石清水八幡宮の石清水祭へ行ってきました。もちろん、ひとりで。 【5】 還幸の儀

2011年9月15日(木)


延々と続けてきた石清水祭レポート、遂に最終回でございます。

地元民の思い入れゆえ延々と続けたのかというと、そういうわけでもありません。
私は、この祭りが斎行される頓宮から徒歩5分のところで生まれ育ち、
正に頓宮、放生川、あるいは八幡山全域を遊び場として、幼少期を過ごしてます。
が、この祭儀のことについては一切知りませんでした。私の親もまた、知りませんでした。
たまたまウチが流れ者の貧乏一家だから知らなかった、というわけでもないでしょう。
祭りといえば、ただ縁日に行くのみ。多くの八幡人にとって、石清水祭はこんな感じだと思います。
要するに石清水八幡宮って、お上の神さんなんですよね。
京都の裏鬼門守護のため建立され、例大祭には天皇陛下の使者が直々に派遣され、
国家の一大事には山が鳴動する神社。あくまで鎮護国家、国のための神さまというわけです。
なので平民の我々は、神の間近にいても何をやってるのか全然、見えない、気づかない。
祭りだって気軽に観れる時間にやらないし、気軽に払える金で観せないし、気軽な格好も許さない。
京都市内の神社の祭りに多く溢れる熱気や一体感、町衆自治の誇り、
あるいは神社そのものに漂う、人々から愛されてることに由来する優しさやあったかさ。
そういったものは、ここにはありません。それは確かに、少し寂しいことなのかも知れません。
が、それゆえに、かつてのやんごとなき方々への態度、やんごとなき祭りへの態度を、
生臭いまでに現代へ伝承してるかも知れないのです。
そんな石清水祭のフィナーレである還幸の儀、タダ見可能な行列部分は大幅カット、
大金払わないと見れない「神のおかえり」を、お楽しみください。


15日午後4時の一の鳥居。人、少ないですな。
車で直行できる道が出来てからは寂れましたが、石清水八幡宮の表玄関はあくまで、こちら。
鳥居の中央には、寛永の三筆と呼ばれた八幡宮社僧・松花堂昭乗の筆になる「八幡宮」の文字。
手前で営業してるのは、発祥は大津だけど現在は八幡門前名物の、走井餅でございます。


頓宮北門前で受付を済ませ、奉幣の儀の時より若干良い席を、確保。
というか、人、かなり減ってます。朝の半分くらいでしょうか。
まあ、疲れますもんね。私も帰って寝入って、目が覚めたら15時40分でしたからね。
画面左奥、頓宮の脇にあるのは、勅使の方々がスタンバられる頓宮斎館。
大正天皇即位の際、京都御所に造営された大嘗宮付属の掌典詰所が下賜されたものです。


17時前、所定の位置に向かって移動する左右兵衛府と左右衛門府。
この前後、還幸の儀に先立って、産土社である摂社・高良社に夕御饌が奉献されます。
朝御饌は、 奉幣の儀が終わってからでしたが、夕御饌は儀の前。理由は、知らん。


17時過ぎ、上卿以下が写真左側の礼堂に著座され、還幸の儀、開始であります。
もちろん、上卿が前を通られる際は、参列者全員が起立+低頭でございます。
ちなみに、賀茂・春日・石清水の三勅祭のうち、上卿が参向するのは、石清水だけだそうです。
だから何だと言われても私もよくわかりませんし、とにかく偉いんだそうです。


上卿が著座してすぐ、二名の神職が頓宮の御簾を巻き上げます。
奥には、本殿と同じく神様が鎮座する椅子が用意されてるそうですが、ここからは見えません。
ずっと飾られていた供花神饌は、事前に片付けられたようです。


朝と同じく、献饌が行なわれます。朝と同じく、通盆の手渡しで運ばれます。
メニューも朝と同じかは知りませんが、鮭や松魚、頭芋付小芋は視認したので、多分一緒でしょう。
食後は、斎主が祝詞を奏上。そして、参列者代表による拝礼が続きます。
代表は、パナソニック社長代理。これは、創業者・松下幸之助が熱烈な八幡信奉者だったため。


