し暑さが一度に来る凄まじさですが、予約の時間はまだ先。もう少し、うろつきます。
が、あまりに暑いので、右岸に並ぶ星のや嵐山通船の船着場といった水風景を、呆然と眺めたり。
そういえば遊月、鵜飼見物のセットも、 『一休』 にありました。予算枠がなければ、私も乗りたいです。
前日が雨だったため、川は緑が濃いめ。でもその分、堰は水が多くて、美しい。ただその分、暑い。


しかしそれでも、季節は、晩夏。鱧が、確実に美味くなる季節です。鱧しゃぶ、食いますよ。
時間となりました。遊月、入ろうと思います。そう、ここが遊月です。これからここに、入るのです。


さらに、遊月。よく見れば、そんなに無茶苦茶高価くないメニュー看板を前景として、遊月。
あと 「冷奴」 の幟が、熱気にまみれた心身には輝いて見えます。それでは門を、潜りましょうか。


で、門を潜った途端、玄関前にて既に立ってた店の人から 「お待ちしてました」 と出迎えられ、
恐縮しながら和風の建物へ上がると、 「個室に案内します」 と言われて、奥の部屋へ通されました。
部屋は、6畳の和室。一人用と二人用の座卓がセッティングされてましたが、二人用はオフってます。
つまり、そう、ひとりで座敷を貸切状態。値段は断じて、間違ってません。俺は人生に勝利した・・・。


窓の先には、中之島を挟んで流れる大堰川の分流。すぐ前に堰があり、水飛沫を上げてます。
厳密には、座った状態だと川向かいのビジネスホテル嵐山しか見えませんが、でも、川が見えます。
しばらくすると、女将さんらしき人が来て、本当に三指状態の丁寧な挨拶をしてくれたので、また恐縮。
予約の内容を確認する時、思わず桁を熟視しましたが、間違ってません。俺は人生に勝利した・・・。


門前の 「冷奴」 の字が沁みてたので、追加が出来るか女将さんに訊くと出来るというので頼み、
しばらく待ってると、今後は白帽姿の料理人さんが桶を持って現れ、また丁寧に挨拶され、また恐縮。
で、これから焼くと言って、桶の中で泳ぐ鮎を見せてくれます。あ、この鮎はコース内に入ってますよ。
しばし後に私に食われる、20センチほどの大きさの鮎を、しみじみと拝む。俺は鮎にも勝利した・・・。


で、料理人さんが桶を持って去った後、しばらくしてから、鱧しゃぶ本隊が運ばれました。
本隊は、オーソドックスな野菜類と、私が入店してから骨を斬ったという鱧が5ピースほど。美しい。


鱧の骨から採ったという出汁を、小鍋で焚きながら、鱧の骨斬りの様を見ること、しばし。
具材は、食す分だけ入れると煮えるのが早いとだけ言われたら、後はおまかせ。では、食いますよ。


まずは、もちろん、鱧から。他の具を一切入れず、鱧と鱧出汁だけでしゃぶしゃぶします。
煮加減は、私はウェルダン程度が好みですが、一般的にはレアの一瞬後くらいが多分、いい感じ。


煮たら、食す。味は、普通。ただ、煮るタイミングが合うと、ふわっとした食感が実に美味。
骨も風味程度に残してあり、何とも、鱧。ポン酢のクオリティおよび鱧との相性も、かなり良好です。


そのうち、追加で頼んだ冷奴が登場。森嘉のものであり、まず豆腐だけで食してみます。
食うと、実に甘い。過剰に研ぎ澄まさずに手作り感を持たせ、でももっさくはない、実に良い豆腐。


続いて、抹茶味噌の茄子田楽も登場。熱い間にどうぞと言われて食したその味は、普通。
抹茶味噌も、普通に田楽の味噌。ただ、茄子はトロトロの手前の仕上がりで、ちょっといい感じ。


で、鱧と豆腐と田楽を食い続けてると、さっき面通しされた鮎が焼き上がり、運ばれました。
「俺を食う気か」 と問うかの如き顔と、今にも飛び跳ねそうな鰓の仕上がりが、ちょっといい感じ。


挑発的な鋭い顔つきをした鮎、一瞬川へ戻してやるような素振りをしてから、捕食します。
「骨抜きしましょか」 という女将さんの申出を辞して、鋭い顔から全部を、丸食い。味は、実に鮎。