外記から文杖に挟んだ「見参」を進められ、披見する上卿。多分。
「見参」とは、神禄を受ける者の名簿。ですが、当の神禄を賜る儀は、廃絶。いわば、見るだけ。
時刻はぼちぼち、18時。日が暮れ始めてます。神様の「おかえり」が近づいてきました。


御神前の御簾が下ろされ、頓宮内に遷されていた神宝御剣が授受。
続いていよいよ御鳳輦、頓宮の裏から再登場です。
神幸および還幸で御鳳輦を奉舁するのは、天皇行幸列の行粧に準じた姿の駕與丁神人ですが、
出御および入御の際は、白装束の駕與丁長神人が担当。右奥にいる、白い人たちです。


頓宮前に御鳳輦が揃うのと同時に、上卿以下が移動、遷座を見守るべく列立します。
もちろんこの移動の際も、参列者は一同起立+低頭でございます。
ちなみに駕與丁長神人は何をするかというと、御鳳輦を殿の大床まで運ぶわけです。
裸の神様に超近接するため、人を選ぶという感じでしょうか。宮司と同じく、現在も世襲制。
昔は帯剣さえ許され、妖しき者が近寄れば切り捨て御免だったそうな。


「御鳳輦っ」「ほっ」の合図で、駕與丁長神人に担がれた御鳳輦は頓宮内へ、突入。
中では、宮司による御遷座、分霊ではなく本霊そのものの御遷座が行なわれます。
見るからに生々しい「神の現場」感が漂う場面ですが、実際の現場は結構、ダレ気味。
特に、アホボンの香り漂う学徒動員学生たちは、ゆとり全開で談笑しまくってたりして。


直視すると眼をやられるためか、駕與丁長たちが頭を下げる前で、神様、御遷座中。
三基あるので、これを三回繰り返します。ダレる子たちは、さらにダレ気味。
それを見て「ちゃんとせえ!!何ケラケラ笑とるねん、神さまに失礼やろ!!!」と、
参列者のコアなおばちゃんがブチ切れ、怒鳴り込む場面なんてのも、あったりして。


すっかり暗くなった18時40分、御遷座が無事に完了し、還幸行列が出発します。
神幸の時と同じく、500人のお供を連れて神様が山上へお帰りになられるのです。
スピリチュアルな光の矢で山頂を示し、神の子たちが道に迷わぬよう導いてらっしゃいます (嘘)。
参列者、御鳳輦が門を出る瞬間を見届けようと、上卿のお帰りをほったらして席を立ちまくり。
それに神職たちが「何考えとるねん」と舌打ちする場面なんてのも、あったりして。


私もやってきました、南門前。
御鳳輦、スピリチュアルパワーが強過ぎて、写真に写らず。ピンボケではありません。神威です。
ちなみにこの南門、元は山上本宮の南門。昭和40年代に山上の門が再建され、移築。
それまでは、鳥羽伏見の戦いでぶっ潰されて以降、何もなかったそうですよ。


南門の外のタダ見ゾーンは大混雑、と言いたいところですが、人間の半分以上は行列です。
見物人は、地元の烏合の衆とディープな単独者が多い、不思議だけどここではよく目にする客層。
行列、あっという間に見物人の間を通り、表参道を駆け上がっていきました。


祭りが終わったあとの、舞台と頓宮。
さっきまで自分が知ってる頓宮と全然違うところみたいに見えてたのに、
終わった後の姿を見ると「ああ、やっぱり子供の頃に遊んだ頓宮だ」という気分になります。
神は、残り香を残さないのでしょうか。


もちろん山上の本殿でも、神様が元の場所に戻る御遷座は行なわれます。
が、これは秘儀。でも一応、男山ケーブルで登ってみました。
山麓駅でも、山上駅でも、行列帰りの方とよくすれ違います。どれだけ登るの、速いねん。


で、19時半の本殿・南門前。
ケーブル山上駅を出た頃には雅楽が聞こえてましたが、ここに着いた頃には全部終わってました。
中ではまだ何かやってるのかも知れませんが、警備員のおっちゃんは掃除を開始。
石清水祭、終了でございます。出てる皆様、お疲れ様でした。見てるだけの私も、疲れました。


石清水祭の間は、鯖の棒寿司を食べるのが地元の慣わし、なんだそうです。
私、地元のはずやったけど、全然知らんかったわ。ウチ、家ごと、はみ子にされてたんか?
とにかく、八幡市駅の改札出てケーブルへ向かう途中にある朝日屋で、棒寿司3貫990円也。
居酒屋っぽいけど、食事だけでも大丈夫。この辺で夜にまともな食事ができるのは、ここくらい。
何故か、麺類も異常に美味い。八幡名物になったカレー中華840円也も食いましたよ。

有料参列者はほとんどいないだろうと勝手に思ってたんですが、
実際には70人くらいいたでしょうか。70人から100人の間くらい。そこそこ、います。
そこに、創業者・幸之助が八幡ファンだったパナソニック、おけいはんや何ちゃらツーリスト、
あと寺社や教育関係などなど、関係企業・団体の特別参拝者が50人くらい加わります。
客層は、9割方、いやもうほとんどが中高年。
地元感は、一切ありません。日本中から集まってこられた、八幡神崇敬者の方々がほとんど。
仕事絡みの連中を含めて大人数のグループはほとんどなく、家族連れの姿さえほぼなし。
知名度と参列料の凄まじいギャップを考えれば当然かも知れませんが、
恋愛ハイのカップルや、ゆとりのあるお子様など、いわゆる「京都の観光客」は、影も形もありません。
単独は、おっさん系がちょっと、超ディープなおひとりさま女性がほんのちょっと、いるくらい。
興味本位だけで5000円払って参列する人間は、極めて少ないです。

5000円という値段が相応かどうかについては、何とも言えません。
正直、客層を調節するためだけに敷居を上げる値段設定にしてる気さえします。
「アクセス大変」+「時間も大変」+「参列料超高価」+「服装もドレスコードあり」と、
「是非とも来て欲しい」と簡単には言いにくい条件が目白押しの、勅祭・石清水祭。
しかし、いろんな意味で、なかなか出来ない経験が出来ることは、確かです。
それは、間違いありません。なかなか出来ない経験が20時間ぶっ通しで続き、疲れるほどです。
一生に一回くらいなら、参列してみるのもいいじゃないかと。
無理して来ていただいたところで、私には特に何のメリットもありませんが、
しかし一応八幡の民として、皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。

そんな、石清水八幡宮の勅祭・石清水祭。
好きな人と参列したら、より八幡大菩薩なんでしょう。
でも、ひとりで参列しても、八幡大菩薩です。

【客層】 (客層表記について)
カップル:0
女性グループ:0
男性グループ:0
混成グループ:0
修学旅行生:0
中高年夫婦:4
中高年女性グループ:2
中高年団体 or グループ:4
単身女性:若干
単身男性:若干
【ひとりに向いてる度】
★★★
色気や人圧のプレッシャーはないが、
興味本位だけで行けば間違いなく、浮く。
加えて、経済的+霊的プレッシャーは甚大。

【条件】
平日木曜 0:40~20:00


石清水八幡宮
京都府八幡市八幡高坊30
通常拝観 だいたい6:00~18:00

【山上本殿】
京阪電車八幡市駅下車 男山ケーブル乗り換え
男山山上駅下車 徒歩約5分
ひたすら階段の場合は、徒歩約20分

【山麓頓宮】
京阪電車八幡市駅下車 徒歩約5分

公式サイト – 石清水八幡宮

wikipedia – 石清水八幡宮

石清水八幡宮の石清水祭へ行ってきました。もちろん、ひとりで。【2012年度版・前篇】
石清水八幡宮の石清水祭へ行ってきました。もちろん、ひとりで。【2012年度版・後篇】