などと楽しみながら食い続けてると、早くも鱧しゃぶの鱧が、ラストの1ピースとなりました。
ので、改めて身をじっくり見つめてみたり。ひっくり返して、皮も愛でてみたり。良い光を放つ皮です。


で、煮たら、食す。ポン酢、脂がかなり溶け出してます。やはり秋鱧、脂が乗ってますね。
ふわっとした食感もいいですが、私が好きなウェルダンのに加減でもサクサク感が出て、いい感じ。


で、食い切ったら、〆です。〆は、250円プラスして、原了郭の黒七味などが付いた雑炊。
特別濃厚卵を割って溶いて、店の人が飯を入れてくれて、少し炊いたら、出来上がり。食いますよ。


出来たら、食います。黒七味と塩、鱧の脂が乗ったポン酢で味を調整しながら、食います。
味は、普通。ですが、鱧脂のコクと黒七味で、普通に美味い。あと、煮上がった卵の色も、美しい。


という感じで、料理は終了。食後は、座敷感を堪能します。実に、和です。実に、風流です。
が、川がすぐ増水するので、シャッター完備とか。真中のモダンな柱が、シャッター柱でしょうか。


で、和むだけ和んだら、御勘定でございます。総計は結局、予算を超過しまくりの5047円。
しかし正直、5000円強で済んだことに、安心しました。75047円の見間違いでは、ないはずです。


払うもの払ったら、帰ります。晩夏の 「夏の風物詩」 、たっぷりゆったり堪能出来たと思います。
帰り際、女将さんと料理人さんは見送りに立ってくれました。さらに、玄関先でも見送ってくれました。
のみならず、御覧の表の門を出て、御覧の嵐山を歩き始めても、門の前に立って見送ってくれました。
あまりに恐縮し、払うもの払った後なのに値段を確認したくなることしきり。俺は人生に勝利した・・・。


と、すっかり良い気分で、また渡月橋方面をふらふら徘徊。増水の傷跡が残る川岸も眺めたり。
前月、台風来たんですよ。夏の置き土産、と言うとあんまりですが、これはこれで川の姿であります。
だからこその嵐山の風情、という。遊月の景色もそうですし、川の上流側に広がる山水の景色もそう。
もっとも、中国の風景にも見えますけど。周囲では中国語ばかり聞こえるので、さらに中国感アップ。


さらにさらに中国語が溢れまくってる渡月橋も眺めたり。晩夏感の欠片もない空が、眩しいです。
晩夏感がない分、申刻の暑さも半端なし。良い気分も吹っ飛び、すぐバテてしまいました。帰ります。
帰りは、渡月橋を渡って、嵐電へ。で、嵐山客で溢れまくる駅内を抜け、中国人で満員の電車に乗車。
温鱧の味と水飛沫だけを心に浮かべ、全然終わってない夏を勝手に惜しみながら、帰りましたとさ。

この日の遊月、目で見えた限りでは、客は私だけ。
他所の部屋からは、中年の夫婦あるいはグループの声が、ほんのり聞こえる程度。
正直、嵐山客に囲まれる中で鱧を湯がく事態も想定&覚悟してたんですが、
そんなことは全くなく、むしろそんな想定と真逆のシチュエーションに、恐縮しまくってました。
8月終盤の15時前後というのは、時期・時間的に、穴場なのかも知れませんね。

そんなあらし山・遊月の、鱧しゃぶコース。
好きな人と食べたら、より京都の夏の風物詩なんでしょう。
でも、ひとりで食べても、京都の夏の風物詩です。


 
【ひとりに向いてる度】
★★★★
味そのものは、まあまあ。
しかしシチュエーションのCPは、
運とタイミングが良ければ天国に近い。
クレカに紐付いた形で予約を入れると、
扱いが良くなるかも知れない。
 
 
あらし山 遊月
京都市右京区嵯峨中ノ島町官有地
11:00~LO19:00 木曜定休

阪急嵐山線 嵐山駅下車 徒歩約5分
嵐電 嵐山駅下車 徒歩約5分
 

日本料理・会席料理【遊月】 – 公式

あらし山 遊月 – 一休.com